遠いあの日のセレナーデ 第七章 |
作:風の詩人 |
第七章 明かされた真実と悲劇
約束は果たされなかった
恋人たちは再び出会うことは叶わなかった
二人の行動はまわりに知られ
ユールは城を出ることもかなわく力つき
ルーシュは湖で息を引き取る
残ったのは果たされなかった約束と
500年たっても色あせなかった強い思い
それが悲しい真実
湖にしばりつけられている少女の
ルーシュが最後に残した思いの
悲しい物語
「こういうことだったんですね……」
ルーシュの亡骸を見下ろし、悲しい目をして青年はつぶやいた。
「ユール王子は……?」
詩人姿の少女が尋ねるのに、青年は首を振る。
「彼は、城を出ることもなく亡くなりました……。ルーシュの無事だけを祈って……。約束が守れなかったことを悔やみながら……」
青年の言葉に、意外そうなものを見る目で詩人二人は彼を見る。
「今になって、だいだいの記憶が蘇りましたよ。もちろん、あのふたりに関することだけなのですが……。確かにこの記憶はユールのものらしいです。僕の中の誰かもおそらく……ユールの思いでしょう」
「そして、ルーシュの思いはこの湖に残っているというわけか。500年たっても」
それが真実だったのだ。
この湖に、そして青年の中に残された、悲しい、強い思いの。
「そう言えば、約束はなんだったんですか?」
「ひとつめは、例の光水晶をあげる約束。そして、ふたつめは……ここの、この湖で、結婚式をあげようと……。無事に会おうという約束です」
「……結局、どちらの約束も果たされなかったわけだな」
ぽつりとつぶやいた詩人の言葉に、青年は首を振った。
「いいえ」
「え?」
「約束は果たしますよ。そのために僕がいるんです。500年もたってしまったけれど」
そのために自分は時を越えてきた。
自分の中にいるもうひとりの頼みを、そして、何より自分自身の望みを、叶えるのだ。
あの湖の少女の、彼女が強く思いつづけている約束を。
果たすのだ。
約束を果たすため
果たされなかったふたつの約束
青年は立ち上がる
青年を突き動かしているのはもうひとりの自分
ユールという名のもうひとりの自分