THE・SHADOWS 3
作:トップシークレット





第三話・陰の実力後編


 ―――「遅い!!いったい何分待たせる気!?」
 物凄い勢いでジャックたちに怒鳴りつける。
「ワリィ!チョッとてこずっちまってな。それより、見たか?警備用のアンドロイド?」
 澄ました声でレジェンドが
「いいやぁ〜機動音ぐらいは何度も聞いてるけどまだ一回も見てないな。」
 不思議そうにジャックが
「おかしい。絶対におかしい!何かが違う!」
 不思議がってジュピターも聞く。
「何がおかしいの?」
「だって明らかにおかしいだろ!アンドロイドが四体で一チームなんだろ?姿は見えないにしても高性能な赤外線カメラの赤い光るぐらいは見えてもいいとは思わないか?」
 なるほどと感心しながらレジェンドが
「確かに変だな。一回ぐらいは赤い光が見えてもいいはずなんだがな・・・」
「リアルタイムマップにはちゃんと黒いマーカーが表示されてるのに・・・・なんていうかな?・・・俺達を避けながら警備してるような気がするんだよね。」
「いわれてみればそうね。何でかしら?」
 黙り込んでいたロケットがついに怒りを爆発させる。
「だーーーー!!!もうそんなちまちましたこと気にしない!!!!アンドロイドが私たちのことを避けてくれてるなら結構じゃない!!!そんな事気にしてないでとっとと地下エリアの捜索をしないとオテントサンが見えちゃうよ!!」
 疑問を抱えたままジャックは
「仕方ない。このことは後で分かるだろう。これより予定道理に地下研究区域に進入して人造軍人の遺伝子を捜索する。地下への行き方は階段がないので昇降機で行くしかない。」
「そうそう!こんなところで群がってるほうが見つかっちゃうよ!」
 四人は近くにある昇降機まで走っていった。ジュピターが昇降機の下のマークを押す。すると下のマークの部分がオレンジ色の光を発する。上を見ると昇降機の現在位置を光の点滅で示している。そろそろ昇降機が付くころになってエレベーターの両側に2人ずつ散った。“ピーンポーン”昇降機が到着した合図がなる。そしてゆっくりと昇降機のドアが二つに割れて開く。そのときものすごい速さで四人は昇降機の正面に立って銃を構える。・・・・・・・誰も乗っていないようだ。先頭のジャックとロケットがいそいそとエレベーターに乗ると後方のジュピターとレジェンドが左右にアンドロイドがいないかを確認して素早くエレベーターの中に入る。ジャックが昇降機の‘閉める’のボタンを押すと昇降機のドアがしまってゆっくりと昇降機が動き出す。とここでジャックが
「あんまり時間が残ってないから作業効率を考えて最下層から順にあがりながら捜索をしようと思う。」
「それでいいは。」
「文句はない。」
「早く終わるならそれでいいわ。」
 昇降機が地下1階に差し掛かろうとしたところで突然昇降機の天井に何か物が落ちてきた“ドン”“ガシャン”“ドン”反射的に銃を天井に向ける。冷や汗が仕立てれ落ちる。天井を何者かが歩き回っている。歩く音がどことなく機械の機動音のような音が混ざっている。まさかと思い急いでリアルタイムマップを確認する。
「・・・・・・!!!!」
 やっぱりだ。天井にいるのは警備用のアンドロイドだ。しまったというような顔をしてジャックが言う。
「やられた!!やつらはわざと俺達をよけてたんだ。それで俺達がこの昇降機に乗ったところで一気に片をつける気でいたんだ!!」
「してやったりね。警備用のアンドロイドがそこまで考えるとは・・・」
「最近の日本製のアンドロイドも高性能になってきてるな。」
「どうしてこんなところで鉢合わせちゃうのよ!!」全く付いてない。冷静ながらあせっているジャックが言葉を発する。
「いずれにせよ、こちら側が不利なことには違いない!今は赤外線ゴーグルで昇降機の中を詮索中だと思うが蜂の巣にされるのは時間の問題だ!!」
「万事休すってか?」
「ジャック小隊結成始まっていきなりピンチ!!シャレになんないわ。」
 するとロケットが突然昇降機の真ん中に歩き出す。
「腰抜けは下がってて!!」
 そういうとおもむろにガトリング砲を天井にヨッコラショと向ける。その刹那ロケットはガトリングの発射トリガーに手をかけてボタンを押す。ものすごい速さでガトリング砲の砲身が回りだす。それに連動して一秒間に100発もの弾を吐き出す。たちまち昇降機の中は煙だらけ、空の薬きょうだらけ。そしてガトリング砲の乾いた轟音がそこら中に響き渡る。通常のマシンガンでは考えられないほどの速さからの薬きょうが地面に落ちる。どのぐらいの時間が経過しただろうか?ほんの数秒だけなはずなのだが、二時間以上地面伏せている気がする。改めて連射の悪魔という別名を実感する。突然静けさが戻る。どうやら連射の悪魔が手を休めたようだ。あたりはガトリング砲が弾を発射したときに出た煙とそれに伴ってものすごい速さで放出された空の薬きょうで多い尽くされている。
「ゲホゲホ・・・・少しは加減をしろよ!!」
 とレジェンドが悪態をつく。徐々に煙が晴れてきた。よく見渡すと天井はごっそりと抜け落ちて骨組みは今にも落下しそうな勢いである。よく見ると原型をとどめていないアンドロイドが骨組に引っかかっているではないか。そこら中から潤滑油を雨のように降らしてアンドロイドの装備品のマシンガンから未使用の弾薬がぼろぼろと落ちてくる。火災報知気がなってはいるが、スプリンクラーが作動しない。なんせ天井がないのだから。よく見ると昇降機の真ん中にガトリング砲を担いで長い黒髪をなびかせながら立っているロケットがいた。ゆっくりと振り返るとそれはとても狂気を帯びた顔で不気味にジャックたちに話しかけた。
「私、つまんない!もっと血をぐつぐつと沸騰させてくれる相手が欲しい。」
 無表情に加えてとっても冷たい声にさすがにジャックたちも引く。するとゆっくりとジュピターが立ち上り、すたすたとレジェンドに近づき突然ロケットの右頬にビンタを食らわす。反動でロケットの顔が左にはじかれる。
「あんたねぇ!!あれほど私達を巻き込むなといわれてもまだわかんないの!!?いい加減に少しは学習しなさい!!子供じゃあるまいし!!」
 完全にキレている。丁度良く昇降機が止まる。とっさにリアルタイムマップを確認する。近くに警備用アンドロイドはいないようだ。“チーーン”ゆっくりと昇降機のドアが開く。ぞろぞろと一行が出てくる。一仕事終わって完全に付かれきっているような風貌のジャックとレジェンド、元気娘を象徴するかの様な元気で2人を励ますジュピター。1人完全に意気消沈しているロケット。少し歩くと電子ロックで硬く閉ざされた扉が目で確認できる。とここでジュピターがスタンガンを取り出す。スイッチを押すと両端から放出させれた電気が青白く光る“バチバチバチ”なんとも恐ろしい音を響き渡せる。ゆっくりと近づけてもう少しで電子ロックの機器に当たろうとしたそのとき、アローから通信が入る。
「待って!!スタンガンで開錠しちゃ駄目だ!!」
 この言葉に反応して素早くスタンガンを引き戻す。
「さっきのドンパチで警備システムが警戒モードに突入した!!今スタンガンで開錠すると瞬く間に警備用アンドロイドがやってきて君達を蜂の巣にする!!」
 軽く舌打をしてスタンガンをしまった。
「仕方ない。正攻法で行くぞ!レジェンド、あれを出せ」
「了解!」
 するとレジェンドが小型のなにやら機械を取り出した。するとその機械から伸びている薄い紙状の読み取り機を電子ロックの制御装置のカード挿入口に差し込んだ。“カチャカチャカチャ”とキーボードを打ち込むとパネルから赤い文字が浮かび上がって下一桁から順に表示していく。全部で10桁もの膨大な情報量をその小型の電子機器が読み取りわずか数十秒で電子ロックを開錠する。最新鋭設備の整った施設では必要不可欠な機械である。“プシューーー”と空気のぬける音ともに扉が開く。そこには想像をはるかに超える量の見たこともないような形をした機械がぎっしりと並んでいた。ゆっくりと銃を構えながら団体で行動する。よく見ると大きいものはとても大きなクローゼット四つくらい並んだくらいの大きさのタンクや、小さいものは手のひらサイズのわけの分からん機械がたくさん並んでいた。
「理科室にはおいてないものがたくさんあって探究心をそそられるねぇ〜。」
 と軽いのりでジョークをいうレジェンド。
「確かにそうだな。一度全部イタズラしてみたいものだ。」
 つられて乗るジャック。
「それにしても暗いわねぇ〜!」
 といつものペースに戻ったロケットがいう。
「暗視ゴーグル(暗い場所で光をはっきりと画像で表示する。いわゆる猫の目と同じ役割の機械)持ってきてるなら装着すれば?」
「何とか見えるようにはなったけど・・・あんまり変わらないわね。」
「無いよりマシだろ!赤外線ゴーグル(赤外線ゴーグル越しから見える景色は全て赤色で、人間などが視界に入るとより濃くてはっきりとして赤で表示される)もつければいいじゃねぇ〜か?」
「あんなのなんかまっかっかで役に立たないわよ。」
 あーだこーだいっているうちに外周を一周してしまった。ふとジャックが『地下層は上と違って意外と狭いのか』と心の中でつぶやく。少し困った様子でジュピターが話しかけてくる。
「どうする?ここは意外と狭いけど?それにざっと見た限りではこの階には遺伝子を保存しておく保管庫みたいのは置いてないようだけど?」
 首をかしげながら
「そのようだな。また二班に分かれよう。レジェンドとロケット班はこの階をもっと詳しく捜索する。終わったら地下二階に移動して捜索を再開。俺とジュピター班は地下三階と地下一階を捜索する。見つからなかったら一度ロビーに集合して策を考えよう。」
 合点といわんばかりにレジェンドが
「よし!!それで行こう!!行くぞ!!」
「ん〜〜待ってよ〜〜・・・・・」
 レジェンドとロケットは再び暗闇の中に消えていった。
「私達も行きましょう!」
「あぁ」
 ジャックたちは急いでエレベーターホールに向かった。予想に反して意外と狭いのだが研究に使用する研究機材があちらこちらにあって思うように捜索が進まない。これはジャックたちも同様だ。地下四階よりかは多少広くなっているが、尚研究機材が散乱している。それっぽい箱は何個か見つかるのだが中に入っているものは全部関係のないものばかりであった。たまにそれっぽい大きな倉庫見たいのがあるのだが見つからない。遺伝子レベルがサンプルと限りなく近いのだがこういうような遺伝子奪還作戦となるとそうも行かない。もしかしたら敵が大量にコピーを作ってスパイが捜索しそうなところに忍ばせておきスパイを翻弄するためである。途中ジャックたちがまさかと思い怪しげな音を立てながら起動中の怪しげな研究機材を途中で止めて中身を調べたりだとかしたが、案の定見つかったりはしない。無常にも時間は刻々と過ぎて行き、一息つこうとしたときには既に捜索済みの階をもう一度捜索しなおす羽目になっていた。そのうち(もしかしたらこの作戦自体でたらめなのではないのか?)だとか(これは単なるタレコミのネタなのかもしれない。)などとネガティブな考えが時間とともに頭をよぎるようになっていた。いくら探しても見つからないので仕方なく警備室に戻って休憩を兼ねて作戦の建て直しを図ることにした。物凄くジジくさい口調でレジェンドが
「うぅ〜〜〜・・・疲れたぁ〜〜〜」
 続いてジャックも
「がぁ〜〜〜めんどくせぇ〜〜ねむて〜〜〜あっち〜〜〜・・・」
 文句たらしまくりである。ジュピターにロケットも文句うだうだともうやる気なしでほとんど空元気状態でいやいやミッションを続けている様子であるのがモロバレであった。疲れた口調でジャックが話を切り出す。
「あぁ〜〜〜それでぇ〜〜これからのことなんだけどぉ〜〜〜どうするぅ〜〜〜?」
 やる気なし!面倒くさいというだらだらとしたオーラがジャックの背中からギンギンに感じて取れる。皆面倒くさい状態で
「また地下のエリアを探しますかぁ〜〜〜?」
「めんどくさぁ〜〜い。作戦は失敗しましたって帰ろうよぉ〜〜〜。」
「バカヤロォ〜〜〜〜。帰った後は始末書の山を書かされてぇ〜〜〜結局つかれるんだよぉ〜〜〜」
 さすがのレジェンドもこの有様である。完全に暗礁に乗り上げたというのはうすうす気付いていた。こればかりは困ったと見てジャックもアローに通信を入れた。
「アロォ〜〜〜。俺達がどっか行ってない部屋とかってあるぅ〜〜〜〜?」
「チョッと待ってください。今調べますから。」
 そういうと無線機越しからパソコンのキーボードをたたく音がすさまじい速さで聞こえてきた。「ありましたよ!!あなた達が唯一、行っていない部屋がありましたよ!!」
 突然うだうだとしていたジャックがこの話を聞いたとたんにシャキッ!!として聞き返した。
「それはどこの部屋だ!?」
 少しためてからアローが切り出した。
「日本国立遺伝子研究アカデミー所長、赤城友蓙(あかぎゆうざ)の部屋。」
「・・・・っ!!何だと!?」
 一瞬自分の耳を疑わずにはいられなかった。この通信を聞いていたほかのメンバー達も同様の反応を示す。
「まさか!?・・・あの人は科学研究庁の長官でもあろう人が・・・・」
「信じられないわね!!」
「全くもって呆れますね!!」
 するとかなりギラ付いた目でジャックが、
「とにかく所長室に行って調べてみよう。もし長官がバイヤーだったら長官室に必ず保管してあるはずだ。」
「なぜそんな事がいえるんだ?」
「確信はないけどそんな気がするだけだ。とにかく行ってない部屋がそこだけだからとにかく行って捜索しないともうこれ以上ヒントがない。」
「そうね。そうしましょう。」
 すると急いで四人は昇降機に乗っては近い所長室に急いだ。所長室の入り口は意外と厳重に電子ロックが仕掛けてあって、チョッと苦労しそうだ。暗号コードを入力して、指紋センサーを通して、IDカードを読み込み機にスライドさせて・・・しかし今のジャックたちにはさっきのだらだらとしたオーラが全く感じ取れず、物凄い気迫に満ちたオーラが鋭く辺りに漂っていた。ロケットと、レジェンドが協力して、偽造プログラムを作成していく。暗号コードを電子ロックプログラムの下部部分のカバーをはずして、強制読み取り機を接続して、指紋読み取りようの速乾性の薄い接着剤を指紋読み取り気の上にたらして、先ほど研究区域に侵入するのに使ったIDカードを中身を変更して有効利用。スピード重視で電子ロックを欺ける程度の偽造プログラムを作り上げた。所要時間わずか4分28秒。“ピーーーー。ガシャン”電子ロックが解ける音と鍵が開く音が同時に響く。後ろで見守っていたジャックとジュピターがマシンガンをしっかりと握った。そして、レジェンドがドアのノブを握って開けようとした瞬間、ジャックが
「チョッと待て!あけるのは少し待て!!」
 水を差されたようで気分を害したのか、レジェンドが
「何だよ?まだなんかトラップがあるとでも?」
 少し考えながらジャックが答えた。
「あぁ。考えてみたら所長室って一番重要書類とかが保管してあるところだろ?そんなところがこんなヘナチョコ電子ロックだけだと思うか?まぁ、部屋の中に赤外線センサーが張り巡らしてあったとしても今の電子ロックの解除でストップしたはずだ。残りは多分、監視カメラだけだと思う。」
「お前って時々物凄く鋭くて、ナイスなことを言うよな!そうだよ。確かにそうだ。一番重要なところで、この機関の頭脳部分がこんな甘いわけがない。」
 何かひらめいたようにロケットが
「ドアに穴を開けてマイクロスコープで覗いてみたら?」
「よし!覗いてみよう!!」
 そういって、レジェンドは低騒音ドリルとマイクロスープをサックから取り出した。早速、ドアの下のほうにドリルの先端部分をつきたてて、スイッチを入れた。すると、ドリルの先端部分がゆっくりと回転を始めた。ぽろぽろとドアの木屑が落ちていく。しばらく、穴を開けていると、ドリルの回転がスムーズになった。レジェンドがドリルをとめて、状況を確認する。片目を瞑って目を良く凝らして、中を確認する。少しだけだが、中が見える。だが暗くてよく言えない。そこでロケットがマイクロスコープを差し込んだ。穴とマイクロスコープの幅が丁度良くてぴったりとはまる。ロケットがマイクロスコープを持ったままで、レジェンドがかなり大き目のコントローラーに持ち替える。そこには小さなモニターが付いていて、赤外線センサーと暗視センサーを複合したモニターとなっていて、真っ暗な部屋の中がかなり鮮明に確認することが出来る。よく、目を凝らしてみると、部屋の奥のほうに監視カメラが確かに存在した。しかも赤いランプが点灯している。起動中だ。チョッとにんまりとした顔でレジェンドがジャックに尋ねる。
「どうする?カメラは起動中だからいくら無人といっても録画される恐れがあるぞ?」
 そういわれて少しうつむきながら手を組んで考え込む。今このチームが所持している装備と時間帯と状況を踏まえながら突入の作戦を考えている。しばらく考え込んだがいい案が浮かばなかったのでたまらずアローに通信を入れる。
「こちらジャック。まずい。非常事態だ。所長室の監視カメラが作動中で部屋の中には入れそうもない。どうすればいい?」
 さすがのコンピューターオタクのアローでさえも悩む。いろいろとコンピューターをたたく音が無線機越しに聞こえるのだが、どれもいい案が浮かばないようだ。
「駄目ですね。あの監視カメラは完全に独立していて、部屋の中に不審者が侵入すると監視カメラの自動録画が作動します。」
「そうか・・・ありがとう。」
 そういって通信をといて、その場にしゃがみこんで頭を抱えて再び考え込む。
「どうする?本当にこのままありませんでしたって言うことにして、帰還する?」
 ジュピターの問いかけに対してジャックの答えは沈黙。呆れてジュピターは物も言えない。仕方なく、ほかの皆も考え込む。あーでもない。こうでもない。あれならいけるんじゃ、その代わり高いリスクが付く。じゃぁほかのいい案はあるのか?あるわけない。などとなんとも無駄な会議を展開中。すると、1人黙り込んでいたジャックが何を思ったのか、突然天井を見渡す。
「オイジャック?ついに神頼みか?」
 何かを探して少し焦り気味のジャックが
「違う。換気口だ。換気口なら上手く所長室に進入できるかもしれない。」
 一同も納得の結論である。早足で歩き出すと少しはなれたところに大きめの黒い入り口が見えた。ここでジャックが再びアローに通信を入れる。
「こちらジャック。このアカデミー、8階の換気口の道筋を知りたい。俺のマップに表示できるか?」
「チョッと待ってください。今掘り当てます。」
 すると一分も立たないうちに
「ありました。今そちらに転送します。」
 すると脳内通信機を通じてジャックの脳内に換気口の配管が明らかとなる。見たところかなりシンプルな感じだ。ジャックは心の中で『これなら何とか進入できそうだ。』再び換気口の入り口を確認してその場でくるりと振り返ってレジェンドに手招きをする。手招きをされてレジェンドが来ると
「レジェンド、折り入って頼みがある。」
「何だ?まさか馬になれって言うんじゃないだろうな?」
「そうだ。」
「やっぱり。」
 そういってレジェンドはその場でしゃがみこんでそのしゃがみこんでいるレジェンドの両肩に足を乗せて頭を軽く一回たたいて合図する。さすが長身のアメリカ人。赤外線ゴーグルで換気口の入り口を赤外線センサーが張り巡らされていないことを確認して、ゆっくりと慎重に格格子状のカバーを静かにはずす。“ギーーー・・・ガチャン”重い金属同士のこすれる音が静かに響く。ゆっくりと慎重にカバーをジュピターに手渡す。その後赤外線スコープを装備して中を確認する。赤外線センサーは張っていないようだ。換気口の中に手をかけてしっかりと自分の体を固定して、まるで猿のような素早い身のこなしでレジェンドを踏み台にして換気口の中に入っていく。『うーーー。中はすごくほこりっぽいな。ほこりはあんまり好きじゃないんだけどなぁ。』と思っても仕方がないくらいほこりで充満していた。さすがに耐えられなくなってガスマスクを装着する。『ふーー。これで少しは楽になった。それにしてもこの換気口は汚すぎる。』そう、心の中で重いながらもはいはいで素早く換気口の中を移動していく。途中分かれ道とかがあったが、リアルタイムマップのおかげで楽に進める。またしばらく進むとそこには赤外線センサーが張り巡らしてあった。『ここが所長室の真上だな。』今度は起用にサックの中から、小さな手鏡を取り出す。その手鏡をゆっくりと慎重に赤外線センサーの糸に通して、赤外線センサーの糸を反射させて上手くスペースを作り出す。格子状のカバーの隙間から下の様子を確認する。いろいろな角度から見渡して、カメラの視覚範囲を割り出す。次は足に装備していた少し太い缶を取り出す。色は緑色で、側面には英語でチャフ・グレネードと書いてある。(チャフ・グレネードとは携帯用の電子機器妨害用グレネードである。静かに爆発した後にチャフ片と超小型の電子妨害ジャマーを空中に散布する。電子妨害ジャマーから発せられた電波をチャフ片が反射してかなりの広範囲で電子機器が使用不能になる。)チャフ・グレネードの腹の辺りにタコ糸をきつく結びつけて舌で結び目をなめる。なめることによって結び目をしっかりとさせることが可能である。余分な糸を自分の左手に巻きつけて、右手で静かに先端部分についている安全ピンをはずす。迅速かつゆっくりとカバーの隙間からチャフ・グレネードをたらす。地面まですれすれのところまでたらしたところでチャフ・グレネードが爆発。あんまり音が立たないように改良されていたので、爆発音がほとんどしない。チャフ・グレネードの爆発を確認してジュピターたちに連絡を入れる。
「こちらジャック。現在位置は所長室天井裏。チャフを散布した。今なら入っても問題はない。それとチャフが切れるまでにカメラにとって細工をしてくれ。俺はそれから降りる。」
「面倒くさいことばっかり私達に押し付けないで。仕方ないからやっておいてあげるわ。」
 通信が切れる音がしたそのすぐ後にドアが開く音がした。ブーツの音が三つこちら側に迫ってくる。レジェンドが天井裏に潜んでいたジャックに合図を送る。それにあわせてジャックも合図を送り返す。天井裏の死角になってよくは見えなかったが、またレジェンドが馬になってジュピターを持ち上げて、赤外線スコープを装備したカメラで防犯カメラの範囲をカメラに収める。十秒くらいたった後にカメラから写真が出てくる。その写真の出来具合を懐中電灯を当てて確認。多分針金か何かだろう。細い金属製の糸のようなものでカメラの支柱部分にまきつけて針金で写真の上の真ん中に穴を開けてそれを通す。しっかりと固定して準備完了。これでどんなに走り回っても防犯カメラに映らない。レジェンドとジュピターは肩車をしたまま天井の換気口のカバーをはずす。またしても金属がこすれる音が部屋中に響き渡る。ジャックはレジェンドたちをどける。ジャックはその後へりに手をしっかりとかけてするりと体を通して、へりにぶら下がり状態となる。見渡すと既にロケットは捜索を開始している。机の上は一通り捜索したらしく、机の引き出しを一番上だけ開けていた。ジャックもスタッと地面に着地して捜索を再開する。ロケットとは反対側の引き出しを捜索する。何故かどの引き出しも鍵が掛かっている。ジャックは針金で起用にピッキングをして全部の鍵を素早く開ける。下から上へと引き出しを開けていく。しばらく探していると、三段目の引き出しのところになにやら怪しげな小さい金属製の箱を見つけた。その箱にはただ危険とだけ大きく書いてあったので、ゆっくりと静かに丁寧に箱を開けた。箱を開けた瞬間ドライアイスか何かの蒸気が立ち込めて、その蒸気が晴れるとそこには二本の試験管が大事そうにしまわれていた。
「これだ。」
 ほかの捜索に当たっていた皆もジャックの下に駆けつけてくる。じろじろと眺めて、レジェンドがふと漏らす。
「なぁ。何で試験管が二本入ってるんだ?盗まれたのは一つじゃなかったのか?」
「確かにそうだな。」
 そういってアローに通信を入れた。
「こちらジャック。聞こえるかアロー?」
「はい。聞こえますよ。何か問題でも発生しましたか?」
「問題という問題ではないが大問題だ。」
「どうしたんですか?」
「それがなぁ・・・試験管の携帯用冷凍保管庫を見つけて開けて中身を確認したら試験管が二本入ってたんだ。どう思う?」
「うーーーん・・・多分ダミーか何かでしょう。仮に一緒に入れておいた実験用の人造人間の遺伝子だとしたらそれも回収しておく必要があるでしょう。箱ごと持ってきてください。」
「分かった。」
 といって通信を解除し、ジャックは皆に向かってこういった。
「二本入っていても問題はないらしい。ダミーか何かだそうだ。というわけでとっととずらかるとするぞ。」
 とロケットが
「あぁ〜〜やっと任務が終わったぁ〜〜〜〜。」
 しかし気をぬかないレジェンドは
「しかし、これに発信機が付いていたら後でつけられるぞ。」
「問題はないだろう。うちらの本部基地は見つけることは1000万光年掛かっても無理だ。」「確かにいえてるわ。あんなところに基地を作って分かる人なんでそういるもんじゃないわ。」「そんなことより、早く撤退しないと異変をかぎつけたアンドロイドが来るぞ?」
「あぁ〜〜心配無用だ。後は逃げるだけだしこっちにはなんたってサイレンサー付きのマシンガンを装備してるんだからな。」
「そういうことよ。」
「いや、ロケットはさっきまで落ち込んでなかったのか?」
「さぁ〜何のことかしら?」
「とにかくだ、今はここから早く撤退することが優先だろ?早く屋上に行くぞ。俺とジュピターで脱出用のロープを設置してある。」
「そうね、急ぎましょう。敵に見つかってお陀仏なんてしたくないし。」
「まったくよ。まぁ〜ジュピターが地獄に召された程度じゃジャック小隊は消滅しないけど。」「あぁ〜〜また始まったよ。いい加減にしろよ!!」
 目的の奪還する遺伝子が見つかり、我らの手中に収めて一安心をしていると、ジャックが急にきりっとした声で皆に言う。
「今のところはリアルタイムマップに警備用アンドロイドなどの警備用ロボットは表示されていない。急いだほうがいいぞ!!」
 そういってジャックは1人で所長室の外に勝手に出て行ってしまった。ほかの皆がいそいそとジャックの後を追うように所長室から出て行く。そして、4人は急いでジャックとジュピターが降りてきた階段を駆け足で上っていく。閉めてある扉の前で4人は一度立ち止まり、ゆっくりとドアを開けて無意識のうちに後ろにいたロケットとレジェンドが銃を構えて先に屋上に出る。ジャックが脱出用アンカーワイヤーを設置してあるポイントを指で指す。一番最初にレジェンドが脱出をする。スニーキングスーツに取り付けてあるフックをアンカーワイヤーに取り付けてしっかりと安全確認をして、自分のサックを自分の腹に抱えて一気に屋上から下る。それは想像を絶する速さである。真ん中あたりでは既に体感速度が時速100kmを超えていた。見る見るうちに目標の公園の気が接近する。そして間も無くしてレジェンドが公園の木に思いっきり正面衝突する。
「ぐうぅ!!!」
 それは予想以上の衝撃だった。少しの間、その場にうずくまり咳き込む。だがレジェンドはこうしていられないといった感じですぐさま立ち上がり、脱出用のトレーラーに戻って、自分の愛用のボルトアクションライフル、アキュラシー・インターナショナル・スーパーマグナムを取り出す。このライフルはボルトアクションライフルの最高の命中精度を誇る。英国陸軍ではL115A1として正式採用しているライフルで、最大射程距離は1,100mで有効射程距離は800mを誇る。装弾数は5発と少ない感じはするが、レジェンドは自分で装弾数を3発増やしたマガジンを使用。さらにこのライフルの最大の特徴はなんと言っても貫通力と耐久性である。50口径弾に次いで強力な338ラプアマグ弾を通常弾として使用している。尚、このライフルはレジェンドが夜戦使用に改造している。装備されているスコープの倍率は変化がないが、暗視スコープと赤外線スコープを併用した特殊スコープを装備していて、消音性も重視しなければならないので、かなり長めのサイレンサーを装備している。レジェンドはこのライフルを持って、脱出用のトレーラーの屋根に上り、ホフク状態で寝そべり、ライフルをおき準備完了。レジェンドはジャックたちに通信を入れた。
「こちらレジェンドだ!たった今狙撃準備が完了した。いざとなったら俺のスーパーマグナムで敵に風穴を開けてやるから安心して離脱しろ!」
「了解。全く助かる。」
 そしてジャックとレジェンドの交信が終了した。現在屋上にいるジャックはてきぱきと指示を出した。先にジュピターを離脱させる。次いでロケットも離脱する。最後にジャックが離脱する。既にトレーラーにはレジェンド以外の4人以外が待機している。
「こちらジャック。全員無事に離脱した。戻って来い。」
 すると少し感覚を開けてレジェンドが
「いや、まて。スコープが小さくてよくは見えないが、もしかしたら屋上にアンドロイドが来たかもしれん。」
「分かった。だが、もうこれ以上関る必要はない。早く戻って来い。お前が来ないとトレーラーを運転するやつがいないんだからな。」
「分かった。脱出用のアンカーワイヤーはどうする?俺達の侵入に気付かれるぞ?」
「問題ない。あれは俺が無線爆弾を仕掛けてあるからそれで爆破する。木端微塵にな。」
 と通信を交わした瞬間、レジェンドがトレーラーに戻ってきた。運転部分に待機していたジャックに自慢のライフルを手渡して、すぐにトレーラーを動かす。そのまま混沌とした都市の闇夜に消えていった。・・・・・・
 ―――翌朝―――眞吾は夜中の4時に帰宅して、そのまま2時間ほど仮眠をして、この日の朝刊を見ていた。その一面記事には眞吾たちが起こした奪取の記事は掲載されていなかった。だがしかし、国立日本遺伝子研究アカデミーの所長赤城友蓙は極秘裏に科学研究庁長官という職とアカデミーの所長という職を退かされたということは世間では知られていないが、眞吾たちは朝刊を見たときに理解した。


 第二話・陰の実力後編・完