ミッドシップ・エンジェル 〜公道天使〜 3
作:清文





<SS12 : 一億円ということ>

 大川は気付くと、隣の女は頭をフロントサイドガラスへ強打し、大量の血を流していた。
 大川はシートベルトをはずし、外を回って助手席側へ。ドアを開いて女を抱き上げる。女はシートベルトをしていなかった。血だらけである。全身も強打しているらしい。
 大川は急いで女を破壊され尽くした店内の見つかりやすい場所へ横にする。そして傷だらけのMR−2へ足を急がせた。
 スターターボタンを連打。
 何度目かの試みでエンジンは奇跡的に息を吹き返す。
 大川は安堵した。
 今回の掛け金は一億。
 自分でようやく株式会社までにした物を全て奪われる。会社はまだまだこれからだ。店の修理代も、女の怪我も、社員の給料を下げれば楽にまかなえる。だが、キャノンボールで負け、ここで逮捕されれば一億はおろか、会社の信用すら失われる。そうすれば二度と会社は再生しないだろう。
 大川は女を捨てても、勝負を捨てるわけには行かなかった。

 第四CP「泉図書館前」は、地下鉄泉中央駅のすぐ傍。しかも仙台泉警察署のほぼ真裏という、キャノンボール・トライアルには不向きな場所に存在した。
 スタッフはエンジェルのボディーに四枚目のステッカーを貼る。
 今回のステッカーは、どうやら女の子ハムスターらしい。
「一体誰が決めたのよ、このチェックポイント」
「あと、ステッカーだね、小鳥」
「ギャラリーの何人かを選んで紙に場所を書いてもらって、後はくじ引きですよ」
「このステッカーは?」
「・・・さぁ。よしOKです。お二人とも。ではご武運を。“ミッドシップ・エンジェルス”」
「ご苦労様、ありがと」
 小鳥はゆっくり一速へギアを入れ、スタート。
 この周辺は仙台泉警察署の他にキャノンボーラの天敵、交通機動隊の拠点、県警交通機動隊基地がある。小鳥たちはそれを警戒し、基地の真横を通る国道35号線の一キロ前で仙台バイパスを下り、裏道を使い、法定速度で一つ手前の37号線へ合流。そのまま第三CPへたどり着いたのだ。
 再び37号線である仙台北環状線へ合流するまで、エンジェルの模範的安全運転は続く。
「あいつ、事故ったよね・・・大丈夫かなぁ、小鳥ぃ」
「シートベルトさえしていれば大丈夫よ。突然のダッシュだったけど、速度自体はたいしたことないし。ぶつかったとしても車両大破でオレたちは勝利。一億円はいただきだ」
「一億円? 何のこと?」
「ビットした掛け金だよ。バカか、オマエは。エイジの工場、それくらい借金あるんだろ?」
「あるけど・・・へ? 一億円!!! なぁ!・・・くぅぅぅ・・・」
 エイジは興奮し、痛みにわき腹を抑えた。小鳥と交わした「騒がない」という約束と、相次ぐ緊張のため耐えつづけられていた痛みも、一般速度による安堵感と前代未聞のビット額に戻ってくる。
「ででで・・・でも半分コだヨォ・・・いいや! ・・・そんな問題でも無い気が凄まじくするけど、兎に角! 賞金は半分コだよぉ!!」
「オレは要らねぇよ。数年後には、数億円って契約金を貰うことになるだろうしな」
「・・・F−1かル・マンでも出るって言っているの? 小鳥?」
「そりゃぁ出ちゃうだろ、オレなら。・・・出ちゃ悪いか?」
「・・・」
 相変わらず暴虐不尽な態度に、エイジは開いた口がふさがらない。気が付くと、痛みもどこかへ消えてしまっていた。


<SS13 : 勝利条件ということ>

 大川は女を捨て、周囲の混乱も無視してMR−2をスタートさせるも、即座に警察車両の追撃を受けた。
 大川のMR−2は只でも目立つ。その上事故で大きく外部を損傷している。
 即座に仙台バイパスを下り、裏道や一方通行を使いまくり、仙台北環状線そばの地下鉄八乙女駅近郊、パチンコ店駐車場奥に停車。
 大川はそこにMR−2を隠し、タクシーを拾って第三CP泉図書館前まで移動した。

 勝利条件はこうだ。

“決められたチェックポイント(CP)で得られるステッカーを順番にボンネットへ貼り、相手より早くゴールすること。CPさえ通過すれば、どんな経路を通っても構わない”

 つまり、CPを車で通過する必要は無く、ステッカーをボンネットにさえ貼っていればいいのだ。第三CPでは過去のステッカーをスタッフに確認させている。第五CPで全てそろっていればOKなのだ。
 当然、徒歩でCPへ現れても構わない。
 大川はとんぼ返りで八乙女駅までタクシーで戻り、ダメージを受けた外部をガムテープや針金で補習し、ハムスターのステッカーを貼った。
「おのれぇ・・・白雪小鳥!!!」

 大川は、ようやく仙台北環状線へ出撃。

 傷ついた荒れ馬は、即座に仙台北環状線へ乗り、四足を駆り立てる。
 大川にも小鳥たちが仙台バイパス以降を高速走行できないのは分かっている。事故と補修、仙台バイパスを4Kmほど使えなかった分を考慮に入れると、小鳥たちは既に仙台北環状線を突破し、国道48号線へ出たことは予想できた。
 急がなければならない。
 大川は、MR−2のブースト圧を更に引き上げた。


<SS14 : 迂回ということ>

「予想通り・・・星が消えた・・・」
「なんだって、エイジ」
「小鳥、すこしペースを落そう・・・」
「まだビビってんのかい? だらしないねぇ・・・」
「違うんだよ、小鳥」
 エンジェルは最も危惧していた強烈な登り直線である仙台北環状線を、追撃無しに通り抜け、国道48号線へ。その国道48号線も無難にクリア。457号線へ左折し、今は第五CPである秋保大滝へ向かう二口街道。
 457号線を過ぎると直線セクションは少なくなり、難易度の高い様々なコーナーが連続する。
 エンジェルの一番得意なセクションだ。

 最終第五CPのステッカーは、向日葵の種を持った極普通のハムスターだった。
 何事も無く最終CP秋保大滝駐車場を折り返したMR−2エンジェル。
「後は二口街道を戻って、秋保工芸の里まで行けばゴール、だね、小鳥」
「だめだ。457号へ戻って釜房湖までも戻り、秋保温泉川崎線へ入りなおす」
「遠回りだヨォ!!」
「情報だと、あそこで今日、交機が“キャノンボール狩り”やっているんだよぉ! 止められたら、最後だ。いいか、時間を貸せぎたいから全開でいく!! ぶっ飛ばすぞ!!」

 小鳥の口数は途端に減った。
 この遠回りは15Km以上の迂回である。クロス・ストリート・アタックのマージンはどれほど出来ているか分からない。万が一、情報が間違いであれば敗北も濃厚。コーナーリングとスタートは小鳥有利だが、直線セクションは技術的、馬力的にも大川有利なのだ。

 エンジェルは二口街道から再び457号線へ入り、釜房湖を目ざす。
 二口街道から釜房湖へ出る457号線は、テクニカルな部分と高速セクションの同居するワインディング。ただし、民家もあるので通報には気をつけねばならない。
「・・・ダンロップで良かった」
「へ、何が? 小鳥」
「雨だ」
 フロントウィンドウにつく水滴。
 水滴は瞬く間に視界を覆い、路面を濡らす。
 バンピーな路面は更にタイヤグリップを拒み、車を容易に走らせてはくれない。全開走行の難易度は飛躍的に増大。迂回経路を選んだエンジェルたちへ試練を与える。
「・・・小鳥、ペースを下げて」
 工場のことは諦めてもいい。エイジは小鳥の方が心配だった。
 もちろん小鳥の腕は最高と信じている。それでも過去のような事故はおきるのだ。ましてやレース後半の磨耗したタイヤで悪路ともいえる街道舗装路を100Kmオーバーのスピードで駆け抜けるのだ。何が起きても不思議ではない。エンジェルは直してあげられる。何度でも直してあげられる。
 でも・・・。
「負けられねぇ。エンジェルもやる気だ・・・いける!!」
 エンジェルの心臓は雄叫びを上げる。加速Gは遠慮無しにエイジへ圧し掛かった。
 風景は流れて闇となる。ヘッドライトに照らされるものは路面の水しぶき。
 エンジェルも小鳥も最高に「乗れて」いる。
 鞭打ちのエイジは、この雨が分かっていた。その為にタイヤを雨に強いダンロップ・デジタイヤにもした。マシンの整備だって全てした。エイジはエイジの出来ることをすべてやったのだ。あと、何を心配しよう。
 負けるはずは無い。ミッドシップ・エンジェルスが。
「うん、分かったよ」

 エンジェルは釜房湖へと踊り出た。


<SS15 : 天使は優しいということ>

「情報は正しかったようだ」
「何故?」
 釜房湖畔の直線160号線。
 バックミラーからパッシングを受ける。
 漆黒のMR−2だ。
 外装は大きく脱落し、ボンネットとリアは大きく凹んでいる。
「あながち二口街道を爆進中、交機に引っかかって286号線周辺を逃げ回り、振り切った後に釜房湖まで戻ってきた、ってところだな・・・うん、追跡はない」
 大川は事実、交通機動隊の最先鋭パトカーの追跡を受け、286号線で半ば強引に相手を振り切り、裏道を使用しながら釜房湖へ戻ってきていた。
 大川はクロス・ストリート・アタックのハンデを仙台北環状線、国道48号線の高速セクションで埋めていた。その最大速度は凄まじく、交通機動隊の取り締まりさえなければ、迂回していたエンジェルを出し抜き、勝利できていた。
 逆に小鳥たちが二口街道を使っていても、交通機動隊に追われるのは小鳥たち。奴は勝利していた。迂回路の選択は正しかったのだ。
 傷ついた黒き荒れ馬の心臓は、既に最大馬力まで引き出されており、加速力はエンジェルなど相手にしない。
 釜房湖の直線路を、エンジェルを尻目に抜き去っていく。
「直線は上手い・・・雨天であのダメージなのに流石だ。だが、隣に乗せていた女はどうした? それに、この違和感・・・なにだ?」
「見えたの!? 中まで!? ボクみえなかったよぉ〜〜」
 
 二台のMR−2は数百メートルの格差で秋保街道川口線へ進入。
 スタート直後、全開で駆け下りたワインディング・ロードだ。今回は侵入ルートが逆になるので、強烈な登りを駆け上る形になる。
 登りの勝負はパワー差をはっきりと現わす。
 下りでは武器だった自由落下が、登りでは凶器になるのだ。
 三叉路を抜け、黒いMR−2はハイスピードコーナーを駆け上がる。
 差を詰め、追うエンジェル。
「加速はキツイ・・・だが、やっぱりだ! 前ほど脅威じゃない!」
「パワーを上げ過ぎてエンジンが“ダレて”きたんだ。あれじゃぁ、標準設定の馬力も出ないよ。エンジェルは大丈夫!! 行けるよ!!」
 このコーナーあと訪れるのは急激な右カーブ。
 大きく手前でブレーキングする大川に対して、ギリギリまでブレーキランプを点灯させない小鳥。
 コーナー出口で二台の格差は一気に縮んだ。
「奴め、タイヤもイかれたか。その上この雨。コーナーでもスピードを稼げていない!」
 もともとハイ・グリップタイヤの磨耗率は高い。その上大馬力での加速で大幅にタイヤを酷使している。限界に近いタイヤの上へ降り注いだ雨。タイヤダメージは、チューンドMR−2のパワーをもて遊ばせるほかない。
 対して小鳥たちのタイヤは、対磨耗性、雨天のグリップ能力をウリとする。それに小鳥の綿密な走行により磨耗を最小限に抑えられ、雨の中でも強力なコーナーリング性能と駆動力を今だにエンジェルへ与えてくれる。
 連続するJコーナー。
 あらゆる武器を失った大川のMR−2と、全ての武器を温存するMR−2エンジェル。
 数百メートルの格差はテール・トゥ・ノーズにまで詰められていた。

「頂上・・・オレたちの勝ちだ」
 秋保工芸の里までは、あとキツイS字コーナひとつのみ。しかも下りだ。コーナーリングにおいてはあらゆる観点からエンジェルに有利。
 アクセルを踏み切り、エンジェルの鼻先を敵真横へ突っ込ませる小鳥。
 抜かれるのを恐れた大川は、更にアクセルを踏み込んで突き放しに掛かる。スタミナの切れた黒馬は、悲鳴のような爆音を響かせた。
 目前にはタイトな左急カーブ。
「バカ!! オーバースピード!!」
 
 車はアクセルさえ開ければ速く走れる。
 しかし高い速度では決して曲がらない。
 世界最高のメカニックがどれほどの時間をかけても、この法則は決して変えられない。
 減りきったタイヤにアクセルの踏みすぎ。
 ましてや空力を失った手負いの車になど、不可能なことだった。

 漆黒のMR−2はスピンを起こしながら、コーナーを無視して真っ直ぐガードレールへ飛び込んでいこうとする。余りに無謀な速度での進入だ。命の保証は出来ない。
「くそったれぇ!!」
 突如、エンジェルのブースト圧が高まった。
 コーナーへ猛然と加速を始めるエンジェル。
 目の前には黒のMR−2。
「ああ!! 小鳥ぃ!!」
 エンジェルのノーズは黒のMR−2へヒット。
 傷ついた漆黒の荒れ馬は、左カーブ脱出方向へコマのように回転して行く。
 ボンネットを大きく歪ませたエンジェルも回転を始め、ガードレールへ運転席サイドへ直撃。逆回転しながら黒馬を追いかける。
「これでぇ!!」
 小鳥はハンドルをこまめに捌きながら、黒馬の回転に合わせて再び運転席サイドを平行にぶつけ合わせた。
 互いの回転はエネルギーを奪い合い、第二カーブにあるセーフティの砂利へ乗り上げる。
 雑木林の直前で、二台の車は停車した。
「・・・ミッション・イン・ポッシブル」
「・・・へ?」
「携帯の着信音・・・絶対に変えよう・・・」
「なに? 小鳥? 生きてる? イデデ・・・ボク死ぬかも・・・」
 小鳥はエンジェルをバックさせ、大川のMR−2前で再び停車。扉を開けようとするも、歪み切って出られない。
 仕方がないので痛がるエイジを無理矢理下ろし、助手側の席から外へ出た小鳥は、ゆっくりと漆黒のMR−2へ歩み寄った。
 中を覗き込むと、大川は四点式シートベルトに守られながら気絶している。
「さぁて、エイジ。フロントガラス壊すから脱出用ハンマー持ってきてくれ。奴を出すぞ」
「う・・・うん」
 ハンマーを受け取り、ガラスを壊して大川を車から引きずり出す小鳥。
 歪んだエンジェルの雨に濡れたボンネットへ下ろし、状態を診断する。
 気絶のみで骨折、出血等の外傷は見当たらない。ただ頭部の問題だけは分からなかった。
「・・・女は何処かで捨ててきたようだな・・・おい、エイジ。トランクを開けろ。こいつを突っ込む。こいつの仲間へさっさと渡してしまおうぜ」
「うん・・・でもさぁ」
「あぁ」
「小鳥は優しいね」
「はぁ!?」
 エイジはトランクを開けながら小鳥の顔を覗いた。
 小雨となった雨の中、トランクへ大川を押し込む小鳥の頬は赤い。
 エイジは滅多に見られない小鳥の顔に苦笑した。
「だって、大川の命を助けたじゃない」
「だ、誰がぁ!?」
「コーナーで加速したの、大川のスピン方向を変えさせるためだろ。コマ回しの縄と同じ原理でさ」
 硬直する小鳥。
 エイジは小鳥の動向を楽しんでいた。
 昔から小鳥は優しい。どんな時だって小鳥はエイジの味方だった。今回だってエイジを助けに来てくれた。ワークス・レーサーの地位を脅かされても。その上、敵である大川まで命を賭けて助けたのだ。
 ぶっきらぼうで、乱暴で、口は悪いけど、とても優しく、強い人。
 これが、エイジの愛する「白雪小鳥」という女性だった。
「・・・突然エンジェルが加速してさぁ。ビックリしたなぁ! 一時はどうなるかと思ったよ・・・。オレが天才だったから良かったものの、ヘタしたら死んでいたな」
 小鳥の棒読み。
 エイジは更に失笑。
 車はアクセルを踏まなければ加速しない。車が急に走り出すことはないのだ。
「アクセル踏まなきゃタービン回んないよ」
「だぁ、かぁ、らぁ! 急にエンジェルが加速したんだ!! だから助けたのはエンジェルだ!! オレは手を貸しただけ!!」そして小声でこう付け足す。「・・・エンジェルが、優しいんだよ・・・」
 MR−2エンジェルを一番良く知っているのは小鳥。
 きっと、小鳥はエンジェルの声を聞いたのだ。
 “助けてあげて”って、優しい小鳥だけに聞こえる天使の声を。
「・・・そうだね。前にも僕らを守ってくれたモンね。そうかぁ、エンジェルが急に加速したんだぁ・・・そうかぁ・・・」
「そうだよ。オレはこんな女だしなぁ!!」
 手には小切手へ押されるはずの印鑑。大川の胸ポケットから無断で拝借したものだ。小鳥はさも当然のように小切手へ判を押す。
 小鳥は破顔した。


<最終SS : 天使もあきれるということ>

 
「いらない!!」
「貰っとけ!!」
「だからいらない!!」
「てめぇ、オレの言うことが聞けねぇってのかぁ!!」
 雨も収まり、朝日の昇る秋保・工芸の里駐車場。
 ゴールへ堂々の凱旋を果たしていた「ミッドシップ・エンジェルス」は口論の真っ只中だった。
 爆笑しながらそれを見つめるのは無数の走り屋。
 大川は仲間に連れられ病院へ向かった。尻尾を巻いて逃げるようなチームの態度は、今まで虐げられてきた他の走り屋たちには痛快だった。
「オレは天才だからすぐに稼げるが、エイジみたいな凡人には一生働いたって手に入らない金だぁ!! 施してやるから受けとりゃァいいんだよぉ!!」
「言っておくけどねぇ、小鳥。エンジェルを直して、整備して、セッティング決めて、万全の態勢を作ったのはボクだ!! 第一、ボクだって働けば借金くらい何時か返せる!!」
「・・・エイジが大川どもに捕まらなければ、こんなことは無かったのにな・・・」
「一億円も手に入らなかったよ!!」
「だから、折角手に入ったんだから貰っとけってんだ。分かってないなぁ!」
「山分けだよ! 山分け!!」
 話題の中心は小切手。
 昔は二で割って、エンジェルの整備費は割勘であったが、今までとは状況が違う。
 エイジには借金もあるが意地もある。小鳥はレースで多額の賞金を既に得ている。
 二人の人生は、過去の事故以来、道は大きく分かれてしまっていた。
 でも、天使のくれた一億円は、奇跡のアイテム。
「・・・じゃぁ、”二人のもの”だったら、いいんだな」
「ああ!! そうさ!!」
 小鳥はエイジの胸倉を掴むと、強引にエンジェルの傍まで引きずった。
 そして、唇へキス。
 今度はエイジが硬直する番だった。
「オレはいつまでもエイジのお守をしなきゃナンねぇのかァ・・・チェ。オマエが主夫だからな」
「あ・・・うん・・・」
 真紅の天使はやわらかく、マフラーでため息をついた。


<了>















<あとがき>

本来自分の中に封印していた「公道マシン・アクション」でしたが、
「やんごとなき事情」の為にあえて今回だけ、この封印を破ってみました。

本当は、この倍ほどあったのですがね。マニアックすぎるので割愛しました。

地味なドライブテクニックの応酬は避け、
誰にでも分かりやすいカーバトルを心がけたつもりです。
「ウンチクを斜め読みしても読める話」になってましたでしょうか?

やっぱり自動車ものはムズいです。
読んでくれた方、心から感謝いたします。

ちなみに:
清文の知っている中で、別々の車両を切り貼りして車体剛性が以前より良くなったという車は聞いた事がありません。
ここは物語重視にしてしまった点を車好きの方々にお詫びします。

追伸:
この小説を、命を助けてくれた友人に捧げたいと思います。
・・・しっかし、六ヶ月に二回も死にかけるかぁ!? 私ぃ!?