血脈と誇り(後編)
作:緑





 未婚のまま母が孕んだ翠の姉、葵(あおい)。
 男に捨てられた悲しみからか、母はいつも葵にあたった。
 そして、数年後、葵の見ている前で、母は新しい男で二人目の娘を孕んだ。
 それが翠だった。
 二人目―いや、それすら定かではないが―の男とはそれなりに長続きしたようだった。
 しかし、その間も母は葵を疎んだ。
 葵は前の男の娘。
 自然と手が葵に向かう。
 ―虐待を受け続けた葵の鬱憤は内向的に発散されたのかもしれない。
 幼い体のまま、葵は面白いくらい病んでいった。
 深層世界に住んでいる葵。
「コレ」は本当の母ではないと何度思った事だろう。
 この血を何度忌まわしいと思った事か!
 翠が憎い。
 翠が憎い。
 あまりにも憎くて、もう訳が解らない。
 葵は良く翠の面倒を見た。遊ぶと称しては、翠を徹底的にいじめ抜いた。
 上手くいたぶれずに、血塗れになってしまった事も有った。
 そして、母は益々そんな葵を傷付けた。
 鬼の様な形相で実子を殴る母。
 その子供は種違いの妹を殴る。
 男は、やがて、耐え切れずにその家を出て行った。
 まるで、地獄のような家だったからかもしれない。
 

 生活の糧が無い一家。
 しょうがなく生きるために「お屋敷」に住み込む事になった母。
 無論、葵は孤児院に置いていった。
 最早、男の為ではない。
 既に母自身が葵を疎んでいた。
 

 そして。
 昔から、新しいものには目が無い四郎。
 また、甘やかされて育ったからから四郎は情に脆い事があったのかもしれない。
 彼が母に騙されるのは当然だった。
 その時四郎はもう既に髪の毛が真っ白になってしまうほどの年頃だった。
 自分と四郎の子供というには、翠は大きすぎる。
 また、若い娘にうつつを抜かす息子というのもこの家ではまずいかもしれない。
 翠がこの家の者になるための苦しい言い訳だった。
 翠は、四郎の孫という事にされた。
 偶然にも四郎には死んでしまった息子がいたから。
 それが、四郎の父に解らないわけが無かった。
 

 翠は、この全てを解っているわけではなかったが、幼いなりに理解していたようだ。
「葵……。あんたあれから、どうしてたの?」
 翠が姉に尋ねた。
「孤児院ってね」
 見当違いの答え。いぶかしげな翠を無視し、
「中学を卒業されるとすぐに追い出されるの。解る?」
「うん」
 翠が頷く。
「あら、喋り方まで変わるのね。可愛かったのに。何にも知らないキレイな翠ちゃん」
 舐め回すように葵が話す。
「私は必死で、あんたたちを探したわ。そして」
「…………」
「私はこの家にたどり着いたの。あの女も良くやったと思わない? 貴方は旧家のお嬢様よ? 可笑しいじゃない。私はその家の使用人だもの。何にも知らないあんたを見て、何も出来ないまま」
「葵……」
 何かを言おうとするがそれは喉に張り付いて言葉にならなかった。
「あたしはね。今でもあんた達親子が憎いわ」
「……ごめん」
 翠はうなだれる。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
 そんな翠を見て葵が笑う。
 気持ちの悪い笑いだった。気が狂ってる者独特の。
 目がうつろなのに、物凄い汗をかいている。
 突然、葵が振り向いた。
 宝物庫の剣を握り締めていた。
「死んで」
 
 
 
 
 
 
 
 翠の意識が沈んでいく
 
 
 
 
 
 
 
 ―おにさんこちらてのなるほうへ……
 
 鬼はいつも姉だった。
 頭がおかしかった。
 翠が生まれた頃には狂っていた。
 壊れていた。完璧に。
 
 それは今も変わらない
 
 
 
 薄れていく意識の中で、翠は
 
 今年
 
 自分が二十歳になるから皆が集まったのかもしれないと思った
 
 
 四郎の為に恐らく本家の物は口を閉ざしてくれていた?
 
 
 
 あんなにいとおしく思っていた母が
 
 酷く滑稽な生き物に思えて……
 
 だんだんだんだん
 
 
 
 いしきがふかくなって
 
 
 
 うみのそこで
 
 
 
 くらくらしてる
 
 
 
 ふらふらもしてる
 
 
 
 まるでゆめをみてるみたいで
 
 
 
 ぴくぴくしたむねから
 
 
 
 あんなにいやだったちがぜんぶでてくのをかんじたけど
 
 
 
 そんなのほんとはぜんぶうそで
 
 
 
 みどりのちは
 
 
 
 このおうちのじゃなかったから。
 
 
 
 あんなにいやだったのに
 
 
 
 このおうちのほんとのこどもだったらよかったって、おもうなんて
 
 
 
 ぴくぴくぴくぴく
 
 
 
 ぴくぴくしたむねから
 
 
 
 まっかなちがぜんぶでてくのをかんじたけど
 
 
 
 どんなにぴくぴく
 
 
 
 ちがながれたって
 
 
 
 おにはまだ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後書き

 ひらがなばっかですいませんな緑です!
 あんまりにもこの話が淡々としててつまらなく、このまま終わらせたらアホみたいなんで、翠ちゃんを殺してみました。
 物凄い説明だけな文章になっちゃうじゃないですか。
 かなり唐突です。
 いきなり死んで、ですからね。
 他の作品ではこんな舐めた真似はしないつもりですので、どうか見捨てないで下さい(笑)。
 きっとこれを読んだ人はいやな気がするだろうなあ……。
 こんなもん書いてすみません。
「最後のお楽しみ」ではかなり明るくおばかちゃんしてるつもりですので、せめてあっちでこっちの暗さをカバーする所存です。
 はあ……。
 とにかく終わってくれてよかった……。