神聖戦記ジャスティネイザー 第四幕
作:盆暗





そこには、何も無くて

僕は目を見開いたが、見えるのは闇だけで

「僕、誰だ?」

何も思い出せなかった。自分が誰なのか、そして自分がなぜここにいるのかさえも。

ひらひらと、何かが落ちてきた。

散る花びらのように、ひらひらと

落ちてきたそれは写真で、男の顔が映っている。

表情は憂鬱そうだった。

なぜかそこにだけ明かりが照らされている。僕ははっと気づいた。

これは・・・・僕だ。

ミツルギマモル。これが僕の名前だ。

僕の頭脳に電撃のような感触が走り、記憶がよみがえった。

僕はああなって・・・・・それで・・・・どうなったんだ?

まだ記憶にあやふやな部分がある。

「とりあえず・・・・ここがどこだか確かめないと・・・・」

僕は立ち上がろうとした。

遠くのほうから、何か聞こえる。

何かが、地面に擦れて近づいてくる音。

その音はだんだん近づいてくる。

暗闇に目がなれ、それが何か、僕にわかるようになった。


兵士だ。


どこの国の兵士かはわからないが、とにかく兵士だった。地面(?)を這って進んできている。

その顔は苦痛にゆがみ、そして血まみれで

兵士が恨めしそうに僕のほうを見ながら近づいてくる。

僕は逃げなかった。逃げられなかった。

兵士が僕の足をつかんで

片手に持った大剣を僕の肩に振り下ろした。

僕の肩に大剣がめり込み、血が噴水のように吹き出る。

僕は単純にそれをきれいだな、と思って

痛みや衝撃が来ると思っていたが、不思議なことにそれらはなくて

そこでやっと僕はこれが夢だということに気が付いた。



そうか・・・・これは夢なのか・・・・

だったら早く起きて学校行かなくちゃな・・・・・

ナツキと仲良くなれたらいいな・・・・・

今日は思い切ってデートに誘ってみようかな・・・

ナツキなんて言うかな・・・

実は僕の事好きだったりして・・・・・・・

えへへ・・・・

あ、帰ったら父さんの研究の手伝いしなくちゃ・・・・

父さん最近忙しいからな・・・・

ナツキをデートに誘うのはまた今度にしよう・・・・・

早く夏にならないかな・・・

海にも行きたいし・・・

雪は冷たいし・・・・









ああ・・・早く目覚ましならないかなぁ・・・・・




徐々に赤く染まっていく視界を見ながら思った。































窓もない、真っ白な病室。

そこには、患者用のベッド、呼吸器などのいろいろな医療器具が置かれている。

そしてそのベッドに寝ている青年。

彼の名前はミツルギ・マモル。

高校三年生、18歳。

ただし、今は「エリアル軍特殊任務遂行部隊DEALS」のジャスティネイザーTのパイロットなのだが。

彼の意識は今、夢の中にあった。





例えるなら、学校の体育館ほどある大きさ。

例えないなら日の光が差し込まない、広い司令室。

そこには、3人の女性がそれぞれの椅子に座り、それぞれの仕事をしている。

先ほどから何の変化もないモニターをみながら一人の女性がつぶやいた。

「それにしても、平和よねぇ・・・・」

このだだっ広い空間に、有事のとき以外は女性三人しかいないというのはかなり寂しいものだ。

隣で高速ブラインドタッチでコンピュータに何かを打ち込んでいる女性が言った。

「そうですよねぇ。私DEALSってエリートが集まってバリバリ戦闘やるところかと思ってたら、全然違うんですねぇ」

そういって彼女は髪をかきあげた。彼女の身長ほどある赤い髪の毛はかなり大きめの髪飾りで留められている。

さらにもう一人の女性が三人分のコーヒーを盆に載せて運んできた。

「バリバリ戦闘はやらないことは確かだけど、エリートが集まるのは確かよ」

部屋の奥からコーヒーを二人の前に置く彼女は銀髪で、スタイルもモデル並だ。

モニターを見ていた女性が振り向き、

「特殊任務遂行部隊DEALS!隠されたその実態はヒマ人の集まり!な〜んてね・・・・」

空元気に言った。

直後、コンピュータに入力するのをやめ、赤い髪の女性が愚痴った。

「こんなんだったら前の部隊にいたほうがよかったですよ!ああ・・・・もっと甘い物食べておくべきだった・・・・」

彼女はうなだれ、コーヒーをすすった。

少女を慰めるように、銀髪の女性が言う。

「まあしょうがないわよ。あ、たしかシィーダフォースで冷凍の奴があるって聞いたけど・・・・・」

突然、彼女が席から立ち上がり叫んだ。

「冷凍のケーキなんて・・・・・、ケーキじゃないですよ!!」

彼女の剣幕に銀髪の女性は少したじろいだ。

このコ・・・・、本当に20歳なの・・・・?

彼女の態度を見てそう感じた。

その間にもう一人の女性が割って入る。

「まあまあ、ルカ。今度の定時連絡のときに頼めばいいじゃない、ね?」

「・・・・・・ニーナさん」

彼女の言葉に納得いかなかったようだが、とりあえずその場はそれで収まった。

その後、コーヒーを飲み飲みルカと呼ばれたその女性が言った。

「そういえば・・・。私が入る前に戦闘があったって本当なんですか?」

ニーナが答えた。

「ええ。一週間前、第8発電所の近くで伍号機の『戦闘テスト』があったのよ」

ルカが突っ込んで聞いた。

「え、それでどうなったんですか?」

銀髪の女性が両手を肩まで挙げ、首を振った。

「どうなったもなにも、わけがわからないわ。動力が完全に停止してパイロットも事実上死んだはずなのに、動き出して敵を撃破したんだから・・・」

彼女のその言葉にルカはぎょっとした。

「パイロット、死んだんですか?」

「いや、そのパイロットはJNTを降りたところで奇跡的に息を吹き返して、今は病院にいるわ。意識は戻らないみたいだけど・・・」

ニーナがため息をついた。

「私の責任よ。私が無理な指示をしなければよかったのよ・・・」

彼女は先の戦いの事を思い出しているのか、再びため息をついた。

「あれは誰の責任でもないわ。仕方なかったのよ。強いていうなら彼が優しすぎて冷酷になれなかっただけ・・・」

ルカが不思議そうに聞いた。

「そのパイロットってどういう人ですか?」

「いわゆる『別の世界』から来たあのイチロウ・ミツルギ博士の息子らしいわよ」

ルカがあたかも信じていないという風に言う。

「別の世界?うさんくさ〜い。実は単なる頭のおかしい奴だったりして?」

「そうねぇ。証拠なんて一つもないし・・・・JNTに乗れる人間を探すのだってなんか正体の知れない奴にまかせっきりだって。
 ジュリア、どう思う?」

ジュリアは机の上にある資料を見ながら言った。

「もしかしたら敵の送り込んだスパイという可能性もなくはないわね。あ、そろそろ私、別の仕事があるから」

そういって彼女は立ち上がり、司令室から出て行った。

「スパイ・・・か」

あの少年を見る限り、そんな風には見えなかった。ただ何も知らないだけ、そうニーナには見えていた。



後に残った二人も、それぞれの職務に戻った。













『僕は初めからこの星に大した期待なんかしちゃいなかったさ。もともと神なんて存在がある事自体その働きを放棄してる、僕はそう思う』













あれ・・・・ここどこだろ・・・・

真っ白な天井を見ながらマモルは思った。彼は目覚めた。

なにやら服が着せられてある。パジャマみたいな奴だ。

「ん・・・・くっ・・・」

体を起こし、この周りを見回す。

どうやら地獄や監獄ではなさそうだ。自分の横に心電図の機械(なんていうのかわからない)が置いてある。

それは規則正しく心拍音を記録し続けている。どうやらここは病院のようなところらしい。

僕はまだ、生きている。

命の保障はされてはいないが、何とか助かったようだ。

気を失う前の事をはっきりと思い出せる。敵から攻撃を受けたんだ。

その後のことは、わからない。

とりあえず彼は、自分の体に刺さっているくだを慎重に抜き取り、おぼつかない足取りで出口へと向かう。

僕には、気になることがあった。

それは、父の安否だ。

おそらくは生かされているとは思うが、やはり気になる。


[夢から目覚めて]


何とかここから抜け出さなければ・・・

しかし、一つの疑問にぶち当たった。

ここから逃げたとして、どうやって父さんを見つける?しかももとの世界に返れるかどうかもわからないのに。

ドアの前でマモルは立ち止まった。

このまま誰か来るのを待ってそいつを人質にして逃げるか?いや、だめだ。武器がない。注射針を使ってもおそらく脅しにもならないだろう。

僕は意を決してドアに近づいた。

シュッと言う音でドアが自動で開く。

ドアから顔を出した。かなり長い通路だ。他にもいくつか部屋がある。

通路に誰もいないかを確認して足音を立てぬよう、そろそろと歩く。

遮蔽物がないため、誰かが通路に出てきたら部屋に隠れなければならない。

僕は物音に細心の注意を払い、通路の奥へ奥へと進んでいった。




歩いているうちに、どこか地図があるような場所がないかと探していたマモルであったが、残念ながらそんな物はどこにもなかった。

ただ誰もいない病室が続いているだけだ。

どこまで続くんだ?とマモルは思う。

思っていた矢先、エレベーターと思われる場所に到着した。彼は、ある物を発見した。

「あれ、これってもしかして・・・・」

自販機だった。あるのかよ。

全てのジュースに「ARIAL」のロゴが付いている。

何かジュースの一杯でも飲みたいところだが、彼にお金などあるわけがなかった。

飲めないと理解した瞬間に、体が水分を強く要求する。

彼は自販機を後にして、エレベーターに乗った。

今の階は10階らしい。窓がないためわからなかったが、かなり高い位置にある。

とりあえず、一階のボタンを押す。

誰かと鉢合わせしないことだけを願いながら、エレベーターが下にさが・・・・・・らなかった。

逆に上にあがっている。

「どうなってんだよこれ・・・」

数字が減っていく。彼は扉が開いたとき、誰かに見つからないようにボタンの反対側の壁に張り付いた。

4、3、2、1・・・・

音もなく、ドアが開く。人の声はしない。

少しだけ顔を出し、再び誰かがいないかを確認しようとした、時だった。

横から誰かが出てきた!

「くそっ!」

彼は出てきたそいつを突き飛ばして、怯んだかどうかを確認する暇もなく、とにかく走り出した。

しかし、突き飛ばしたその人の反応は彼にとって意外なものだった。

「マ、マモル・・・・」

父だった。







エリアルベース第4格納庫。エリアルベースの中心の付近に位置するここは、主にJNTの格納庫として使われている。

アナウンスがかかる。

”現在ジャスティネイザー typeティーラの修復は68%まで完了。全修復は27時間後を予定。整備員は引き続き修理に当たってください”

アナウンスが響く格納庫の内部を外側からジュリアが見ていた。

「それにしても、派手にやったものね」

胸部にあいている大きな穴が戦闘の激しさを物語っている。しかしそれよりも彼女が気にしていたのは背中に開いていた二つの穴だった。

発見されたときに背中から突き出していた『羽』。間違いなく実物はそこにあった。

物質を構成していた「ティーラ」が産んだ副産物が主成分だと考えられているが、実のところほとんどわかっていない。

JNTの周囲の建物はほとんど全壊、敵機のJNでさえほとんど跡形も無かった。

「あれがこれの本当の力だというの・・・・?」

胸部にめり込んだブーストエッジの刀跡は偶然にもパイロットの操縦席を避けて通っていた。

偶然にも、だ。

偶然にも、ブーストエッジはパイロットの操縦席の直前で直角に曲がっていた。

「新エネルギーって、いったい・・・・?」

JNTは、ただ、そこにいる。


















「おまえに話さなければならないことがいろいろあるんだ」

目の前の料理をひとつひとつ消していく。肉料理、魚料理、野菜、麺類、パン、ご飯。

「聞きたいことも山ほどあるが・・・」

土星ナス、シマイモ、電灯キューリ、腰掛けレンコン、コスモニンジン、ニラクラウン。

「さて、何から話そうか?」

僕は両手の動きを止め、モリモリと口の中に入っている食物を咀嚼し始めた。。

「まず、この世界の状況だ。わかっているかもしれないが、この世界は環境汚染がギリギリのところまで進み、もうこの星は危ない状態だ」

飲み物。

「耐えられなくなったこの星は・・・・終わりだ」

再び料理を片っ端から口に放り込む。

「それと、なぜここで戦争がおきているかも話さなくてはならないな」

スープ。熱っ!

「20年位前、この星でアカシックレコードといわれる石版が見つかったそうだ」

聞きなれない言葉に、動きが少し止まった。

「その石版に、この星の未来と過去、すべてが記されていたそうだ」

次の料理が運ばれてきた。

「さっきこの星が危ない状態だといったよな。しかしだ、アカシックレコードに10数年後にこの星がなくなるとは記されていなかったそうだ」

第二ラウンド。

「なぜか?アカシックレコードの解読を進めていくうちにその答えが見つかったそうだ」

父さんはファイルをテーブルの上に出した。

「神と呼ばれるもの、シヴァ、正確には地球の汚れを浄化する作用を持つ膨大なエネルギーを持った生命体だ」

広い食堂には僕と父さん二人以外にあまり人はいない。

「ふえーめーたい??」

「まず食うのをやめて聞け」

飲み込む。

「生命体?」

「そうだ。地底に眠っているらしく、発掘作業が二年前から行われている」

「父さんがさらわれたのにもなにか関係が?」

「そうだ。俺が呼ばれた理由はそこにあった。シヴァを制御し、安全に使えるためにするためにな。しかしわからないのは、こっちのほうが断然科学力が上のはずなのになぜ俺を呼んだか、だ」

フォークとナイフでたくみに使い、料理をたいらげる。

「で、戦争の理由は?」

「アカシックレコードがもうひとつあったんだよ。ラクロアが手に入れたそれにはシヴァが地球の浄化と同時に地球の癌細胞である人類を排除するように設定されている、と書いてあったそうだ」

「それをこっちが無理に掘り出そうとするから強制的にやめさせようとした、っちゅうわけ?」

父さんはため息をついた。

「そうだ。馬鹿なやつらだ。どっちにせよ地球が滅びることに変わりはない。どうせなら可能性があるほうを選びたいと思わないか?」

うなずく。

「さっきから聞いてて思ったんだけど・・・」僕は言った。「そこまでこの星に深くかかわっているのはやっぱり、元の世界に返る方法がないから?」

「でなければ、2年たつ前にとっくに帰っている。しかし、少し光が見えてきた」

「光?」

「マモルの体内に少量だが薬が残されていた。今その薬の分析を進めている。だからその分析が終わるまで・・・」

言うことの予想はついていた。

「パイロットとして生き延びてくれ」

ピーピーと電子音が鳴った。

「ん、そろそろ時間だ。行かなくては」

「父さん、ここから逃げることって・・・」

父さんの表情が厳しくなった。

「マモル、ここから逃げようだなんて絶対に考えるなよ。ここの警備は厳重だ。脱出することは不可能だろう。あ、そうだ」

父さんはいったん席を離れ、数十秒後に戻ってきた。

「お前にこれを渡しておく。上達すれば敵機のパイロットを殺さずにやっつけることが出来るはずだ。感触を慣れさせておけよ」

そういって手渡されたのは一本の「刀」だった。かなり軽い。

逃げるな、って言っておいて武器渡すなよ・・・、彼はそう思った。

「で、僕はこの後どうするの?」

「今日マモルはこの施設の見学をする予定になっている。案内が来るはずだ。残念だが、そろそろ時間だ」

そういって父さんは小走りに去っていった。

あのエレベータでの再会の後、僕は正式に退院して約束のフルコースの食事をしている。

服はエリアル軍の制服だ。着心地はまあまあ。

料理はうまい。これのほとんどはレトルトだというが、チョベリグ。

「危機感感じてない僕っておかしいのか・・・?」

僕は再び料理に手をつけた。












第四幕「地球の鼓動、星の、声」













”俺は、席に座った小坊主に、軍の厳しさを教えようとして、近づいた━━━━━

「おい、おまえが新しくDEALSに入ったとかいうやつだな?」

俺は机にうずたかく積み上げられている皿の間に見え隠れする顔に向かって放しかけた━━━━━

ふ、案の定、俺の雰囲気に押されて困惑してやがるぜ━━━━━

「俺の名前はジョン・ジェイ━━━━━」

そいつが俺の話に割り込んできた。”

「あのー、一人で、何しゃべってるんですか?」

僕はひとりでぶつぶついっている男のにはなしかけた。猿をそのまま人間に進化させたような顔をしている。

「うるさい!俺のナレーションに割り込むな!」

「はぁ・・・?」

”俺はそいつの言葉を無視し、厳しさをとくと教えてやった━━━━━

「いいか?DEALSはエリート中のエリートが入るところでな、お前が入るって事は何か裏があるはずだ。そうだろ?なぁ?」

やつは何もいわない。ふ、やはり何か陰謀が隠されているに違いない。俺が誘いを受けなかったのにこいつが入隊できるはずはない。

俺はさらに問い詰めた。

「誰だ?誰の差し金だ?スパイだろお前、スパイなんだろ?なぁ!?」”

「あの〜、あなた、だれですか?」

「だからさっき言っただろ!俺の名前はジョン・ジェイ・ジョライアム。みんなからは『不死身のスリーJ』と呼ばれている」

猿顔は、ポーズをとり地面を強く踏んだ。

「はぁ・・・あ、あぶない!」

グワッシャーン!

テーブルに載っていた皿が振動で崩れ、猿の方向に崩れた。同時に猿も倒れた。

「あのー、だいじょうぶですか?」

「とうっ!」

割れた皿の中からその人がウルトラマンのようなポーズを取り、飛び出した。

「俺が『不死身のスリーJ』と呼ばれる理由は俺がタフだからさ!がはははは!」

その人はボブサップよろしく、高らかに笑った。その頭からは血がダラダラと流れている。

「あ、またあぶな・・・・」

ボゴッ!

「うおぅ!」

背後から迫ってきた料理を載せたワゴンに激突され、スリーJと名乗った人は前のめりにぶっ飛ばされた。

だ、だいじょーぶですかー、と運んできた女性が駆けつけた。

「とうっ!」

再び跳び上がった。

「安心したまえマドモアゼル━━━━━━」

僕は尋ねた。

「あのー」

「んだ!コノヤロゥ!」

「関節1つ増えてますよ?」

「え?」

そう、腕の関節が一個増えていて、操り人形のようにプラっと垂れ下がっている。

「のわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

その人は奇声を発し、走り去っていた。

「何なんだ、いったい・・・・」

「暴走振りは相変わらずのようね━━━━━━」

「・・・・!!」

いつの間にか正面の席にニーナさんが座っていた。

「久しぶりね。元気?」

「ええまあ、何とか・・・」

「この前のことはごめんなさい。私の力不足であなたをあんな目に合わせてしまって」

「はぁ・・・」

「でもあなたが元気そうで安心したわ。あのままあなたが死んだら悔やんでも悔やみきれないもの」

「・・・・・」

「でも、これからはそんなことをいってられなくなるわ。明日からあなたをひとりの兵士として鍛え上げなければならないから」

「また・・・・・・また、人を殺さなきゃいけないんですか?」

僕は、父さんから聞いた。あの後どうなったのかを。

たとえ、僕の意思でないのだとしても、僕は人を殺した。

それは紛れもない事実。

「ここは戦場なんだから仕方がないのよ」

「僕は部外者だ!」

あまりに大きな声だったため、少し声を下げる。

「何で僕がこんなこと、しなきゃならないんだ!僕はただの高校生だ!敵機に乗っていた人にも、命があった、人生があった、未来があった、家族だって、いたかもしれない」

僕の目から涙がこぼれた。

「僕は、それを奪ったんだ」

「・・・・・」

「だから、僕はもうそんなことはしたくないし、奪う権利もない・・・・・といっても」

「ええ、残念だけどやるしかないのよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・さ、いくわよ」

「はい・・・」

僕は涙を拭き、ゆっくりと立ち上がった。

「へっくし!」

「へっくし?」

「くしゃみですよ。行くんでしょ?」

僕は刀を背負い、彼女と一緒に食堂から出た。





広い通路を二人で歩く。前にあったときより、ニーナは雰囲気が優しく感じられた。

「エリアル軍の本拠地エリアルベースはA脚B脚C脚に囲まれた三角形の中心にあるわ」

ニーナは説明を始めた。

「A脚が弾薬などの保管庫、B脚がけが人や病人などを収容するメディカルルーム、今いるC脚が居住区。そしてその中心に位置するのが本部よ」

しゃべりながら扉のセキュリティを解除し、進んでいく。

「もちろんこの施設は地下にある。ここから出るためには地上への直通の通路をつかうか、これを使うのよ」

大きな自動ドアが開いた。そこは、グロテスクなほどに緑の鮮やかなソーダ水色の床が広がっている部屋だった。

「ここは転送室。別名トランスミットルーム。これを使って地上にでるの」

「どうやって出るんですか?」

「この空間に強力な電磁波の負荷をかけて空間を高速回転させることにより磁場を不安定にさせ、時間差で別の場所に同じ負荷をかけることで物体を転送することができるわ」

「ここがブラックホールの役割をしてもうひとつがホワイトホールってわけですね」

部屋はシーンとしている。

「人体に影響はないんですか」

これからいろいろ不安は尽きないだろう、とマモルは思う。

しかしすべてそれに流されていたのでは知らないうちに洗脳されていた、なんてことになりかねない。

そのために、常に相手を疑わしく思っていなければならない。

「もちろんないわ。この部屋はそういったものを遮断するための部屋だから」

そういってニーナは部屋の脇にある青く四角いコンピュータに何かを打ち込んだ。

「いいわね、いくわよ?」

その台詞を言い終わった数秒後、耳を劈く間高い音が部屋の外部から響き、部屋が縦に振動した。

「うわあっ!」

「大丈夫、すぐに収まるわ。じっとしてて」

ニーナはそうマモルに叫んだ。ニーナの言ったとおり、音と振動は数秒で収まり、一気に静かになった。


「さ、部屋を出るわよ」


自動ドアが開く。そこにあった景色は、明らかに先ほど通った通路とは違っていた。

だだっ広い空間にもうしわけなくベンチが二つ横たわっている。

「本当に、物体の瞬間移動ができるのか・・・」

マモルはそこでひとつの疑問に当たった。

「何で僕が出撃するときはカタパルト射出だったんですか?」

ニーナはマモルのほうを見ずに、歩きながら言う。

「さっきも言ったようにその場所にまったく同じ負荷をかけないと転送はできないし、トランスミットルームの設置はやたらと時間と費用がかかるのよ」

セキュリティを解除し、外に出る。エレベーターに乗る。

ニーナは『地上』とかかれたボタンを押した。

「ここはレイサムという国の元首都、レイサム・サーガ。シヴァが眠る地よ」

「神・・・・」

チーン

軽快な金属音が鳴り、ドアが開いた。


建物から出たそこは、地上の天国だった。


一面に麦畑が広がり、見とれるほど美しい夕日に濡れている。まさしく天国。

「さ、いくわよ」

「へ?いくってどこに?」

優しい風が頬をなでる。

「発掘現場よ」

「直通じゃなかったんですか?」

「ここから10キロ離れた地点にあるわ。車を用意してあるから、ついてきて」

建物の裏に4WDの車が用意してあった。道路もある。

「乗って」

言われたとおり車に乗り込む。刀は後部座席に乗せる。

バタン、と閉める。

「じゃ、いくわよ」

エンジンをかけ、車が発進した。












数分後

「あの〜、まだですか?」

辺りはすっかり暗くなり、月が出ている。

「うるさいわね!安全運転してんのよ!」

かなりノロい、とマモルは思う。父の運転に慣れているマモルにそのドライブは退屈でしかなかった。

出発してから軽く3時間はたっている。まっすぐな道路なのに。

「エリートが集まるDEALSなのに車の運転も満足にできないんですか!?」

「うるさいわねー!あんたに言われる筋合いないわよ!そこまで言うんだったらあんたが運転して見せなさいよ!」

そう言い放ち、ニーナは車を止めた。

「え、でも僕免許持ってないし・・・・」

「男でしょ!言ったことに責任持ちなさいよ!」

「言ってないじゃないですか!」

「とにかく、私はもう運転しませんからね!ふんっ!」

「え、あ・・・・」

土下座してもらうまで絶対に運転してやるものか、とニーナは思う。

思っていたからこそ、ニーナはマモルの行動に驚いた。

「わかりましたよ。運転すりゃいいんでしょ」

「え?」

そういったマモルは助手席を降り、運転席にいるニーナを助手席に乗せ、マモルは運転席に座った。

「シートベルト、締めてくださいね」

「ってマモル君、運転したことあるの!?」

「任せてくださいよ!こう見えてもマリオカートうまいんですから」

「まりお、かあと?」

そのとき、ニーナはマモルを止めるべきだった。

「かっとばすぜぇ!!!」

ニーナは地上の天国で地獄を見た。












東京ドームさながらの大きさのドームが、麦畑の中に不釣合いに建っている。

その周りには、NMDと呼ばれる護衛システム、各種砲撃台などが設置されている。

遠方から猛スピードで走ってくる一台の車。

ギャギャギャギャギャギャギャギャーーーーーーーー!!!

その車はスピンターンドリフトで、白煙とタイヤ跡を残し見事駐車場に静止した。

「こんなとこだね」

助手席ではニーナがすっかりのびていた。

呼びかける。

「到着しましたよ。ニーナさん、ニーナさんってば」

しかし、ニーナが正気を取り戻すにはまだ時間がかかるようだった。

「ガイドが気を失ってちゃだめだろ」

マモルは車を降り、辺りの景色を見回し、背伸びをした。周りに車は一台もない。

気持ち悪いぐらいにまぶしい月光がマモルを照らす。影が長くのびる。

その影響なのかそうでないのかはわからないが、マモルの頭にひとつの文章が浮かんだ。

”いまあの人を人質にとって車で逃げれば逃げられるかもしれない・・・・・”

しかしそんな考えも一瞬にして消え去った。虫を殺せぬマモルにとって人質をとるなどと大それた行動など出来るはずもなかった。

「それにしてもでかいドームだな・・・」

マモルの前方には巨大なドームが悠然と建っている。

「そろそろニーナさん起こさないと・・・」

マモルは車に戻ろうとした



そのとき、マモルは背後に気配を感じた。




そのとき、少女は50メートルぐらい先のドームの入り口にいた。



少女は、マモルのほうを向いている。

髪が透き通るほど水色だ。

白いワンピースを着ている。

顔の確認こそ出来ないが女であることに間違いはないようだ。

月光が彼女の髪の毛に反射し、水のヴェールでもかぶっているかのように見える。

二人は、しばし見つめ合った。

「俺を、見てるんだよな・・・」

マモルは身動きが出来なくなっていた。

自分の時間を止められたかのように。

しかしそれは不思議と息苦しいものではなく、むしろ、マモルにとって心地のよいものだった。

「君、誰?」

マモルは問いかけた。

「・・・・・・・・・・・・」

彼女が何かをしゃべった。

無論、50メートル先にいる彼女の口の動きなど、見えるはずがない。

音もない。

マモルは彼女の口の動きを見たのではなく『感じた』のであった。

「もっかい、いってくれないかな・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・」

「え?」

確かに口がそういう風に動いているようだ。

頭の中で彼女の言葉の断片を拾い集め、もとある形にメタモルフォーセスしていく。

「お・・に・・い・・・ちゃ・・ん、え!?」

確かにそう聞こえた。いや、正確にはそう感じ取れた。

お兄ちゃんと。

マモルは彼女のことを知らない。知るわけがない。もともと違う次元の人間なのだ。比喩ではなく。

彼女がドームの中に消えた。

「おい、待ってくれ!」

車に残してきたニーナの事など忘れ、マモルは走った。

入り口に着くと、硬く重い自動ドアは開かれていた。ニーナがいれば以上をシステム管理者に通報しただろう。

マモルはドームに入った。左右に通路が分かれており、彼女がどっちにいったかはわからない。

声が聞こえた。

こっち、と。

マモルは声の聞こえた方向に走った。なぜ走っているのかもわからず走った。

あの娘に会えばきっと答えは出てくる、そう思い続けながら走った。

エレベータがあった。ためらわずに乗る。と、そこで動きが止まった。

何階にいけばよいのだろう?

マモルは苦笑する。

なに、もともとなにもわからないんだ。勘にたよるしかない。

マモルは開き直り、最下層のボタンを押した。






「ぁ・・・・ん・・・・」

ニーナは助手席で目を覚ました。

車の窓からは麦が風に揺られているのが見える。

「ひどい目にあった・・・」

マモルが運転を始めてから数十秒後に、時速を表すメーターが250をふっ切れた所で記憶が途切れている。

「マモルくん?」

顔を運転席に向ける。しかしそこには誰もいなかった。

「まさか!逃げた!?・・・・いや、まさかね」

ここから逃げ出すことかどんなに大変なことか彼は父親からよく聞いてるはずだわ、大丈夫、そこらへんにいるわよ、と自分に言い聞かせ車を降りた。

そのころだ。マモルが最下層に到着したのは。









数々のセキュリティを何の苦労もなく通り抜け、マモルは最下層に到着した。

ガラス張りの壁の向こうにシヴァ発掘のための重機が設置してあり、今も稼動している。

「ここに、眠っているのか・・・」

本当の底は暗くて見えないが、どうやらそうらしかった。

底を見ると引き込まれそうになる。

「・・・・・・・・・聞こえる?」

いつの間にか、後ろに水色の髪の彼女が立っていた。

「・・・・・・何が?」

「地球の鼓動。星の、声」

「ほしの、こえ?」

彼女が一歩一歩、近づいてくる。

「そう。いたい、いたいって泣いてる」

一歩一歩、

「聞こえるはずよ」

一歩一歩、

「お兄ちゃん」

少女がマモルの腕をつかんだ。

「ぅぐぁ・・・ぁ・・・・」

マモルの頭に大量の意識が流れ込んだ。


イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、クルシイ、クルシイ、クルシイ、クルシイ、クルシイ、クルシイ、クルシイ、クルシイ?
タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ?
コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、コワイ?
ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ、ダレカ?
シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シネ。




ダレカ、コロシテ。







それは、地球の、星の『意思』だった。

「ぇぁ・・・・・・・・ヵ・・・・・が・・・ァ!!」

脳に絶えず高圧電流が流されているような感触がある。

彼女の腕の力が次第に強くなり、両腕にめり込んだ爪からは血が滴り落ちている。

「ぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・!!」

彼女が呻く。

薄れ行く意識の中で、苦しそうな彼女の顔を見ながらマモルは思った。



あ・・れ、誰・・かに・・・・似て・・・る・・・・



マモルの意識が漆黒の闇へと吸い込まれていった。

















                                                                ・
















・・・・ん

          ・・・・・ん

     ・・・・くん、                ・・・・・・・ルくん!


「マモルくん!」

マモルはニーナに抱き起こされ、意識を取り戻した。

うっすらと目を開ける。

マモルの目に入ったのは、心配そうな顔をしたニーナさんの顔だった。

マモルの口には酸素ボンベが押し当てられている。

「ニーナ、さん・・・・」

「セキュリティシステムに異常があって酸素が循環してなかったのよ。助かってよかったわ」

そこは星の声を聞いた場所だった。

両腕を見る。だが、そこからは血が一滴も出ていない。

確かにあの時、腕をつかまれ血を流したはずである。

それとも酸欠によって見た幻覚だったのだろうか?

「女の子、水色の髪の女の子、いませんでした?」

「え?あなた以外、この階には誰もいなかったわ。おそらくそれは、げん・・・」

「いや、そうですよね。いるわけない・・・」




僕は、そのとき無視しようとしていたんだ。





地球の鼓動、星の、声、そして、『意思』を━━━━





でも、それは無駄で、





僕は、あとでそれを知る。





『それ』は僕が知る以前から、当たり前に、もうとっくに、始まっていたんだ━━━━







続く

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NEXT TIME OF JUSTINEITHER

エリアル軍での生活を始めたマモル。それに合わせて、訓練が始まった。

日々変わってゆく暮らしの中で彼の意識にあったものは━━━━

次回、神聖戦記ジャスティネイザー第五幕

「タタカウリユウ」

※この作品では『アストロノーカ』の野菜名を扱っております。