僕と少女の軌道 プロローグ
作:久城夏希





―プロローグ


「あの学院を…破壊…せねば…な……らぬ。」
今にも枯れそうな老婆のような声が響く中で
「そんな事、今は出来ません。あなたが全てとう考えをお捨てになってください。」
若々しい男性の声がする。
いったい誰が誰とどこで話しているのだろう。
「あの時の……恐怖が……よ…み…がえ…ってく…る。」
「あの時は魔術師の……”例のあの方”が禁断の技を使ったためです…。」
何が起こっているのだろう。
ただ聞こえるのは強い風の音。そして二人の謎の会話だけだった。
そんななかで”怪物”とも呼ばれているケルベロスが暴れ出した。
それは災いが起きる予知でもあった。しかしそんな事には耳も傾けずに二人は語っていた。
「今…封印を解き放つのだ。そして”例のあの方”の細胞を捨てるのだ!いや学院ごと破壊すれば早い話なのだ。」
老婆の声は今にも途絶えそうな声だった。
「”例のあの方”の遺言では『私の細胞に人体結合術をかけて1938年3月19日午前3時によみがえらせろ』と書かれていますが……行わなくても大丈夫なのでしょうか?」
とそこに、蜘蛛の巣を邪魔そうにし避けながら一人の少女が現れた。
「誰か……いるのか?」
老婆と男性はびっくりして答えた。男性は
「この学院を………破壊する。そして完全に消すのだ!”例のあの方”を! 」
すると少女は笑うように答えた。
「お前らが言ってる”例のあの方”とは魔術師”キール・カルヴェリア”のことだろ。あいつはとっくの昔に死んでいるのだよ?確か……1438年三月十八日だった。死んでる人を消すなんて無理だ。それに学院を破壊したら、学院を建てた十五世紀の貴族の”ロビン・ド・アウスフェリ”に呪われるよ。」
すると老婆は最後の力を振り絞って叫んだ。
「魔術師キールは生きている!彼は今でも不死の術をかけて政府から隠れながら生きているのだ!そしてお告げのように…この世の中は…………ぐはっ…ごほごほ…うっ!」
「ドサッ」という人の倒れる音がした。男性は
「セリン様!?セリン様!」
と叫んでいた。数刻すると
「キール・カルヴェリアの力で貴様らを殺して見せる!そして十分に利用してから消してやる。セリンが死んだ以上主導権は俺のものだ!」
そういうと闇に消えていった。
 足元に何かが落ちていた。
少女はひろいそれを眺めた。
「ん?犬の牙か?それに…ねずみの死骸まで…。」
(こんな物騒な物何に使うんだよ。)
そう思いながら少女は館から出て行った。