イルカ文明・二章(後編) |
作:しんじ |
豊は悩んでいた。
あの爆発が発光エビーナによるものならば、イルカの手元にある段階で衝撃波、つまり超音波を加えてやればいい。発光エビーナの存在を知る人間ならば、その理屈は簡単に分かるだろう。だが、エビーナというものは東京など大都市に存在するものらしいから、誰かが口を滑らせないかぎり、細江には分からないはずだ。
しかし、真次がしゃべってしまうのではないか。そう思うと、なかなか寝付けなかった。
仰向けで海上に浮かび、欠けた月を見る。
──月は昔から変わらない。もしも、月が何かのはずみでなくなったら、月の引力がなくなるせいで洪水が起こると言われた。だが、月はあるのに洪水だけが起こった。だからどうだと言うのではないが、妙だと思う。
地球とは何か。人間とは何か。そんなことを考えているうちに、豊は眠りについた。
朝、豊が目を覚ますと、珍しく春菜がまだ眠っていた。
──いや、俺が早かったのか。
豊は、向こうの空がまだ暗いことを知って思った。
「おい、春菜。起きろよ」
豊は声をかけた。
「ん……」
春菜は、うめいて目を薄く開いた。
「真次さん捜しに行こう」
豊が言うと、春菜は、
「え? 真次さん?」
と、顔をしかめた。「どうして?」
「どうしてって、分かるだろ?」
「……うん」
春菜は背伸びをすると、顔をこすった。
シャチは起きているものが多かったが、人間は寝てるものがほとんどだった。
「真次さんも、まだ寝てるんじゃない?」
春菜が眠そうに言った。
「いや、起きてると思う。無意味に早起きだからな、あの人は」
「ふーん」
二人が真次を捜し泳いでいる間、何頭ものシャチとすれ違った。話しかけてみようかとも思ったが、イルカ語は通じないだろうからやめておいた。
「ふーむ。これだけ捜してもいないってことは、やっぱ起きてるよ、あの人。行き違いになってるんだ」
豊が言うと、春菜が難しい顔をする。
「ホントに行き違いかな? もしかしたら、わざと行き違ってるってことも考えられない?」
言われて、豊はハッとした。
「それはつまり、俺たちから逃げてるってことか? なんで逃げるのかって……」
「しゃべっちゃったから?」
──まずい!
豊はあせった。またイルカたちを裏切ることになってしまう。
「助けに行かなきゃ!」
豊は声を上げた。「今度こそイルカたちを助けないと! 今なら間に合う!」
「ちょっと待ってよ! 勘違いかもしれないじゃない! 早とちりだったらどうするの!?」
春菜は言うが、豊は首を振る。
「早とちりだったら、それはそれでいい! 手遅れになったら、今度こそどうにもならない!」
「そう、ね。分かった!」
春菜は返事し、「みんな起こしに行こう。みんなで行けば、今度こそ守れるはず」
二人は、シャチの海を急いだ。
イルカを助けに行くという呼びかけに、二十人の人間が集まった。もともとここに来た人間は二十六人だったが、五人が戦いは嫌だと言った。そしてもう一人は、姿さえ見つからなかった真次だった。
「ホントに真次さんが裏切ったの?」
悲しそうに言ったのは、由貴子だった。
「いや、まだ分からないけど、この状況からそう考えられる」
豊は、腕を組んで言った。
「もともと、得体の知れない男だからな」
誰かが言うと、
「そうそう。怪しいと思ってたよ、俺も。っていうか、誰か死んだって言ってなかったか? アイツ」
と、別の誰かが言う。
「ホントかどうか分かんないのに、みんなめちゃくちゃ言うのね……」
と、由貴子が小声で言った。
「まあいい。とにかく、イルカたちのところに戻ろう」
豊が言って出発しようとすると、
「──おやおや。朝っぱらから、みんな揃ってどこへ行くつもりだい?」
と、声がした。
「お父さん……」
春菜がその人を見て言った。
「どこへ行くつもりって、分かってるんでしょう? 細江博士」
豊が言うと、細江は苦笑した。
「イルカのもとへ帰るって言うんだろう。しかし、何でまた突然。君たちは昨日来たばかりじゃないか」
「俺たちは、イルカはもう大丈夫、と思ったからここにきました。でも、またイルカたちの生命が脅かされる事態が、起きてしまいそうだから帰るんです」
「なるほど」
細江はうなずく。「が、イルカたちはシャチより強いんではなかったかな? あーつまり、こういうわけだ。──私が、イルカたちの能力の正体を知ってしまった、と」
「そうです」
豊が言うと、春菜が、
「ちょ、ちょっと豊くん!」
と、ヒジで豊を小突く。
「あ……」
豊は、慌てて口を覆った。
「なるほど」
細江がニヤッと笑った。「やはり何か秘密があるわけだ」
「ひょっとして、まだ知らない!?」
豊は、驚いて言ってしまう。
「知らなかった」
と細江。「何しろ、真次くんに聞いても『知らない』の一点張りだからな。薬を飲ませても『知らない』と言ったから、実際知らなかったらしい」
「薬を!?」
春菜は驚いて言った。
「そうだよ。自白剤とか催眠剤、モルヒネとか覚醒剤とかも使ってみたが、意味はなかったみたいだ」
「殺す気!?」
春菜が抗議の声を上げるが、細江は知らない振りをしている。
「で、真次さんは今どこに……」
豊が訊くと、
「さあ? 私と別れたあとに、気持ち良さそうにどこかに行ってしまったからなあ。どこかで沈んでるんじゃないかな」
「ひどい!」
春菜が言う。しかしその隣りで、由貴子が冷静に、
「どこかに沈んでいたとしても、今見つければ、まだ間に合いますよね」
「しかるべき処置をすれば、助かるのではないかな」
細江は、表情を変えずに言う。
「決まりだ」
豊はみんなに向かって言う。「予定変更だ。俺の早とちりでみんなを集めてしまったけど、無駄じゃなかった。これから、みんなで真次さんを捜そう」
その声に、みんな散っていく。──嫌いな人間と言えども、命となると誰もが動く。命の重さを、少なからず知っているということだろう。
──いつも心配させるけど、今度も無事でいて下さいよ、真次さん。
豊は祈っていた。
昼を過ぎても、真次は見つからなかった。
これだけ長い時間見つけられなかったとなると、もはや手遅れではないかとみんなが思い始めた頃のことだった。
「おう、豊。イカ取ってきたぞ」
と、その真次が現れて言った。腕には、1mほどの巨大イカを抱えている。
「し、し、真次さん!?」
豊が言うと、真次は、
「なんだ、どうした。オバケでも見たような顔して。あ、分かった。俺のあまりのかっこよさに……なんだよ。恐い顔して」
「どういうことですか、これは。説明して下さい」
豊は、真次をにらみつけて言う。が、真次も、
「何が『どういうこと』なんだ。お前こそ説明しろ」
と、真次はイカゲッソーに噛み付きながら言った。
「ようするに……」
豊は、みんなに説明を始める。
「真次さんは昨日、細江博士に呼ばれた。だけど、薬を飲まされたりとか拷問を受けたとか、そういうことは一切なかったそうだ」
「そうだ。ただ、昔話をしただけだ」
と真次。「そんで、俺が最近イカ食ってないなって言ったら、少し向こうの海にでっかいイカが棲んでるって言うから、今朝早く捕りに行ったんだ。ただ、十m級の大王イカに捕まったときは、死ぬんじゃねえかと思ったが」
「大変だったね、真次さん」
由貴子が、真次に寄り添って言った。
「うんうん。まったく」
真次は、由貴子の目を見ながら言う。
「それじゃあ、エビーナのことは話してないわけね」
春菜が確認するように言うと、真次はうなずき、
「話してない話してない。何かもらったからって、話すわけにはいかんだろう」
「何かもらったの?」
春菜が、眉間にシワを寄せる。
「いや、もらってないもらってない。まさかもらうわけ……」
「ある」
と、豊が言うと、
「いや、もらってねえって」
真次は慌てて弁解する。
「ふーん」
豊は、言いながら目を細める。やはり疑わしい。
「なんだ、その目は」
真次は怒ったように言う。「よーし分かった。俺が疑われるといけないから黙っていたが、言わせてもらおう」
「何をです?」
豊は、わざと興味なさげに言う。
「俺がしゃべらなくてもなあ、細江博士は知ってたんだ」
この言葉に、豊はドキッとした。
「何を……」
「何を、だと? 分かってるだろが」
「ま、まさか、エビーナのこと……」
豊がおそるおそる言うと、真次は、
「ほかに何があるってんだ。お前ら、細江博士をみくびってんじゃないのか? 何のために俺を殺した、なんてウソついたと思ってんだ。バカじゃねえのか、お前ら。もっと考えろよ」
「なんだと!」
「ふざけんな、バカはお前だろうが!」
真次の言葉に、多数の人間が噛み付いたが、豊は目の前が暗くなった。
──これは前にもあった。東京に棲みついたイルカたちを滅ぼすのに、人間はジャマだと豊たちをおびき出した。
そして今度。──イルカたちの能力を知った細江は、何も知らないと言い、さらに真次を半殺しにしたとウソをつき、豊たちに捜させた。だが、イカを捕りに行っていた真次は見つかるわけもなく、豊たちは無駄な時間を過ごすことになった。そしてその間に……。
「またやられた……」
豊はつぶやいた。
──同じことの繰り返し。何をやってるんだ、俺は。
「くそっ! 東京だ。イルカたちのところに帰ろう」
豊は、腹が立つばかりだった。
「俺は行かねえからな」
真次が言ったが、豊は返事どころか見ることさえしなかった。
遠くから見る東京は、激しい音と光に支配されているようだった。おそらく、発光エビーナの爆発によるものだろうが、人間の戦争を思わせた。
「私たちが行ったところで、どうにかなるレベルじゃなくなってるんじゃない?」
春菜が不安そうに言った。
「そうかもしれない……」
豊は、言いながらも前進をやめない。
「もうやめようよ」
震える声で、由貴子が言った。
「いや……」
豊は首を振る。「あの戦いを止められるのは、俺たちだけだ。シャチは、人間を殺さないように言われているはずだ。もちろんイルカだって俺たちは殺さない。体を張れば、止められるはずだ」
そう豊が言うと、みんなは泳ぐのをやめた。
「どうしたんだ、みんな。行こう」
「嫌だ」
誰かが言う。また誰かが、
「命あっての物種だ。細江博士の言う通りに、イルカを滅ぼしてシャチと東京に住めばいいじゃないか。細江博士だって、考えがあってのことだろう」
「そうだよ。行きたいなら、お前ひとりで行けばいい」
──なんだ、コイツらは。
豊は顔をゆがめるが、反対の声は続く。
「いや、俺たちだってイルカたちを助けたい。でも、俺たちはお前のように海では自由に動けないんだ」
「そんな俺たちが戦うなんて、勘弁してくれ」
言った彼らは、うなだれて豊の目を見ようとはしなかった。
「……分かった」
豊はうなずく。「でも俺はひとりででも行く」
豊は言うと、背を向けて泳ぎ出した。
「ま、まって!」
その後を、春菜が追いかけようとする。が、由貴子にその体を捕まれた。
「行っちゃダメ!」
「でも!」
悲しげな春菜を見て、由貴子も顔をゆがめながら、
「……大丈夫。私に考えがある」
由貴子の目は、どこか遠くを見ていた。
一頭のシャチが、イルカの群れに突っ込んでいく。
「おいっやめろ! この!」
豊は、言いながらそのシャチを追っかけるが、とても追いつかない。
「それなら……こうだ!」
豊は、両手を前に出して「やっ!」と声を上げる。
「ギャ!」
シャチが声を上げて、前のめりに体勢を崩す。そのシャチがこちらを向いた。
「かかって来い!」
豊は、イルカから注意をそらせるべく声を上げた。が、シャチはまたイルカたちの方に突進していく。
──くそっ!
豊は、そのシャチを追撃しはじめる。だが、やはり追いつくわけもなく、シャチはイルカの群れに突っ込んだ。
その瞬間、イルカたちが一瞬にしてばらけた。かと思うと、そこには発光エビーナの一群があり──
まぶしく激しい音がして、豊は目を閉じた。──ふたたび目を開くと、そこにはシャチの姿がない代わりに、塵と赤い水が漂っていた。が、それもやがて浄化される。
これがイルカたちの能力か!
豊は、改めて驚いた。これなら、俺の助けなんかなくても──そう思った瞬間、数匹のイルカが光に包まれた。
「なっ!」
豊が辺りを見回すと、豊の真後ろに二頭のシャチがいた。豊は思わず、
「ヒッ!」
という声を出して、体を震わせた。
「ギャーギャガガギャ!」
そいつは、笑い声のようなものを立てた。何がおかしいのかは分からない。
「今のはお前がやったのか!?」
豊は、そのシャチに言う。が、それが伝わった様子もなく、そいつはイルカたちに向かっていった。
「ギャーギューギョー」
もう一頭のシャチは言うと、わざと豊にぶつかってイルカの方へ向かった。
「ま、まちやがれ!」
豊は追いかけるが、やはり追いつかない。
歯がゆい。海に強い人間と言ったって、何の役にも立たないではないか。
シャチがイルカに突っ込んでいく。イルカたちは、胸びれでエビーナの群れを操っている。──アレをシャチに近づけて、自分たちが逃げたところで爆発させるという寸法。シャチが気付いてないなら有効だが、気付いているなら自殺行為でしかない。
「ギャ! ギャ! ギャ!」
シャチが声を上げる。超音波だ。
そして、イルカたちが光と音に包まれる。──が、その光と音は想像以上に広がり、シャチたちをも飲み込んだ。発光エビーナの数が多すぎたのだ。
「くうっ!」
豊は、両腕で顔を覆った。──豊のところまで爆発は及ばなかったが、爆風に体が流されたのだ。
──ドンッ!
流された豊は、背中を何かに打ち付けて止まった。
「いてえな」
そいつは言った。──背中に打ち付けたのは、イルカのクチバシだった。
「スライトリー!」
豊は声を上げる。
「なんだ、お前か」
豊とは対称的に、スライトリーは静かに言った。「こんなところで、何やってやがる」
豊はこの言葉に目を丸くし、
「何って、助けにきたんじゃねーか!」
と言うと、スライトリーは、
「クェクェ」
と短く笑う。「言っただろう。お前らの力は借りねえって」
「そんな場合じゃないだろ! 大変なことになってるじゃねえか!」
「大変なことになってるって?」
スライトリーは、とぼけたように言う。「そりゃ、お前がエビーナのことをしゃべったからだ」
「誰もしゃべっちゃいない!」
「分かったものか」
「じゃあ、どうしたら信じてくれるんだ!」
豊は悲痛な声を上げる。
「そうだな……」
スライトリーは言って、噴気孔からボコッと空気を出す。「俺とシャチを退治しろ。そしたら信じてやる」
「えっ? それじゃ……」
豊が小さくつぶやくと、スライトリーは豊のそばに寄ってきた。乗れ、ということなのだろう。
「さて、行くか」
豊が乗ったのを確認すると、スライトリーはそう言って泳ぎ始めた。
スライトリーが差し当たってやる仕事は、「エビーナを使うな」ということを知らせ回ることだった。そして豊の仕事は、スライトリーに近づくシャチを、超音波で追い払うこと。
「でもスライトリー」
豊は言う。
「なんだ」
とスライトリー。
「エビーナ爆弾が使えないとなると、結局イルカたちが不利なのは変わらないんじゃないのか? それはどうするんだ?」
豊がそう訊くと、スライトリーは自信満々に、
「知らん」
と言い放った。
「知らんって、お前……」
豊が顔をひきつらせた時、前方から二頭のシャチがやってきた。
「おい、なんか来たぞ」
スライトリーが言うと、
「分かってる」
豊は言って、両手を前に差し出し「ダッ! ダッ!」と短く音を発する。するとそいつらは体勢を崩し、動きを止めてしまう。
「よしっ!」
豊のその声に合わせて、スライトリーは右方向に急旋回する。
「わったったったっ!」
豊は落ちそうになって、スライトリーの背にしがみつく。そしてスライトリーは、トップスピードのまま建物の後ろを通って、シャチたちの見えないところに行ってしまう。
「さすが俺」
スライトリーはつぶやいた。
「……そうだな。あ、そうか!」
豊は声を上げた。
「なんだ、どうした」
スライトリーは、泳ぐ速度を少し緩めて言った。
「ああ。エビーナを自分で持つから悪いんだ。どこかに仕掛けておいて、おびき寄せてドン! だ」
「あん? そんなことどうやってやるんだ」
「袋かなんかに、エビーナを捕まえておいて……」
「俺たちゃ、そんなことできねえぞ」
スライトリーがそう言ったので、豊はちょっと笑い、
「それは俺がやるよ」
と言った。
五十頭ほどのイルカに作戦の変更を伝えたあと、豊は薄暗いビルの中で発光エビーナをつかまえていた。──ビニール袋に発光エビーナを入れ、逃げないように口を縛る。確かに、これはイルカにはできない。
「しかし、イルカたちもずいぶん減ったな」
豊は、袋の口を縛りながら言った。
「そうだな」
スライトリーは言った。
──もともと東京に百ほどのイルカがいて、スライトリーたちが加わってその倍ほどになった。滅ぼされかけてる、と言っても言い過ぎではない。
「ハァ……」
豊はため息をついた。──口から空気がボコッと出る。
「おい、まだか。早くしろよ」
何もせずに待つのに飽きたか、スライトリーが言った。
「もうちょっと待ってくれよ」
と、豊は言う。
「おい、言っとくがな。今ここにいるのがシャチにバレたら、ひとたまりもねえからな。大量のエビーナがいるからな。大爆発だ」
「……そうだな」
言われてみて初めて気付いたが、スライトリーの言う通りだ。急がなければならない。──その窓からシャチが現れでもしたら……。
「──いた!」
突然、窓の方から声がし、豊は体をビクッとさせた。
「聞いたよ、豊くん」
そう言って、窓から顔を出したのは由貴子だった。その後ろにはイルカのキャンドル。
「由貴子さん! どうしてここに!」
「私も、何か力になれるんじゃないかと思って来たの」
由貴子は、言いながらビルの中に入ってきた。「ははあ。これがエビーナ地雷ね。これをあちこちに仕掛けるわけね」
「どうしてそれを?」
豊が聞くと、
「うん。キャンドルが教えてくれたの」
由貴子が言うと、キャンドルは誇らしげに顔を上に向ける。
「じゃ、由貴子さんも手伝ってよ」
豊が言うと、
「もちろん。そのつもり」
由貴子は言った。
二十ほどのエビーナ地雷を作り、あちこちに浮かばせておく、もしくは海底に置いておく、ということになった。
白いビニール袋は、海中では目立つ。イルカたちはそれに近寄らなければよく、シャチたちが近付いたところを超音波でドン! という計画だ。
「じゃあ、俺とスライトリーが連絡に回るから、由貴子さんとキャンドルはエビーナ地雷をバラまくってことで」
「うん、分かった」
由貴子はうなずく。
「でも、気をつけてよ」
豊は言う。「そのエビーナ地雷を持ってるってことは、それだけで危ないんだから。シャチに見つかったら一大事だ」
「……うん、分かってる」
由貴子は言うと、キャンドルにまたがった。
「じゃあ、そっちも気をつけてね」
イルカのキャンドルは言うと、海の中を泳いでいった。
「じゃ、俺たちも行くか」
豊が言うとスライトリーは、
「ああ」
と、返事をした。
連絡に走る途中、何度もシャチに見つかったが、豊とスライトリーの連携は完璧だった。
「ほかの奴じゃ、こうは行かないぞ」
豊は、自慢げに言った。
「そうだろうな」
珍しく、スライトリーがそんなふうに言う。
──なんだ、素直じゃねえか。
豊はそんなことを思ったが、口には出さなかった。その代わり、微笑を浮かべる。
「爆発音がしなくなったな」
泳ぐ速度を少し落として、スライトリーが言った。
「あ、そういえばそうだな」
と豊。「計画が伝わってるってことじゃねえかな」
「そうか。ってことは、また少ししたら爆発が始まるってことだな」
「そういうことになるな」
豊は、当然のように言った。
計画を触れ回ったあと、豊とスライトリーは話しながら泳ぎ続ける。
「なあ、スライトリー。もう、イルカたちは東京から出てしまった方がいいんじゃねえかな」
「あん? そんなこと、今さらできるか」
「いや、じゃあさ、東京だって広いんだ。イルカとシャチが顔を合わさずに済むようなところで、お互い棲めばいいんじゃねえかな」
「……それができればいいんだがな」
スライトリーは静かに言った。「でもな、シャチたちは俺たちを喰いたがる。いつシャチが襲ってくるか考えたら、ゆっくり寝ることもできねえ」
「じゃあ、結局東京を出るのが一番安全じゃないか。考え直せよ」
「そうかもしれない。……でもな、陸が沈んでから、外はもっと危ないんだってよ」
「危ないって? そんなこと誰が言った?」
豊が目を丸くして言うと、
「誰でもいいじゃねーか」
と、スライトリーは言う。
「誰でもよくねーよ。誰だ、誰が言った」
「由貴子って女だよ。東京の外は、凶暴なサメとかいるらしい。そのサメは、シャチよりも強いんじゃないかって、そう言ってたな」
──由貴子さんがそんなことを? そんなバカなことがあるものか。
豊は、眉をひそめた。シャチは海の王だという。サメごときにやられることなど、あるはずがない。
「そんなバカなことがあるものか」
豊は、口に出して言った。
豊とスライトリーは、エビーナ地雷を捜していた。
「一体どこに地雷を置いたんだ?」
豊は、辺りを見回しながら言う。エビーナ地雷が、全然見つからないのだ。
「この広い東京にたった少しだったからな。見つけにくいだけかもしれん」
スライトリーは言う。
「……そうだといいんだけど」
豊は、不安を感じていた。不安の正体が何なのか、はっきりとは分からないが。
「──うわあっ!」
遠くから、イルカの悲鳴が聞こえた。
「あっちからだ!」
豊は、ビルの向こうを指差す。「行こう、スライトリー!」
「言われなくても行くよ」
スライトリーは、言って泳ぎ出した。
一頭のイルカが、一頭のシャチにくわえられていた。
「くっ!」
豊は、その姿に呻き声をもらす。──噛みつかれたイルカの体からは、血が煙のように立ち昇っていて、その体はもう動かない。
「ギャーギャ!」
シャチが何か言った。
「クェックェックェッ」
スライトリーは笑い、「ギャーだってよ」
なぜこの場面で笑えるのか、豊には検討がつかなかったが、やるべきことはいくつもない。豊は、両手を前に差し出す。
「ギャッ!?」
シャチは慌てたような声を出すと、くわえていたイルカを放した。そして、背を向けて逃げ始める。
「逃がすか!」
豊は叫んだ。「スライトリー! 行こう!」
だが、スライトリーは動かなかった。
「どうした、スライトリー!」
「どうもこうもあるか」
スライトリーは冷静に言う。「追いかけてどうなる。俺たちにしてもシャチにしても、そしてお前ら人間にしても、その攻撃には殺傷力なんかないだろうが。突き飛ばす程度が精一杯のはずだ。分かってないのか?」
「え?」
豊は、目を丸くした。
「やっぱり分かってなかったのか。シャチを追いかけて、殺すつもりでもいたのか? できもしないことを考えるな」
「そ、そうか」
つぶやく豊の前で、息をなくしたイルカがゆっくり沈んでいく。
──実際、イルカと人間が手を組んでも、シャチが海の王であることに変わりはない。本気になれば、シャチの方に分がある。それを知っていた細江博士の主張は、やはり正しかったのだろうか。
豊はそんなことを考えたが、頭を振ってそれを打ち消した。
再び、豊とスライトリーがエビーナ地雷を探し回っていると、向こうから人間の集団が来るのが見えた。
「あれは……」
豊とスライトリーは、もう少しそれに近付いてみる。「春菜たちだ!」
豊が気付いて手を上げると、向こうも気付いたようで手を振り返してきた。
──お互いが近づくと春菜が、
「よかった! 無事だったんだ!」
と、豊に飛びついてきた。だがスライトリーは、豊と春菜に乗っかられて迷惑そうな顔をする。
「どうしてここに?」
豊は、春菜を引き離して訊いた。
「うん。もう爆発がなくなったみたいだったから。これなら私たちもって」
豊は、春菜と共に来た顔ぶれを見回す。春菜を含めて六人だが、見た顔だ。
「ほかの人たちは?」
豊は、また質問。
「うん。いくつかのグループに分かれて、イルカたちを助けようってことになったの」
「そっか」
うなずいてから豊は、「じゃあみんな。作戦について話そう」
と、エビーナ地雷計画を話し始めた。
「あ、それで由貴子さん、ビニール袋をたくさん持ってたわけね」
春菜が言った。
「え? 会ったのか?」
豊は訊く。
「うん。ここに来る途中でね。何か気分が悪いって、海底に座り込んでたよ。大丈夫って聞いたんだけど、大丈夫って」
「海底に座り込んでた?」
顔をしかめ、豊は言う。「それで、か。エビーナ地雷が見つからないのは。で、どの辺にいたか覚えてるか?」
「あ、すぐそこの辺りだったよ」
と春菜。「えーっとね。あっちの方だったと思う」
言いながら、春菜は指差す。
「じゃあ、ちょっと行ってみるか、スライトリー」
「しょーがねえなあ」
豊とスライトリーは、由貴子を捜しに行くことになった。
思いのほか、由貴子をすぐ見つけることができた。
「あーいたいた」
豊が指差すと、スライトリーがそちらに向かって泳ぐ。
「ごめん」
海底に座り込んでいた由貴子は、申し訳なさそうに言った。
「探しても見つからないはずだよ」
責めるように豊が言うと、
「ごめん」
と、由貴子は再び謝った。
「……しょうがないな。で、大丈夫?」
「もう大丈夫。春菜ちゃんに聞いたの? 私が倒れてるって」
「ああ」
うなずいてから豊は、「そういえば、キャンドルはどこいった?」
「あ、キャンドルはね。なんかはぐれちゃったみたい」
「はぐれた?」
「うん。私が、ちょっと気分が悪いから降ろしてって言って、そこのビルの陰で吐いてたの。そして戻ってきたら、いなかった」
「なに?」
そう言ったのは、スライトリーだった。「そりゃはぐれたってより……」
「いや、それより吐いたって……」
豊が、心配して訊く。
「あ、よくあること」
由貴子はさらっと言う。「みんなそうじゃないかな。だって、変なものばっかり食べてるんだよ」
「そ、そうかな」
自分にそういう経験のない豊は、困ったように言った。やはり自分は特別なのかと思う。
「よし。それじゃ、エビーナ地雷を撒きに行こ」
と、由貴子は立ち上がった。
「いや、気分悪いなら俺が代わるけど……」
「ううん、大丈夫。吐いたらすっきりしたから」
由貴子は元気そうに言う。「あ、でもお願いがあるんだけど」
と、スライトリーの顔を見て言う。
「なに?」
と、豊が訊く。
「あの、ちょっとスライトリー貸して欲しいんだけど……ダメ?」
「ダメだ」
と、スライトリーが答える。だが豊は、
「そういうなよ、スライトリー。知らない同士じゃないだろうが」
「知らない」
と、スライトリー。
「いやいや、気にしないでよ、由貴子さん。ほら、乗っていいよ」
豊はスライトリーから降りて、由貴子に座るように促す。
「そう? じゃあ……」
と、由貴子がスライトリーの背にまたがると、スライトリーは体をくねって暴れ出した。
「わわわ!」
エビーナ地雷をたくさん抱えた由貴子が、慌てて降りる。
「おい!」
豊は怒鳴った。「何やってんだ、このバカイルカ! いい加減にしろ!」
「いい加減にするのはお前の方だ!」
スライトリーも怒る。「なぜ俺が、会って何日も立たない人間を乗せなきゃならん! 信用した人間しか乗せる気はない!」
豊はハッとした。
「そうだった、スライトリー」
豊は言うと、スライトリーの顔の方に寄っていく。「悪かった。でも、お前の言いたいことはよくわかった。でも……な? スライトリー」
言って豊は、スライトリーの顔をなでた。
「気持ちわりーな。何すんだ」
言ってスライトリーは、豊の手に噛み付こうとする。
フフフ、と豊は笑うと、由貴子に向き直る。
「いいよ、由貴子さん。乗っていいって」
豊が言うと、今度はスライトリーも反論しなかった。
「そう? それじゃ……」
由貴子は、再びスライトリーにまたがる。
「それじゃ、気をつけてね」
豊が言うと、由貴子は、
「うん」
とうなずき、「じゃ、スライトリー。行こっか」
豊は、二人が見えなくなってから泳ぎ出した。
しばらく泳ぐと、由貴子が、
「ちょ、ちょっと用を足したいんだけど……」
と、恥ずかしそうに言った。
「あん? ウンコかしょんべんか知らんが、そんなもん垂れ流しときゃいいんだ」
スライトリーが、冷たく言う。
「それじゃスライトリーにかかっちゃうでしょ?」
「なんだウンコか」
とスライトリー。
「別にいいでしょ! だからちょっと降ろして」
と由貴子。
「だから、垂れ流しとけって。誰も気にしねえから」
「私は人間の女の子なの! 恥ずかしいの!」
「……めんどくせえなあ」
スライトリーは言いながら、スピードを落として海底に下りた。「ほら、行ってこい」
「うん。ごめん」
由貴子は言うと、たくさんのビニール袋を置いて、ビルの陰に泳いで行く。
「まったく……」
スライトリーは文句を言いながら、辺りを見回す。そしてクェクェ、と笑いながら、
「おーい、早くしろよー」
「もうちょっと待ってー」
と由貴子の声。が、その直後に「痛い痛い! やめて!」
という由貴子の悲鳴が聞こえた。
「お」
とスライトリーは、急いで由貴子の方に泳いで行く。
──そこには、由貴子をはがい絞めにした豊の姿があった。
「痛いってば! 豊くん放して!」
と、由貴子は泣きそうに言う。
「ホントにやるつもりだったとはね。スライトリーを殺すつもりだったんだろう? エビーナ地雷で。──リーダー的なスライトリーを殺せば、イルカたちの連携を失くせると?」
豊は言うと、由貴子を解放してやる。
「いったーい! もう、一体なんのこと? 私は用を足そうと思ってただけなのに、のぞくなんて!」
と、由貴子は両肩をさすりながら言う。
「アンタなんだろ? 細江博士のスパイは。そう考えれば、全部納得がいく」
そう豊が言うと、由貴子は首をかし傾げ、
「はあ? 何を証拠にそんなことを?」
「とぼけてもムダだ。俺はアンタを疑ってる。つまり、これ以上アンタに秘密を漏らすことはない。だから隠したところで、無意味でしかない」
豊がそう言うと、由貴子は「ふうっ」と息を吐き、
「そうみたいね」
と、悲しそうに微笑んだ。
「ずいぶんあっさり認めたな。今ここで認めるってことが、どういうことか分かってんの、由貴子さん。──何されても文句は言えないよ」
と、豊は由貴子の顔を見据える。
「それは大丈夫」
由貴子は、豊の顔を見つめ返す。「別に私をどうこうするつもりはないでしょ? 豊くん」
「……許さねえ」
豊は言うが、由貴子は首を振る。
「許さないって、じゃあどうする? 殴る? 蹴る? それとも、殺す?」
そう言うと由貴子はまた首を振り、「できないよね、豊くん。君は優しいもの」
「キャンドルも殺したのか?」
豊が訊くと、
「うん。心苦しかったけど」
「なぜだ、なぜ……」
豊の言葉の途中で、
「俺が殺してやる!」
と、スライトリーが由貴子に躍りかかった。
「ヤッ!」
由貴子が両手を差し出し、声を上げる。スライトリーは弾き飛ぶ。
「クッ!」
と、スライトリーは呻き声を上げるが、再び由貴子に向かっていく。
「ふざけるな!」
そう叫ぶが、
「ヤッ!」
という由貴子の声に再び弾き飛ぶ。だが、また向かって行く。
「やめなさい!」
由貴子は言うと、また両手を差し出す。だが今度は、横から豊に突き飛ばされた。
「キャッ!」
と、由貴子は体勢を崩す。そこをスライトリーが襲いかかろうとして──
が、その由貴子の体を、豊が抱きとめる。
「やめろ! スライトリー!」
「どけ! コイツは殺す! 前から怪しいって俺が言うのに、キャンドルはそんなことはないってずっと言い続けて! それをコイツは!」
「仕方ないじゃない……」
由貴子は、豊の腕の中でつぶやいた。「私だって、ずっとイルカたちと暮らしたかった」
「どうして……仕方なかった? 教えて、由貴子さん」
豊は、優しく言った。
「人間はもう、こうでもしなきゃ生き残れない」
由貴子は、豊に体を預けたまま語り出した。
「温暖化で陸が沈んだ。そして人間を代表とするホ乳類の時代も終わりが来るんだって、細江博士も言った。イルカスーツで生き延びたって、しょせんは悪あがきみたいなもの。──ねえ、知ってる? 恐竜たちハ虫類に終わりが来たときのこと」
「それくらいは知ってる」
と、豊はうなずく。「ハ虫類の時代が終わったあと、まだ小さかったホ乳類が氷河期をしのいで、ハ虫類のいた世界に進出しはじめた。そしてホ乳類の時代が始まった」
「そう。でも、そのハ虫類とホ乳類の時代の間、海はどうなってたか知ってる?」
「……知らない」
「ホ乳類の時代に、クジラやシャチが海を支配してたように、ハ虫類の時代でも魚竜とかいったハ虫類が海を支配してた。──ハ虫類の時代とホ乳類の時代、その間。海の生物のほとんどが魚類。そしてその七十パーセントはサメだった」
「七十パーセントがサメ!?」
豊は驚く。
「今、その時代がよみがえりつつある。でも陸だった東京なんかには、魚も来ないみたい。だから、サメよりもイルカよりも強い力を持ったシャチと、東京で暮らそうって。細江博士の考えは正しいと思ったし、今でも正しいと思ってる」
「正しい? そんなことはないだろう」
豊は反論する。「人間が生き延びるためには、何をしてもいいってことか? そうじゃないだろ。最低限の……」
「それは分かってる。確かに、何が正しくて何が間違っているか。その判断は難しいけど、生きることは正しいこと。それだけは間違ってないと私は思う」
「そうかもしれないけど……」
豊は、一瞬由貴子の言い分を正しく感じてしまった。だが、違うと思いなおす。「生きることは正しいこと。それは分かるよ。でも、どう生きるかってのは、もっと大切なことだと俺は思う」
「ふーん、えらそうに」
由貴子は、突然口調を変えた。「シャチは殺していいけど、イルカは殺しちゃいけないって? 生きるためには、ほかの動物を殺すのはダメだって? そんなキレイごと言ってるから、君には誰もついてこないのよ!」
そういうと由貴子は、豊の腕を振りほどいて「ギャー!」と声を上げた。
「それはシャチ語!?」
豊は驚き、「シャチを呼んだんだな!」
「察しが早い!」
と由貴子は、豊たちから大きく離れた。
「逃げる気か!?」
と、スライトリーが追撃しようとすると、「やっ!」という声に弾き飛ばされる。
「待て! 由貴子さん!」
豊も追撃しようとすると、由貴子が両手を前に出し、それを豊に向ける。
「くっ!」
と、豊も同じように構えを取る。
「遅い!」
由貴子が叫ぶと、その声がそのままぶつかってきた。
「ぐっ!」
と、豊は全身にしびれを感じる。
「動きが遅いんじゃなくて、判断が遅い!」
由貴子は言いながら、ビルの陰を通って見えないところに行ってしまった。
「っつー……」
豊は、体のしびれがしばらく取れなかった。
「いってー……。ここまで痛いとは思ってなかったよ」
豊は、体をさすっていた。
「まったく」
と、スライトリーも同意する。「お前らのあの攻撃は反則だぞ。シャチも吹っ飛ぶはずだ。だいたいお前らは……」
「おい、スライトリー黙れ」
と、豊が顔を険しくして言った。「シャチが来た」
「……みたいだな」
──二人はビルの間に潜んで、シャチが来るのを待っていた。由貴子が呼んだから来るはずで、そこにはエビーナ地雷をセットしてある。近付いたところをズドン、だ。
「なんだありゃ?」
スライトリーが言った。「シャチのあとから、何かいっぱい付いてきてるな」
「確かに」
豊も目を見張る。
「しかも、なんか妙にでかくねえか? シャチの倍はありそうだ」
と、スライトリー。
「ああ。クジラ……でもなさそうだ」
豊は、由貴子の話を思い出していた。「まさか、サメか?」
「みたいだな」
そう言ったスライトリーの声が、緊張しているようだった。
豊とスライトリーは、押し黙った。シャチたちが近付いて来る。
──五頭のシャチがこちらに向かってくる。……と思うと、シャチたちは進路を転じてどこかに去っていく。そして、その後を十匹以上のサメが追いかけている。
「逃げてるんだ、シャチが!」
豊は、驚いて言う。スライトリーは、何も言わずにジッとしている。
「……魚類が、ホ乳類を滅ぼそうとしてるのか……」
豊はつぶやく。──由貴子の言う通りの事態が起ころうとしているのか。しかし、シャチならばサメにも負けない、と言ってなかったか。見た限りでは、シャチですら、という状態だった。
──魚類にホ乳類が滅ぼされる?
豊は、もう一度その意味を考えてみて、ゾクッと寒気がした。
エビーナも、魚ではなかったか。イルカやシャチたちは、エビーナを使っていたのか、使われていたのか。東京に魚は来ない、なんて誰が言ったのか。
「俺たちゃ、もうダメかもしれねえぞ」
豊が言うとスライトリーは、
「クェクェクェ」
と、引きつった笑い声を出した。
二章あとがき
うーん、序章の次が二章になってしまうとは。本来、序章ってのはプロローグ的なものなんでしょうに。
いやいや、それもさることながら、内容的にもおかしいとこが多々ある。三章で完結の予定なんで、完結後に大幅修正予定は組んでますけど。
あと、文章自体にも大いに不満ありますねえ。
ともあれ、感想頂けたらありがたいです。それでは。