僕と少女の軌道 -1- 第一章
作:久城夏希





第一章  国際学院への訪問者

―アウスフェリ学院 建設者のロビン・ド・アウスフェリの名前をとって名づけられたこの学院は十五世紀末から建っているという歴史の長い学院である。フランスとスペインの国境、ピレネー山脈のフランス寄りの場所で独立したべステップ国では数々の移民を歓迎するという差別のない国だった。そこの首都デルテックから北に百キロほど行ったところに建っているアウスフェリ学院。学院では様々な留学生のよって成り立っていた。しかし、学院には謎がたくさんあった。「実は学院の地下には広大なスペースがあり、何かがねむっている。」とか「大図書館には禁断の魔法術の本がたくさんある部屋が隠されている。」とか……。
しかし、そんな事は迷信に過ぎない。と先生方は言っている。果たしてそうなのか…。こんな広大な敷地ならあってもおかしくない。と生徒たちは思っているらしい。なぜなら、ベステップ国自体が謎の国として有名だからだ。ベステップはフランスの領土の中にポツンとあった街である。そこが独立した…。なぜそんなところが独立するのだろう。誰にも分からない謎だった。ベステップの歴史は長いのだ。

四月十九日、アウスフェリ学院の留学生説明会が開かれた。
新一年生達は胸をどきどきさせながら、この説明会にやってきた。
役二百人の生徒が集まった。人種は様々だった。
そんな中に一人だけ席に座っていたかわいらしい子がいた。膝まであってもおかしくない金色の髪の毛を丁寧に結び、身長は一四〇センチ前後みたいだ。瞳は青っぽかった。イギリスからの留学生らしいが、なぜか孤立している。
日本からの留学生も二十人くらいいた。
その中の柳沢拓也は一緒に留学してきた友達とこの先の事を話していた。寮での生活や勉強の話……。
説明が始まって入学式は明日だと聞いてみんなは唖然としていた。生徒バッジが配布された。金ぴかでかっこよかった。
今日は一日目の寮生活と考えると緊張した。もう夜だ。入学式は明日。緊張は止まらない。
 部屋にはすでに大きなトランクがあった。拓也のものだ。六畳一間でベッド、タンス、学習机、クローゼットがきれいに並んでいる。なぜか木と塗装のにおいがした。荷物の中から服、など持ってきた様々なものを出していく。
すると突然ドアのすき間から手紙が入り地面を滑った。
それに気づいた拓也は手紙を読んでみた。
<251号室柳沢拓也くん。この学院の私達の部屋って新館なんですって。なぜかしら?古くてもいいのに。そうだ!探検してみない? 男の子の部屋に入るのに抵抗があったから手紙を入れたの。返事は下に書いてね。
539号室ファラ・インフェード>
「ファラ・インフェードだって?誰だろ。わからない。」
とりあえず返事を書くためにバッグからペンを取り出した。そして下に
<遠慮しておくよ。>
と書いた。これをどうやってとどけよう。
頭を抱え込んだ。消灯時間まであと六分だった。拓也は五階まで走った。
運動は苦手なのだ。ぜいぜい言いながら手紙を入れると急いで戻った。
ギリギリあと二分だった。ほっと一息つくと放送が流れた。
「みなさん。消灯時間です。デスクの電気をけし、部屋の電気を豆電気にするか消灯してください。」
拓也はその放送と同時に寝た。そこにまた手紙だ。
眠たそうに読んでみた。
<おい、君。確か柳沢といったね。フン……私の知った事ではなさそうな凡人だったな。
アイズ・モア>
「誰だよー。アイズ・モアだって?眠いから明日しよう。」
再び深い眠りに入った。
朝起きると机の上にアツアツのベーコンとパンとスープがのっていた。朝食らしい。そこにメモがあった
<どーも。担当の寮母です。朝は七時に朝食が届き八時三十分から授業です。指定の教室に入りましょう。>
どうも昨日から女の人からの手紙が多いな。そう感じていた。
しかし、そんなことは偶然だろうと考え、授業に出た。朝の一時間目は生徒の自己紹介だった。
ふと見るとクラスメイトが一人かけているような気がした。
(あれ?確か昨日は三十人くらいいたはずなのになぁ。)
すると後ろからきれいに四角にたたんだメモ紙が飛んできて拓也の後頭部に直撃した。
「いてっ!」
振り返ると誰か分からないが制服である黒のブレザーの下に白のブラウス。また黒のスカートを身にまとい、髪はショートヘアーで茶髪の女の子が笑っていた。
(ん?なんだろ。手紙みたいだ。)
中を開くとスラスラっとアルファベッドを並べて書いた英文が書かれていた。
<だーれだ?わたしがファラ・インフェードだよー。>
拓也はハッとしてもう一度振り向いた。いまだに笑顔だった。
<今日はあの髪の長い子来てないね。初日から風邪?なんてねー。>
それを読んで拓也は思い出した。あの説明会のときに一人だけ孤立していた……。
(そうか!あの子がいないんだ!でも…なんでだろう?)
自己紹介で拓也の順番になっているのを気づかずに考えていると、担任のリファイン・ラーコス先生がチョーク投げを披露した。
チョークは見事に拓也のおでこを直撃した。
「…うっ…いてっ!」
「下ばかり見て、考え事ですか?あなたの番ですよ」
みんなはクスクス笑い出してとても恥ずかしかった。
「えー、日本から来た柳沢拓也です。よろしくです。」
みんなの発表を聞いていなかった拓也は何をいえばいいのかわからずそのまま終わった。
そもそもこの学院に入るということは一国の一位二位を争う人たちばかり、秀才ばかりなのだ。
拓也も秀才ではあるが、これをきっかけに、そうでもない男だ。と定着してしまった。
 今日の授業が終わった。すると先生が話してきた。
「あのね…初日なのに悪いけど今日欠席した子に教科書を渡してほしいんだけど」
「ぼ…僕がですか?で、どこにいるんです?」
「それがねぇ…」
僕にヒソヒソと語りかけてきた。
「となりにもうひとつ学校あるでしょ?アビタ国立学校…」
「はい。確かもう廃校になった…」
「そこと連絡通路があってその先の……五十七階にいるのよ。」
「へー…………って五十七階ですかぁ!?いくらなんでも無理です。僕運動なんか得意じゃないし」
「お願い!っね?先生、職員会議なのよ。」
「は…はぁ。」
先生の頼みじゃしょうがないと思い、しぶしぶと旧館北側教室の連絡通路に向かった。
 アビタ国立学校に着いた。一階から大声で
「おーい。いるのかーい?」
と聞いた。返事は無かった。
―アビタ国立学校。十九世紀アウスフェリ邸が学院になるまでに貴族学校として利用されていたが、アウスフェリ邸が学院となってから、アビタ国立学校は廃校となった。しかし、膨大な記録と歴史があるので、警備員が時々見回りに行くために連絡通路を作った。今はほとんど使われていない。
 初日にアビタ国立学校にはいり謎の少女の正体を突き止めるために五十七階まで上がっていく。螺旋状になった階段を一段一段ゆっくり上っていった。そしてようやく。
「ぜいぜい……はぁ…はぁ。お・・おーい。」
「だ…誰だ?ラコースの声じゃないな。」
「僕はクラスメイトの柳沢拓也だよ。これ、教科書。」
「……なんだ子供か。」
そこには大きな機械があった。それをカチャカチャいじっている女の子がいた。
「君の名前は?」
「・・・・」
返事はない。集中しているようだ。しかし、クッキーの袋からクッキーを食べている時点で、無視されている。と悟った。すると突然少女は口を開いた。
「ア…アイズ・モア」
「アイズ・モアって……そうだ!夜中に手紙を置いていた人!」
「あれは私じゃない!ラコースがおいたのだ。」
「先生が僕に?なんで?」
「仕方ない。面倒くさいがおしえてやろう。君がここにきた理由は二つあるはずだ。一つは先生に頼まれたから。もう一つはわたしの存在を気にしていたからだ。」
「えっ!?なんでわかるの?そりゃ誰だって気にすると思うけど」
「私に気を向ける作戦だったんだよ。」
全てが図星だった。だが、この子の謎は深まる一方だ。
「なぜ…学校にこなかったの?」
「・・・・」
「え?」
「子供がきらいなのだ。」
それを聞くと拓也は笑い出した
「あっはははははははー」
「何がおかしい!」
「だって・・・だって君だって子供じゃないか。くすっくす。」
「むぅ・・・君たちとはランクが違う!」
「でも子供である事には変わりないんだよ?きみ何歳?」
「・・・・・二十二だ」
「正直に」
「うっ・・・かよわい乙女にそこまで聞くか?」
「いいから」
「・・・君と同じ一三歳だ。」
その割りに小さい。一四〇センチ前後。拓也の胸のあたりまでしかこない。
「くすっ。最初からわかってたよ。だって先生からもらった教科書に『一年全教材』って書いてあった。」
「むぅ・・・ん?教科書だと?ラコースめ。余計な事を。」
「きみ、ここで何しているの?」
「・・・昼食の時間だ。戻れ。」
そういえば、この学校は何時に食べてもよいのだ。昼休みの十二時三十分から二時までのあいだにたべればよいのだ。
「今何時だろう。ごめん懐中時計、部屋なんだ。」
「一時二一分をまわったところだ。」
「ええええ。急がないと!」
そう言い残して階段を急いで降りていった。
モアがつぶやいた
「ラコースめ。また私に面倒な事を。」
あくびをして、今度は本を読み始めた。
拓也が急いで降り、部屋の食券を取りに行った時にはすでに一時四九分だった。
授業に間に合わないため、今日は昼食無しにして先生にあとで事情を話そう。
そう考え午後の授業の準備をした。
 昼は、勉強というよりなにやら術が中心になっていた。一時間目は錬金術についてだった。なぜわざわざ錬金術なんて・・・。とみんなぼやいていた。
どうも錬金術の先生は感じが悪いらしい。しかし
「みなさん。どうも」
ラコールだ。
「あれ?錬金術の先生ってラコール先生?」
「みなさん。ご存知じゃないと思いますが、錬金術学の先生が薬の爆発事故で病院にいます。この時間は自習にしますので。」
 拓也はなにかに突っかかった。
「爆発事故?なぜだろう。怪しいぞ。」