最後のお楽しみ 第6話 |
作:緑 |
第6話 あたしとあんたは……!?
ああ。
翔の唇の感覚……。
――3回目じゃ、ない。
解った。
思い出したの。
何回も、何回も、繰り返し、繰り返ししたね。
初めて会ったその日に。その次の日に。さらにその次の日に。
突き放したのは、あたしだ。
あたしが、『あたし』のジャマをしたんだ……。
あたしは、かなた。
――遥じゃない。正確には、遥だけど、『遥』じゃない。
『かなた』っていうのは、翔と、遥と、あたしの間だけでの呼び名。
『はるか』と『かなた』で、語呂がいいから、あたしが勝手に決めた。
今キスしたのは、遥。
あたし達は、二人で一人……。
そして。
非常に残念だけど……。
翔が好きなのは、『遥』だ……。
何回も、何回も言ってたのに……。
『遥』が大事だって――『かなた』なんて大事じゃない――って。
美佳ちゃんのことは、あたしがずっと表に出てたからだね……。
『かなた』が――あたしが、ジャマなんでしょ?
翔は、あたしに消えて欲しかったんだ。
弟に恋愛感情なんて抱けません、って、いいコのフリが形になったもの……。エゴの奥――スパーエゴ(超自我)って奴。
それが、『かなた』の全て。
――それなのに。
あたしが、翔を好きになって、どうするんだろう?
――そしたら。
あたしの存在価値なんて無いじゃないか。
翔は、『遥』が好きなのに。
あたしは、翔の為なら、消えてもいいのに。
そう。また、元に戻るだけ。
いつかのように――コールタールの海で……ずっと沈んでいればいい。
あたしは、翔には二度と会えなくなるけど……。
あたしの流す涙には、誰も気付かない。
だから……泣いてないのと一緒。
あたしのことは、誰もが忘れていく。
だから……最初からいなかったってこと。
悲しいけど。
泣きたいけど。
残念ながら、今は涙腺さえあたしには使えないんだ。
ごめんね。遥。
あたし……何で自己嫌悪ばっかりしてたか、わかったわ。
怒らないで聞いてね。
あたしはね。
あんたが嫌いだったの。
いっつも楽しそうにしてて……隣には翔がいて。
自分で、自分に嫉妬してたのよ。
おかしな話よね。
いくら嫌いな所を数えても、それは全部そのまま『かなた』のことにもなる。
ずいぶん長い間……閉じ込めちゃったね。
あたしは、もういいから。気にしないで。
あんたはさ……いつあたしに乗っ取られるか、ってビビってたけどさ。
あたしには、無くすもんないし。
翔は、あんたのよ。
三度目の正直、だね。
お姫様は――王子様のキスで目を覚ましたの。
だから……お姫様を眠らせた魔女は……一人で消えるだけ。
ばいばい。
遥。
ちょっとあんたのこと、羨ましいな……。
あたしは、そっと目を閉じ――
れなかった。
(ぼけええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!)
――なななな何!? なんなの??
(勝手に『寝る』んじゃないわよアホアホアホアホ!! このオタンコナス!)
――オ、オタ……!?
(さんざん好き勝手してくれて……人のオトコに手を出したかと思ったら、取られてんじゃないわよ!! このバカ娘!!)
――バ、バカ娘……!?
(あんた、あたしに借りも返さないつもり!!)
――消えてあげるって言ってるでしょ!! 翔はあんたのなんだから、それでいいじゃない!!
(いつ翔が、あんたのこと嫌いって言ったのよ!)
――翔は……『遥』が好きなのよ!
(だから何でそういうことになるのよ! あんたん中には『好き』と『嫌い』しかないの? 結構いいな……とか無いわけ!? やっぱり『ちょうじがぁ〜』だからとか言って、良識派気取ってるわけ!?)
――そ、そんなことない!
(ど〜〜〜だかねえ!『あたしはいいコ』がモットーのつまらない女の代表みたいなくせに!! それと言っとくけどね!! あんた――翔に好かれてるわよ)
――嘘よ! 翔が好きなのは『遥』だもん!!
(アホ! アホアホアホ!! あんたほんっとおおおおおにアホ! 救い難い!! 解ってないいいいいいいいいいい!!!!)
――解ってるわよ! 全部!!
(解ってないったら、ない!!)
――解ってる!! 翔は、『遥』が好きなのよ!!
(あんたねえ、ホントアホ!! 正直に生きてるアニマルなあたしの方が解ってるってど〜いう事なのよ!!)
――だから、何が解ってないっていうのよ!!
(翔が好きなのは誰!)
――『遥』!
(あんたは誰!)
――『かなた』!
(アホアホアホアホアホアホ! まだ解ってないわけ!! あんたはね――遥よ!!)
――『遥』は、あんたでしょ!
(それが間違いだっつうの! あたし達は――二人で遥なの! お分かり? 便宜上の呼び名にいつまでもこだわってんじゃないわよ!! このサル!! 翔は、遥が好きなのよ? あたしの一部であるあんたが、嫌いなわけ無いでしょ!!)
――でも!
(アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアぐだぐだぐだぐだぐだねちねちねちねち……言い訳するなあっ!)
――うるさいっ!
(うるさいのはあんたよ! この頭でっかち!!)
――頭でっかちですって!
(そうよ、このアホアホ王国の第三皇女!! 浜辺でビーチサンダルはいてろ!! 犬のうんこマン!! 女だからうんこウーマン!! この……!)
――下品よ!!
(そういうのが頭でっかちなのよ!! 下品? 結構じゃない! 何回言ったら解るのよ! アホでイイのよ!? そんなに楽なこと無いじゃない! 好き勝手やりゃいいのよ! 誰だってね! いじいじいじいじ悩んでるより、よっぽどマシよ! お分かり!? 何で弟が好きだったら我慢しなきゃいけないのよ!! 何で彼女がいたら、身を引かなきゃいけないのよ!! バカじゃないの!? 自分がやりたいようにやるのよ! 選択権はあたしに有るの!! もちろん、あんただって一緒よ!! あんたは――誰が好きなのよ!)
――翔……よ。
(解ってんじゃない、このペチャパイ!!!!)
――あ、あんたも一緒でしょおおおお!!
(それが解ってんなら問題ないわよ!! ばかなた!!――もう一人の、あたし!! いい!? これは命令だから、よく聞きなさい!!)
――な、何よ!?
(あんたが翔を取られたんだから、あんたが取り返しなさい!!)
――へ?
(あたしは、もっと萌え萌えになってから復活するから!!)
――あんた・……それでいいの!?
(めんどくさいの嫌いなのよ!!)
――でも、でもねえ!?
(この条件になんの文句が有るって言うの!! 心配しないでも、あんたが見事落としたら、週一回くらい『変わって』あげるわよ!!)
――で……でも!!
(うるさあああああああああああああああああああい!!)
――は、遥……!?
(あんたはね! 考えすぎだから!! 言いから言われた通りにしなさい!!)
――…………。
(きいてんの!!)
――…………。
(解った!?)
――うん。
(よし! それでオッケエ!! じゃ、お休み!)
――ちょ、ちょっと待って!
(何よ!)
――あたし、頑張るから……! 頑張って、翔に好きになってもらえるように、努力するから……!!
(あんたなら、大丈夫よ。何せ……『あんた』は『あたし』なんだからね!)
――あ、ありがと。
(ふん!)
――そして……。
あたしは、目を開いた。
当然のように、まだキスしている状態だ。
昂揚感もないけど、もう悲しいなんて気にはならなかった。
安心する。こうしてると。
これから、何があるかは解らない。
明日は見えない。
でも。
もう迷わない。
そこには、翔が居るから。
END
あとがき
終わりましたあ! ついに完結です!
長い間かかりました……他の物を書いていたので、実際の執筆時間は少ないんですが(爆)。出版社投稿用のもので、現在、原稿用紙126枚分――やっと5分の2といった所です。もしかしたら公開するかもしれません。
さて。『最後のお楽しみ』ですが……。
こんなにも徹底的に話が崩れたのは初めてです。
『幽霊でも遥ちゃんが好きなんだ!』っていう名ゼリフはお蔵入りだぁね(爆)。
まあ……言い訳がましくなるんで多くは語りませんが。
文章はともかくとして、私は『遥』が結構好きでした。
これから翔と遥は色々有りながらも、結局は一緒に居ると思います。
何せ好き合っているんですからね。問題ないっす。まさに『それが全部よ。それだけ』です。
今まで、お読みになってくださった方ありがとうございます。
それでは……。緑でした。