最後のお楽しみ 第4話
作:緑





第4話 色々とあれからの事……なんて!?(実はそれだけ)
 
 
 
 
 はっ!
 
「―学校! 遅刻する!」
 
 目を覚まして、一気に心拍数を上げてしまってから気が付く。
 ……今日は創立記念日じゃん……。
 ちゅうことは、学校はお休みだ。
 んで、さらに言うなら、明日一日行けば、もう夏休みだ。
 大体遅刻しそうになるまで寝てたら、家の誰かが起こしてくれる筈だし。
 はああ。ダメだねー。
 なんか、色々有って。訳解んなくなっちゃってる。
 ただでさえ頭の回転は速いほうじゃないのに。
 
 ―あれからね。
 本当に色々有ったの。
 翔のパーは、あたしが、泣きながら部屋に帰った後で、あのコを帰らせた。
 今更、って感じだった。
 二人はケンカしたみたい。
 ううん、違う。一方的に美佳ちゃん(あのコ)が泣き喚いてたように聞こえた。
 翔が何を言ったのかは知らないけど。
 隣の部屋っていったって、全部筒抜けな訳じゃないから。
 ちなみに今日は、一週間後の金曜日。
 翔は、美佳ちゃんを帰らせた後で、あたしの部屋をノックした。
 もう6時前位にはなってた。
 それだけ美佳ちゃんとケンカしたんだね。
 そしてあたしは。
 
「聞こえないよ」
 
 とドア越しに答えた。
 そしたら翔は、諦めたように、その場で―あたしの部屋の前で―喋り始めた。
 まず初めに一言。
 
「ごめん」
 
 それから始まって。
 あのコの名前が「尾崎美佳」である事や、あたしの見た制服のとおり、近くの女子高(私立華院高校という)の、生徒である事など。
 良く解らないけど、彼女と「そういう関係」になったのもしょうがないって言われた。
 彼女の事が、あたしのせいだとも。
 
「……遥ちゃん」
 
 ドア越しに聞こえる愛しい人の声。
 飛び出したかったけど、我慢する事にした。
 
「…………」
 
 余りにも理不尽だもん。
 あたしは翔に「そういう事」を求められて拒否したわけじゃない。
 いや、求められたら拒否しない……と思う。
 
「こんなコト言っても信じてもらえないかもしれないけど」
 
 それなのに他のコと寝て、「あたしのせい」って、それはおかしいでしょ?
 
「…………」
 
「俺の気持ちは嘘じゃないから。遥ちゃんに言ったのは、全部嘘じゃないから」
 
「…………だから…………?」
 
「一生傍に居れるかは解らないけど。俺は遥ちゃんの事が……」
 
「やめて!」
 
 そこで、あたしは翔の言葉を遮ったの。
 今それを聞いてしまったら、あたしはダメになる。
 翔がした事を認めてしまう。
 そう思って。
 もしかしたら、誰にでも優しい事が、正しい事かもしれないけど。
 その優しさはどこか間違っていて、ただ人を傷付けるだけで。
 そんな関係を認めちゃいけない。
 
「遥ちゃん!」
 
 翔があたしの名前を呼んだ。
 
「聞きたくないの! ここから消えてよ!! 今すぐ!」
 
「遥! 最後まで話を……」
 
 ピンポーン。ピン、ポーン。
 
 二人がヒートアップしてきた頃。
 タイミングよく両親が帰ってきた。
 自分でドアを開けられないのか。酔ってるか、買い物をしてきたのか。
 もしかしたら、新聞の集金とかかもしれないと思ったけど。
 時間的には、ママとお父さんでまず間違いなかった。
 
「……翔、開けて、って言ってるよ」
 
「そんなの放っとけばいい」
 
 ピンポーン。
 
「出なよ」
 
 ピンポーン。
 
「遥の方が大事だ」
 
「…………」
 
「遥は多分、今の自分の事が解ってないんだ。俺も最初は驚いたけど……それでも遥が居てくれるなら良いって……」
 
 ガチャ。
 
 あたしは部屋のドアを開けて、目の前にいる翔を突き飛ばして、走って、階段を下りて、右手に有る玄関へと向かったんだ。
 
 ガチャ。
 
 確かめもせずに家の鍵を開けて、ドアを開けた。
 ママだった。
 案の定、会社帰りに買いものしてきたみたい。
 両手はスーパーの袋で一杯だった。
 顔も凄い疲れてる。
 いや、やつれてる、のかな?
 
「!!?」
 
 あたしをじろじろ見るママ。
 珍しくあたしが出てきたことに驚いたのかな?
 目を丸くしてる。
 それとも、目が赤いのがばれた?
 
「あたし手伝うよ」
 
 ママの目を見ずに言った。
 あたしの細い腕じゃ、持てる量もたかが知れてるけど。
 翔を呼びに行く気にはならなかった。
 
「?」
 
 ママは何も答えなかった。
 
 ―そして今日に至るんだ。
 あれから翔とは必要最低限のコト以外は話していない。
 美佳ちゃんも家には来ていないが、一度だけ、電話が有った。
 立ち聞きなんてしたくないし、あたしはすぐにその場(居間)を去った。
 もう、翔とはダメになっちゃうかも知れない。
 あたしにも先の事はわからない。
 あたしは翔が好きで、翔もあたしが好きって言ってくれる。
 でも、翔は……。
 ……あたしは、今日何かが起こるって事を、直感してた。
 ううん。体が知ってた、って言ってもいい。
 だから。
 
 ピンポーン。
 
 ―きっと今日美佳ちゃんがうちに来る事も解ってたんだ―