神聖戦記ジャスティネイザー 第五幕
作:盆暗





感想は掲示板え


神聖戦記ジャスティネイザー
〜Divine Whispers〜
第五幕「タタカウリユウ」


〜C脚地下17階第1居住区マモルの部屋17145室の玄関〜

「じゃあ、困ったことがあったら、ここのボタンを押して」

そういって、ニーナさんは僕に銀色の2センチほどの薄い板を渡した。

「数十秒で誰かが駆けつけると思うわ」

折りたたまれていたそれが開き、液晶画面にはいろいろ項目が出ている。

「今は、なんともない?」

ニーナさんは僕を心配してくれているようだった。

「ええ、大丈夫だと思います」

両腕をチラッと見ると、傷ひとつない腕がそこにある。先ほどまでボーっとしていた頭も徐々に正常な状態になりつつある。

「そう、よかった。じゃ、おやすみなさい」

彼女はそういい、微笑んだ。僕も会釈する。

「おやすみなさい・・・」

なんにせよ、疲れているのだ。僕は部屋の中に入ろうとした。

「あ!ちょっと待って!」

後ろに振り返る。

「まだ、何かあるんですか?」

僕は少しうんざりしていた。

「ちょっと待ってて!」

一分もたたないうちに戻ってきた。

「これよ」

手渡されたのは刀。そういえばすっかり忘れていた。

「今日は体をゆっくり休めるといいわ。明日から大変だから」

「はい。・・・・・・・おやすみなさい」

「おやすみなさい」

自動ドアが閉まる。僕は後ろを向くと再び部屋の中を確認した。

一人で住むには広すぎるぐらいの部屋だ。教室ぐらいある。トイレに風呂にキッチン。

そして別室に、トレーニングルーム。

部屋の中の家具は一通りそろっている。冷蔵庫に暖房、テーブルにいす、ベッドにテレビ。

そしてこの薄い銀色の板といったところか。

足りないものがあるといったら窓ぐらいだ。当たり前だ。地下にあるんだから。

僕は冷蔵庫に入っていた水の入ったペットボトルを取り出し、机にそれを置き座った。

机には、エリアルについての案内書、ジャスティネイザーの操縦方法、生活におけるいろいろ必要なもののカタログなどが置いてある。

「ん?」

僕は山積みになったそれらの中にある「それ」を見つけた。

「これは・・・」

それは、

”救援物資!!Byルカ”

と殴り書きされたエロ本だった。

「誰だよ・・・ルカって・・・」

とりあえずそれを机の端に置き、他のファイルなどに目を通す。まずエリアルについての本。


エリアルは人口120万人の国でこの世界の中ではかなり大きい国らしい。

開発による、オゾン層の破壊、空気中の二酸化炭素濃度の増加、森林の減少、そして核による汚染。

もともとここら辺にすんでいた人民はこの基地のさらに地下にある『アンダーグラウンド』と呼ばれるところで生活しているらしい。

このエリアルベースとその周辺は電磁フィールドとよばれるバリアと無人機と有人機のジャスティネイザーによって守られているようだ。

レイサム・サーガにも同様な警備が敷かれている、ということは必要とあらば僕もそこに飛ばされるだろう。

僕が所属しているらしいDEALSの隊員のうち何人かが今そこの警護に行っているとニーナさんがいっていた。

なぜか頬を赤らめて。

それともうひとつ。レイサムがエリアルに近いのに何故環境が汚染されていないかということ。

やはり、シヴァの影響らしい。数百年前からそこはずっとあのままだったという。

シヴァ、地球を浄化する作用を持つエネルギー生命体。

ラクロアのアカシックレコードが本物であるかどうかは定かではないが、どっちにしろ人類に対しての敵になるのではないか?と思う。

たとえ人類自体に害はなくともそれを利用する人間によってこの星の未来は決まるだろう。

またそれをめぐって争いが起きる、人が死ぬ、人を殺す。

どこの次元でも『争い』が無いところはありえないだろう。

「はぁ・・・・」

深いため息をつく。


次にジャスティネイザーの操縦方法のファイルをみる。

僕が搭乗していたジャスティネイザーは新型らしく、操縦方法がほかと異なるらしい。

まず、精神融合による操縦。これについての説明は、痛みなどの感触は、誤差が多少あるものの、ほとんど実際の体のと同じだという。

次にインターフェイスでの操縦。

ジャスティネイザーのエネルギー源ティーラは、一つだけ特定された特殊な波(脳波)によって形状が変化し、エネルギーが生まれる。

ティーラは、ガソリンや核などの燃料などではなく、『知能を持たない生物』なのだという。

それによって筋肉を使うようなしなやかな動きが出来る。

アズヴィルグシステムにより、ティーラとパイロットの意思をコクピット周辺の空間で並走させることにより精神融合を可能にする。

まぁ、大体はわかった。

しかしその文を見て、僕は少し何か変な感じがした。

「・・・・これは?」

その言葉がどこかひっかかった。記憶の何かにひっかかった。









「エロ本見てるかなぁ〜、マモル君?」

彼女は自分の部屋にいた。制服をそこらに脱ぎ捨て、部屋着に着替えベッドに寝そべりながらお菓子を食べている。

彼女の部屋は大きなぬいぐるみなどが数多くあり、彼女が二十歳だという事実は信じがたいものがある。

「青少年には必須アイテムだからねぇ〜♪」

実は、ルカはこっそりマモルの病室を見に行ったりしていた。もちろんそれはニーナたちから話を聞いた後のことだが。

「結構優しそうな顔だったからしつけるのは楽かも(笑)なーんてね♪」

実は結構本気だったりする。










〜翌日〜

広い格納庫でマモルはジャスティネイザーTの精神融合実験をするため、伍号機に搭乗していた。

「どう?調子は?」

はい、多分、いいと思います。

コンピュータ画面に言葉が表示され、ジュリアがそれに対応する。

「前回に比べて数値が安定してるわ。いい調子よ」

ニーナがほとんど上昇せずに安定しているグラフを見ていった。

「すごいわね。この調子だとすぐにVR訓練に移せるんじゃないかしら?」

「彼とジャスティネイザーとのフィードバックの誤差がほとんどありません・・・・」

ルカの作業がとまっている。ジュリアが声をかけた。

「ルカ、どうしたの?」

「いえ、なんでもありません」

これは『素質』ではないんじゃないか?とルカは思う。

スパイという単語が彼女の頭の中に引っかかっている。

確かに優しそうな顔をしていた。しかし、それだけで信じるのはどうかと思う。

シリアスモードに入っている彼女だがその最大の原因はマモルがエロ本に対して何の反応も示さなかった事であった。

ルカが再び作業に戻る。ジュリアがマモルに呼びかけた。

「これで実験を終了します。降りたあと、休憩していいわ」

視界が格納庫の鉄柱からコクピットに移り変わる。

マモルは自分の感覚が元に戻ったことを確かめた。

精神融合をする時、どことなくいやな感じがする。

自分の意識に何か別のものが介入してくる感じだ。レイサム・サーガのときのあの感触に似ている。

やはりあれは幻覚だったのだろうか?

マモルはJNを降り、休憩室に向かった。

休憩室には自販機と長いす以外何も無く、殺伐としている。

自販機でジュースを買い、長いすに座った。清涼飲料水で喉を潤す。

そんなに喉が渇いているわけではなかったが、特にすることも無い。

なんか電車待つときと似てるな。マモルは苦笑した。

この世界にいてもあの世界にいてもやってることは同じじゃないか、違う事といえば・・・・・

マモルの脳裏にナツキの姿がよぎった。

あの後どうしただろうか、おそらく警察沙汰になっているだろう。

突然人が一人消えたのだ。しかも一週間近く戻らない。

ナツキは僕のことを心配してくれているだろうか?


彼女に会えないことに少しだけ、胸が痛んだ。


10分後、マモルはイスに座らせられヘッドギアを装着していた。







ジュリアさんのアナウンスが聞こえる。

「これから仮想空間を用いての訓練を行います。痛みなどももちろんあるから気を引き締めてかかるように」

視界が白く染まった。



「VRミッション ウェポンモードLv1アドバンスド・・・・」


自分の姿が再び機械に変貌している。

「今回の訓練は背中に装備されているエネルギーライフルで出現する的を全て打ち落とすことです。作業は迅速に行ってください」

作られた空間の中で的が次々と現れる。

僕はほかの事を考えるのをやめ、とにかく目の前のことを処理することにした。



僕は、ここで兵士として育成されるのだろう。

そして僕はおそらくこれからたくさんの人を殺す。

僕がダメになるまでに父さんは僕を現実に引き戻してくれるのだろうか?



いや、何も考えるな。とにかく目の前のものだけを処理していこう。

目の前のものだけを・・・

















「ね!君の名前、なんていうの?」


彼女は机にのっかり、そう聞いた。

はっきりいって、僕はそのときから彼女にメロメロだった。そのとき交わした会話がこんなんだったと思う。

「え・・・、あ・・・」

「教えて?なんていうの?」

僕はあわてていたから、ついこんなことをいってしまった。


「な、何だと思う?」


ダメダメだ。

しかし彼女は怒らずにこういい、

「ちゃんと答えろっつーの」

ババチョップをして見せた。

それからいろいろと会話をして仲良くなった。

彼女に告白しようかと思った時期もあったが、周りに競争相手が多すぎてそれはあきらめていた。

他の人より勝っているところといったら頭脳と家が近いという事だけだったから。

それでも惜しいところまで言ったときはある。



あれはたしか、文化祭のときだったと思う。



僕が喫茶店の看板を作っていたときだ。

僕は放課後教室に独りでいた。

「三剣〜。出来た?差し入れ持ってきたぞ〜」

彼女が教室に入ってきた。

「無茶言うなよ。まだ30分しかたってないのにできるかよ」

僕は礼をいい、缶ジュースを受け取った。

そして彼女はこういった。

「不器用だなぁ〜もう。それ貸して」

彼女は僕の持っていたペンキ塗りをひったくり、看板にベタベタと塗り始めた。不器用だと僕をけなすことだけあって上手い。

僕のと比べものにならない。作業がすいすいと進む。彼女は看板作りに熱中している。

そのときに僕は思い切って告白しようとしたんだ。

「あのさ、ナツキって・・・・好きな人いるの?」

彼女は作業を続けながら僕に返答した。

「何でそんなこと聞くの?」

「なんでって・・・・気になるから・・・・」

「ふ〜ん。え〜とね、いる・・・」

「え、いるの!?」

僕は露骨に反応してしまった。

「って言ったらどうするのかな・・・・って言おうとしたんだけど?」

「ふ、ふ〜ん」

彼女は僕の反応に興味を示さずにせっせと作業を続けている。そしてそのまま、

「で、三剣はいるの?」

と、言った。

「え、その・・・・いるよ」

その言葉を聞いた瞬間、彼女は突然作業をやめ、僕のほうを振り向き迫ってきた。

「え?誰?ねぇ、誰?」

彼女の顔が、すぐそこにある。僕は目をそらすことができずに、彼女の顔を見ながら硬直していた。

「・・・・・・」

愚問だよハニー、君以外に誰がいると言うんだい?

と、言いたかった。しかし、そんな台詞を言えるわけも無く、僕はただ硬直していた。

「ま、言いたくないんだったらそれでもいいよ。強制はしないから」

その後は特に何も無く、告白のチャンスも無かった。






「おはよー」

「おはよ」

「よぅ」

周りの席松倉や松野がそれぞれ誰かに向かってあいさつをする。

僕の席は教室の一番左端の後ろだ。

なんだか眠い。やたら眠い。

一時間目は確か現国だった。

まずい、もうちょっとで先生が来る。

しかし、そんな思いは押し寄せる眠気の大波にあっけなく流せれてしまう。

こんなときは彼女がこういう風に僕を起こしてくれるはずだ。

”三剣!起きろ!お〜い!”

そう、隣の席に座っている彼女が。

しかし、いつまでたっても起こしてくれない。僕は薄目を開けて彼女の席のほうを見た。

おかしい、彼女がいない、というか教室内に誰もいない。

先ほどまでたくさんの人がいたはずだ。

僕は眠たい体を起こし、教室から出ようとした。

「?」

扉が開かない。鍵はかかっていないはずだが扉はびくともしない。


その時、僕の耳に入ったのは『声』だった


それは聞き覚えがある『声』で、先ほど僕が聞きたがっていた『声』だった。

しかし、その声は悲しみに彩られた恐怖で満ちていた。

僕はすぐに彼女の状況を察し、とにかく助けに行こうとした。

扉に体当たりをする。

一回。

二回。

ドタン!

扉が倒れ、僕は教室から転がり出た、瞬間、

世界が、ぐるん、と一回転して、景色が、ぐにゃり、と曲がった。

何故か地面に落下した。

景色が一変して、そこは戦場になった。瓦礫と炎がまわりに溢れている。

黒煙が一面に立ち上るその中で、僕は聞いた。

彼女の『声』を。

声のしたほうの黒煙が徐々に晴れていく。そこにある『物』の姿も徐々に露になってゆく。

瓦礫を背もたれに、糸の切れた操り人形のような格好で彼女がそこにいた。

「・・なつ・き・・・ナツキーーー!!!!」

始めのほうは声になっていなかった。駆け寄る。

彼女の痩せた体を抱き起こす。そして叫ぶ。

「おい!聞こえるか!!ナツキ!!!」

彼女の口が酸欠の金魚のようにパクパクと動く。彼女の瞳は僕のほうではなく、どこか遠くを見ている。

助けを乞う目で。

「・・・・・・たすけて・・・・」

彼女はうつろな目でそういった。そしてゆっくりと目を閉じた。

僕は彼女の体を揺らした。

「ナツキ・・・・返事をしろ!ナツキーーーー!!!」














マモルは暗い部屋で一人起きていた。

「・・・・どんな夢だ・・・・ちくしょう・・・・」

彼の頬に大粒の涙が流れた。






















地下にあるため光がまったく入らないエリアルベースの内部は真昼であるのに薄暗い。

「整備班、E14まで至急移動」

緊急事態を表す赤いランプが回り、けたたましいサイレンが格納庫内に響く。

「何かあったんですか?」

マモルはヘッドギアを装着しようとしていたところだった。ニーナがそれに応答する

「他人事じゃないわ。マモル君、出撃準備よ!」

マモルはVR訓練室から連れ出され、着衣質に連れてこられた。

ここでパイロットスーツを着るのだが、その間もごつい男たちがマモルの事をじーーーっと見ている。

もちろんそいつらの趣味ではない。

マモルが逃げ出さないための監視である。

やっぱり僕は逃げると思ってるんだろうなぁ、とマモルは思う。

マモルが全身タイツのようなパイロットスーツに両足を通し、続いて両手を通そうとしたときだった。



ごつい男たちの壁の間に彼女を見た。

レイサム・サーガの時の彼女。ほぼ透明に近い水色の髪の毛を持つ彼女だ。

僕と目が合うと、彼女は僕に背を向け走り出した。、




「あ、ちょ、おい!」

マモルは男たちの壁を突破しようとしたが、その壁はあまりにも厚く、マモルの格好と走り方は情けなかった。

くそっ!何なんだ彼女は!?

マモルは男たちをにらみつけながらパイロットスーツに着替え、後ろを何度も振り返りながらJNTに搭乗する場所に向かった。

ニーナさんのアナウンスが入る。

「ポイントX:17412Y:−62359地点にて我が軍の有人ジャスティネイザーと敵軍のジャスティネイザーとの戦闘が発生。
 至急、援護に向かってください」

ニーナは口ではそういいながらやはり司令に対する『疑問』を持っていた。

いくら壱,参,四号機がレイサムの守備に回っているとはいえ、経験不足の伍号機を使う必要はまったく無いのではないか?と思っている。

今回の戦闘はそれほど敵軍の戦力が大きくない。偵察中の敵との交戦だ。

前回の戦闘のときは少し無茶だと思ったが今回は司令の常識を疑うほどである。

いくら実戦の『戦闘テスト』を重ねたとしてもマモルの精神力が先にくたばってしまうのではないか?とニーナは思う。

ジュリアもそう思っていた。

前回の戦闘を経てマモルとジャスティネイザーのシンクロ率は信じられないぐらいに上昇した。今のマモルは自分で動くよりもはるかにすばやく。

そしてはるかにパワフルに動けるはずだ。しかし、だからといって間隔をあけずに続けて行うのは間違いだと感じる。

マモルがやられる可能性も無いとはいえないのだ。

もちろん通常のジャスティネイザーとマモルの機との性能を比べればサメとクジラぐらいである。

何故マモルがクジラなのか?答えは簡単。攻撃を望まないのである。

本気を出せば一捻りだが、その覚悟が彼にあるのか?とジュリアは思う。

マモルがコクピットに入った。ニーナがアナウンスする。

「今回の戦闘はβ型装備で行くわ。装備の把握はできてるわよね?」

「ブレードとエネルギーライフルとエネミーチェイサーですよね」

「わかってるようね。20秒後に射出するわ。何か質問は?」

「あ、あの、さっき着衣室でレイサム・サーガで見た女の子を見たんですけど・・・・」

「え・・・・!?・・・・わかったわ。調べておくわ」

モニターの映像がぷっつりと切れた。

心臓の鼓動音が大きくなっていく。

ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、

大丈夫、あれだけ練習したんだ。殺さずにやっつける事ぐらい楽勝だ。うん、僕はできるさ。

大丈夫、大丈夫だ・・・・・

再び青い機体は、ジェット気流と火花だけを残し、太陽光が降り注ぐ地上へと飛び立った。






















数多くの廃ビルが立ち並ぶ街、いや廃墟というべきか。

「くらえっ!」

鋼鉄の刃が幾重にも重ねられた装甲のジャスティネイザーの胴にめり込み、動力部をやられた機体は大爆発を起こす。

黒煙の中からラクロア軍の赤と黒の装甲のJNが飛び出てきた。

「敵機撃破。ダメージは無い」

コクピットの中にいる青年。年はマモルと同い年である。

左手にしている特徴的な腕輪、そう、ヒジリである。

「これより弾薬補充と整備のため帰還する」

その時、彼が上空から飛来する物体を捕らえたのは、運のほかに、彼の並外れた動体視力のおかげだった。

「なんだ?あれ・・・・まさか!?」

ミゲルのメインカメラの映像が最後に捕らえたJNだった。

「あいつが・・・・ミゲルを・・・・!」

マモルのJNは遮蔽物に隠れながら地面すれすれでブーストを発動し、着地した。

その距離、約、1000メートル。













「やり方は訓練とまったく同じよ。冷静に対処して。精神融合開始」

ドクンッ!

意識に『それ』が介入してきて、景色が変わっていく。

さすがに何回もやってると慣れてきた。すぐに感覚を確かめ、表示されたカーソルに焦点をあわせる。

敵の位置を補足し、エネルギーライフルを装備する。

いきますっ!!

高くジャンプし、ビルの上を次々と跳躍しながら敵機に向かってライフルを連射する。

うおおっ!!

ヒジリはそれをギリギリで避け、遮蔽物に隠れながらマガジンを装填し、反撃する。

「よくもミゲルをっ!!」

だがそれもJNTの性能からすれば全弾避けるのは楽勝だ。どちらの攻撃もなかなか当たらない。もとより、ヒジリの射撃は下手である。

ヒジリは近距離戦が得意だ。しかし今の状況では手の出しようが無かった。

JNTがビルや建物を踏むたびに地震が起こり、ついで光弾が上空に向かい発射される。

状況はマモルが優勢だ。この状態が続けばいつかはマモルの弾があたるだろう。

しかし、マモルには時間が無い。いつまでもこれを続けているわけにはいかなかった。

「マモル君、エネミーチェイサー!」

はい!

エネミーチェイサー、ロックオンさえすれば敵機をどこまでも追い詰め着弾後に爆発するミサイルである。

マモルは上空でくるりと一回転し、ひざを折り曲げ間接部からミサイルを発射した。

ヒジリはそれを肉眼で捕らえ、何を考えたのか、ブーストエッジを抜いた。

「っ!!」

それはほとんど神業に近かった。

目の前に迫ったエネミーチェイサーをブーストエッジの平で叩き落したのだ。

すさまじい爆風で少しよろける。

しかし、それなりの代償はあった。爆風により、一部の計器が異常をきたしたのであった。

「くそっ!」

早めに決着をつけるか?それともいったん逃げるか?

頭の中でどうする、どうする、と言う声がエンドレスにかかる。

ヒジリは腹をくくった。










そのときにマモルは着地した。

痛いほどの緊張が走る。どちらも動こうとはしない。相手の出方を見ている。














ジャスティネイザーTと融合後は飛躍的に身体能力が向上する。

腕力、脚力などは当たり前だが、動体視力、反射神経等も飛躍的に向上する。

もちろん、視力も例外ではない。

半径5km以内にある掃除機ならどこのメーカーであるかまでわかってしまう。



             その視力が



            『それ』



           を捕らえた



視界の右下の隅にある『それ』を捕らえてしまった。

初めは逃げ遅れた民間人かと思っていたが、それはありえなかった。

なぜなら住民の退避は二年前に行われているからだ。









では『それ』とはなにか。








体はロボットになっているが、≪背筋≫が凍りついた

人間であれば頭脳にあたる部分でマモルはその情報を『理解』し、『絶望』した。

まさか・・・・まさか・・・・・

その動揺を見透かしたかのように、ヒジリが正面から特攻を仕掛けた!

「避けてッ!!」

真一文字に振られるブーストエッジがマモルの頭上を通り過ぎる。

くそっ!!

敵機が目の前がある。

今しかない!!

しゃがんだ体勢からブーストを全開にしてヒジリ機のメインカメラがある頭部にカウンターパンチを入れた。

頭部と胴体のジョイント部分が完全に折れ曲がり、ヒジリ機は後方に弾き飛ばされる。

「ぐっっっっ!!」

ずずん、とビルに激突する。メインカメラの映像は完全に死んでいた。

マモルはやり方など聞いてはいなかったのだが、即座に通信を入れた。ヒジリに向かって。

「何故、何故戦うんだ君たちは!」

もちろん時間を稼ぐためだった。その通信を受けてヒジリは困惑する。だがヒジリにとっても攻撃が止んだことはありがたいことだった。

「人類を守るためだ!お前らは自分たちが何してるのかわかってるのか!?」

「僕は、・・・・・僕は、何も知らない!!」

そのせりふで、ヒジリの怒りのボルテージは臨界点を一気に吹っ切れてしまった。

「なら・・・・・・なんで戦っている!!ミゲルは・・・ミゲルは・・・・!!」

ヒジリはレーダーだけを頼りにマモルのいると思われる方向に突進した。

「うおおおぉぉぉーーーーーーー!!!」

マモルは素早く刀を抜き、突進してくるヒジリのタイミングに合わせた。







ごめんっ!!






斜めから振り下ろされたマモルの刀は、右肩から腰にかけて刀跡を残した。

加速した機体は数メートルほどマモルの背後を何百メートルか転がりながら停止した。






終わった・・・





「ちょっとマモル君!?何やってるの!!」

すいません!理由は後で話します!!

マモルは既にジャスティネイザーTを自分の意思で制御できるようになっていた。

マモルは自分で精神融合を解除し、緊急脱出用のロープを使い、外に脱出した。

戦場となったそこは、何の覚悟もせずに外に飛び出したマモルにとっておもわず吐いてしまいそうな異臭を発していた。

生物のように食道を這い上がってくる嘔吐物をなんとかを抑え、辺りを見回す。

あの時見たものはたしかにそうだった。

しかし間違いであってほしい。

『彼女』がいるはずは無いのだ。そう、彼女が『間違い』を犯していなければ・・・・・

瓦礫と炎がまわりに溢れている。

黒煙が一面に立ち上るその中で、僕は聞いた。

彼女の『声』を。

夢の景色がフラッシュバックする。彼女のあの顔が。助けを求める、あの顔が。

黒煙が徐々に晴れていく。





前方にやはり『彼女』がいた。





夢と同じ格好、いや、少し違うかもしれないが、仰向けに倒れた彼女がそこにいた。

体の中から何とか声を引っ張り出し、走りながら彼女の名を呼んだ。

「・・・・・・・な、ナツキーーーーーー!!」

彼女の元に駆け寄った僕は、夢を再生するかのように彼女を抱き起こした。

「ナツキ!!ナツキ!!聞こえないのかぁ!!返事をしろ!!!」

必死で呼びかけるが、ナツキの瞼は開かれない。

ナツキは、ボロボロになった学生服を着ていた。体が煤で真っ黒になり、髪はぼさぼさで、何より生気が無い。

僕はナツキを抱き、泣いた。

「そんな・・・・・どうして・・・・・」

おもわず鼻で息をしてしまい、再び吐き気が押し寄せる。


それを抑えるかのように、さらに強くナツキを抱いた。


そして気づいた。


ナツキは、まだ息をしている。


躊躇することも無く胸に耳を当てる。

間違いない。鼓動音だ。彼女は生きている。おそらく気絶しているだけだ。

こういうときは喝を入れればいいのだが、やり方がわからない。とりあえず頬をぺちぺちと叩く。

「・・・・・・・ぅ・・・ぅん・・・・?」

ナツキの瞼がゆっくりと開かれていく。

薄く開けた瞼の中のの大きな瞳が、僕を捉えた。

「・・・・・マ・・・モル・・・・?」

「ナツキ!!」

そう叫んだ僕の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。

「・・・・・どこ・・・・いっ・・・てたの・・・・よ・・・・しんぱ・・い・・・した・・・ん・・だ・・・から・・・・」

途切れ途切れの言葉を話す彼女の顔は安らいでいた。

「ナツキ〜!」

彼女を抱きかかえながら僕はむせび泣いた。今までたまっていたものを寂しさを全て吐き出すかのように。

「泣くな・・・・・わた・・・・・しまで・・・・なきた・・・・・く・・・な・・」

彼女の瞳が急速に光を失い、再び瞼が閉じられた。

「ナツ・・・キ・・・ナツキーーーーー!!!!」

僕はもう一度叫んだ。ナツキを死神に連れ去られまいと必死だった。

だからそのときラクロアのJNが飛び立ったのに気付かなかった。

前よりも強く頬を叩く。

「ナツキ!目を覚ませ!目を開けてくれ!!」




彼女の上半身の全体重が僕の腕に掛かっているのが、ものすごく、悲しかった。




もうだめか・・・・・、とマモルは半ば放心状態になった。

「僕が、いけなかったんだ・・・・ナツキをつき合わせたりしなければ・・・・・」

死ぬほど自分が憎かった。何の関係も無い彼女を死に追いやったのだ。

許される罪ではない。

だが、そのことで一番悲しんでいるのは彼自身だった。

愛するものを自分の手で失わせてしまったのだから。

彼は、死を求めた。

逃げたかった。すべての物から。

そう、今の僕に欲しいものはただひとつ、僕を解放してくれるもの、僕を楽にしてくれるもの、僕を許しに導いてくれるもの、そう、


「ヘンタイ・・・・・・・」


が必要なのだ。

そう、僕は小さいころお医者さんごっこという名目で女の子の裸を・・・・

「へ?」

声が裏返った。

「触るな・・・・」

ナツキが気持ちよさそうに寝息を立てていた。

続く

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久しぶりのあとがき

これを書いてる今日のただいまの時刻は、午前2時25分46秒をまわったところです。

昨日イラク攻撃が始まりました。日本にもその事実はかなりの影響を与え、ほぼ全国民に被害が及びました。




いいともがみれません(ぉぃ




戦争についてぐだぐだ語るつもりはありませんが、なんとなく、考えさせられました。