卑金属時代
作:白河 響





「おいおい・・・」
デルファンス・ディオニトスは呻いた。
場所はユニバース&ディオニトス調査事務所。王都アイリーンの片隅にある小さな探偵事務所だ。大学を卒業したばかりの後輩、サファ・ユニバースの設立した個人事務所だったが、つい2ヶ月ほど前にデルファンスが共同経営することになり、名前が変わった。2002年6月のことだ。このサファという男が妙な男で、その特徴を挙げればきりがないが、今はその中でも最も突出しているのが経済観念の欠如だ。
先見の明が無いというか、ただの世間知らずなのか・・・。
彼の懐具合を見るといいとこの坊ちゃんというわけでもないようだが。
それはそれとして、今デルファンスが呻いたのはそれとは関係の無いことからだった。
「見てみろよ、おい。またいい加減な依頼が来てるぞ」
「え?」
デルファンスは部屋の反対側で紅茶を入れているサファに手紙を投げて渡した。
サファはそれをキャッチすると片手でそれを見る。さっと紙面に目を通し、サファは疑問符を頭に浮かべ、デルファンスに目で問いかけた。
「わからんのか?」
こくりと頷くサファ。それに対しデルファンスは頭を抱え貧乏ゆすりを立てながらやり場の無い不満を抑え込んでいる。
しばらくそうしていたかと思うと、何かをあきらめた表情でサファの手から手紙を取る。
「なあ、よく考えろ・・・?いいから、よぉーく考えろ?じゃあいいか?説明するぞ?」
「何、その無知な子供の間違いを正してなだめるような言い方・・・」
ふぅ、とため息をつきデルファンスは紙に指を立て言う。
「お前はなんで犬の散歩の依頼が来てるってことに何の疑問を抱かないんだ!というか、お前は今までいくつまともな依頼を受けてきたんだ?」
それに対しサファは、うーん・・・・・と腕を組み首を傾け、頭の中で数える。デルファンスはそうか、数えられるほどは受けてきたのか・・・・・あれ?
「おい。なんでその指が往復しない?」
サファの行動は数えられるほど・・・というより数えられるほどしか受けていないという証なのでは。デルファンスは絶望に襲われ、目の前の存在を忘却しかけたが、何とか現実に持ち直し、サファの肩を掴んだ。
サファはその手を見つめ、頬を掻きながら数字を告げる。
「えーと・・・・・36件かな・・・・・」
「それ・・・・・この1年半でか?・・・・・」
呆然としてデルファンスは手を離した。予想していた悪夢が現実になる。
少ない。
いくらがんばって自己催眠をかけたところで、自らを騙しきることもできない。
せめてもの救いは成功率が100%だというところか。
デルファンスは手近な椅子を引き寄せ腰掛けると、目の前でこれまでの会話のため紅茶を淹れているのを忘れ、カップからあふれた湯が足にかかり「熱ちっ」など言っている男のことを本気で心配する目で見つめた。
現実から目をそむけるように、横目でデスクの上の質のよくない紙に刷られた、これまた頭が上等でなさそうな面相の描かれている人相書き・・・・・賞金首の手配書の束を見つけ、ぱらぱらとめくる。
「・・・・・」
しばらくぼうっと『金貨30枚』や『アイリン王国軍』の字が踊る紙面を眺めていると、急にインスピレーションが沸いた。
「・・・・・・これだ・・・・・・」
「何が?」
デルファンスの呟きを耳聡く聞きつけたサファが右足をタオルで拭きながら問う。何か名案でも沸いたのだろうか、デルファンスは上機嫌に笑いながら宣言した。
「売名だ!」
サファはぼとっとタオルを落として沈黙する。少しして声を絞り出すように言った。
「何、そのやたらイメージ悪い単語は」
普段なら律儀に(嫌がらせで、売名の意味を)説明するところだが今のデルファンスはその余裕も無い。もう成功を約束されたような表情で続ける。
「これだこれ。この賞金首らをとっ捕まえればいい広告塔になってくれる。他でもないこいつらや赤の軍、新聞屋達がな」
「そんなに簡単にいくかなぁ・・・・・」
「間抜けな声を出すなよ。ほら行くぞ。ぼさっとしてたらケツを蹴り飛ばすぞ」
「あーはいはい」
それをやりすぎると探偵ではなく賞金稼ぎに転職ということになりかねない、むしろ周囲からはそう理解されるだろうことにサファは気づいたが、赤字を解消するためには必要だろう・・・。そう思い無言で続いた。


サファは嘆息する。
こんな無茶を続ければこうなるのはわかっていた。だがそうするしか事務所存続の道は無かったのだから仕方が無い。
サファとデルファンスは今、スラムの一角、周りがコの字型の背の高い建物で隠れた空き地にいた。
正確には誘い出されたという。
「やっぱり5人目にもなるともうちょっと慎重になるべきだったな・・・・・」
「もう遅いって」
二人の周囲には7、8人ほどのごろつきが各々に武装し包囲している。彼らの武器は手入れもされておらず、それを見れば実力はわかるだろう。
が・・・・・肝心の目標はどこに行ったのだろう?
二人はこれまでの2ヶ月間で、連続バラバラ殺人鬼ウェダキンツ、人食いルージュイ、結婚詐欺師ハーツェル、幼女誘拐殺人犯キシュぺクタの4人を捕まえ、賞金を得た。
特に今回は極秘情報である赤の軍の捜査状況まで手に入れて、麻薬密売人ゴルディの足取りを見つけたのだが・・・・・。こちらの行動もばれていたらしく、待ち伏せされてこのざまだった。この面子なら負ける気はしないが。だがそれでも気分はよくない。
「おい。ゴルディはどこ行った」
「知らねーよ。俺ら、いちいち客は選ばない主義でね」
「気取るなよ。お前らみたいなごろつきに選ぶほどの甲斐性があるとは思えん」
デルファンスが吐き捨てると先頭のモヒカン・ヘアの若者が、極端に低い沸点にすぐさま達したらしく、顔を髪同様に真っ赤にしてドスの聞いた声を上げる。
「ああ?どういう意味だコラ!?」
「聞いてわからんのか?やっぱり見た目同様馬鹿だな」
「ば、馬鹿だぁ!?」
「まあ・・・・・・馬鹿はどうでもいいけど・・・・・・あそこにいるんじゃない?」
「てめぇまで言うのかモヤシ!」
サファはモヒカンを無視し、視線を空き地の向こうの建物に固定する。その先には人影が二つ。
なんと言えばよいのか、やはりそこにいるのはゴルディだ。もう一人は、誰だろう?
ゴルディは、右手にワイングラスを持ち、たるんだ顔の肉に埋もれた口の端を上げ二人を見下ろしている。余裕の表情をしたゴルディは愉しげにワインを嚥下すると、隣に立つ針金のような男に何かを言った。
冷笑を湛えた顔を二人に向け、針金男もゴルディに言葉を返した。
「フン・・・・・コロシアムを気取ったつもりか・・・・・趣味が悪いな」
「あいつが暴君なもんか。せいぜい腐った大臣に取り入る政治家ってとこだね」
「過大評価しすぎだぞ」
デルファンスはくだらんとでも言うように言うと、面倒臭そうに裏拳を放った。
肉のぶつかり合う音が響き、彼の背後で棍棒のような形状の・・・・・笑うしかないような武器だが、釘をある種の球技に使う木製バットに打ち付けた、俗に釘バットと呼称される凶悪さを追及した武器・・・・を振り上げた男が鼻骨を折り倒れる。その間サファは身を翻し閃光のごとく二人の男を地に沈めている。
残る4人はその早業に一瞬慄いたが、仲間の敵とか、うっだらぁぁとか意味が不明瞭な雄叫びを上げて突進してきた。刃の欠けた肉厚の剣や、ところどころ錆びた(今度は釘バットではない)棍棒が二人に殺到する。
サファは剣を紙一重で避けると、跳躍し膝を叩き込む。あごが折れたらしくのたうちまわる男には一瞥もくれず、続き背後の棍棒の男に足払いをかける。前のめりに倒れる男のみぞおちの辺りに肩で当身を食らわせる。
「ごぶっ!」
黄色い胃液を吐き出しながら痙攣する男を無視し、建物内に駆ける。デルファンスも残る二人を張り倒し続いた。
4階屋上ありの、見方によっては学校の校舎のような構造をした古い建物の壁には風雨にさらされたためおうとつが無数に存在している。そのうち足がはまるほど大きく崩れた窪みにつま先を引っ掛け、一気に跳躍する。2階の窓の申し訳程度のガラスを蹴り破り進入する。
「・・・・・俺にあれを真似しろと?」
デルファンスは憮然として何かに問いながら普通に入り口から入る。
どうやらここはかつて病院として機能していたらしい。どのような経緯を経たのかは分からない。少なくとも今回の件には関係が無い。サファは廊下を疾走し、上階へいたる階段を見つけると、1段飛ばしで迅雷のように駆け上がった。とにかく時間が命だ。どちらかが先にゴルディ達を押さえなければ、再び逃げられてしまうだろう。ゴルディと一緒にいる男は何者か見当もつかないが・・・・・。
3階、そして4階のへの階段を上り、最後の踊り場に出ると、階段の先には二つの人影が見えた。
「!」
最初の段に足をかけたとき、サファは横に飛び退き、階段脇の手摺に、羽を持つような動きで飛び乗った。石でできた床に刃が火花を散らす。ナイフとともに放たれた殺気は、サファを戦慄させる。追撃のナイフにもサファは対応し、跳びあがりこちらからもナイフを投げ返した。
流星のように刃は男の身に降り注ぐが、針金男の身にまとったマントがひるがえり幾条ものナイフは叩き落される。
「そうか・・・・・お前は『盾』ウィリー!殺し屋のお前が何でここにいる?・・・・・まさか、そこのデブに用があるってわけじゃないんだろう?そいつが扱ってるのは幸せな気分になれる妙に高価な粉だけだ。というか、『剣』ジャクハーツはどこだ?」
サファは腰の細身の剣を空中で抜きながら言う。
サファの見せた立ち回りに、ゴルディは恐怖に見開いた目を横に向ける。その視線から相手はどこにいるか分かったも同然だ。デルファンス到着までの時間を稼ぐべく剣を構えながら、言葉を紡ぎ、絡めとろうする。
「戦うのは専門じゃないだろう?確かにお前は守るのが専門だ。でもお前ら兄弟が一緒に仕事をしなかったことは無い。つまり、ジャクハーツは、いるはずだな」
一言ずつ途切れさせサファは確認するように言う。賞金首の3本釣りだ。逆に一人で3人を相手にするのは非常に難しいのだが・・・・・今のところ実質1対1なので気にする必要は無い。
そうだろうか?
ジャクハーツも本当はここにいたはずだ。今はいないということはほかの場所に移ったということだ。ほかの場所とは―――デルファンスだ。
「くそっ!」
サファは高速で思考を巡らせ、その事実に気づくと喉の奥で呻いた。ジャクハーツは一級犯罪者として指定される程の殺人狂・・・・・。対してデルファンスは多少は腕が立つとはいえ、一般人レベルの強さだ。もともとこういう荒事に漬かっている訳ではない。元暗殺者だったサファならともかく、デルファンスに到底歯が立つとは思えない・・・・・!
((話なんかしてる場合じゃない!ここは早く片付けて、デールんとこいかなくちゃな・・・・・!))
そう決めると、怒号を上げて疾風の如く階段を駆け上がる。足止めのナイフも空を裂くこの男の前には空を切るしかない。
一瞬で『盾』ウィリーの前に立つと間髪入れずに剣を振るう。連続する金属音と火花の嵐。
剣風は互いの髪をなびかせ、上着は舞い、刃は不可視。
速さに物を言わせた攻撃に二人の立ち位置は目まぐるしく変化する。互いに言葉もなく、ただ命を食い破らんとまた銀光を噛み合わせた。
二条の軌道は一瞬にも満たぬ時間の間停止し、再び牙となり互いを傷つけあっていた。
「「くっ!?」」
サファの振るう剣が、ウィリーの髪を一房奪った。同時にウィリーの刃もサファの上着の裾を切り裂いている。
ゴルディがこの期に便乗し、離れていくのに気付いたが、相手との技量は互角。どうしようもなかった。不意にウィリーが脇腹に蹴りを出す。サファはそれに肩からのタックルを食らわせることで無力化した。
「・・・・・ふっ!」
よろけるウィリーにできた隙にサファは一閃。ウィリーの体同様針金のように細い腕は剣を握ったまま断ち斬られ、空を血飛沫を上げながら空を舞った。剣を逆袈裟懸けに切り上げたとき跳んだ体を反転させ、足裏を鼻に叩きこむ。声もなく白目をむき気絶したウィリーをサファは縛り上げ、ゴルディが進んだものと同じ廊下を駆けた。どうしようもないという諦めと、それは無いという希望がない交ぜになった心でサファは今度は駆け下りる。
「なんで僕はあんなむっさい男のこと気にしてるんだろうねっ!」
尚早を隠すためサファは叫んで見たが、その理由はいわずとも知れていた。
彼はサファを裏社会の闇に飲み込まれていた心を光の下へ連れ出した恩人であるシリアの弟にして彼女の家族の唯一の生き残り・・・・・。
((それだけではないだろう?))
頭の中で何かがサファに語りかける。
「ああそうだよ、わかってるよ!いちいち確認しなくていいよ、恥ずかしいな!」
サファは『何か』に叫び返す。こんなことを考えている場合ではない。だが思考の奔流はいつかのように何をもってしても止まることは無かった。
サファはその答えを確認する。
デルファンスは、この20年間で初めてできた――――友人、というものだからだ。
それを親友、と置き換えてもいい。
デルファンスは否定し知り合い、もしくは同僚と置換するだろうが、本当は思っているはずだ。それはそういうものだから。
「時間が無い!」
階段を見つけると降りるのも面倒だと一気に手摺から飛び降りる。そんなことをしてはただではすまないということにも気付いていない。だが、そんなことは頭ではなく体で覚えている。螺旋階段の手摺を交互に蹴りつけながら、勢いを殺し、一気に地上に戻った。体に異常は無かったが、それでも衝撃による痺れは隠せない。息を整えつつ目前の建物の出入り口、ここエントランスホールの向こうの景色を睨みつける。
あまり待たずとも足の痺れは消えた。もう手遅れの可能性もある・・・・・サファは最後の希望も失いかけて、再び土を踏んだ。
「な・・・?」
人影は、三つ・・・・・・・・・・ではない。それどころかこの数は、何だ?
突然背後から衝撃を受けて、地面に引きずり倒される。あまりに呆然として気配を読めなかった。
顔を地面に押さえられて横向きになった視界の中には、同じ制服を着た小隊が2つ。10人のアイリン王国の警察組織、赤の軍の軍人達が、ゴルディとジャクハーツ、そしてデルファンスを押さえつけ後ろ手に拘束しているのが見える。
「なんだよ、これ!?」
とりあえずデルファンスが無事だったことに安堵して「おい!俺はこいつらとは関係が無い!」と叫んでいるのを眺めた。
あまりいい趣味とはいえないが。
「おい」
後頭部を警棒で小突かれ、男の声が耳に入った。砂が入ってくるよりはいい。いいのだがこれでは返事ができない。
「おいといっているんだ」
「ふぉ、ふぉさえられふぇひゃ、はなせないっひぇ」
「ああ、そうか。ほら話せ」
男は髪を掴んで頭を持ち上げる。ずいぶん荒っぽいやり方だが、これは赤の軍の中では標準なのだろうか?
「話せって、何を」
「お前はあいつらの仲間か?」
口に入った砂を吐き出しながら、サファは答える。
「あの熊っぽいのとは、そうだよ」
憮然としてサファはあごをデルファンスへとしゃくった。すると、横から若い女の声が多少の苦味を含み耳朶を打った。
「あの男、デルファンス・ディオニトスとの証言は合っていますね、中尉。それでは、なぜここを嗅ぎつけたんですか?サファ・ユニバースさん?」
「!?」
名前がばれている?いやデルファンスが漏らしたのか?だがそれでもいい。気にすることは無い。自分はむしろ相手側に立っているのだから。優遇して欲しいくらいだったが、無名の探偵では望めるはずの無い待遇だろう。
少し悲しくなりながら、サファは質問する。
「で、あなた達誰を狙ってたの?ちなみに僕はゴルディ。で、名前を教えてくれたら話がしやすいなーなんて」
それを聞くと男が眉をひそめる。サファの話し方が癇に障ったのか?
「私はマーチン・ゴレッテイ。こっちがジュリア・ナルケルヤ君だ。しかしゴルディは本当に腹立たしいやつだよ。私の名前が家名と似ているからな」
「無茶苦茶ですねーなんか」
サファも少し余裕ができて普段の調子で返すが、ナルケルヤの方は横でファイルをめくっている。少しして頷くと、ゴレッティに言った。
「どうやらウィリーとジャクハーツの二人はゴルディの護衛をしていたようです。たまたまゴルディを狙っていたこの賞金稼ぎと作戦行動中の私達が鉢合わせした・・・・・そういうわけでしょう」
「そうそう、あと僕たち、探偵です」
「探偵?」
「そうそう」
ゴレッティはしばし考え込むと、サファの目を見て言った。
「君、私の駒になる気は無いか?」
「いきなりですっごく粋なお誘いですね。嫌です」
サファが即答すると、ゴレッティは空を振り仰いで、笑いながら続ける。
「そういわずに話を聞いて欲しい。鉄砲玉紛いや諜報員扱いで使い捨てにするつもりは無いし、君達も今まで通りにやっていてくれていい。いやむしろそうすることを推奨するね。ただこっちが仕事を―――そう、軍で扱っている事件だ―――を下ろして、それを解決してもらうだけだ。仕事が無いからこんなことに手を出したんだろう?探偵君」
確かにそうだ。仕事が無いから売名のため賞金首を捕まえていたが・・・・・軍から仕事が来るなら安泰だ。ただ危険なものばかり来そうだが、今の今までやっていたこともそんなものだ。
なら、それもいいだろう。これがコネクションとして成り立つのかは、微妙だが。
サファは微笑みながら答えた。
顔を土まみれにしていまだに引き倒されたまま。


「で、受けたのか?」
「うん」
「ざっけんな!何でいちいち危険な橋を渡りたがる・・・・・」
デルファンスはサファの胸倉を掴みながら叫んだ。場所はユニバース&ディオニトス調査事務所のオフィス。今のデルファンスの動きのでせいでサファの手の中のカップの紅茶がこぼれた。今度は足にはかからず、床にこぼれ、夕日にきらめいている。
手を離し嘆息するとデルファンスはどさりとソファにこ腰掛けた。タバコに火を着けると深く吸い込み、気分を落ち着かせようとする。しかしそれには失敗した。
「おい、それは何だ」
「え?」
サファはデスクに足を乗せて椅子に座りながら何枚かの書類に目を通している。サファはこれ?とそれを持ち上げてみせた。
「そうだそれだ」
「ああ、これね。これは早速来た、『連続墓荒らしおよび屍体愛好家サルダウゲン』の逮捕。要するにネクロフィリアを捕まえろって事で・・・・・」
「オイ!俺はやらんぞ、そんな仕事!」
デルファンスは誰に届くとも知れぬ心の叫びを上げる。
「いいから、やろうよ、ほら。成功したら金貨5枚だって」
「それは単にやつらが嫌だったから回されただけだろう・・・・・?」
行き場の無い怒りに身を震わせながらデルファンスは思った。
誰かまともな仕事くれ。
「ったく・・・・・じゃあ行くぞ!そのしみったれた墓場とやらに!」
二人は上着を身にまとい事務所を出る。
陽光は二人を包み、懐ではなくただ体を温めてくれるだけだった。