ガルネリア・サーガ 〜白砂の巨人篇〜 3
AKIRA





「その通りだ。しかも、彼の遺失魔法の分類を考えると、同じ創生魔法の人間の方が理解を得やすいだろう。それ以外にはかんがえにくい」
 大ゴードンはそう云って、紅茶を啜った。熱かったらしく、一瞬眉を顰めた。
「では、『創世者』というのは?」
「恐らくは、そういった者が自らかってでたか、あるいは何の罪もない人間を拉致し、操作したのか」
どちらにしても赦せん話だ、と大ゴードンは足を鳴らした。息子も、頷く。
「とにかく、わが国には魔法に関する記述が多い。それを持って来させましょう。まぁ、両国の今の関係から考えると、そのまま見せる、という訳にもいきません。よって、写本を作りましょう」
と息子の方から言い出してくれた。
「その件に関してはお願いします。それと、もう一つ」
「なんじゃい」
「『巨人』についてです。実は、魔法研究所のゼディス老に会って訊くと、『あれは超文明の遺産』と仰った。でもいまいち」
「ゼディスか。まだおったんかぁ」
大ゴードンは懐かしく友に思いを馳せると、
「本来なら、儂ではのうてゼディスがこの地位にいるべきだった。だが、あやつは魔法に専念するあまりに此処を離れてしまった。惜しい。で、『巨人』に関してはそういう説もある。『天の山脈』が聳え立ち、文明そのものが分断される前、この大陸は一つだった、と云われている。『巨人』はその頃に作られたものだと云われている。それを悪用したのが、妖魔や邪悪なる種族達で、奴ら自身はそんなものは作っていないし、また作る能力もない。もしあるなら、地上はとっくに破滅しておるさ」
「なにせ、伝説の話だから信憑性、と云う点では、些か薄いと思われます。しかし、『黒の戦争』期において、邪悪なる種族達が作る程の高度な文明を持っていたのとは、考えにくいです」
「ま、この小倅が云うとおりだ。あらゆる文献でもってしても、その記述はない。『超文明の遺産』とは些か過ぎるにしても、遥か昔、それも文明自体が前時代においての産物が、まだ残っていた。それを何らかの形で『リドル』が手を加え、時を経た今、『創世者』を名乗る者が再び『黒の戦争』に匹敵する破壊行動を引き起こそうとしている、とこう考えるのが妥当だな」
「動機は、なんです」
「知らん」
とガルドの問いに、大ゴードンですら読めないようである。
「わかりました。自分達は宿をとっています。ここに居ますので、何かあれば」
と、ガルドは宿の住所を書いた紙を渡した。

 宿先である「マナズ・イン」に戻ってきた。
ガルドは、軽装に着替えながら考えた。
 大まかな輪郭はおぼろげながら見えてきたように思える。
だが、やはりここでも最大の謎はわからない。
 何故、安定した世界を混乱に導く要素があるのか。また、混乱を導いた所でその先にある目的、あるいは明確な展開など、見えない部分は多い。
『新しい御世を創世する』
という『創世者』の男の言葉と、その命を付け狙う事がどうも直結しない。それのみならず、現代世界の秩序を破壊するという事は、自らの全てをも消滅させかねない。その危険性の高さを無視してまで遂行する『新しい御世』の意義とは何なのか。
 ――― ゾーリアス信者。
という言葉が、ガルドの中にどうも引っかかりを感じてしまう。
丁度、魚の骨が喉を支かえるような、飲み込むには大きいようで、しかし吐き出すには小さい事象である。
「あのリドル、という男もゾーリアス信者だったのかもしれない」
とすれば、『創世者』もいきおい信者になるだろう。あるいは、『創生魔法』の秘術がそうさせているのかもしれないのだが、もし破壊そのものを目的とするならば話は違う方向に進む。
 人間という種類は、性質として「手段」と「目的」を異にする。というより、「目的」における「手段」として、手段は目的よりも下位に位置する。では何の為にこの今の世界を破壊するのか。それも、意思無き魔法生物であるならばまだしも、意思を持った確信犯的行動にでる意図とは。
 この動機がわからない以上、破壊行動を目的そのものと考えざるを得ない。この推測が正しいのかどうなのかはわからない。が、少なくとも「リドル」はどうあっても阻止せねばならない。
(できるか)
問うてみても、答えなど出ては来ない。ただ、やるしかない。
「しかしまぁ、よりにもよって、二人だけで世界を救おうとするのだから。・・・無茶な話だ。」
 ギャリルが戸を開けて入ってきた。軽装のままで、鎖帷子は部屋に置いてきてある。腰には、サバイバル・ダガー(鎬の幅が広い短剣)を2本、差してある。格闘戦向きの姿である。
「あぁ、無茶だ。その上にだ、この事は世間には公にはなっていない。少なくとも、共通の情報ではないだろう事だけは確かさ」
と、ガルドは上体を起こした。机の上には地図の描いてある羊皮紙と、万年筆が転がっている。ギャリルは、その地図を見ながら、
「奴がどういう理由を持っているにせよ、だ。奴がミーアの笑顔を消す権利は無い。この世界を自由にできる者など、誰一人としていないし、居てはいけない。俺はその芽を摘む為に、殺さなけりゃいけないのなら殺す。・・・だがよ、一つ疑問がある」
「何だ」
「『捕縛』と言ったな。なぜだ」
「その事か。・・・知っておいてもいいだろう。他愛も無いが」
ガルドは、語り始めた。

 ――― あの事件の後、謁見室にて。
「ガルド・ヴァリウスよ。そちに『リドル追跡及び捕縛』を命ずる」
「ほ、捕縛ですか」
「そうだ。復唱は」
と、ガルクォード]U世は求めた。
「質問があります」
「なんだ。答えられる範囲で答えよう」
「殺す事が、最善であるのに何故捕縛なのですか」
オスカーとロイが目配せをする。どうやら、聞いてはならない事らしい。が、ガルクォードは顔色一つ変えない。
「確かに、矛盾しているな。殺す事で巨人を停められるのに、何故捕縛なのか。理由は、特に無い」
と、事務的に国王は話した。
「では、殺してしまう方が」
「そうだ。私もお前の立場ならそうするだろう。その上間接的にも父親の仇だ。が、私は国王だ。不法に国土に侵入、そのうえ公共物を破壊されたのだからな。これは犯罪なのだ」
「はい」
「いいか、どういう人物で、それが我々の常識の範疇を超越しようとも、犯罪者は裁かねばならん。彼らの云う「愚凡な者達の法」でだ。ともすれば、彼の方が『神としての真理』は正しいのかもしれない。しかし、現実はそんな事を理解できる奴がどれほどいる?いやしないだろう。そして、この世界の大抵の人間はそういった者の集合体に過ぎない。私はそれらを守護する立場にある。そして、それは情ではなく理を以って裁かねばならないのだ」

 ――― 根は、やはり貴族だな。
生理的に貴族、という人種に嫌悪感を抱く傭兵は多い。ギャリルもその内の一人である。皮肉ではない証拠に、口元に笑みが無い。
「反論すべきなのであろうが、できないな」
「名君とは云われていても、そこは階層の違う人間だ。いかな者とて、仕方あるまい。実際に行かせるわけにもいかんし」
「あぁ。それで死んだらコトだ。・・・この話はこの辺にして、どうだ」
と、ギャリルは縦に握った拳を口元に引き寄せた。ガルドも頷いた。


  第三章 真相

   1

 バーストの歓楽街は、意外と賑わっている。
裏通りに入ると、等間隔に短いスカートと胸元の開いたシャツで大きな胸を強調している。所謂コールガールというやつだ。
「お堅い街かと思っていたら、案外、だな」
と、ギャリルは口元を綻ばせた。
「その姿をミーアちゃんが見たらどう思うだろうぜ」
「うるせえ」
ガルドの言葉はギャリルの痛いところを突いたようで、ギャリルはそれ以上何も言わない。
「どう?安くしとくわよ」
「ワルイ。もうちっと品定めさせてくれよ」
コールガールの言葉にギャリルは返事をした。その様子から見ると、慣れているらしい。
 二人は、結局コールガール達の袖引きを抜けて、酒場に入った。

 酒場にはカウンターと、15,6程の四人掛けの円形テーブルがあり、東側には一段高い舞台が設けられている。
『癒しの山猫亭』というらしく、ここでは規模が一番大きい酒場だという。
 二人は、端のテーブルに座り、2,3の酒と軽い食事を頼んだ。
 ダンサーが徐々に身に着けていたものを脱ぎ始めた。それに歓声が沸き起こる。
時折、二人の居るテーブルに目線を送る。ギャリルが、酒の入ったグラスを挙げて答える。
「お二人さん」
と、後ろで声がした。気配はまるで無いのだが。
 すでに二人は首を固定させたまま、視線を忙しく変えた。が、それらしき人物の姿は見当たらない。
(後ろだ)
と、ギャリルが顎をしゃくった。なるほど、後ろにフードを被った男が一人で黙然と酒を口に運んでいる。
(あのフード付か)
「正解だ」
とまた、声がした。
(おい、ここじゃ人の許しも無いのに勝手に割り込んでもいいのか)
ガルドは、虚空を見つめながら酒を飲む。
「そういうつもりじゃないさ、ガルド・ヴァリウス」
(何故知っている)
「俺の眼は何でも知っている。『山猫のご加護』があるからな」
(なんだ、お前さんはこの店の店員かよ)
「おもしろいねぇ、あんた。ここからは真面目な話だ。俺と組んでくれ」
(じゃ、こちらも真面目な話だ。さっさと消えな)
ガルドとギャリルは席を立った。ダンサーが駆け寄ってくる。
「どう?今夜」
「あぁ、そうしたいのはやまやまなんだが、また今度にするよ。もっと落ち着いてからな」
と、ギャリルは彼女に口付けをした。彼女の口の中には金貨が一枚、入っていた。
「軽いチップだ」
と云って、店を出た。

 歓楽街は不夜城、というのは大通りだけである。
裏通りの、それも小さな幅の狭い路地は、ひっそりと佇んで、まるで存在する事が憚れる様にうっすらと通っている。
ガルド達も、何も好き好んでこの路地に来た訳ではない。先刻のフード付の追跡を撒こうとして歩いているうちに此処にたどり着いてしまった。
「しかしまぁ、これだけ適当に歩いたもんだ」
帰り道がわからん、とギャリルがため息をついた。
「仕方ないだろう。薄気味悪い奴に追っかけられるくらいなら、コールガールの方がまだましだ」
と、二人は少し広い通りの途中にでた。
「遅かったじゃないか」
と、隣で声がした。聞き覚えのある声である。それも、最近に。
「・・・。なんでここにいる」
撒いたはずだぞ、とガルドの表情は青ざめていた。
「だから云ったはずだ。『山猫のご加護』だと」
「・・・。わかった、じゃあこうしよう。お前さんの話を兎に角聞くだけ聞く。受ける受けないこっちで決めさせてもらう。もし受けるならそれで良し。不成立なら直ぐに消えて二度と出てこない事。いいな」
『山猫』と仮に筆者が呼ぶ事として、三人は別の酒場に体を移した。

酒場は場末の殺風景な内装だが、むしろその方が都合がいい。
奥のテーブルについた三人は注文をとり、やがて酒が運ばれた。
「で、あんたの話とは」
と、半ば投げやりにガルドは尋ねた。
「『創世者』についてなんだ」
 ――― 創世者。
という言葉がその『山猫』の口から出た瞬間、ガルドのグラスの手が止まった。
「何故それを知っている」
「『創世者』と名乗る人物が俺のこの眼を元に戻すのに重要な人物だという事はわかっている。そしてそれをアンタが追っている、という事もわかっている」
「何故だ。俺が『創世者』を追っている事は一般人にまでしられていない特記事項のはずだ」
「だから云ったろう。『山猫のご加護がある』とね」
と、男はフードを脱いだ。
 茶髪の長めの髪は耳元で切りそろえられ、鼻梁は高い。頬はこけているもののやつれている印象よりも、むしろ元々痩せているのであろう、不健康な印象は見受けられなかった。耳はぴん、と尖っているが、エルフではないらしい。
 それよりも、眼である。
 右眼はガルドら普通の人間達の鳶色の眼をしているが、左眼はまるで血の中に漬け込ませたように紅い。初めは、何か外傷的な原因で(つまり何か打撲を受けて治療しているといった外科的内容で)なったのか。
「なんだ?その眼は」
「これが『山猫のご加護』だ。俺はこの眼を埋め込まされたんだよ。その『創世者』にね」
『山猫』はすぐに髪の毛で覆い隠した。よほどのコンプレックスを持っているようだった。
「俺の名前はキリィ。『シーフ・ロード』国出身の農民だ。兵役にも出ていたから多少、戦闘の心得程度はある。・・・まあ、それは別として」
と、キリィと名乗った『山猫』は料理を口に運び、
「全ては二年前だ」
と、キリィは語りだした。まるで飲み込んだはずの異物を吐きかえすかのような、憎しみと苦しみが混じった表情だった事を、ガルドは暫く忘れる事が出来なかった。

 筆者代筆として。
彼、キリィという青年は「シーフ・ロード」の北方に位置する村、「シーアン」で生を受けている。
 子供の頃から兵隊に憧れていた、というごくごく平凡な一少年の時期を、この生まれ育った村で過ごす事になる。
「シーフ・ロード」には徴兵制度がある。18歳以上の次男以降はどのような職業であろうとも、長男が夭折、あるいは行方不明で家長を継承する場合以外は3年の兵役義務があり、無事大過なく過ごせば3年の徴兵のみで終わる。現在彼は23歳という事なので、つい最近まで兵役に就いていた事になる。
 兵役といっても全員が首都である「ムーンホーク」の守備に就くわけではなく、主に地方国境沿いの哨戒任務及び治安確保の為に置かれる事が多い。キリィも例外ではなく、幸運な事なのだが彼は故郷である「シーアン」の哨戒任務を仰せつかったのである。
 云わば、兵役で故郷に帰って来たのだが、これには意外な理由があった。
 この「シーアン」という村は人口は200戸程の、村としては規模はそれほど大きくはない。が、肥沃な豊饒地帯である為に穀物の生産量が国内の3割を占める。つまり、此処を占拠されると、長期戦において不利に働く事は間違いないわけで、そういう意味においても兵を割ける事が多い。
 全ては二年前の出来事である。
 当時、哨戒任務についていたのはこのキリィと、もう、一人ムスランという若者である。このムスランもまた、この「シーアン」出身である。
 村の北はずれに洞窟がある。「シーアン」の子供達の格好の遊び場所となっていて、3人がよれば必ず、といっていいくらいの遊び場である。
 ――― 立ち入るべからず。
という看板が立っていて危険な場所ではあるのだが、この看板が逆効果を及ぼしている事は当の大人たちは全く知らない。
 とにもかくにもその危険な洞窟に、いつの頃からか人が住みだしていた。
子供達も狙いも半分はそこにあったようで、村の大人達はその調査(つまりは人物の特定と連行なのだが)をキリィたちに依頼した。
 洞窟は緩やかな山の斜面に横穴が穿った形で、高さは大人が腰を屈むほどで奥に長い構造となっている。
 胸に懐かしさを抱いたまま、二人は奥へと進んでいく。
奥に進めば進むほど穴は大きくなっていて、大人が立ってあるいても支障ないほどであった。
が、肝心の「洞窟の住人」は居なかった。
「おかしい。此処以外には居るはずがないのだが」
キリィの少年時代の記憶を思い出しても、この洞窟は一本道である。行き着く場所はひとつしかない。住人は、当然そこに居るはずだった。
「キリィ・・・」
後ろで声がしたので、振り向くと共に洞窟にいたムスランが居た。
しかし、ムスランは何かに怯えているような表情だった。
「お前か、おどろかすなよ」
と、胸を叩こうとしたがその手は空を切った。
すると、ムスランの首がどさり、と地に落ちた。その表情は恐怖に歪んだまま。
「ムスラン!!何があった」
「死人に聞いても何も答えんよ」
と、『声』はキリィの左目に“何か”を入れた。と同時に耐え難い激痛が左目から全身に駆け巡る。
「うっ・・・貴様・・・」
「我が名は『創世者』。その左目に新たな『神の眼』を授けよう」
と、『声』が手を伸ばし、キリィの左目を覆った。
と、失ったはずのキリィの左目の視力が回復してきた。いや、より強力に見える。
見れば、額に紋様のような痣が有った事を見逃していなかった。
「何故だ。なぜこんな事をする」
「『新しい御世』を創る為、」
と言い残して、『創世者』は掻き消えた。

「と、まあこれが全てだ。で、アンタの事はこの眼が」
といって、左眼を差し、
「教えてくれのさ。それに、これでアンタが追いかけてる相手と俺の相手が一致した」
「それはわかった。だが、何故俺がここに居ることがわかった」
「この眼で見通せないものは無い。だからあんたの居る場所は常にわかる」
「つまり、選択の余地はないという事になるな」
「そういう事だ」
と、キリィは酒の入ったグラスを空けた。
(しかし謎だ)
とガルドが思うのは関連性の希薄、というより皆無であるという事である。
 この兵役義務の終えた平凡な青年が、突然に事件に巻き込まれること。ガルドだけであるならば、「偶然」という漠然とした稀少確率の理由が辛うじて成り立つかもしれない。が、このどこにでもいる普通の青年が、なにゆえ『代行者』に眼を奪われ、その上新しい能力を授けたのか。
 どうも、『創世者』の行動には不可思議な点が多い。
もしかすれば、一見して全くの無関係のこの人間達が自らも知らぬ所で繋がっているのかもしれない。
 それを縁、というのだろうがリアリストであるガルド自身はそのような事は信じていない。が、『代行者』が全ての共通項である以上キリィも同行せざるを得ないだろう。
「で、この旅は結構危険だぞ。護身する術はあるのか」
とガルドが尋ねると、キリィはローブの中から、丁度手首から肘辺りまでの長さの細い棒が数本、束ねたようになって密接に並んでいる束をテーブルの上に置いた。端の棒の先には革製の鞘が生えている。刃を隠しているのだろう、鎬幅が広く、厚みも有った。この一節だけでも、斬撃武器として十分に使える。
「これだ」
「何だ。これじゃ戦えないじゃないか」
「見てみな」
と、キリィは鞘が突いている節とは全く反対の節の棒を片手に持つと、立ち上がり、上から下に一挙に振り下ろした。
 すると、それまで束になっていた棒が一挙に繋がっていき、一瞬のうちに鎗になった。
「これは。・・・こんな武器があったとはな」
と、隣で見ていたギャリルは眼を丸くした。おそらくこの西大陸内ではこれ以外には無いであろう、それほど珍しい武器だった。
「まあ、いいだろう。で、どれほどの訓練を受けていた」
いかにいい武器を持っていた所でそれを使いこなせられるかは、本人の力量に掛かってくる。レザリアにも兵役義務はあるが、では実際の近接戦闘となると、集団戦闘とは全く勝手が違う。ガルドは、その両方を経験している。
「さあな。が、ここまで何とか無事に来ている以上、一般人以上の力はあると思うが」
「・・・わかった。お前を鍛えがてら、捜索をしよう。異存は無いな」
キリィが首を縦に振った。キリィ自身も戦闘の腕に関しては不安もあったのだろう、割合素直な青年である。

 翌日、小ゴードンの使いの者が邸まで来るように、と邸まで案内した。
「有翼人種の集落があります」
小ゴードンは、ムーラ国内の北の一点を指差した。
「そこにいけば、・・・キリィ君の左眼と『創世者』の足取りが掴めるかもしれません」
「根拠は」
「そこの集落には「黒の戦争」期から今尚ご存命である長老がおられます。その方ならば、あるいは」
 有翼人種(ウィングボード)とは、ムーラの北に半ば独立しながら独自の生活圏を持っている人種で、背中に天使を思わせるほどの大きな翼を持っているのが特徴である。種族的に生命力が著しく強く、長命で、特に長老は御年1247歳、という超長命で、黒の戦争に負けた暗黒時代に産声を上げている、いわば「歩く歴史書」ともいうべき人物で、「奇跡の介入」の目撃者で今となっては唯一、神の姿をその両眼に刻み込んだ人物である。
 ちなみにこの有翼人種は、夏に北上し冬に南下する渡り鳥の習性があり、鳥類から分岐して哺乳類とは違う進化を遂げた名残である。
「この『炎の期』の間は此処にいるはずです。今ならばまだ間に合うでしょう。急いでください」
『炎の期』はすでに陰りを帯びて次の季節である『風の期』に差しかかろうとしてる。ゴードンが急かしたのはこれであった。
 
 暑さを象徴する『炎の期』を過ぎれば、涼しくすこし肌身を斬るような『風の期』に入り、これを越えると、大陸の北方には雪が落ち始める。
 ガルド達が有翼人種の集落に着いた時は、すでに引越しの準備を始めようとしていたところであった。
 有翼人種の集落というのは、「ムル」と呼ばれる一家族あたりが暮らす大きなテントのようなものの集団で、主に狩猟と遊牧によって生計を立てる。
 有翼人種には通常種の人間ほど生殖能力は持ち合わせていないが、その分生命力や体力が強く、基本的にはその長寿のほどはエルフ族より、あるいは長いかもしれない。
「こんな時期じゃで、落ち着けんが、かまわんか」
と、長老は嫌な顔を見せることなく応じてくれた。
 額を白いバンダナで巻き、無造作に垂らした長髪は濃い灰色の交じった白髪で水に濡れたように艶があった。
「もうそろそろ南に皆で行こうか、という所じゃったい、ゴードンさんの、っちゅうことなら聞かん訳にはいかいでな」
方言なのか、それともこの長老独特の話し方なのか、程なくして親しみを持てるような、朗らかな人物である。
「『リドル』っちゅのは、元々魔法が好きな小僧で、それがいつしか体系を規定できるほどにまでなった。規定ができるという事はその道では右に出るものはおらん、という事だ」
老人は、目を細めて虚空を見た。
「では、600年ほど前に死んだ、というのは」
「いや、死んだという話は聞いておらんでな」
「というと」
「・・・いや。これ以上はよそう」
と言ったきり、老人は口をつぐんだ。

 この間も、南に渡る準備は着々と進み、草原の中にムルは無く、ただ背中に大きな翼を生やした者と、そうでない者とが家族ごとであろうか、固まって長老を待っている。
 有翼人種は全員が全員ともに翼が生えるわけではないらしい。
「もしかすると、ちょっとした事が全ての原因かもしれんな」
と言って長老は翼を羽ばたかせながら、天高く飛び上がると翼を持った者は次々と飛び立ち、残った者は列を成して荷物を背負い、同じ方向に向かっていった。

 宿先である「マナズ・イン」に三人が戻ったのは長老を見送ってから三日ほど経った昼下がりである。
「これを、預かっておりました」
と、主人がギャリルに渡したのは、一通の文面である。裏には、
 ――― 親愛なる我が標的へ。 ロクフェル・メイランダー
特徴を、とギャリルが尋ねると、主人は、茶色の長髪をゴムで後ろに縛り、額をバンダナで巻いた若者で、腰に2振りの中長剣を差していた、という。
「やつがここまで嗅ぎ付けてくるとはな」
と、ギャリルが文面を読み始める。中には、

 親愛なる我が金づるへ
 予ねてより貴殿の探している人物に関する情報が入った。
 存外おもしろい内容なので、至急下記の場所に来られたし。

という短い文面、簡単な地図と「ロクフェル・メイランダー」という署名があった。
 主人によれば来たのは昨日の昼頃らしい。
「そうか。それほど時間は経っていないのだな。・・・。会うか?もしかすると」
「あぁ。そのロクフェルとやらの持っている情報が合致するかもしれん。・・・行こう」
キリィはこのまま宿に留まり、ゴードンを待つ手はずになった。

 ロクフェルという、やや軽薄そうに見える長髪の若者とギャリルがどういう関係にあるかは、ガルドにはわからない。もしかすると二人が離れていた時期に関係があったのかもしれない。その事はロクフェルがガルドを見たときの態度によく表れていた。
「職業評価の件ならお断りだが」
とギャリルは部屋のソファに浅く腰をかけた。
「それじゃない。例の『創世者』の話だ」
「何故、それを知っている。あの件は一部の人間しか知らないはずだ」
「それはアンタが知っているじゃないか。『蛇の道は蛇』ってやつさ。・・・まぁ詮索はこの際置いといて
だ、『リドル』は600年前から姿を消している。それから数百年経って『創世者』を名乗った連中が歴史の裏舞台で暗躍している」
「そうだ。それが、どうかしたのか」
「普通なら、思想に共感したかあるいは『リドル』の教えを脈々を受け継いだ連中がいる、と考えるだろう」
「ああ、現に他の連中も言っている。ガルドも俺もそう考えている」
「しかしだ、不思議だと思わないかい?アンタたち、そこまで『リドル』について調べていたら奴の思想、考え方あるいは死生観まである程度の資料はそろっているはずだ。そこからなんとなく『匂い』がわかるはずだ、奴のね。だが、そんな書物は無い」
 確かに、『リドル』がゾーリアス信者であろう事はガルドを襲った男から察することはできる。だが、実際に『リドル』自身の思考、思想といった類のものは皆無であった。
「だろう。ここからだ、俺の情報は」
とロクフェルは腰掛けていた椅子から立ち上がり、徐に
「『リドル』は生きている。『創世者』の連中は創生魔法で改造された人間だ」
と言い始めた。冗談ではないことは、ロクフェルの眼をみればわかる。
(そんな馬鹿な)
ギャリルとガルドは頭を振った。あまりにも突飛な言葉である。
「それをどこで手に入れた」
ロクフェルが、これだ、と言って二人の前に一冊の本を放り投げた。
その本をガルドが開いた。暫くすると、忽ちに二人の顔が変わった。
「なら、すべてが納得いく」
「情報はそれだけだ。職業評価は別の機会にさせてもらうよ」

 二人はロクフェルの館を後にして、宿先に戻ろうとして馬を取りに厩舎に向かった。
すると、何者かによって太い首を掻き切られ、既に絶命していたのである。
「今、逃げられると困る」
と後ろで声がした。ギャリルは大斧を手にしながら、ガルドは抜刀しながら振り返った。
刹那、奇声を上げて長剣が二つ、振り落ちてきた。
ガルドは辛うじてかわし、ギャリルは大斧の柄で受け止めた。
(とうとう来たか)
ガルドとギャリル、あるいはキリィ、ゴードン父子も含めてすでに生命の危険を超えた、ある意味では戦争に近いまでの生命のやり取りがこの瞬間から始まった、と言っていい。
「こういう人間が来る、という事はどうやら当たりだったようだな」
というギャリルの言葉にガルドは頷いた。
 賊は二人。男と女で、共に長剣を抜いている。が、女は新月刀(シミター)で、男は直刀である。
共に、額に『創世者』の紋様が浮かび上がっている。
 男はギャリルに斬りかかり、女はガルドに向かった。

(なかなかやるじゃないの)
とギャリルは大斧を使い、あるいは身をかわして男の太刀筋に舌を巻いていた。
 振り下ろすとき、あるいは撥ね上げるとき、振りぬくときにも一切の余念が無い。任務に忠実な暗殺者であろう、感情が一切見受けられない。
 上から、下から。ときには薙ぎ、あるいは突きにくる。その一撃々々が機械のように無機質に、あるいは正確に斬撃を見舞ってくる。
(やばいね、こりゃ)
とギャリルはおのれの得物の不利さを思った。大斧と長剣ではあきらかに斧は不利である。攻撃動作が極端に鈍くなる上に、どうしても大振りになりがちになってしまう。しかもギャリルの得物はそれこそ一撃で決する、という前提で成り立っている代物で、長期戦になると明らかに不利であった。
 傭兵という職業はおのれの生命の保全を第一に考える職業であり、そのためにはたとえ逃亡や身代わりといった手段においても厭わないのであり、あくまで騎士道を重んじ、勇猛に死す事を美徳とする騎士との違いでもある。
 ギャリルは大斧を大地に突き刺すと腰に帯びていたダガーを抜き、放った。
男は顔を背ける事でかわしたが、刹那、ギャリルはすでに肉薄し、両手首も取られていた。
「戦場じゃ、命取りになるんだぜ」
と、男の利き手の手首を極めながら、胸にあったナイフを抜くや頚動脈を斬った。
 男は血の噴水を吹き上げ、馬小屋の天井は血で濡れ、男は崩れ落ちた。

 一方のガルドは、新月刀の舞に眼を奪われる事は無かったが、すばやい剣のこなしで反撃する間を失っている。
 よほど手になじんでいるらしく、まるで手がそのまま刃になったように自在な変化を見せた。
ガルドはギャリルの方を見ると、ギャリルはすでに勝負を決していた。
(一人でやれ、っていう事かよ)と少し恨めしげに見た。
「どこを見ている」
と女の新月刀が上から降ってきた。ガルドは受け太刀になった。少し火花が散り、女の眼が眩んだ。
 ガルドはその一瞬を逃さず、女の乳房の真ん中に突き刺した。背中から刃が突き出、血が滴る。
 女は暫くガルドを睨みつけていたが、やがて白目を向くと、絶命した。
厩には5頭の馬が飼われていたが、全てが殺されてしまっている。
「馬も殺されて、これからどうする」
このメイランダーの屋敷から宿屋まで馬でも半日はかかる。しかし、一刻の猶予も無い。
「とにかく駆けるしかない。宿まで戻るぞ」
ガルドは駆けた。馬を待っている余裕があるくらいなら少しでも宿との距離を縮めるべきであった。

 キリィは、宿屋で留守を言い渡されていたが、無駄に時間を消費してはいない。
その間でも鎗の鍛錬は欠かさず、ガルドとの稽古を頭に思い浮かべながら振るっていた。
 周りの異変には相変わらず左眼の『ご加護』が働いた。
(三人か、いや四人)
いずれも『創世者』の一味である事は間違いない。証拠に、いずれの額にも同様の紋様があった。
「やってみるかよ」
キリィは左眼を覆う為に垂らしてあった髪をかきあげ、ピンでとめた。すでに体は程よくあたたまっている。
 相手は男が三人、女が一人。手には小剣から鎗までと内容に富んでいる。
「私からいこう」
その内の一人の男が、手に長剣を持って他を制した。
「一対一だ。やろうか」
男は左手のみで構えた。よほどの手練あるように見えた。
 キリィも鎗を構える。腰を落とし、中段にて穂先を地面に水平に落とした。
 男は左から右に振り下ろす袈裟懸けにキリィが正突きでもって受けた所から始まった。
二人の剣戟の交わりにしばしば甲高い金属が響く。
 数合ほど打ち合うと剣と鎗の鍔迫り合いに変わった。
力の駆け引きに変わっても、互いをにらみ合うのみで言葉は一度も交わさなかった。
 キリィは鎗の石突きを相手の鎧の足の甲と脛のつなぎ目を狙って打ちつけた。
 男の顔が歪むと一瞬力が抜けた。キリィはそれを逃さず、相手の喉を突き刺した。
引き抜くと、男は声にならない無言の咆哮をあげ、斃れた。
 人間としての感情が全く無いのか、残った三人は仲間の死にも顔の筋肉を微動だにさせず、キリィににじり寄って来た。
(三人は、ちとキツいな)
いくらガルドやギャリルに稽古をつけてもらっているとはいえ、キリィの腕では苦戦は間違いないであろう。それに斃れた男も含めて相当な手練である事は容易に想像がつく。キリィが勝てたのは運が良かったに他ならない。
 「・・・!」
女が小剣でもって躍りかからんとした刹那、『何か』によって女が吹き飛ばされた。
 女は背中を強かに打ちつけたらしく、地面にうずくまったまま動けないでいる。振り返ると、小ゴードンが杖を振りかざしていた。
「ガルドさんは?」
「ギャリルと一緒にどこかへ行った」
「・・・。仕方ありません。この三人は私達で何とかしましょう」
キリィがゴードンの盾になるように前面に立った。
ところが、残った二人のうち一人が近づくと、うずくまる女に無情の一瞥をくれると、胸元に剣を突き立てたのである。
「惨いですね。あなた達の仲間でしょう」
普段温厚な人物であるだけに、ゴードンの紅潮は凄まじかった。
「役立たずに用は無い」
男は抜いていた剣を構え、一挙に詰め寄った。

 ゴードンは、魔法を駆使しながら相手と対峙していた。口をさまざまに変化させると杖の頭から竜が吐くような炎の熱線が相手に向かって伸びていった。
 が、相手は熱線を見切りながら間合いを詰めてきた。剣はだらり、と片手でぶら下げたままだった。
 他にも先ほど女に放った『気弾』や『炎の矢』を続けざまに放つも全て避けられた。
 相手の摺り足の音が徐々に大きくなっていく。
(手強い。どうすればよいか)
どうも相手に魔法が発動するほんの一瞬(それも瞬きですらおぼつかないほどの)を見抜かれているように思えてならない。
(ならば。・・・)
ゴードンは、にじり寄る敵を睨みながらも、頭を高速に回転させた。
「どうした。終わりか」
と相手の低い声がゴードンの耳を貫く。相手は一挙に走り出しながら剣を構えた。
「そうはいきませんよ」
とゴードンが杖で地面を小突くと巨大な火柱が上がった。
「『気弾』!!」
火柱の割れ目から飛び込みざま、相手の喉元目掛けて放った。
男は喉仏に直撃し、そのさまは首の形が大きく歪むほどであった。男は、そのまま事切れた。

 もう一方の男は、キリィが応戦する。やはり、この男もかなりの使い手のようである。
キリィの幾筋もの突きを相手はものともせず、傍から見れば訓練のように思えたであろう。
「それほどの腕ではないのか。ライオネットが可哀想だ」
キリィが先ごろ斃した男であろう名前を口にすると、なんともいえない苦みばしった表情を浮かべ、
「ライオネットの為だ。死ぬがいい」
と一挙に攻撃に転じた。鋭く正確な斬撃を見舞う。キリィの鎗が斬撃の度に小さく震えるほどであった。
 男はキリィの様を楽しむように鎗を振るっていた。キリィの其処彼処に傷がつき始めた。
キリィも無論反撃に転じようとするが鎗を弾き返され、まるで鎗に弄ばれているようである。
 一瞬、男の表情が変わった。
「来たようだ。これで終わらせてやる」
鎧の隙間を狙った刺突撃がキリィの左胸を襲った。

 ガルドとギャリルが「バースト」に着いた時、キリィの背中から鎗が生えていた。
相手は額に紋様のある男だ。ガルドは抜刀し、咆哮しながら襲い掛かる。
 男はすばやく鎗を抜き去るとガルドと対峙した。
「何故キリィを襲った」
「貴様の仲間だからだ。『リドル』の書物を持っているだろう。渡せばそのまま退散する」
という言葉も終わらぬうちにガルドは上段から振り下ろした。
「それが答えか。・・・殺して奪うとするか」
男も中段から水平に振り抜いた。ガルドもそれを受ける。
 拮抗した一騎打ちは数十合に及んだ。ましてやガルドはロクフェルの屋敷から走りづめであった。ガルドが膝をつく。
「ロクフェルの屋敷で死んでおれば良かったものを。・・・死ね」
「死ぬわけにはいかんのでな。悪いが斃させてもらう」
男が上段から鎗を突き立てる。ガルドは転びながら避けると、立ち上がりざまに胴を抜いた。
 男が腰の中心に左右にずれ始め、上半身が音を立てて落ちた。


   2

 紋様の集団をなんとか撃退したガルドたちは重傷のキリィを伴ってゴードン屋敷に向かった。
キリィを空き部屋の一室に入れ、呪医を呼び寄せた。折悪しく司祭、僧侶共に居なかった為である。
 別室にて小ゴードンがガルドからもらった「ロクフェルの文書」を読んでいた。顔が青ざめていった。
「そういうことだったのですか。・・・でも、ガルドさんは気づいていたんじゃありませんか?これよりも前に」
「まあ、有翼人種の長老から話を聞いたときにもしや、と思ってね」
「長老がご存知のはずですよ。『リドル』が自分の息子なんですからね」
と、小ゴードンがソファの背もたれにもたれ掛かると、ドアを叩く音が聞こえた。開けると、先ほどの呪医が立っていた。
「で、容態は」
「ゴードン様、あの若者は大した生命力の持ち主です。幸い心臓を避けて貫かれており、数日もすればじきに良くなるでしょう。・・・が、くれぐれも無理をさせないように。傷口が開いてどういう病気も引き起こしかねませんからな」
「は、気をつけます」
「では、お大事に」
呪医はそういうと薬草を数種類渡し、調合法を羊皮紙に書くとそれも渡して戻っていった。
 ガルドとギャリルの二人はキリィをゴードンに預けると、「マナズ・イン」に戻った。
『リドル』の正体は見えた。だが、所在の位置が未だつかめないままでいる。
 ――― リドルが何処にいるか。
 この一点がわかれば、全てが解決できる。
(大ゴードンに相談するか)
 大ゴードンは「バースト」北にある王宮「魔法城」(ウィズ・キャッスル)に出仕していた事を小ゴードンから聞いていた。

 小ゴードンの護衛、という名目でガルドとギャリルは「魔法城」に足を踏み入れた。二人は生まれて初めて聖王宮以外の城に入ったのである。
 中央入り口には魔法王「ムーラル」の肖像画が大きく飾られ、右につながる廊下は倉庫である。
小ゴードンは左の階段を上り、そのまま直進する。すると廊下は右と二手に分かれ、右に曲がれば謁見の間につながる。
 更に直進すると、左右に扉がついており、一番奥に大きな扉がある。
「ここです」
と小ゴードンは失礼します、と扉を開けた。