木漏れ日の中で |
作:尾瀬 駆 |
ここは木漏れ日の当たる場所だった。
いい具合に木の葉に遮られた日が心地よかった。
段々と一昨日より昨日、昨日より今日というように暖かくなってきている。
季節は春。の一歩手前。
家の近所の梅が白い花をたくさんつけていたと思う。
ふ〜と一息ため息をはいて、木の根っこに座り込んだ。
が、そこは寒かった。
上を見上げると、葉や枝が生い茂り、日の光をほぼ完璧に遮断してしまっていた。
もう一度立つのが面倒で、木漏れ日の場所まで這っていった。
暖かい。
心地よい。
まるで、母を思わせるかのように。
だが、直射日光より木漏れ日を心地よく思うのはなぜだろう?
思い当たるところがあって、少し気分が悪くなった。
そう多すぎる母の愛は子供にとって、苦痛でしかない。
太陽もそうなんだろう。
仰向けにねころんで、深呼吸した。
土の匂いがした。
もう何年も忘れていた匂い。
何もかも疲れてしまった。
母の期待にこたえることも、勉強詰めの生活にも。
一番よかった今でも思い出す、思い出。
――そう、幼い頃、家族で行ったキャンプ。
母の笑顔。そして、土の、自然の匂い。
その場所がここだった。
あの日、この場所で、優しかった頃の母と、一緒に遊んだ。
木の間を走り回って、追いかけっこして、でも、僕は幼くて、根っこに足をとられてこけてしまった。
泣いている僕に母は、暖かく笑って、男の子でしょ。泣いちゃだめよ。って。
ほら、見てごらん。痛みなんてなくなるから。って、僕の手を取って、立ち上がらせた。
静かに見る林は、ところどころから木漏れ日が出ていて、呼吸しているようだった。
そう、林は生きていたのだ。
そして、母を見上げると、後ろから木漏れ日に照らされて、女神様みたいで、そして、こう言うのだ。
痛みなんてなくなったでしょ?って。
だが、今日の僕には効かないらしい。豊かな木漏れ日の中で荒い息だけが聞こえる。
昨日の突然の死の宣告。
もうあと何時間の命だろう?
いきなり飛び出して、びっくりしてるかな母さん。
でも、ごめんよ。
今ごろになって反抗期みたいだ。
ごめん。
ごめん。
涙があふれてくるのが分かって、鼻水も出てきて、顔が熱くなった。
あふれては流れる涙もそのままにただ上を見つめていた。
死ぬってどんなだろう。
苦しくなければいいな。
そう、せめて死ぬときくらいは苦しまず。
楽しい思い出だけを抱いて………――。
そして、僕は、目を、瞑った。
あとがき
ここまで読んでくれたみなさん。ありがとうございます。
私のわがままにつきあってくれて光栄です。
この小説は、「GreenBird」って曲をイメージして書きました。
実は、カウボーイ○バップのサントラに入ったりしてますので、もし、あったならば聞いてください。今、浪人中なんですが、一つ投稿したいところがあって、それもがんばりたいと思います。出来上がったら、ここにも投稿して批評してもらえたらいいなと思う今日この頃です。ほんとにありがとうございました。