僕と少女の軌道 -1- 第二章
作:久城夏希





第二章 謎の少女の予言

 授業が終わって拓也は校庭の先にぽつんと立っている寮に戻って明日の予習をしていた。するとコンコンとノックが響いた。誰かは分からなかったけど一応言ってみた
「ど…どうぞ。」
ドアの向こうに居たのはファラ・インフェードだった。ファラは制服じゃなく普段着になっていた。ピンク色のスカートを着て同じくピンク色のリボン、白色の服を着ていた。
「ど…どうしたの?」
「・・・・」
ファラは答えなかった。何があったんだろう。普段は常に笑顔なのに、今日はしょんぼりして目頭に涙がたまっていた。ファラが口を開いた。
「……出たのよ。」
「えっ?」
「ついに私の部屋に”恐怖の大王”が降臨したのよ!」
恐怖の大王という言葉にピンッとこなかった。
しかし”恐怖”という言葉から怖くて来たのだと悟った。
「恐怖の大王?え?なにそれ?」
「この学校には昔ロビン・ド・アウスフェリが十五世紀に建てたって聞いたでしょ?でも実際は十四世紀の後半だったの。豪邸を作るのに犠牲になった人々の中に晶霊術師がいたんだって。その人は生産コストを減らすために術を使って鉄を曲げたり木を切ったりしていたらしいの。でもその人は山を燃やして、魔女狩りの時に殺されてしまったの。その少し前にアウスフェリに頼んだんですって。自分の力を誰かに託してくれって。でも誰も居なかったわ。だって、魔女狩りの真最中なんだもん。結局晶霊術師は殺されてしまったわ。でも彼はあきらめなかった。自分の子孫をつくるってね。そのときにアウスフェリ邸でお手伝いだったキール・カルヴェリアが晶霊術を使えるようになった。ってね。まだ晶霊術師は死んでいなかったからキールに全てを託した。その翌朝に彼は死んだの。キールだけが生きのびたわ。」
「それで?君の部屋と何の関連もないんだけど。」
「いいから聞いてよっ!キールはこの学校の地下ににまだ骨のままで居るらしいの。そいつがマスクをかぶって来たのよ。」
「どこに?」
「わたしの部屋に!!」
「ええぇぇぇ。そんなはずないよ。」
「でも、突然ドアが開いて、そうしたら電気が消えて真っ暗になって、友達といったらまだ柳沢くんくらいしかいなくて。だから逃げてきたの」
「拓也でいいよ。わざわざ柳沢って・・・でもなぜ骨が君の部屋に・・・?」
「とにかく怖いから今日はここで寝る!」
「ええぇ!僕はどうするんだよ。」
「いすに座って見張り番!」
「そんなぁ。」
(ちぇ。こういうときだけ乙女ぶるんだから。まぁ、怖いんだったらしょうがないよね。仕方ない今日はここで寝かしてあげよう)
そう思って話しかけた
「じゃあ今日だけはい……。」
すでに寝ていた。
「スースー」
という寝息だけが聞こえていた。拓也は自分が入学してからいろいろな事があるなぁ。と思っていた。
(爆発事故で怪我をした錬金術師のクリス・カロライル。それに謎の噂。その上歩いてくる謎の骨…………。どう考えてもありえない事だ。)
ふと拓也は思いついた
(そうだ!アイズ・モアがいた!。あの子は僕の心理をつかんでいたし何かわかるかもしれない。)
そう考えて見張りを続けていた。


 朝は通常授業、昼は術授業それが伝統のアウスフェリ学院。でも今日は違った。
「おはようございます。例の事件をきっかけに、今日からしばらく休校となりました。宿題の範囲を配りますので。」
ラコース先生はあせったような声で言っていた。みんな舌打ちをしていた。
事件が解決するまで休校らしい。みんな寮に戻り、ある人たちは抜け出し用の穴から外に出て行った。拓也は宿題を済ませすぐにアビタ国立学校に向かった。
「おーい。モアー。いるのかい?」
ガシャーン。何かが割れる音がした。すぐ近くのように聞こえた。拓也は螺旋階段をのぼっていった。今日は三十八階にいた。
「ぜいぜい……今日は…三十八階?」
「・・・・」
返事は無い。そこらじゅうにお菓子の粉が落ちていた。
「何のようだ?」
「そうだ!なんか変な事件が続いているんだ。」
「ふむ……。」
「なぜか錬金術師の先生が爆発事故で病院に行くし。一番の謎はファラの部屋に現れた謎の骸骨だよ!ファラが言うにはキール・カルヴェリアの骨だって言うんだけど……。」
「・・・・」
天文学の本を膝の上に開き熱心に読んでいた。
拓也は覗き込んで、指をさして「これは何?」と聞いた。
「それは……読めば分かるだろう。説明なんてめんどくさい。」
拓也は読んでみた。
「天文学基礎――天文学で出来るもの。天文学といえば占いでしょう。天文学は星の動きや距離の変動で人々のことが占えます。しかし、天文学を実行するには様々な道具が必要です。――様々な道具?なんだろう。」
モアは鼻で「そこにあるだろう」と指示した。
「天文学の実行の際での必需品。光を集める光線盤。観測装置。焦点装置。――って全部ここにあるんだ。でも肝心なレンズが割れてるね。」
「わたしはこの装置を直して天文学がやりたかったのだ。しかしレンズが割れた。」
レンズが無くては観測も出来ない。落ち込んでいたモアに
「レンズ?――あっ!寮の倉庫にあったかも。」
「本当かね?――持って来い。」
「あのねぇ。」
「持ってきてくれたまえ。」
仕方ない。なぜならこんな小さな体で大きいレンズが運べるわけが無い。
「じゃあ持ってくるから待っててね。」
「うむ……。」
三十八階から急いで駆け下りた。
 やはり寮の地下三階に倉庫があった。無防備にも鍵が無い。
開けてみると、昨年使ったと思われる大きい学院祭の看板。壊れた机。古い教科書やプリント類。様々なものがダンボールに詰められていた。
奥のほうにドアがあった〔大型類〕と書かれていた。
「クション!ここか。」
ほこりっぽくて、くしゃみが止まらなかった。
大型な物は一番大きいのでカスピカサウルスの化石まであり、小さいものでタンスなどがきれいに積み重なっていた。
「あったぞ!」
やっと見つけた。レンズは傷ひとつなくきれいに箱の中に身を収めていた。
四枚あった。拓也はレンズを抱え急いでアビタ国立学校に向かった。
「おーい。あったよー。」
長い髪の毛が見えた。拓也が叫んだ瞬間にピクッとした。
急いで持っていってあげた。
「これで良いの?」
「うむ……あ!はまった!」
嬉しそうな顔だった。しかし、すぐにいつも通りの顔に戻った。
「ご苦労さん。」
そういうとレンズをはめてみた。あたりはすでに真っ暗だった。
小さな体が大きな接眼レンズを覗いている。本をチラチラ見比べていた。
拓也はあまりの暗さに時間が気になって、懐中時計を見た。
「あー!もう八時だ!九時までには部屋にいないと消灯時間だ!」
「………待ちたまえ。」
「待てないよ!僕は君と違って普通の学生なんだから!」
そう言ってすぐに降りていった。
「フン……。」
モアは鼻を鳴らした。まだ本と自分の見ている風景を照らし合わせていた。
「わぁぁぁ!」
ドシーン。転んだ音がした。モアは「フン」と鼻を鳴らすと自分の部屋のある二十九階に戻っていった。
 拓也は部屋に戻ったものの、突っかかるものがいくつもあった。
なぜだろう。しかしそれを解明する事が出来ない。出来るだけ今の状況を整理してみた。
(まず、入学してきた時点で、この学校には謎がたくさんあった。話の中で合うのは、『頭がい骨が眠ってる部屋があって、時々骸骨が出てくる。』だよなぁ。でもファラにはその人物を特定していた。確かキール……カルヴェリアだ!なぜそれが分かるんだろう。ファラは入学してから三ヶ月もたたない新入生だし学校について詳しいはずが無い。――骸骨がしゃべる。というのも理屈に合わない。つまりここは謎なんだ!この先に鍵が眠っているんだ。この話を後にするなら……錬金術の先生だ。あの先生はスパルタで失敗が無いと恐れられている大先生だ。なのに初歩的な爆発事故なんておこすわけが無い。誰かが起こさせたか。うーん――トリックだ!そうだ、何の事件でも必ずトリックがある。亡霊の仕業なんてありえないし、必ずどこかにヒントがあるはずだ!でも……どこに。あのモアだって話を聞いてくれない。うーん。)
考えていると放送が流れた
「みなさん。消灯時間です。デスクの電気をけし、部屋の電気を豆電気にするか消灯してください。また今日は連絡があります。錬金術の先生。ルキシア・メディアス先生が、病院で治療を受けています。彼が言うには自分のミスじゃなく誰かが錬金粉の中に爆薬を入れたのだと主張。皆さんも気をつけてくださいね。」
初めて知った。錬金術の先生はルキシア・メディアスということ。それに錬金粉って言っていた。つまり誰かが仕組んだ。でも殺さなかった。謎は深まるばかりだった。


 休校になってからやや二週間がたった。
拓也は部屋の掃除をしているとある不足物を見つけた。
「あ。赤ペンとファイル。英語のノート。それからのりが無い。」
全て買い置きしておいたはずなのに無い。
仕方なく学問の街ゾリエスに行く事になった。
 朝、寮母さんが作ってくれた朝食を食べ、私服に着替えて、お金を持ち、校門から出ようとすると後ろから声がした。
「おーい!どこにいくのー?」
ファラだった。薔薇色のワンピース刺繍のついたブーツに赤色のバッグを持って走ってきた。
「どこって、不足物を買いにゾリエスに行こうと思ってるけど……。」
「ゾリエス〜?ゾリエスは文房具しかないわよ。」
「うん。文房具を買いに行くんだ。」
「お買い物のことをちーっとも分かってないんだから」
「必需品を買いに行く。それが買い物だろ?」
「ちっがーう!でも、文房具ならペンポートの町にあるオートランに行った方が色々そろうわよ。わたしもオートランに行こうとしてたの。」
――商業の街ペンポート。ゾリエスとは正反対なにぎやかな街。中心に大きな大学が建っている。
大学は各学校から選抜された秀才しかいけないという。
ペンポートのオートランとは全国各地にある大型雑貨店だ。
そこでそろわない物は無いというくらいだから。
「ペンポート?なんでわざわざそんなところまで行かなきゃいけないの?」
ゾリエスはアウスフェリ学院前のバスから三十分で行ける。
しかしペンポートはバスを二本乗り継いで、一時間はかかるのだ。
どうせ、買い物なんてすぐ終わる。
そう思った拓也は
「また。どうせペンポートに行ってお菓子買ったりするんだろう?」
「そ……そんなことないってば!」
「まぁ――いいか。いいよ。じゃあ行こう。」
仕方なくペンポートに行くことにして二人は校門を出た。
 アウスフェリ学院前バス停。一時間に二本しかバスがこない。
幸い、あと四分でバスが来る事が分かった。しばらく待っていると、バスが来た。
青いバスだ。『ファンダー駅行き』と書いてある。
乗り込んで座席に座るとファラが話しかける。
「最近、授業が終わると、ど……どこかにいなくなるよね?――どこに行ってるの?」
「え?あぁ僕はアビタに行ってるけど。」
「アビタ?……アビタ国立学校?あれ?廃校になったんじゃなかった?」
「うん。でも膨大な資料と歴史があって取り壊しは出来ないんだって。そこにアイズ・モアっていう子がいるんだけど……いつもそこに行ってるよ。」
「アイズ……モア?誰だっけ?」
拓也はついつい黙ってしまった。
まだ彼女の事を詳しく知らないからだ。知っている事といえば、
授業に出ないこと。今天文学をやっていること。それしか知らない。
「え…あ…いや、分からないならいいんだ。」
しばらくバスに揺られていると拓也は眠ってしまった。
「や…柳沢君?」
ファラの声がした。
「もうファンダー駅に着いたよ?早く降りないと。」
「うー。え?もうついたの?」
あたりの風景は変わっていて大きなビルが建つ町の中にいた。
拓也はまだ寝ぼけて
「ここ。ペンポォートォ?」
「ファンダー駅!まだ出発してから二十分しか経ってないんだから。早く!乗り継ぎ乗り継ぎ!」
拓也はハッとして、急いでお金を払って乗り継ぎのバスに乗った。
「ふー。間に合った」
ほっと一息つくとペンポートの中央に建っている大学。そうストビルライン大学が目の眩むほど高く建っていた。
「あ!ストビルラインだ。」
「うん。あの学校はつい最近…って言っても百年前くらいに建てられて…………。」
「うわぁ!オートランだ!」
拓也の話なんて無視するかのようにファラが言った。
ちぇ。っと舌打ちをしてバスを降りた。
そこには広大な敷地の三階建ての大きなお店が建っていた。
「オートランだよ。すごいでしょう。」
「う…うん。ま…まぁね。すごいね。ははは。」
「どうしたの?」
「うんん。なんでもない」
そう言ってオートランの中に入っていった。
「あ!これかわいい!」
(結局お菓子とか余分なものだけ買って帰るんだから。でも……モアも連れてくれば良かった。いっつも一人で寂しそうだしなー。――そうだ!今度また来よう。そのとき連れてくれば良いんだ。)
突然頭を殴られた。
「いったーい!何するんだよぉ。」
「どお?似合う?派手かしら?」
「良いんじゃないの?――ぼくはそんなセンスないよ。」
「じゃあ、これ買ってー!」
「えぇぇぇ?ぼくは、ええと、赤ペンとかを買いに来ただけなのに。」
「いいから、買ってよぉ。」
「お金がないの!……あれ?財布が無い。」
ポケットに入れておいた財布が無い。
どこだろう探していると、目の前でファラがニコニコしている。
「ジャジャーン!」
「ああ!ぼくの財布!」
「ええと、あら!六万円も持ってるじゃない。このドレスたったの九六〇〇円よ?」
「ぼくのお小遣いが無くなっちゃうよ。」
「ふぇーん」
ファラは地面に座り込んで泣き出した。周りの客もこっちを冷たい目で睨んでいる。
あまりの泣き具合に負けてしまった拓也はドレスを買うことにした。
「わ…分かったよ。」
ドレスを持ち上げるとファラは拓也の服の裾をつかんで来てまたにっこり。
「ぐ……。」
仕方なくドレスを買ってしまった。
「あーあ。お財布の中身がスッカラカン。まぁ仕方が無いよね。」
そう呟きながら文房具コーナーに向かった。
「ええっと…あとはファイルだけか。」
全てを購入し、まっすぐアウスフェリ学院に戻ろうと、切符を買った。
二本目のバスの中でファラが拓也に尋ねた。
「そ…そうだ。こわぁい話しない?」
「どうぞ。」
「えっとね、学校の歴史の中のひとつなんだけど、わたしの体験に似ていて『骸骨のキール』
って話なんだけどねぇ。――昔アウスフェリ学院に仕えていたキール・カヴェリアはアビタ国立学校にちょっとしたいたずらをしたんだって……。アビタの五九階の地面を改造して中六十階を作ったそうよ。そこではキールの魔術の練習場になったんだって。」
だからなんだよ。そう思っていた拓也だが仕方なく聞いていた。
――キール・カヴェリアは師匠でもある晶霊術師から数々の晶霊術をおしえてもらって、色々な事に活用していたそうだ。しかし、魔女狩りが行われてもキールは生きていた。彼が世界を枯らしたのではないかという説もある。それほど恐れられているということだ。
「すーすー」
いつの間にか拓也は寝ていた。
「――なんだって怖いでしょう?………あれ?柳沢くん?」
寝顔を見てファラは頬を膨らませて拓也を殴った。
「いった――!なにするんだよ」
 二人はまるで、ライオンのように怒鳴りあった。するとバスのお客に怒られて、拓也はすみませんと謝った。

 ――いつもの通り、時間が余った拓也は、アビタ国立学校にいた。
「それでねー、ひどいんだよ――モア?どしたの」
「黙れ。今わたしは天体から見通して、この学校の未来を探っている」
せっせと本を読んでは、天体観測機をのぞく。
 足元にあった、お菓子のかごの中からラムネを取り出した。大きい。じつに大きいラムネだった。
「――ほう。なるほどな」
「どうしたの?」
本を見て眉間にしわを寄せている。
「むぅ……。」
 なにやら不吉なことでもあったかのように、本と天体観測機を行ったり来たりして照らし合わせる。モアの口からとんでもないことが言われた。
「ファラ・インフェードはもうじき死ぬ。」
 ビックリした。彼女の口からは、そんな不吉な言葉が出てきた。
「えぇぇぇ!?なんで?何でファラが死ぬんだよ!」
拓也は腰を抜かしそうになって倒れた。
ふと近くに落ちている紙切れに目が止まってそれを見てみた。
「アガイル・ファブレスはセーフ?――ちょっと君、何を書いているんだい?」
「柳沢。君の学級名簿だよ。君のクラスの誰が死ぬのか占っていたのだ。」
ちょっと…と拓也は言おうとしたがモアに遮られた。
「わたしはだな、生死を占っていたのだよ。それに伴って、この学校の運命をな。占いが当たるかは分からないが、ファラは、“第九番星方周辺組織”の“レイムクス座”を見れば運命が分かる……なんだ柳沢。もしかして、星座も分からないのか?まぁそうだろう、レイムクスは正式名称ではないからな。」
 拓也は説明してほしかった。でもモアは絶対に教えてくれない。そう解釈した。
モアが続ける。
「それでだね、彼女は学園外で死ぬだろう。恐らくここ一週間の中で死ぬ……いや、事件に巻き込まれて、その結果、何らかの原因で死ぬだろう。」
 沈黙があたりを覆う。やがて拓也が口を開く。
「そんなの……なしだよ。」
「現実逃避かね?現実を素直にみたらどうだね。」
 モアは冷静に言う。
「じゃあ君は、誰かが死んでもいいの?」
「フン・・・。」
「こ……この!冷血女!」
 モアは無視を続ける。何かに取り付かれたかのように、本を見る。続いて、天体観測機を見る。拓也の言ってる事など、気にも留めていなかった。
「もう!知らないからな!」
 モアが始めて口を開く。
「――勝手にしたまえ。」
 拓也は本気で怒って、階段を下りる。自然と足が速くなってきた。
(なんだよ!冷静に人が死ぬなんていって……。しかもファラが……。いや、そんなはず無い。死ぬなんて、信じないぞ。絶対に。)
 ふと上を見ると、きれいな月が輝いていた。

残酷。
冷血。

 モアには、そんな言葉ばかりだ。なぜだろう。ずっと考えても答えは出てこなかった。