ラインアント争乱記 序章
作:ハルト





―ここでない場所―
―今ではないトキ―
―これはそんな世界の物語―

異世界「ラインアント」。
 この世界は、100年もの長きにわたり一つの国家によって統治されてきた・・・。
その国の名は「ボーリンデン」。
ボーリンデンは皇帝を最高権力者と崇める専制国家だ。
建国より100年を経た今でも強大な力を持ち、その国力は後50年以上無駄遣いをしても尽きることはないと言われている。

100年前、争いが絶えないラインアントの地を平定したボーリンデン一世は、自らが生まれた地を帝都とし、世界は争うのではなく協力していかなければならない。この世界をもう血で汚してはならないという意味を込め、国と帝都の名を世界の名称である「ラインアント」と名付けた。
ボーリンデン一世は民から愛され、最良の皇帝として今も歴史に名を輝かせている・・・。
ボーリンデン一世は独裁を好まず、議会によって法を定め、裁判によって罪人を裁かせた。
 しかし、そのボーリンデンの血も歴史の流れの中で変質していく・・・。
 
 その兆候が現れたのは、最高の皇帝の息子であるボーリンデン二世であった。
 彼は、幼いころから独りよがりに育てられた。そして帝位に着くと、自分の気に食わないものを弾圧し始め、弾圧の対象がいなくなった時、彼は絶対不可侵のボーリンデン帝国皇帝になってしまったのだ。
 国、そして帝都の名もいつの間にか「ボーリンデン」に変わり、ボーリンデン一世の精神は踏みにじられた。

ボーリンデン二世以降、良い皇帝がついに出現しなかった帝国の民は高い税率や食糧難によって、最低限の生活水準を守るのも精一杯になってしまった。
 
そして、10年前。ついに民衆は立ち上がった。
圧政に耐えかねた山岳地帯の都市のひとつである「アキテーヌ」が反旗を翻し、帝国軍の駐屯地を急襲。見事に帝国を撃退した。
ボーリンデン7世は激怒し「アキテーヌ」に対し、800人の兵で制圧作戦を展開する。
しかし、慣れない山岳地帯での行動で疲弊しきった軍は、アキテーヌ私兵団の土地勘を生かした完璧な奇襲作戦の前に壊滅。皇帝はこの結果を受け
「山岳地帯であるアキテーヌは、外部からの物資の補給が難しく、アキテーヌ自身も鉱山都市であり、食料の自給もしていないため、長期の反乱は不可能である」
とし、アキテーヌ攻略を断念する。
 しかし、この決断が裏目に出ることになる・・・。

アキテーヌ付近にある全ての都市が結託し、「反政府民衆連盟」を発足。
この動きを見て、各地で反乱が起き、地方都市のほとんどが「反政府民衆連盟」の傘下に入った・・・。

帝国と連盟の戦力比は6:4となり、ほぼ拮抗した。
兵の質で劣っていた連盟は、土地勘のある戦場を選ぶことでなんとか持ちこたえていた。

 しかし、帝国が編み出した新技術が勝利の天秤を帝国側へと傾けた。

―コア・クリスタル・ウェポン―
その技術はそう呼ばれた。
帝国は、コア・クリスタルという人格を投影した鉱石と、コア・クリスタルの人格を武器にトレースするための回路を作り上げたのだ。
 
―魂のある兵器―
 そう、下士官からは呼ばれた。しかし、コア・クリスタル・ウェポン(CCW)の真骨頂は魂ではなかった。
 CCWは人間の神経と精神と同調し、人間の直感力と身体能力を引き出す能力を持っていた。
 兵の質で勝っている帝国が戦線を盛り返すのも必然だった・・・。

しかし、勝利の女神はまだ血を欲していた。
CCUを開発した博士の離反・・・
 
 博士を迎えるために必死になる連盟と、技術が連盟に渡ることを食い止めようとする帝国・・・。

この世界の歴史でもっとも大きな戦乱の序章ともいえる戦いの幕が開いた・・・。