機械の翼を持つ少女
作:槇原想紙





 廃墟となった高層ビルの屋上に、一人の少女がいた。
 少女は小柄で、背中に機械の翼を生やしている。
 少女は屋上の手すりの外にもたれかかり、翼を大きく広げては、自分の体を包み込むという動作を繰り返し行っていた。
 僕は傍観者である。僕は少女にとって全く関係ないのだ。ただ道を歩いていた。そして気まぐれに空を見上げた時、ビルの屋上から手すりにもたれかかっている人影を見つけたのだ。僕は興味本位でこの屋上に来たのだ。だけど今は違う、少女の機械の翼を見た時、僕は少女がこのすさんだ束縛された世界から、青く澄みきった空の世界に自由を求めて羽ばたく少女の姿を見たくてたまらないのだ。
「あなたは……だれ………?」
 少女が僕のいる後ろへ振り向き、質問した。少女の黄金色の瞳に見据えられた時、僕の心臓は大きく跳ね上がった。
「僕は君の………あなたのその機械の翼で、空を羽ばたく姿を見届けに来た者です」
 少女は僕の返答にクスリと笑う。
「わたしはまだ、空を飛んだことはないわ」
「どうして?」
「空を飛ぶ勇気がないから。自由を求めて飛ぶはずなのに、羽ばたいた瞬間、闇に包み込まれてしまう恐怖を感じるの」
 少女は悲しそうに言う。そして静かに言った。
「今日はもう、やめにする…………」
 少女はそう言うと、屋上の中心まで歩いて座り込んだ。そして機械の翼で自分の体を包み込んだ。少女に温もりがあるのならば、その冷たい機械の翼に包み込まれた体は、安らぎを得る事ができるのだろうか。
「また、来るよ」
 僕は言って屋上を後にした。

 次の日、あいにく天気は雨だった。僕は少女のもとへ早く行きたかったが、いくらなんでも少女はこんな雨の中、空へと羽ばたこうとはしないだろう。故に僕は心を落ち着かせて、雨が止むのを家で待っていた。
 午後になり雨が止んだ。僕は廃墟となったビルへと向かう。
 ビルの階段を登っている途中、ボロボロの服を着た中年の男を見かけた。ここにすみついているホームレスだろうか。だけど僕にはそんな事は関係ない。今は少女のもとへ行かなければならないのだ。
 僕は最上階へと登りつくと、屋上の出入り口のドアを開けた。錆び付いてくすんだドアからは嫌な音が流れる。
 少女は昨日の様に、屋上の手すりの外にもたれかかっていた。昨日と違うといえば、少女が翼を閉じることなく大きく広げているという事だ。僕は空を見上げる。太陽は覆われた雲から顔を覗かせ、その日差しをスポットライトみたいに少女に浴びせていた。今の少女はまるで天使だ。
 少女は艶の良い黒髪から雫をしたたらせ、その雫が光を浴びて少女の美しさを更にひきたてていた。しかし少女の機械の翼が生えた背中から、血が滲み出していた。少女の着ている白いワンピースを赤く染めているのだ。成長する少女の体に翼が食い込み、少女を傷つけているのだ。
「わたし……飛ぶわ…………」
 少女は僕の方へ振り向かずに言った。恐怖をのりこえようとする少女の決意だった。
「そう………」
 僕は少女に言う。そして少女に背を向け、出入り口のドアの方へと向かう。
「わたしが空へ羽ばたく姿を、見届けるんじゃなかったの?」
「見届ける事に恐怖を感じたから、今の僕にあなたの姿を見届ける資格なんてないのさ」
「そう………」
 少女が同じように言った。
 僕は屋上のドアノブを回し、階段をゆっくりと降りはじめた。僕は少女の決意にたじろいでしまったのだ。このすさんだ束縛された世界に流されている僕には、少女を見続ける事ができなかったのだ。
 階段を降りている途中、又ホームレスらしき中年の男を見かけた。男は階段の壁に背中を預けて座り込んでいる。僕がすれ違おうとした時。
「あの娘、………飛んだかい?」
 おもむろに僕は立ち止まる。
「少女の事を知っているんですか?」
 僕の言葉に男は頷く。
「私の娘だ。娘は………飛んだのかい?」
 男は再度質問してきたので、僕ははいと頷いた。僕は実際に少女が飛ぶ姿を見たわけじゃない。だけど少女はきっと飛んだ。
「やっぱり飛んだのか………」
 男は大きく虚脱し、瞳から流れた涙が頬を濡らした。
「さっき見たんだ………あの娘が落ちていくところを…………」
「そうですか…………」
 男に軽く言葉を返し、僕は質問をする。
「どうして少女には、あの機械の翼が生えていたんですか?」
 僕の言葉に男は詳しく少女について話し始めた。
 この廃墟となったビルは、機械で造られた体を開発し製造する会社だった。事故や戦争で腕や足などを失った人達の生活に、支障をさせない為にだ。人の役に立てる為に進化した機械技術は、当時、その会社で機械技術の研究をしていた、この男の身勝手によって利用されてしまったのだ。
 男は自分の娘が青空へ羽ばたく姿を見たかったのだ。僕に似ている気がする。それとも男に僕が似ているのか。どっちか一つだ。男は少女に翼をつけた時、はじめて後悔した。その冷たい機械の翼に激しく後悔したのだ。
「君はダイヤを美しいと思うかい?」
 男のいきなりの質問に僕は頷く。
「だけどね、そのダイヤは人の手によって形を作られたんじゃないかな。人の手にいじられて、生まれた時の姿を失くされてしまったんじゃないのかな」
「何が言いたいんですか?」
「私は自分の娘に人工的な翼をつけてしまった。娘の生まれてきた姿に自分の身勝手で、鉄の飾りをつけてしまったのだよ」
 男はそれ以上、何も言わなかった。何も言えなかったのだ。
 僕は再び階段を降りはじめるが、ふと立ち止まり男の方へ振り向いた。
「少女は飛んだんです。このすさんだ世界から、青く澄みきった空へ自由を求めて」
 それは少女自身が望んだ事だから…………。

                    FIN















〜あとがき〜

 こんにちわぁ〜。槇原想紙こと、マッキィで〜す♪この作品が浮かんだのは、僕がシャワーを浴びている時に、頭から豆電球がピカッと光った作品です。なぜシャワーを浴びている時に発想が浮かんだのか、今でも意味不明です(笑)。シャワーを浴び終えた僕は布団のなかでくるまり、ペンとノートを持ってこの作品を書いてました(てかパソコンあるのに手書きかよ)。
 だいたい3時間で書いた作品です。そして描き終えて爆睡。朝起きて、ノートを見ると殴り書き。パソコンで文章を打ち込むのに一苦労でした。それはともかく、この作品は少し意味不明なところがあると思います。不思議な話を書こうとしたからです。それではこの辺でおひらきにさせてもらいます。