旅の料理人 話の伍 皇帝に仕える者
作:みのやん




話の伍 皇帝に仕える者





 『皇帝陛下歓迎大料理大会』といったようなことを書かれた幟が風に揺れる。この時期、こうして西から吹いてくる風は、どこか山の香りがするようでもある。
 シャオロンとパイランは、旅の時の荷物をそのまま持ち、大会の開かれる街の中央『降竜広場』へとやって来た。広場はざっと見回してもかなりの広さがあり、皇帝の鎮座する専用の高台もすでに用意されている。本来ならば収穫の直前に豊作の神である竜神を祭る場所なのだが、皇帝ともなれば神も同然である。ここを使うことには、そういったことも含まれているのだった。
 さて、シャオロンとパイランはさっそく与えられた調理台へとついた。袋から各々の包丁を出し、調理場に用意されている鍋などの位置を確認した。
「さて、今日はお前の正念場だからな。俺はあくまで補佐に回る。遠慮せずに命令していいぞ」
「そうさせてもらう。なにしろ予想以上の人数が出場しているからな。早く作った方が勝ちだ。皇帝陛下が満腹になってしまっては、いくらうまいものを作っても元も子もなくなってしまう」
「そうだな。ま、今日は本当に本気でやんねえと。なにしろ俺達にこの街の未来がかかってるからな……大袈裟な話だが」
「いや、大袈裟ではない。今現在この街の有様がこうなっているということは、これからもこのままだということだ。どこかで誰かが変えなければいけない。私はその時が今、この時だと思っている。違うか、親父?」
 パイランの真剣な瞳に曇りはない。あまりの真剣さに、シャオロンは身震いする思いですらあった。そしてもちろん否定などしない。同じ思いを抱くものとして、ゆっくりと首を縦に振った。
「……俺も同じ思いだ。お前一人で背負うわけじゃねえんだから、もうちっと落ち着いて行こうや。そんなに気張ってると、思っても見ねえ失敗しちまうぜ」
 シャオロンは片目を瞑ってそう言うと、娘を励ますように、その肩に手を乗せた。パイランは、父の手とは暖かく心強いものだと再確認したような気さえした。
「……頼りにしている、親父」
 いつも邪険にしている父にそんな感情を持ったことが恥ずかしかったのか、いくらか顔を赤らめたパイランは目を伏せてそれだけ言った。後はいつも通りのパイランに戻る。
「任せろって。俺だってこう見えても凄腕だぞ? まあ自称、かも知れねえけどな」
 二人の問答をよそに、銅鑼の音が広場中に鳴り響いた。集まっている全員が銅鑼の音の出所、台座の上に視線を向けた。そこには未だ若き皇帝、ホン皇帝の姿があった。年の頃はまだ三十にも満たない。若く、聡明に見える新皇帝である。
 皇帝がイスに座ると、この大会の主催者である役人が皇帝の前に跪いた。
「ようこそおいでくださいました、皇帝陛下。この度はささやかながら趣向を凝らした料理大会を開催しますので、存分にお楽しみくださいませ」
「そう固くならずともよい。皆の気持ちだけで、私は嬉しく思っている」
「ははっ、ありがたきお言葉で御座います。ではさっそく始めさせていただきます」
 役人の言葉と共に、もう一度銅鑼が鳴り響いた。そして高らかに課題が叫ばれる。
「明日の本戦に出場できるのは三店のみ! その選抜のために点心を作ってもらう。食材、調理法は一切問わん! 皇帝陛下が御満足されるような品を作った者が勝ち残れる! では始めよ!」
 そして銅鑼が三度鳴り、大会予選は始まった。さっそくパイランとシャオロンは食料置き場へと走る。
「さて、俺はなにを作ればいい?」
「親父は鹹点心を頼む。私は甜点心を作る」
 パイランはそう言うと食材置き場の果物に手を伸ばす。取ったものは苺に藍苺(ブルーベリー)、そして杏である。
「いや、鹹点心って言われてもなぁ……言っとくがそう難しいもんは作れねえぞ?」
「それなら母を口説いた焼売でも作ればいい。他に作りたい物があったら作っても構わないが?」
「おいおい、いい加減な指示だなぁ。ま、それならそれで楽なんだがな」
「大丈夫だろう。話に聞いていた焼売ならば充分なはずだ。私の想像では、な。私の想像力をがっかりさせないような焼売を作ってくれ」
 そしてパイランは自分の仕事に没頭する。シャオロンも仕方なしに焼売に取りかかった。
 そして半刻ほど。あっという間に焼売を作り終えたシャオロンは、未だ完成しない娘の料理を見て、もう一品追加することにした。餃子や饅頭くらいならば作れる自信があったからだ。
「……さて、なにを使って作るかな……と」
 シャオロンは食材置き場をふらふらと歩き回り、ふとある物に目を留めた。それはシャオロンの中で閃きを呼び、一瞬のうちに実行に移されることとなった。
「へっへっへ、こいつぁパイランも驚くぞ。世界初の試みだろうな、きっと」
 シャオロンは自信満々の笑顔で食材置き場を去っていく。そして今までいたのは豚肉置き場であった。
 シャオロンは持ってきた材料を細かく刻んで上スープで煮込む。そして今度は豚赤身肉を細かく刻み、よく練っておく。
「へっへっへ、そんじゃあ仕上げと行くか!」
 シャオロンは袖をまくり上げると、一気に仕上げにかかる。あらかじめこねておいた饅頭の皮で具を包む。具とは、今練った赤身肉と、先ほど煮ていたスープである。ちなみにスープは冷えてにこごり状に固まっている。そう、煮込んでいたのは豚の皮であったのだ。豚の皮に含まれている大量のゼラチン質がスープに流れ出て、それが冷やされたことによって固まったのである。
「こいつを蒸して、出来上がり、と。さて、パイランのほうはどうかな?」
 シャオロンは蒸し器から手を離してパイランの方を振り返る。するとそこには、素晴らしい物が出来上がっていた。



 パイランは食材置き場から取ってきた三種の果物を細かく刻み、砂糖を加えて一つずつ鍋で煮込んだ。こうしてできるのは、三種の果醤(果物から作ったジャム)である。
「三種の果物から三種の果醤、か。これなら久々に良い物ができそうだ。ふふ、親父の驚く顔が目に浮かぶようだ」
 パイランは頭の中でシャオロンの驚く顔を思い浮かべ、つい吹き出してしまった。まあ仕方がないだろう。この親子はお互いに驚かし合うことでコミュニケーションを取っているのだから。
「さて、皮の用意をしておくか」
 そう言ってパイランは小麦粉を水で溶き始める。普通の餃子の皮などとは違って、かなり水っぽく溶いていく。そして荷物から出した鍋を火にかけ、その上におたまで薄く小麦粉水をひき、焼き上げる。これで極薄の皮の出来上がりである。どうやら春巻きのような物ができるようだ。
「よし。さっさと仕上げてしまうとするか」
 パイランは三種の果醤を一種類ずつ皮で巻き、高温の油でさっと揚げた。たったのこれで出来上がりである。
「よし、これで三色果醤脆皮の完成だ」
 パイランは仕事を終えてシャオロンの方を向く。すると、ちょうど向こうも終わったらしく眼が合った。
「終わったのか、親父?」
「おう! なかなかの出来映えだぜ」
「そうか。で、焼売だけなのか、作ったのは?」
 パイランの言葉にシャオロンは、にやっと顔をほころばせた。いかにも待ってましたと言わんばかりの表情だ。
「へっへー、なんともう一つ、小さい肉饅頭も作ってある。こいつがまた……へへへ」
「なんだ? 怪しい笑いだな?」
「わかるか? 実はな、こいつにはもの凄い仕掛けがしてあるんだよ。食ったら最後、驚くわうまいわでもう止まらねえぞ」
 と、シャオロンはここまで来て大事なことに気付いた。いくら見事な料理を作っても、自分達は皇帝の所まで料理を持って行けないということにだ。なにしろ二人は役人に追われる身なので目立ったことはできない。そんな二人が皇帝の御前まで料理を運べるはずがない。これには頭を抱えてしまった。
「いけねえ、忘れてたぜ。ちょっとコウリンの爺さんかコウハを呼んでくる。危なくいつもの調子で持って行くところだったぜ」
「早くしてくれよ。一番乗りはもう栄華楼に取られているのだからな」
 シャオロンは頷いて、調理場を駆け出ていった。パイランはこれを良いことに、なんとシャオロンの料理に手を伸ばした。まあ料理人としての性がそうさせたのだろう。余りがあったのもその理由の一つになるのかもしれないが。
「これは……なるほど知らずに食べたら確かに驚くな。煮込んだのは豚の皮か? それであんを固めたのか……これはまったく新しい料理だな。世紀の大発明だ」
 パイランがそう手放しで評価していると、ふと背後に気配を感じた。そう、シャオロンである。
「へへへ、誉めたな、今?」
「……ああ。良い料理だ。味もいいし、なにより面白い。悔しいがこれは私には真似できない素晴らしい点心だ」
 パイランは悔しさをありありと見せながらそう誉めた。シャオロンの方はもう嬉しくてたまらないという表情になる。
「いよぉし! これなら予選通過間違いなしだよな? お前の方もうまく行ってるんだろう?」
「ああ、もちろんだ。で、誰を呼んできた?」
「ああ、爺さんが行くってよ。今、来る」
 そうしてコウリンが来るのを待つ。その間にも続々と挑戦者が皇帝の前に集まり、二人は肝を冷やしていた。
 そしてようやくコウリンが来たときには、すでに二人目の通過者が出ていた。
「すまん、着替えに手間取ってな」
「だあぁぁっ! 着替えなんざどうでもいいんだよ! さっさと持ってってくれ!」
「わかっておるよ。で、いったいどういった点心を作ったんじゃ?」
 こうしてようやくシャオロン達の料理は皇帝の食するところとなった。



 料理を老料理人、コウリンに差し出された皇帝は、すでに満腹近くなっていた。なにしろ集まっている店の数は計り知れない。それだけ多くの料理を味見しなければいけないということでもあるのだから。
「皇帝陛下、これが我が南鱗酒家の特製料理、三賢点心共和(鹹甜点心盛り合わせ)で御座います」
「そうか。ではさっそく頂こう」
 コウリンはまず鹹点心の皿を差し出した。乗っているのは二種の点心。
「ほう、焼売と饅頭か。どんな味になっているのか楽しみだな」
 皇帝はまず焼売に手を伸ばす。シャオロン自慢の、愛のカニ焼売である。
「……ほう、これはいいぞ。カニのうまみを余すことなく詰め込まれた、素晴らしい焼売だ。皮にもカニ肉を練り込んである。素晴らしい仕事だ」
 皇帝は手放しで誉めた。あまりのうまさに、満腹感もどこへやら、といった風である。
「さて、ではこの饅頭も頂こうか」
 皇帝は小さな肉饅頭を取り、一口で口に放り込んだ。そしていきなり目をかあっと見開いた。おまけにイスから立ち上がる。
「……っはあ! こ、これは……?」
 なんとも言葉にならないうめきと共に、皇帝は喉と口を押さえている。慌てた侍従達はそそくさと皇帝のまわりを取り囲む。が、皇帝はそれを片手で押し留めた。
「これは……中から熱いスープがほとばしって……なんという味わい、なんという驚き、そしてなんという創造力か……」
 皇帝はあまりの驚きに立ちあがった自分をはっと気付いたように見下ろし、慌てて座り直した。判定人たる自分の不甲斐なさを感じたのだろう。
「しかし……これは嬉しい奇襲だ。これまで食べてきた餃子や饅頭の既成概念を覆す新たな点心。口の中がぼそぼそとしがちな饅頭で、これほど潤うものかと疑ってしまうような瑞々しい饅頭。それがこれだ。して老人、これはなんと申す料理であるか?」
「は、名前……でございますか?」
 これにはコウリンも慌ててしまう。なにしろこの料理の名前など、打ち合わせでもまったく決めていなかったのだ。仕方なくコウリンは、ただ思うままの名前を口にした。しかしそれは、まさしくこの料理にふさわしい名であった。
「この料理、名を小龍包と申します」
「ほう、小龍包とな? なるほど、龍を見たも同じ驚きを私はこの饅頭に感じた。ふむ、確かにふさわしい名であるな」
 実際はただ単に小龍(シャオロン)が作ったことから名を決めたのだが、どうやら皇帝はいいように解釈したらしい。そしてコウリンもあえて深くは追求しなかった。
「さて、ではこちらの春巻も頂こうか。しかしまた随分と小さな春巻だな? これがいったいどんな味に仕上がっているのやら、この小龍包の後だけに期待してしまうな」
 皇帝は出された春巻きを一つかじってみた。そしてぱっと表情を明るくさせる。
「ほう、これは甜点心か! 春巻で甜点心とは、これは意表をつかれたものだ! 中身は苺を砂糖で煮詰めたものか。苺の果醤入り春巻、というわけか」
「この春巻の名は三色果醤脆皮で御座います。他の二色もお召し上がりください」
「ほう、まだ二つの食材を使っていると?」
 コウリンの言葉に、残りの春巻へと手を伸ばす皇帝。そして、次の春巻を口にして、今度は目を見開いて驚いた。手元には三つ目の春巻も持っている。
「これは、藍苺か! それにこっちは……むおっ! 杏の果醤! 甘み豊かで野性味溢れるこの三種の果物をあんとしたこの春巻、他に類を見ぬうまさだ! ……南鱗酒家、完成度の高いカニ焼売、新たな試みの小龍包、そして鹹点心である春巻の常識を覆した甜点心三色果醤脆皮、見事であった! ここに予選通過を認める!」
 会場が一気に沸いた。見物の一般客達も味わいたい一心を懸命にこらえて、その気持ちを声の大きさであらわしている。
 その様子を見ていたシャオロン達も、お互いに顔を見合わせて胸を撫で下ろしていた。
「おしっ! 予選は通過だな」
「まあ当然だな。親父と私で普通の料理人などに負けるものか」
 自信のみなぎったパイランの言葉は頼もしくもあり、叉危険でもあるような気がしてならない。シャオロンはそう感じた。
『慢心こそが最大の敵。これは料理にも戦にも、なんにでも言えることだ』
 シャオロン達は師匠からそう教わった。そのことをパイランは忘れてしまったのだろうか?
「……パイラン、お前……」
 シャオロンがたしなめようとするが、パイランはふっと笑ってそれを制した。
「わかっている。冗談だ」
「……それならいいんだが……」
 シャオロンはどうも小馬鹿にされた感を拭いきれないような表情で黙り込んでしまう。そしてパイランの方はしてやったりという顔になっている。
「安心していい。少なくとも師匠の言葉を忘れたりはしない」
「脅かすなって……」
 シャオロンはほっと胸をなで下ろし、笑顔の娘を抱きしめた。溢れんばかりの親子愛だが、当の娘は懸命に嫌がった。
「こ、こらっ! 恥ずかしいだろうが! いいかげんにしろ、馬鹿親父!」
「なにもやましいことなんかねえんだからいいじゃねえか。俺達は親子だぞ?」
「うるさいっ! やましいことがなくてこんなことをするかっ! いいからさっさと放せ!」
 パイランはどうしたことか、完全に顔を赤らめている。これが良いことなのか、悪いことなのか、まったく判断はつかなかったが。



 とりあえずこうして予選は終了した。通過したのは大本命の栄華楼、そしてシャオロン率いる南鱗酒家。と、ここまでは予想から大きく外れてはいない。しかし三つ目の通過は……。
「帝都からわざわざ出向いた香稜館、か。まさか帝都からこの道のりを来るとはなぁ。あそこの主、ウーユワンはよっぽど俺が嫌いなのか、いつも俺に着いて回ってたからな。多分あれ、俺が都からいなくなったのを聞いて追っかけてきたんだぜ」
「まあ確かにあの男は親父を気に入っていたようだからな。いつもつきまとわれていたのは覚えている」
 パイランもようやくいつもの調子に戻ってシャオロンを冷やかした。途端に嫌そうな顔になるシャオロン。わかりやすい男である。
「……しかしあいつぁ厄介だな。栄華楼どころの話じゃねえぞ。あいつ、腕だけなら確かに俺らに匹敵するからな」
「望んでもいない第三勢力が登場、か。これはもう親父のせいだな。なんとかしろ、親父」
 シャオロンもそう言われて頭を抱えてしまう。が、それもすぐに解決してしまった。本戦では勝ち抜いた三組のほかに天帝食医が参加して、二組ずつの勝ち抜き形式だということだったからだ。つまり、トーナメント制である。これならば、ウーユワンとは最悪でも一度顔を合わせるだけで済む。
「はあ、なんとか助かりそうだな。こんな所で捕まっちまったら……なあ?」
「まったくだ。せっかく逃げ出したというのに。こうなったら意地でも逃げ続けてやるか」
「……まあそれは明日の話だからな。その時考えればいいさ。とりあえず今日のところは帰ろうぜ。長居をしてると厄介事に巻き込まれるかもしれねえからな」
 シャオロンはそう言って娘の腕を掴むと、人目を避けるように広場を出ていった。
 そして陽は落ち夜は更ける……。





 二人はコウリン一家と待ち合わせて夕食を食べるために、待ち合わせの小さな酒場に入った。こういうところは素性を隠すものにとって絶好の場所だからである。が、今回はどこかおかしい。なにか、違和感があったのだ。
「……親父、なんだかおかしな感じがしないか? どう考えても客が少なすぎる」
 そう、この酒場には客が二人しか見あたらない。それも隅の方で小さくなっている二人連れがいるだけだ。
「おっかしいな? この前はもっと客がいたんだがなぁ」
「ふむ、なら聞いてみるか」
 パイランは隅にいる客に近付いて話しかけようとした、が、そばまで行ったところでいきなり飛びすさった。珍しく大きな反応である。
「まずいっ! 親父、追っ手の兵士だ!」
「なに?」
 シャオロンも身構えたが、あっという間に人が、至るところから集まってきて二人を取り囲んでしまう。これにはさすがの二人とも苦い顔になる。
「とうとう見つけましたぞ、シャオロン殿、パイラン殿。もう逃げ回るのもここまでにしていただく!」
 大声でそう叫びながら、二階への階段から降りてくる人物が一人。シャオロン達はその人物を見て顔を引きつらせる。間違いなく厄介な追っ手と出会ってしまったことを認めたのだ。
「いよぉ、カクヨウの旦那か。遠いところを出張ってくるとは、まだまだお若いな」
 そんな嫌味を言ってみせるシャオロン。しかしどう見ても相手の登場を望んではいない。
「申し訳ありませぬが、わしもまだ御心配に及ぶような身分ではありませぬ。天帝食医たるあなた方は皇帝陛下の御身のみ案じておられればよろしい」
「いや、案じてるんだぜ。もう心の底から案じてるって」
 そう言うシャオロンの横ではパイランもうんうんと頷いている。
「黙らっしゃい! 御二人なき後、ご子息がどれほど大変な目に合われているか想像できないわけでもなかろうに!」
 もはや敬語もなにもあったものではない言葉で、カクヨウ老人が叫ぶ。
「だからあいつも一緒に逃げるかって聞いたんだがなあ。責任感の強い息子だよ、まったく」
「あなた方に無さ過ぎるのです! もう少し御自分たちの立場を……」
 そこまでいったところで、またも闖入者が現れた。コウリン一家である。待ち合わせをしていたことが、完全に裏目へと出てしまったようだ。これでは話がややこしいことになる。そう思ったシャオロン達は囲みを破って逃げ出した。コウリン達を強引に連れて。
 そして向かったのは南鱗酒家。やっと着いたときにはすでに辺りは真っ暗になっていた。
「いったいどうしたと言うんじゃ? 先ほどの連中、あれは国軍の?」
「……まあ、追っ手……かな? 実は俺達、追われる身でね」
「……なにをしでかしたと言うのじゃ、いったい?」
 シャオロンもパイランも顔を見合わせる。話すべきときではないような気がしたからだ。しかしコウリンもまったく引こうとしない。これでは話が進まないと、しょうがなく話すことにした。自分達の身の上を。
「……親父さん、まあ落ち着いて聞いてくれ。俺達はなにも悪いことをしでかしたわけじゃあない。 ……っと、まあ仕事場から逃げ出したのは悪いことかもしれねえがな。とにかくそれだけなんだ。ただ運悪く、その仕事場っていうのが普通じゃない」
「……あこぎな仕事なのか?」
「だから違うって。俺達は……その……なんだ、なあ?」
 シャオロンはどうも言い辛いようで、パイランの方に助けを求めた。すると愛娘は、やれやれといった風にシャオロンの言葉を続ける。
「私達は、皇帝のための御食事を作る役に就いていました。その中でも限られたもの、天帝食医五天に私達は入っています。父、シャオロンは青龍天。私は朱雀天。そして兄は白虎天として皇帝陛下に仕えていたのです」
 パイランの言葉にコウリン一家の皆が沈黙した。まさか昔の知り合いがそんな大それた人物になっているだなどと、いったい誰に予想できるだろうか。
「て、天帝食医? 皇帝陛下の御食事の類を一手に任せられているという、あの?」
「……まあ、そうかな。俺達はそこからちょいと逃げ出してきてね。なにしろ機密機密ってうるさくて。ちょっと旅に出ようと思っても許可が下りないんで、そんじゃま〜逃げちまうかって……」
 あっけらかんとシャオロンは言ったが、コウリンは開いた口が塞がらない思いだった。どこの世界にそんなことを許可する王朝があるだろうか。皇帝の毎日の食事を作る食医は、常に皇帝の身体を考えた食事を作る。つまり、医食同源を地で行っているのだ。そのために、皇帝の毎日の具合、病気、その他諸々を知っているということになる。そのため、王朝でも最高機密部署扱いになっているのだ。そこを逃げ出してきたと言うのだから、それは追われて当然である。
「まったく、なんという奴じゃ。そんなに重要な役に就きながら、なにが旅をしたいだか……」
「そうは言うけどな、親父さん。俺達料理人は常日頃から新しい料理を創り出すことを考え、また失われつつある古い料理を受け継ぐことも大事でしょう? それをやろうとして、こうなっちまったわけですよ。それに天帝食医なんて言ったところで、まだ他に三人もいるんだから別に騒ぐようなこともないと思うんだがなぁ?」
「まあそのために兄貴を置いてきたのだからな。なんとかなっていなくては困る」
 頷き合う薄情な父娘。これは本当に薄情極まりない台詞だった。
「……まったく、この親にしてこの娘あり、じゃな。しかしまあ、どうするんじゃ? 先ほどの様子では本気でお前さん達を追っておるじゃろうに?」
「そこなんだがな、まあ明日の本戦はなんとか出場しねえとまずい。しかし俺達の面はわれてる。となるとだ、やっぱりここは、あれしかないだろうな?」
「……あれ、というのは……非常に嫌な予感がするな?」
 パイランは父の言葉に眉をひそめた。さすがに十八年間の付き合いは伊達ではない。このあたりは勘にも似た働きがあるのだろう。
「気は進まねえが仕方ねえだろ?」
「……まったく、親父といると厄介事ばかりだな」
「そう言うなって。楽しくていいだろうが?」
 シャオロンはその、パイランの嫌がるなにかさえ楽しんでいる様子でにかっと笑った。パイランにはなぜここで笑えるのか理解できなかったが、とにかく明日の行動は決まったらしい。ため息をつきながら馬鹿な父親から目をそらし窓の外に目をやると、すでに見事な月が昇っていた。





 料理大会本戦当日の朝は、人また人で街中が溢れ返っていた。集まってきたのは街の住人だけではなく、国中からも腕に覚えのある料理人達が集まっていた。なにしろ皇帝自らが試食する料理大会など前代未聞であったのだ。皇帝を一目見ようとする者、皇帝が食する料理を見ようとする者、そして皇帝に料理を食してもらおうとする者、色々な人間が集まっていた。今日のチャンナンには。
 そしてシャオロン達。シャオロン達は今……着替えていた。いつもとは違う服装に。
「……本当にこれで出場する気か、親父?」
「当然だろ? なんか料理するのに支障でもあんのか?」
「……いや、動きに支障はない。しかし……私の精神的に支障がある」
 パイランの不服そうな声が室内に響く。確実に悪い機嫌が、かなりの割合で伝わってくる声である。
「しかし……なぜ私がこんな事を……」
「そりゃあお前、せっかく俺が久々に自慢の息子を連れて逃げるっつったときにくっついて来ちまうからだよなぁ、きっと。おまけに孝行息子には気を使って逃げられちまうし、散々だ。 ……まったく、お前は父親っ子だからなぁ」
 シャオロンの嬉しそうな声。が、それもパイランの不機嫌な声に制されてしまう。
「馬鹿を言うな。私は兄貴に頼まれて仕方なく着いて来たんだぞ。勘違いされてははなはだ迷惑だ。第一、親父と兄貴二人の後を私一人で埋められるわけがないだろうが。どちらか片方だけならともかく、二人まとめて消えられては不可能だ。私は兄貴ほど器用ではない」
「……もう少し言葉を選んでくれりゃあな、お前もいい女なのに」
 話はここで途切れた。二人を迎えに大会関係者が来たようだ。そして二人は部屋を出ていく。皇帝以下要人が集まる料理大会会場へと。



 会場は大いに沸いていた。恐らくここ最近で、もっとも盛大な料理大会がここに始まろうとしている。
 皇帝の片腕である補佐官のワンエンが皇帝の座の真横から一歩足を踏み出し、高らかに本戦の調理内容を宣言する。
「決勝大会第一戦、組み合わせは……栄華楼対南鱗酒家と決定した! 調理内容は……一切の自由料理とする! 食材、調理法、品数は一切問わん! 各々、自分がもっとも自信を持って出せる料理を作るがよい!」
 予選のときと同じく、銅鑼が高々と打ち鳴らされる。それに合わせて調理人達は一斉に食材置き場へと走るが、今回は大柄な女と細身の男が自分達の調理台の前から動こうとしない。その調理台の横にはどこから引っ張り出してきたのか、『南鱗酒家』と書かれた幟も立てられている。
「……親父、なにもそこまでしなくても、充分女に見えると思うが?」
 髪を結い上げて頭に布を巻いた男装パイランが、隣の不気味なほどに厚化粧をしているシャオロンを見上げた。しかしそのシャオロンは、いくらなんでも背が高すぎる。どう見ても女性には見えないが、顔だけ見ればかなり様になっている。シャオロンもいい歳のくせに、恐ろしい男だ。
「馬鹿、やるなら徹底的にだぜ……いや、でしょ?」
 しなをつくってそう言うシャオロンは、客席くらいから見ていれば可愛らしいかも知れないが、隣のパイランには不気味以外の何物でもなかった。客席から死角になっているのを確認して、思わず肘鉄を入れてしまうパイラン。いきなりの攻撃に、シャオロンもよろめく。
「くっ……死角を確認してからのこの攻撃、お前……腕を上げやがったな?」
「知ったことか。 ……ところで、親父はなにを作る? 私はもう決まっているが?」
「おいおい、一番自信のある物ならもう決まってるようなもんじゃねえか?」
「……なるほど、私と同じ考えか。しかしまさか、皇帝陛下に出したことはないだろうな? 昔食されていたとしたらすぐにばれてしまうぞ?」
 パイランの目が鋭く皇帝の方に向けられる。その皇帝は他の料理人達の調理を、興味津々で眺めていた。
「……あの御方の料理に対する記憶力は侮れない。絶対に覚えていると断言できるぞ?」
「それは言えてるな。この前だって、二ヶ月前の料理と同じ物を出したら言われちまってよ、まったく参ったぜ」
「……さて、無駄口もこれまでだ。時間がなくなる」
「おう、ここからは自分との戦いだ。くれぐれも……」
「妥協はするな、だな?」
 パイランが目を細めてシャオロンを見る。シャオロンも口元を緩めてそれに頷いた。以心伝心ここに極まれり、である。 ……女装なので気色は悪かったが。
 そして二人は食材置き場へと走る。最後の料理の開始である。



 栄華楼料理長のテンリョウは、大皿料理で定評のある男である。しかしその悪辣なまでの腕の振るい方が災いしてか、評判はすこぶる悪い。一言で彼をあらわすならば『性格が最悪な最高の料理人』と言ったところである。彼の料理によって不幸になった人間は数知れない。彼の料理と味勝負をして土地を取られた料理人、彼自慢の毒膳料理(毒入り料理)で倒れてしまった良家の主、そして店の金を持ち逃げされた料理店など、本当に数え切れないほどだ。
 そのテンリョウが、今はこの街を不幸に陥れようとしている。そう、その締めとなる料理がこの『富貴鶏』であった。
 まず丸鶏を醤油、砂糖、胡椒などに漬け込む。すり込むよりもよく味がなじむのだ。
 次に豚肉、シイタケ、タケノコ、ネギ、ショウガなどを細かく切って炒め、鶏の腹に詰め込む。そして蓮の葉でくるみ、粘土でまわりを覆ってしまう。このまま火の中に放り込んで数刻。たったこれだけの料理である。
「ふっふっふ、大皿料理ならばこの私に敵う者などいるはずがない。なにしろ私は……ふふふ」
 不気味な笑いを浮かべつつ、テンリョウの料理は早々に終わった。三人の中で一番早かったのは言うまでもないことであろう。



 シャオロンは、まず魚置き場へと走る。向かった魚置き場には、巨大な水槽がいくつか並んでいて、どうやら水槽ごとに種類の違う魚が入っているらしい。
「……こいつは海水魚の水槽か。じゃあ……おっ! いるいる」
 シャオロンが覗き込んだ水槽の中には、どうやら魚以外のものが入っているらしい。なにやらくねくねと細長い影や、底の方をゆっくりと動く影も見える。
「さてと、こいつで俺の……もとい、私の料理は決まりよ!」
 シャオロンは慣れない女言葉でそう言い、水槽の底から数匹の硬そうな影、巨大なエビを引き上げた。
「さぁ、見せ場はここからよ! おほほほほ!」
 恐ろしい光景である。女装した男の高笑い。はっきり言って、真後ろで料理しているパイランなどは背筋が凍る思いだっただろう。
 その恐ろしい当人は、張り切ってエビをさばき始める。
 まずエビの頭と胴体の境目に包丁を入れ、身を切り離す。流れるような動きでたくさんのエビの頭を切り取る。次に胴体の殻と身を切り分け、殻の方をさっと湯通しした。それによって赤黒い殻がさっと朱に染まる。盛りつけたときの見栄えを良くするための手法である。
「さて、こいつの準備は終わり。次は……あいつだな」
 そしてシャオロンは、またも水槽の方へと向かう。どうやら使う食材は巨大なエビだけではないらしい。
「へっへっへ、こいつは驚くぜぇ〜」
 すでに女言葉さえも忘れたシャオロンが、水槽に腕を突っ込み豪快になにかを掴みだした。それは、大きなウナギであった。
「おしっ! このウナギとエビで最高の料理を作ってやるぜ!」
 勢い込んだシャオロンはばたばたと調理台へと帰っていく。
 そしてさっそくウナギに目打ちをし、腹の方に包丁を入れて一気にさばく。さばいた身の皮の部分にはあらかじめ用意しておいた熱い湯をかけ、包丁の背でぬめりをこそげ落とす。一度水洗いした後、背ビレを切り取ってやる。そしてなにもつけずに下焼きしてやることで、ウナギが本来持っている脂っこさをすべて取り除いた。これで下ごしらえは終了だ。
「さてと、次は……」
 今度は調理台の上を広くあけ、小麦粉を大量にあける。その頂上をへこませ、卵、水、そしてカン水を入れる。カン水を混ぜた麺のタネは、普通のものとは比べものにならない腰を出す。それにより、普通より細く、長い麺を作ることができるのだ。
「へっへっへ、一丁やってやるかぁ!」
 シャオロンは腕をまくり筋肉質な腕をむき出しにする。とても女性の腕には見えないが、観客席が遠いのが幸いしたようだ。未だ正体には誰も気付いていない。
 シャオロンは小麦粉の山を豪快に混ぜ始める。卵を潰し、まんべんなく混ぜてやるうちにだんだんとひとまとまりになってきた。未熟な腕だとこうはいかないのだが、シャオロンやパイランのような腕前になってくると、この程度のことは目を瞑っていてもできるようになる。まあ実際に目を瞑ってやったことはないだろうが。
 ひとまとまりになった小麦粉を、打ち粉をしたまな板の上に置いて、手にも打ち粉をからめると、一気に左右に引っ張り延ばしてやる。二度、三度と繰り返すうちにだんだんと麺の形になっていく。やがて本数は四千九十二本にまでなる。これは天帝食医の中でもシャオロンのみができる芸当である。パイランも麺は打てるが、せいぜい五百十二本までだ。やはりそういうところでも腕の差は出てしまうものなのだ。力の入れ具合、延ばすときの角度、そして手首のひねりや腰の入れ具合など、差が出る要素はいくらでもあるのだ。
 延ばし終えた麺を台の上に置くと、一気に麺が縮んでいく。自らの持つ腰の強さに、麺自身が耐えきれなくなったのだ。恐らくこの麺は、その細さからは想像もできないような弾力があるに違いない。
「よし、じゃあ一気に仕上げまで持っていくか!」
 最後に用意するのは熱した油。それに、たった今打ったばかりの麺、名付けて龍髭麺を放り込む。一気に膨れ上がるそれは、まるで生き物かと錯覚するほどでもある。そして揚がった龍髭麺は、巨大な皿の上へ平らに乗せられる。
 次に鍋を熱し、一度油をなじませる。そしてその油は捨ててしまい、新たに炒め用の油を入れる。これは鍋を焦げ付かなくするための技法である。
 そして先ほどの揚げ油を火にかけたまま、ウナギと巨大なエビに片栗粉をまぶして油通しする。これも調理技法の一つである。こういった調理技法、つまり基礎を確実にこなすことで料理の味は格段に上がる。それを忘れるようでは一流の料理人ではない。
 最後に炒め用に用意した先ほどの鍋で、ネギとショウガ、ニンニクを炒める。そして香りが出たらウナギとエビを一気に入れてやる。やはりこうした方が香り良く仕上がるのだ。後は強火で煽り、紹興酒、トウバンジャン、テンメンジャン、醤油、砂糖、胡麻油などで味付けをして完了。先ほどの龍髭麺の上に乗せ、最後に殻をかぶせて巨大なエビの形に戻してやる。
「よし! 青龍天シャオロン特製、青龍翔雲の完成だ!」
 こうして出来上がった青龍翔雲(エビとウナギの辛み炒めシャオロン風)。極限まで細く仕上げられた龍髭麺の雲の上を、龍を模したエビが駆けているようだ。
 実のところ、この料理は天帝食医の役に就くにあたって開かれた試験の時に作った料理でもあった。が、その時は現皇帝の前代だったので、ホン皇帝は知らないはずである。
「よし、俺の方はできたぜ、パイラン!」
 シャオロンはいつになく長い裾をはためかせ、パイランの方を振り向いた。



 調理開始の合図と共に食材置き場へと走ったパイランは、まず乾物へと手を伸ばした。乾貨と呼ばれて高価な乾物の中でも、群を抜いて高価と言われているフカヒレ、乾アワビ、乾ナマコ、海燕の巣、豚のアキレス腱、白キクラゲ、そして衣笠茸の七つを手に取り持っているカゴの中に放り込む。そして野菜をまたも数多く取り、調理台へと戻る。いつもと違う男の格好だが、別に普段から裾をひらつかせているわけでもなく、ただ頭に巻いた布が増えただけのようなものだ。動きに支障はない。
「さて、親父もいい調子で作っているようだからな。私も負けてはいられない」
 パイランは乾貨、いわゆる乾物を使うのだが、通常乾物は水に漬け込んだり油通ししたりして柔らかく戻さなくては使えないものだ。しかし今回は、大会主催者側が気を利かせたようですでに柔らかく戻されている。これで調理時間はぐっと減るが、それでもまだ気は抜けない。そういう料理を作るのだ。そして表情もいつもに増した、引き締まったものへと変わる。
「……よしっ! 本気で行くぞ!」
 気合い一閃! パイランはさっそく調理に取りかかる。と、客席の方からなにやら可愛らしい声援が聞こえてきた。どうやら若い娘達のようである。パイランは、やはり複雑な気持ちではあったが一応手を挙げて応えておいた。これを見て勘違いした娘もいたのだが、そんなことは知る由もない。しかしながらパイランの男装は様になりすぎている。娘達がその気になるのも無理はない。なにせ端から見たのでは美男子に見えるのだから。
「……どうもやる気を削がれるな。女性に人気があるのも困る」
 パイランは独り、苦笑しながら調理に取りかかった。
「まずは下ごしらえだな」
 パイランはさっそく皿を一枚用意し、セイロの準備もする。そして更に、水で戻されているフカヒレを乗せると、ネギ、ショウガ、酒、そして水をかけてセイロに入れる。
 そして次に湯を沸かし、やはりネギとショウガ、酒を加える。その中にナマコとを入れ、下ゆでした。
「相変わらず手間のかかる料理だ。年に一度作ろうと思えば良い方だな」
 パイランはようやく鍋を用意し、油を馴染ませておく。このあたりは、やはりさすがに天帝食医である。シャオロンと同じく基礎をおろそかにはしない。
「よし、ここからは一気に行かねばな」
 パイランはさっそく戻されていた乾アワビを、その戻し汁ごと蒸してやる。そして温まるまでにたれを作る。
 戻し汁やカキ油、砂糖と醤油で味付けし、片栗粉でとろみをつける。そして温まったアワビの上にかけてやる。これで一品出来上がり。見ているだけならば至極簡単なものである。が、作る方にしてみれば分量や火の入れ具合など、冷や汗が出そうなところが山ほどある。
「とにかく紅焼乾鮑(乾しアワビの煮込み)の完成だな」
 パイランはそれを大皿の一角に小さく盛りつけると、次の料理に取りかかる。次はナマコ料理である。
 まずナマコを半分に切り更に三等分する。鍋ではネギ、ショウガを炒めて、油に香りが移ったら取り出しておく。次に砂糖、醤油、酒、そしてスープなどを加えてやりナマコに味を含ませる。最後にネギを戻してやり、片栗粉でとろみつけ。こうして葱焼海鼠(ナマコのネギ煮込み)の出来上がり。これも皿に小さく盛っておく。これだけやってもまだまだ料理は終わらない。気が遠くなりそうである。
「はあ、本当に気が遠くなりそうだな。親父の方はうまく行っているのか?」
 パイランはふと背後のシャオロンを見てみる。すると、そんな心配など必要ないようで、えらく細い麺を打っているのが見える。
「くっ……やはり親父の方が早いか。このままでは親父の料理を冷ましてしまいそうだな」
 パイランはそう感じ取り、更に早くすることに決めた。こうなったらやるしかないのだ。
 パイランは手早くネギとショウガを炒めると、酒、スープ、砂糖、醤油、カキ油で豚のアキレス腱、そして蝦子(エビの卵)を煮込む。とろみをつけて一品完成。蝦子蹄筋(アキレス腱の煮込み蝦子風味)である。
 次はフカヒレ料理である。フカヒレと言えば、当然作る物は決まっている。そう、姿煮である。
 まずネギ、ショウガを炒めた油に醤油、酒、砂糖、塩、スープで味を付ける。そして隣にもう一つ鍋を用意し、チンゲンサイを湯通ししておく。次にフカヒレを煮込み、戻した白キクラゲも加える。最後にとろみをつけて盛りつけ、チンゲンサイを飾りとして脇に添えてやる。これで紅焼銀翅(フカヒレの醤油姿煮込み白キクラゲ添え)が完成。
 さて最後の一品、である。
 まず衣笠茸と燕の巣を用意し、スープで茹でて、更に蒸してやる。こうすることで味を染み込ませるのだ。そして衣笠茸に燕の巣を詰め込む。衣笠茸というのは筒状になった茸の一種で、こうして詰め物をしたりするものだ。たったこれだけの料理なのだが実に上品な味わいで、非常に人気のある料理である。そして、その名を竹笙醸官燕と言う。
「さて、仕上げにかかるか」
 仕上げにかかるパイランは、もう一度食材置き場へと向かう。そして持ってきたのは……燕の巣である。しかしながらその色が違う。赤みがかったその燕の巣は、名前を血燕という。燕が巣を作るときに、血が混ざったものをそう言うのだ。
「よし、これで……」
 血燕をばらして、皿に並べていくパイラン。それもなにかを描いているように。それは、なんと朱雀の絵であった。そして、料理は完成になる。これがパイランの料理。名付けて……。
「鳳凰七星(血燕の朱雀型七彩盛り合わせ)か。大それた名前だな、相変わらず」
 パイランがようやく一息ついたように肩の力を抜くと、同時に背後から声をかけられた。
「よし! 俺の方はできたぜ、パイラン!」
 と声をかけられた。パイランはゆっくりと振り向き、自分の料理の終了も告げる。
「私も終わった。で、どんな塩梅だ?」
 そうして全員の調理が終わり、皇帝による審査が始まる。



「よし、俺の方はできたぜ、パイラン!」
「私も終わった。で、どんな塩梅だ?」 
 二人はほぼ同時に終わり、お互いに顔を見合わせた。どちらも自分の持てる力を出し切った、清々しい顔になっている。それだけでいい料理ができたと感じさせるほどに。
「いい出来だぜ、今回は本気でな。久々に作ったが、まだまだ腕は鈍っちゃいねえみてぇだぜ」
「それならいい。親父が鈍っていないと言うならこれほど心強いものはない。親父は変人ではあるが料理の腕なら間違いないからな」
「へんっ! 勝手に言ってろ」
「だから勝手に言っている」
 二人はこんな調子で皇帝の現れるのを待った。さすがに作っている間は長いので、途中から席を外していたのである。
 と、シャオロンは横にいる栄華楼の料理人に気付く。その顔はどこかで見た覚えがあるような……。
「なあ、パイラン。この栄華楼の料理人、どっかで会ったことあったっけか?」
 当のテンリョウには聞こえないよう、小声でパイランに声をかけるシャオロン。が、パイランはいぶかしげな顔をして、首を横に振った。
「私は知らないぞ? 親父が一人のときに会ったのではないのか?」
 そう言われて、シャオロンは一人でいたときのことを思い出してみる。その記憶は、五年ほど前にまでさかのぼって、やがて戻りながらようやく見つけた。とんでもない遠回りをしてはいたが。
「そうか、こいつ……あのとき倒れてた料理人だな?」
 シャオロンはようやくそのことを思い出すと、あのとき敵に塩を送るような真似をしていたことに後悔した。自分がああしたことで、栄華楼の暴虐は酷くなったのであるだろうから。
 そうして落ち込み始めたシャオロンの脇腹を、パイランがつんつんと突いてくる。どうやら、皇帝陛下のお出ましのようだ。
 数度の銅鑼の音とともに皇帝が現れると、二店三名の料理人は一斉に跪いた。それを皇帝が制すと、みな一様に立ち上がる。
「固くなる必要はない。朕はそち達の料理を楽しみにしていたのだ。さっそく味わわせてもらいたいものだな」
 皇帝の一言により、一品ずつ料理が運ばれていく。運んでいくのはみな皇帝の侍従であり、料理人の仕事はもう終わりといった風にも感じられる。
 そしてまずは一品目、栄華楼はテンリョウの作った富貴鶏が食されることになった。しかし侍従達は泥の塊を見て眉をひそめる。こんな料理が皇帝の膳に並んだことなどないからだ。当然皇帝も見たことはない。テンリョウの方を向いて疑問を投げかける。
「栄華楼はテンリョウとやら、これが料理と申すか?」
「そうで御座います、皇帝陛下。これは富貴鶏と申しまして、もともとは乞食が盗んだ鶏を食すのに、調理道具が一切なかったため泥に包んで火に入れたというものなのです。そしてこれがこの上なくうまかったと。それが日を重ね時を重ね、今や高級料理というわけで御座います。木槌で泥を割って、中身を御賞味ください」
 テンリョウの一言によって泥の塊に木槌が入った。そして中から蓮の葉にくるまれた鶏が姿を現した。
「ほう、確かに鶏料理のようだな。言わば蒸し焼き料理、と申すのだな?」
「はっ。左様で御座います」
 さっそく鶏を試食するホン皇帝。そしてゆっくりと味わうと、目を細めて誉め始めた。
「なるほど、粘土に覆われて蒸されたおかげで鶏の肉汁が逃げてはおらぬ。溢れる肉汁、繊細な味付け、そして詰められた具に染み込んだ鶏のうまみがまた格別であるな。テンリョウよ、見事な料理であるぞ」
 皇帝の言葉と共に歓声が上がる。テンリョウはいい気になって、観客目がけて手を挙げてみせる。
 しかしそれを見て笑う者がいた。それは会場の端にもたれかかって一部始終を眺めていた男、香稜館のウーユワンである。
「なっちゃいないな、まったく。お前の料理は出来損ないだぜ、大皿のテンリョウ。そんなんじゃあ賞金首一万元が泣くんじゃねえか?」
「なっ!」
 うろたえたのはテンリョウの方である。周囲の者はいったいなにを言っているのかという目で見ていたが、ウーユワンは構わず言葉を続けた。
「お前は賞金首、『毒膳料理のホウトク』だろう。俺はお前を一度見たことがある。その顔は忘れねえぜ」
 この言葉にはさすがに一同慌て始める。毒膳料理のホウトクと言えば、確かに賞金首である。彼は賞金首であるというのに、堂々とこの大会に臨んだのであるから大したものだ。肝が据わっているのか、はたまた頭が弱いのかまではわからないが。
「香稜館がウーユワンよ、そちの申していることに間違いはないのか?」
「間違い御座いません、皇帝陛下。この男は賞金首ホウトクで御座います」
 その瞬間、ホウトクは脱兎の如く駆けだした。これには誰もが驚き、また捕まえようとしたが間に合わなかった。ホウトクはそのまま逃げおおせるかと思ったが、これを阻むものがあった。それは、遙か後ろから投げられたものである。小さな金属音と共にホウトクの足下へと刺さったそれは、なにを隠そうシャオロンの包丁であった。その包丁は天帝食医が持つ物に相応しく凄い業物で、青龍の彫り物が施されている。ちなみにパイランの物には朱雀の彫り物。これは、天帝食医五天帝受位の証にもらう物なのだ。
 そしてその持ち主達は、ひどく猛々しい表情で悪党を見下ろしている。
「ひぃっ!」
 ホウトクは驚きのあまりその場にへたり込み、かろうじてシャオロンの方へと目を向ける。そこにはいつもとは違う、怒りに燃えたシャオロンの瞳があった。
「……俺はお前のために店を失いかけた料理人を知っている。その料理人は俺の師匠で人柄もいいし、誰からも尊敬されるような人だった。それが……貴様のような奴のせいで一度は床に伏しちまったんだぞ!」
 シャオロンはかぶっていたカツラをいつの間にか取っており、重ね着していた女物の服を豪快に剥ぎ取った。そして中からはいつもの服ではなく、天帝食医青龍天の正装が現れる。青龍が刺繍されたそれは絹織物でできているらしく、うっすらと蒼く、淡い光沢さえ放っている。まさに神々しいという形容がぴったりである。 ……まあ女装している化粧がそのままなので、いささか不気味にも見えるが。
「……お、お前はあのときの……」
 ホウトクは唖然とした面もちで、あのとき助けられた旅の料理人の姿を見ていた。そして苦々しげに一言こう呟く。
「……そうか、こんなことならあのとき殺しておけばよかったな。私の野望を邪魔する者め」
「うるせぇっ! お前のような奴が料理人を名乗るなんざぁこの俺が許さねぇぞ! 大人しく罰を受けやがれ!」
 パイランは逆鱗に触れられてしまったシャオロンの隣で、まさしく身を震わせるような思いだった。なんでなにもしていない自分がこんなにも震えていなければならないのかと、ホウトクに八つ当たりの感すら持ったほどだ。
 それはともかくとして、シャオロンの怒りはホウトクが縄で縛り上げられるまで納まることはなかった。そしてホウトクが連れて行かれると、今度はシャオロン達が詰問される番となってしまった。豪快に正装を見せたまではよかったが、ここにはあまりにもそれに見覚えのある者が多過ぎる。
「シャオロン殿! よもや女の真似などをして……恥ずかしいとは思われぬのか!」
 この国軍総司令カクヨウも、その見覚えのある者達の一人であった。
「カクヨウの爺さん、これには深いわけがあるんだよ。それも聞かねえで怒鳴り散らすとは……まったくもうろくしたもんだな、『仏顔のカクヨウ』も」
「なっ、なにをおっしゃるか!」
「俺達は栄華楼って店とグルになって、街中の料理店を潰そうなんて考えてやがったホウトクを止めようとしてただけなんだよ。別に好きこのんで女装したわけじゃねえし、ましてや賞金が欲しくて出場したわけじゃねえんだ。なあパイラン?」
 シャオロンはようやくいつもの調子に戻った優しい目をパイランに向けた。当のパイランは、シャオロンと同じように男装を脱ぎ捨て、朱雀の刺繍が施された朱雀天の正装になっている。こちらは朱に染まったような光沢を放つ織物だ。
「親父の言う通りです、カクヨウ殿。皇帝陛下にもお聞き願いたい。このチャンナンの街の料理店栄華楼は、数ある食材卸問屋を買収し、他店の井戸には毒まで入れる有様。これを一料理人として放っておけるわけもなく、なんとかしたいと思いこの大会に賭けました。我々は追われる立場ながら大会に出場し、なんとか皇帝陛下に直接このことを伝えようと……」
 そのパイランの言葉を、皇帝が手で制した。目はいつになく厳しいものになっている。
「その件についてはよくわかった。直ちに栄華楼とやらは処分を考える。それよりも朱雀天よ、なぜそなた達は宮廷を逃げ出したのだ? 私にはいまだにそのことが納得できぬ。その話をしたいのだが?」
「は……それは、私達も料理人の端くれ、宮廷だけでは学べぬ地方独特の料理を学びたく思い、宮廷を抜け出すことにしました。確かに宮廷には各地方から色々な料理が集まっていますが、それが総てではありません。皇帝陛下の食されぬような庶民的な料理とは出会うことすらできぬのです。私達は料理人としてそれが我慢ならず、事に至ったわけで御座います」
 パイランは今の自分の思いを正直にぶつけた。相手が皇帝であろうと思いが変わるわけではない。思いを飾ることさえしなかった。だがしかし、その思いは皇帝にまでは届かなかった。
「そち達は天帝食医である。その役に就いたときから一般の料理人などというものとは格が違うのだ。それを忘れ、自らの欲のために宮廷を抜け出したことは軽いとはいえ罪となるであろう。 ……申し開きはそれだけか?」
「……」
 パイランはなによりも、思いが届かなかったことに悔しさを感じた。天帝食医である自分には、いち料理人としての権利も認められないのであろうか。それではいったいなんのために料理人になったのか。パイランの頭は初めて料理人を目指した頃のことを考えていた。



 パイランが初めて料理人になりたいと思ったのは、まだ十にも満たない頃だった。父シャオロンはその頃すでに天帝食医として腕を振るっており、一生懸命になって料理するその姿にうたれたのだ。兄も当然のように料理人を目指し、自分も料理人になることを決めた。しかし自分の目指した料理人とは天帝食医であったのだろうか? 自分の目指した料理とは、ただ皇帝一人に味わってもらうようなものだったのだろうか? いや、それは違う。自分の求めた料理とは、身分に関わらず食べた人すべてを笑顔にさせる料理であったはずだ。
 そのことを思い出したとき、パイランは意を決していた。やはり自分は宮廷にいるべきではない、と。答えを求めてシャオロンに着いて来た自分に間違いはなかった、と。
 パイランがその旨を皇帝に直訴しようとしたその時、シャオロンが横から手を伸ばしてパイランを制した。どうやら言いたいことがあるのはシャオロンも同じようである。
「皇帝陛下に申し上げます。この青龍天シャオロン、並びに朱雀天パイランは宮廷に戻る気は御座いません。遅ればせながら、今ここで天帝食医の役を解任していただきたい」
 どうやらシャオロンもパイランと同じ考えであったらしい。シャオロンのその真摯な瞳はまっすぐに皇帝を見据えている。それはさも自分の方が皇帝とでもいうような威圧感で、有無を言わせない強さがそこにはあった。
 と、そんなシャオロンと皇帝の間に割って入る者がいた。なにやら年老いた老人であったのだが、シャオロンとパイランの顔が同時に変わったことからもただ者ではないことがわかる。その老人は皇帝になにやら耳打ちをし、あろう事か皇帝の御前に置かれた料理に手を伸ばした。『青龍翔雲』と『朱雀七星』を味見した老人は、何度か頷くとまた皇帝に耳打ちする。そして初めて、皆に聞こえるくらいの声を発した。
「シャオロンにパイランよ、いい味を出すようになったものじゃのう。それもこれも、今回の旅が原因なのかえ?」
 まさしく好々爺の笑みを浮かべる老人であったが、シャオロン達はそれが偽りの仮面であることを知っていた。今、目の前にいるこの老人は天帝食医でも最高峰、五天帝のまとめ役である大奥天の役に就いているのだ。名をモウカイという。宮廷では弟子に厳しい鬼のモウカイで通っていた老人だ。
「……正直わかりません。ですが、今の旅に料理人としての幸せを見つけたと言えば嘘ではありません。料理人とは他人の笑顔のために、他人の幸せのために生きるものですが、自分のために生きるのも間違いではないと思いました。私は料理人として、やはり宮廷に納まっているべきではないと思ったのです」
「ふむ……だがしかしシャオロンよ、お前の腕はいまだ宮廷に学ぶものがあるとは思わんか? わしにはそれを極めてからでも遅くはないと思えるのだが?」
「はあ……」
 気のない返事を返してしまうシャオロン。しかし返事はパイランが跡を継いだ。
「ですがモウカイ殿、貴方に今の私達から若さを奪う権利はないはず。なにを持って今の役を続けさせようと申されるのか?」
「ほう……言うようになったのう、パイランや。それはじゃな、お前さん達が天帝食医となったときに決められた運命である、と言っておこう」
「ですが運命とは人の力で変えられるはず。今変えようとしているのは我々で、貴方はその障害であることになる。ならば力ずくでも排除しなければならない。違いますか?」
 瞳に物騒な光を宿したパイランの視線は、まったく逃げることなくモウカイを射抜いた。そしてモウカイもその決意のほどを感じ取り、一つの条件を出すことと決めた。
「ふむふむ……ならば勝負、と行くかの? じゃが腕っぷしでわしや衛兵がお前さんに勝てるはずがない。キリモミ五回転ほどをさせられて逃げられるのがオチじゃろうて。したがって、古来より料理人同士のいざこざは料理で決めるということになっておる。それに従うというのはどうじゃ?」
「望むところ。私は自分の夢のためにも負けはしません」
 パイランはそう言うと、今度はシャオロンの方を向く。
「親父は……聞くまでもないな?」
「もちろんだ。俺にだってまだ夢はあるさ、こんな歳になってもな」
 二人の答えを聞き、モウカイは皇帝の方へと了解を問う。と、そこへ割り込む者があった。今まで脇に追いやられていたシャオロンのライバル、香稜館のウーユワンであった。
「まてまてまて! シャオロン! 貴様、俺を無視して勝手に話を進めるな! 貴様と勝負ができるなら俺も参加するぞ!」
 もはや無茶苦茶である。が、皇帝は寛大な心を見せてそれすらも承諾した。
「ウーユワンとやら、予選で見せた料理を味わったところ、どうやらその方も特級料理人にも等しい腕を持っているようだな。ならば存分に料理をして見せよ。働き次第では褒美も取らそうぞ」
 ウーユワンは皇帝のこの言葉に舞い上がった。そしてその矢先、皇帝自ら課題を出した。
「では二人一組で料理を一品作るがよい。そしてこの勝負には課題を出す。麺料理を作るがよい」
 この皇帝の一言から歴史に残る料理が始まった。