旅の料理人2――朱雀迷走―― 話の弐
作:みのやん





話の弐 それは必然の出会い


 首を傾げながら店を出ていったシャオロンとは対照的に、留守番係に任命されてしまったパイランとコソウ。つまり彼らは自動的にシャオロンの抜けた穴をしぶしぶながらも埋めることとなったのだが……こうなってみて初めてわかるが、シャオロンの負担がかなりのものであった事がわかる。二人に仕事を任せていたわけではなく、自分もかなりの量の仕事をこなしていたのだということが。おまけに、シャオロンの割り当てはかなり過酷なものだったらしい。思い切り汗をかきながら料理に追われる兄妹の姿が、そこにはある。
「……まったく親父め。いい歳をして……いったいいつまで鼻の下を伸ばしているつもりなのだか」
 パイランはもはや相手を昔の女と決め付けて、そんなことをぶつぶつと、おまけに何度も繰り返し呟いていた。そんなパイランの心の負担を軽減すべく、コソウも何かと声をかけてやっている。
「まあまあ、いいじゃないか。きっと積もる話があるんだよ」
「兄貴も親父の味方か。 ……まあいい、どうせ私は嫌な女だ」
「いや、誰もそんなことは……」
 もはや苦笑するしかない状態のコソウ。我が妹ながら恐ろしいものだと、本気で感じているのは言うまでもない事だろう。
「……で、兄貴。親父に会いに来た女というのに心当たりはないのか? 親父の馬鹿頭で覚えていないのはともかくとして、兄貴は一度会った人間を忘れるほどどうしようもない頭ではないだろう?」
 ようはシャオロンをどうしようもない頭だと言っているのだが、遠回しな表現をするところはいかにもパイランらしい。とは言え、既に馬鹿頭と断言しているから、意味がないと言えば意味がない。
「そうだね……僕が知っている、父さんと仲のよかった女性なんてほんの数人程度だよ。ほとんどが仕事関係の人ばかりだしね」
 と、コソウが申し訳なさそうに言った瞬間、パイランが力強くこう叫ぶ。
「甘い!」
 言った瞬間、パイランの持っていた包丁がまな板を二つにしてしまうかというような音が響く。思わず客達の喧噪が止まったほどだ。
「いいか兄貴、親父はああいう性格の人間だぞ? 無責任に不倫をしていてもなんらおかしくはない。特に仕事上でのつきあいがあれば尚更のことだ。毎日のように会う肉問屋の若い未亡人、八百屋の娘、果ては魚屋の老婆なども考えられる。あの親父のことだ、相手を選ぶような美食家ではないだろう」
 これまた爆弾発言をする娘である。コソウも頬の辺りをヒクヒクと痙攣させて、言葉を失っている。いくら何でも老婆はないだろうと、そう思っていた。が、他の二つはあり得ない話ではない。確かに毎日会うような相手が魅力的な女性であれば、そういう危険がないとは言い切れない。やがてコソウも腕組みをして考え込んでしまう。
「……肉問屋に、魚屋さんねぇ……」
「さらに言えば、だ。あの親父は私が産まれてから二十年近く、女無しの禁欲生活をしていたというのか? それは明らかに正常な男の生活ではない。あの親父が一人寂しく枕を抱いて寝ている姿を想像できるか? 最悪の事態を考えるならば、私に対する性的嫌がらせは、本気で発情していたのかも知れないのだぞ? そんな空恐ろしいことを考えるくらいならば、まだ浮気や不倫といったことの方がマシだろうに」
 爆弾発言娘はおさまらない。ここまで一気にまくし立てると、荒く息継ぎをする。さすがに今の一言は、力みすぎていたらしい。
「……つまり、多少の女遊びは目をつぶる、と?」
 しばし考えた後、コソウが疑問を口にした。が、間髪入れずにパイランの反論が返ってくる。
「それはそれで問題ありだ! どっちもないのが最良ではないか!」
 もはや支離滅裂である。言葉の知能犯パイランも、ここへ来て混乱し始めたようだ。そして、料理を投げ出しての言い合いはしばし続くことになった。
 
 
 そんなやりとりを交わしながら小一刻。そんな危険な状態の食堂に、一人の若者が足を踏み入れた。状況を知っている者から見れば、大した若者である。なにしろあのパイランの機嫌が悪いときに足を踏み入れたのだ。蝿取り草に足を踏み入れた蝿の如く、その若者の命運は決定したかに思えてしまう。
 コソウはパイランから逃れられるという一心で、新たな客に目を向けた。そして持ち前の暖かさが溢れんばかりに声をかける。
「あ、いらっしゃいませ。お一人ですか?」
「ん? ああ、一人だよ。とりあえず、身体の暖まるものをくれよ。外は雨だし、えらく寒くってさぁ」
 人懐っこい笑みを浮かべた若者は、いかにも気の良さそうな、若い青年だった。年の頃は、パイランと同じくらいだろうか。
「わかりました。濡れた着物は隣の椅子にでも置いてください。 ……どうぞ、ごゆっくり」
 コソウはにこやかにそう言って、手元では大急ぎで小さめの土鍋を用意した。寒い時には鍋が一番だと、誰もが頷くであろう考えからである。そして、パイランからどえらい突っ込みが来ないようにとの考えもある。
 そして半刻ほど。
 青年が、とりあえず出されたお茶を片手にぼ〜っと虚空を眺めている横へ、不意に小さな一人用の土鍋が音もなく置かれた。コソウ特製「雪中白虎」である。
「どうぞ、お召し上がり下さい」
「ああ、ありがと。白い大根おろしの乗った鍋なんだ……美味しそうだねぇ」
 青年は箸を取り、大根おろしごと中身の肉を取り上げた。そして不思議そうにそれを眺め、ぽつりと一言。
「これってなにもつけなくていいのかな?」
「ええ、味はもうついています。その大根おろしは固く絞った後、ダシ汁に漬け込んでおいたものですから」
「へぇ〜、ずいぶん凝った料理だね。まるで金持ちになったみたいだ」
 にこにこと愛想のいい笑顔を浮かべている青年は、まるで話している時間も惜しいとでも言うように、素早く肉を口の中へと放り込む。そして、結構な肉の熱さに焦るという情けない面も見せた。
「ははは、ゆっくりと食べて下さい。料理は逃げませんからね」
「……ふう。確かにそうだね」
 和やかな雰囲気になる食堂の一角。そんな所へえらく不機嫌な紅一点、パイランが現れた。
「熱くて食べられないようなものを出すとは料理人失格だぞ、兄貴」
 きつい一言を残し、なにやら自らも青年の方へと料理を一品出した。それは、いわゆる肉饅頭である。
「鍋が冷めるまで、これでも食べてはどうだろう? 少なくとも兄貴の作った鍋よりは食べやすいはずだ」
 と、そんなパイランを見るやいなや、青年は嬉しそうににかっと笑った。
「おおっ! ずいぶん美人の子もいるんだねぇ。 ……んで、兄貴ってことは……そっか、二人は兄妹なんだ」
 パイランの持ってきた饅頭は確かにいい温度だったらしく、とりあえず鍋を置いて、そちらを食べはじめる青年。
「いちいち言う事のきつい妹ですけどね」
 コソウが苦笑いを浮かべながらそんな事を言う。対するパイランは、兄の事など気にもせずに、じっと青年の方を見つめていた。
「……食べ方が親父に似ているな。いかにも美味そうに食べる」
「ん? ……ああ、それはそうだよ。だってこれ、すんごく美味しいからね」
 青年は美人の料理人に話しかけられた事に気を良くしたのか、満面の笑顔でそう言った。
「そう誉めて頂けると嬉しいものだ。美味しいと言われるのは、料理人にとって最高の誉め言葉だからな」
 パイランも言葉遣いはともかく客用の笑顔を見せ、すこぶる和やかな雰囲気となった。そんな中でコソウは一人、先ほどまでともいつもとも違う、妹の客づきあいの良さに舌を巻いていた。
 そんな時間がしばらく過ぎた。青年は軽く酒も飲み、時間の関係ですっかり仕事の減ったコソウ達兄妹との話も弾んでいた。
「そう、双款(ソウカン)と言うのかい、君は」
 青年から名前を聞いたコソウは、唯一素面のままでそう言った。
「ああ。しがない旅の武術家でね。まあいわゆる武者修業ってやつかな」
「ほう? 武術を嗜むのか。実は私も多少だが武術の心得がある。今度手合わせでもお願いしたいものだな」
 青年とほぼ同量の酒が入っている割には、いまだ口調、顔色共に変わらないパイラン。並外れた肝臓機能である。
「でも……おいらはかなり実戦派だからねぇ。危ないと思うけど?」
「そうか。だが私も実戦派だぞ? 毎日のように拳を繰り出す機会がある」
 これは明らかにシャオロンの事を言っているのだが、ソウカンは違った取り方をして大きく頷いた。
「なるほどねぇ。そんだけ美人だと、襲いかかってくる男も多いんだね、きっと」
 まあある意味間違いではないが、微妙に違う気もする。もはやこの村で、パイランの腕前を知らぬ者などいないのだから。それで襲いかかる者がいるとすれば、明らかに自殺志願者と言えるだろう。
「ふむ、まあ似たようなものだ。だがそれが……普通の男ならば、まだ幾分かはましなのだがな」
 と、身も蓋もない事を言うパイラン。しかしソウカンはまだ気付かない。
「うんうん、危ない奴はごまんといるからねぇ」
「確かにそうだな」
 と、そんな中、コソウが入口の方を見ながらぽつりと一言こう呟いた。
「……しかし父さんはずいぶんと遅いね? なにかあったのかな?」
 まさしくいらない一言を言ったコソウは、大方の予想通りパイランに突っ込まれる事となった。
「ふん、どうせ昔の女とよろしくやっているのだろう。気にする事はない。放っておけば朝には帰ってくるだろう……いかにもすまなそうな顔をして、な」
 不機嫌そうな声でそう言うと、手にしていた酒盃を大きく傾けるパイラン。隣のソウカンはいかにも中途半端な笑いを浮かべながらそれを眺めている。
「……なんかすげ〜事言うんだね、あんたの妹は」
 そっとコソウに耳打ちするソウカン。そしてコソウも情けなさそうな顔をして小さく何度も頷いた。肯定の意を過剰に表すように。
「ま、まあとにかく、そんな薄情な親父の事は放っておいて今日は楽しく飲もうや。せっかくの出会いなんだ。楽しく行こうや」
 そして、夜は更けていく……。
 
 
「な〜っはっは! なるほどね、それで帝都を飛び出してきたんだ、君らは」
 話の弾む中、ソウカンの大きな笑い声が店内に木霊した。ちなみに他の客はすでにいない。店も、完全に閉まっている。つまり閉店後も飲み続けているのだ、ソウカンとパイラン達は。
「しっかしねぇ、いまどきあるのかい、そんな話? 仕事を辞めて出ていこうとする奴を、必死で引き留めるなんてさ。おまけに御師匠さんまで出てきて勝負するなんてさぁ。まあ料理人の勝負は料理対決と決まってるからしょうがないと言えばしょうがないけど……この御時世じゃあ雇われたい人間なんて余ってるだろうに」
「まったくだ。どんな理由があるにせよ個人の意見は尊重されるべきだ。辞めたい者を無理矢理引き留めようなどと、馬鹿げた話はよしてもらいたいものだな」
 もはや、完全に意気投合である。多少詳しい話を除いて話してはいるが、つまるところ二人の意見に相違はないらしい。
「でも……やっぱり引き留められるほどの腕だったわけだ、その店でも?」
「……だがそんな大それたことはしていないぞ? 料理長に当たる人物が師匠だし、副料理長というものは存在しない。何人もいる料理人のうちの二人が辞めるという程度で、騒ぎ過ぎなだけだ」
 そう、当時天帝食医を辞めると言っていたのはシャオロンとパイランだけである。加えるならば、確かに天帝食医は何人もいる。ただそれが、五人であっただけだ。
「大したもんだねぇ、その歳で。おいらなんか、なにかして他人に認められたことなんか無いんだよ? それをまあ、同い年くらいでよくそこまでねぇ……」
「そうではない。私の腕などまだまだ未熟なものだ。ようは親父を逃がすのが嫌だったのだろう。私を止めれば、親父も諦めるかも知れない。そんな打算であり、誤算からだろうな」
「……誤算、なのかい?」
「無論だ。あの親父は、私が着いて行かなければ喜んで旅に出て、徹底的に羽根を伸ばすだろう。だがそうなってはまずい。私も何年かして突然、見覚えのない義母や兄弟を連れてこられても困るからな」
 情け容赦ない一言。まさしく、それに尽きた。さすがのソウカンも苦笑いを浮かべている。
「はは……なるほど、ね」
 ようやく憂さも晴れたのか、今度はパイランが聞き役に徹する番が来た。何気なく、話をソウカンの旅に振ってみる。
「……さてソウカン、お前は今まで、どんなところを巡ってきたのだ?」
「ん? ああ、おいらは帝都の北にある小さな村の生まれなんだけどね……色々あって、なんとはなしに旅を始めたんだ。腕っ節にはちょっとだけ自信があったし、色々なところを見て回りたかったからさ。まあそれ以来、帝都はもちろん縦横無尽に帝国を巡ってるよ。あんまり道の険しいところ以外は、だいたい行ったかな、ここ十年くらいで?」
 これにはパイランも目を見張った。帝国の領土は途方もない。それを、たった十年ですべて巡るなど、ほとんど正気の沙汰ではないことだ。
「十年ですべて? そんなことが可能なのか? 普通ならば二十年はかかると言われているのだぞ?」
「可能だよ。おいらはね、だいたいを商隊の護衛として回ってたんだ。だから馬も貸してもらえたし、一つ所に長く滞在するわけじゃなかったから」
 と、しばらく完全なる聞き役に徹していたコソウがソウカンにこう尋ねる。
「それならば君は、ルゴウの街にも行ったことが?」
 ルゴウの街。それはあの、シャオロン一家の古き良き故郷の名である。そして今もその街には、母メイランの両親がいるはずだ。ふと聞いたことだったが、これは大変いい質問だった。
「ルゴウ……ああ、あるよ。帝国の南端にある街だよね? あの街は結構大きな街でね。帝都には劣るけど、人の出入りも激しくて賑やかな街だった」
「……龍花飯店という店は知らないかい?」
「龍花……飯店? ああ、あの一番混んでた店だ。なんでも老舗らしくってね、凄い混みようだったよ」
 ソウカンのこの一言にホッとしたのか、コソウは幾分か表情を和らげた。
「それならばいい。なにしろ龍花飯店は、私達の母方の祖父がやっている店だ。繁盛していないほうがおかしい」
「なんだ、そうだったんだ。それなら安心していいんじゃない? えらく繁盛してたみたいだからさ。おいらのいた商隊も荷を入れてたしね」
 そう言って片目を瞑ったソウカンに、パイラン、コソウもにっこりと笑う。なんとも、平和な夜であった。
 
 
 昨日の雨が、まるで嘘のようにも思えてしまう晴天の朝、パイランは床に就いていない自分に気付いてはっとなった。目覚めればそこは食堂の円卓。どうやら酔いつぶれたまま机に突っ伏して寝てしまったらしい。確か明け方近くまで飲み続けていた覚えがある。 ……かなり、うっすらとだが。
 ふと、パイランは辺りを見回し自分にかけられている毛布に気付く。それはどうやら旅用の物らしく、所々穴が開いたりほつれたりしている。
「……誰がこれを?」
 パイランは毛布をたたんで机に置き、ぐるりと周りを見まわしてみた。
 隣の机でパイランと同じように突っ伏して眠る兄、そして……姿の見えないソウカン。
「……あの男がかけてくれたのか?」
 パイランは、とりあえず皺の寄った服を簡単に直して外へと出てみる。すると、外は昨日の雨などどこへやら。素晴らしい青空が広がっていた。
 そして食堂のすぐ脇。そこには子供の背丈ほどの大きな岩があるのだが、その上にソウカンはたたずんでいた。寝転がり、口にはどこから取ってきたのか小さな若葉を咥えている。そしてその瞳は、遥か大空を見つめていた。
「……早いのだな? 昨日はあれだけ飲んでいたと言うのに」
 パイランは相も変わらない無表情でそう声をかけた。と、声をかけられた方は実に意外だったらしく、驚いたような顔をしてパイランの方へと目を向ける。
「ああ、おいら酒にはめっぽう強いんだよ。顔はすぐ赤くなるけどさ」
「そうか。 ……ところで、毛布をかけてくれたのはお前か?」
「ん? ああ、あんたは兄貴と違って寒そうな格好だったからねぇ。女物の服は足元が寒そうだから」
 ソウカンは身体を起こし、岩から降り立った。そしてパイランを伴って食堂へと戻る。
「しっかしあんたも強いんだねぇ、酒。朝数えてみたら一番飲んでたけど?」
 まさしく苦笑しながらソウカンがパイランへと笑いかけた。こちらは相変わらず人懐っこい笑顔で。パイランも見習うべきである。
「……昨日はいろいろと機嫌が悪かったからだ。普段はあんなには飲まないぞ?」
「ははは。まあいいんだけどさ。それよりもさ……あんたに相談があるんだけど?」
 ソウカンの突然な申し出に、パイランはいささか意表を突かれたのか驚いた表情になった。この娘にしては、実に珍しいことでもある。
「なんだ、突然? 言っておくが、貸してやる金などないぞ?」
「あらら。 ……いや、別に金云々の話じゃないよ。まあ確かに金に困っているようには見えるだろうけどさ」
「ではなんだ? 一応酒を飲み明かした仲だ。話くらいは聞いてやるぞ?」
 とりあえずソウカンに椅子を勧めるパイラン。そしてお互い席に座り、ソウカンが話を切り出した。
「実はさ、おいらに料理を教えて欲しいんだ。この村にもしばらくいるつもりだし、せっかくこんなに料理の上手い料理人に出会えたんだし、パイランはめっぽう美人だしさ、そういうのもいいかな〜なんて思って」
「……私に、料理を教わりたいと?」
「そうそう。あんた、点心が得意だって飲みながら言ってたからさ。そういうのなら、おいらみたいな旅人には重宝するだろ? だから、覚えようかなと思ったんだけど?」
 ソウカンの申し出に、パイランは少し考え込んでしまった。なにしろ自分もまだ修行中の身だと思っている。そんな自分が弟子を取るような真似をしても良いのだろうかという思いに駆られているのだった。
「……そうだな、少し考えさせてくれるか?」
「ああ、いつでもいいよ。とりあえずはこの村の宿に泊まることにしたからさ。その気になったら声をかけてくれると嬉しいな。ま、この店以外では飯を食べないことにしたから、毎日顔は見ると思うけど」
 そう言ってソウカンはけらけらと笑った。
 パイランはそんなソウカンを見、なにやら変わりつつある自分に気付いた。
(……私はこんな積極的に他人と話をする女だったか?)
 そう考えながらも、ソウカンの勢いに流されていく自分にも、いやと言うほど気付いていた。