THE・SHADOWS 4
作・トップシークレット





第四話・ウダウダ後、ドンチャン騒ぎ

 人通りの多い大通りに多くの出勤する会社員や、ふざけながら登校する学生。やばいといわんばかりに檄走する少年。都会の混沌とした生活の中に1人ノーっとしながら歩いている1人の学生がいた。そう、穐山眞吾である。昨日の出来事のおかげで疲労困憊、既に昨日のような判断力や思考能力はどこへやら・・・寝癖をつけ、いかにも寝起きという顔で大通りをゆっくりと歩いている。『あぁ〜〜・・・眠いぃ〜〜〜・・・何で今日に限ってテストなんだろう?しかも五時限で一気に五教科・・・ありえん・・・』などと物凄くネガティブなことを思いながら歩いていると、いきなり後ろからラリアットを後頭部に食らった。もし昨日の眞吾だったらすかさず受け流しながら反撃が出来ただろう。しかし現在の彼は殺気など神経を研ぎ澄ましても感じられない。思わずラリアットを食らったジャックはよろよろとなってその場に転ぶ。
「ぶえっ!!」
 きわどい声を上げてゆっくりと起き上がり後頭部を両手で抱え悶絶しながら自分を殺った相手を確認する。
「あんたも・・・相変わらず朝がまったくといっていいほど駄目ね!!」
 眠気で先がボケているめをこすり確認する。そこには両手を腰に当てて仁王立ちしているマリアがいた。
「・・・・・・・・なんだよ?ラリアットは後頭部じゃなくて首を狙うんだぞ・・・・・・・」
 マリアが思っていたこととは全く関係のないことで反論されたので呆れて力が抜けそうになる。
「あんたねぇ〜・・・普通は『何するんだ!!いきなり!?』とか『不意打ちなんて卑怯だぞ!!』とかってあんたは反論しないの?」
 マリアがかなり厳しい口調で尋ねる。まだにわかに痛い頭を両手で押さえながら少しマリアの表情を見て静かにこういう。
「そんなこと言ったって不意打ちをするやつの気なんてたかがしれてるし、それにそんな事を聞いても俺が得するようなことは何にもないし・・・・」
 この返答を聞いてまた呆れるマリアであった。まぁ当然といえば当然であろう。いきなり不意打ちに関しての相手の真意を聞こうとはせずに、相手の攻撃ポイントの甘さを指摘するのだから。言ってしまえば、彼は少しズレているのか、それとも単なる天然なのか・・・彼はそんな不思議な中学生である。しかも付け加えると8ヵ月後には高校受験を控えている中学生である。そんなこんなで、まさに戦が始まろうとしている、眞吾とマリアの中学校に到着。その光景といったらそれはまさにさっきで満ち溢れていた。生徒は教科書を片手に歩きながら勉強する有様だ。学校の校舎内でマリアと別れた眞吾は自分の教室にゆらゆら揺れながら向かう。自分の席に着いた眞吾は荷物を横にかけて、とりあえず背筋をピンとして何をするのかと思えば・・・寝る。隣の女子、桐嶋由美はノートと教科書を机いっぱいに広げて最後の追い込みをかけている最中である。思わず由美が声をかける。
「ねぇ〜?眞吾君。勉強しなくてもいいの?点数悪いと補習だよ?」
 しかし、眞吾は眠そうな声で答える。
「別にいいよ。俺もいろいろ勉強してて、ねてねぇ〜〜んだよ。昨日、学校帰ってから、教科書をもらって一気にテスト範囲をやったんだが・・・じぇんじぇんすすまねぇ〜んだよ。いざとなったら由美のテスト見せてくんない?」
「いやっ!無理だから!!見せたらあたしも眞吾君も補習無条件で受けないといけないから!!」
「やっぱりだめかぁ〜。マジデこのテスト、テキトーにやって提出しようかな?」
「テキトーはマズイッショ?とりあえずやっておかないと?」
「だったらテキトーに全部埋めておくかぁ〜。」
 そういってまた寝ようとした瞬間、教室の扉が勢い良く開いて先生が入ってきた。
「はーーい!皆さん。待ちに待ったテストの日がやってきましたね。それでは気をつけ、礼」
 先生の号令で皆が挨拶をする。しかし、今日だけはその挨拶も上の空。とにかく頭の中がテストでいっぱいだからである。先生が今日の予定などを話していても教科書を眺めるものもいれば隣の席の友達に相談をしたりとか、様々である。・・・約一名を覗いては・・・。先生が今日の予定を伝え終わるチョッと前にチャイムが構内に鳴り響く。生徒達はみな、背中を振るわせた。遂に、遂に戦争の幕開けだと確信したからである。最初の闘い。一時間目は英語だ!
 ―――一時間目、英語―――最初はリスニングからである。眞吾も休み時間中に顔を洗ってきたらしく、顔つきが朝の登校時とは全く違う。しばらく、アメリカのポップミュージックが流れると、英語の先生が放送でこういった。
「学年別総復習テスト、英語科、問一。次の文を聞き取り、解答欄に記入しなさい。」
 すると、いかにもアメリカ人といわんばかりの女性の声が放送から聞こえてきた。
「My name is liz. I’m from U,S,A . My family is 4famileis. Father and mother and sister. Father and mother is high school teacher. My syster is college student. And my hobby is shopping. I usually pop music. Who is liked singer in japan ?」
 しょっぱなからとっても長い英文が放送された。これを全部書けというのだから難しい。
「第二問。これから放送される会話文を答案用紙の表に埋めて表を完成させなさい。」
 今度は男の子2人と、女の子2人と、先生が1人という設定らしい。
「What do you think peace now ?」
「I think now peace is not peace Becose trouble is out break now ?」
「I’m against this opinion Yesterday I watched trouble report on TV」
「Why we are peace and rich ? by virtue of trouble is always outbreak ?」
「I don’t think so. Trouble isn’t relation. 」
「This talking point is so difficult!」
「I think so too!」
「以上で英語リスニングテストを終わります。筆記試験に入ってください。」
 といった感じで後の筆記問題も難題続きであったが、眞吾だけは1人すらすらと問題を解いて、1人だけ時間が余って寝ていた。しばらくしてチャイムがなり、一気に教室中にネガティブな思いが渦巻き始めた。まるで混沌とした人民のような表情を浮かべながら悶えている。これはほかのクラスの生徒(マリアも含めて)同様である。だが、眞吾は面倒くさそうに全部の解答欄に何らかの回答を埋めてあるのだからそれだけでも素晴らしいのに彼はほかの生徒にテストの出来具合を聞かれて全問正解間違いなしと豪語しているのだからこれは驚きである。また眞吾は寝る時間を逃してしまったと悪態をついている間に二時間目のテスト、理科が配られる。これもわけが分からん問題の集大成である。この理科のテストを作成した理科の先生はいやらしく総復習テストを少し応用問題に変えている。多分、この学校の総復習テストで一番難しいテストは何と聞いたら、間違いなく理科真っ先にあがるだろう。それほどこの理科は中学三年生になったばかりの生徒達には難しいのである。さすがの眞吾もこれには困惑するかと思いきや、しばらくボーーーッと問題を眺めて一気に問題を消化していく。まるでコンピューター制御されたロボットのように一定のペースで問題を解いていく。そんなペースで問題を解いていく、残り時間がまだ20分もあるのに1人終わってしまった。今度は何を思ったのか、周りをきょろきょろ見渡している。どうやら1人だけ早く終わってしまって戸惑っているようだ。しばらく回りを見渡した後に自分の回答を見直ししてもまだ時間が10分も余ってしまった。そこで眞吾は寝た。だが、眠れない。なぜだか眠れない。気持ちが高ぶってしまって眠れなくなってしまった。結局ウダウダが続いて暇な時間を睡眠に当てることが出来なかった。そうして再びテスト終了のチャイムがむなしく学校内にむなしく響き渡る。あまった時間を睡眠に当てられなくて少し不機嫌になった眞吾。すると隣の席の桐嶋由美が眞吾に向かって話しかけてきた。
「ねぇ、眞吾君。次の科目の数学さ、ここの部分チョッと教えてよ。」
 どうやら眞吾の異常な余裕綽々な態度をみて驚いてのことらしい。眞吾は由美が差し出した教科書の例題の部分を見てみる。確かにこの教科書の例題だけで理解しろというのがおかしい。ほとんど説明がなく順序も少しあやふやであるからである。すると眞吾は自分のシャープペンを手にとって由美に教え始めた。
「いいっちか?まずこの式を解くとこうなるのは分かるっしょ?この解いた式と1ページ前にあった公式の4番に代入して仮の答えを出しておくんだよ。今度はこの仮の答えと1番最初に出てきた式を二次方程式のように組み合わせて解くんだよ。そうするとxが出てくる。今度はそのxで一次方程式を作るんだよ。今度はこの一次方程式と二番目の式を組み合わせてやるとxが0、yが0になる。これで分かったかい?」
 この眞吾の適切で非常に分かりやすいのか分かりにくいアドバイスに次いで眞吾の補足説明も聞いて非常に分かりやすく理解した。この光景を見ていたほかの女子生徒や男子生徒数人の生徒が眞吾の席の回りにやってきた。こうなった眞吾はてんてこ舞い。こっちでアドバイスを出したと思ったらそっちでどうやるのと聞いてくる。そっちでアドバイスを出したと思ったら今度はあっちでアドバイスを出す。あっちでアドバイスを出したと思ったらあっちにアドバイスを出す。わずか10分の休憩時間で眞吾は仮眠を取って休憩しようと計画していたのだが思わぬ出来事に時間を完璧に食いつぶされて次の数学のテスト始まりの時間まで残り20秒ほどになってしまった。仕方ないので首を回したり上下に動かしたり左右に動かしたりして首をコキコキと言わせて休憩終了。再び始業チャイムが鳴り史上最悪の数学のテストが幕を開ける。学年、組、番号と名前を記入して準備完了。ある意味地獄の理科よりも難しい数学という得体の知れないプレッシャーが教室中を覆い包む。先生のはじめという大きい声の後に生徒全員が一斉に裏返しになっている問題用紙を表向きにして第一問を解こうとする。が、第一問目からレベルAぐらいの問題が出題される。生徒達のペンが進まない。眞吾もこの問題には少しばかり戸惑いを隠せないでいる。完全にほかの生徒達はいきなり暗礁に乗り上げてしまった。眞吾も暗礁に乗り上げたかと思うと突然目を瞑ってシャープペンを器用に5本の指全部を使って回し始めた。しばらく目を瞑ってシャープペンを回していたかと思うと、突然ピタリとシャープペンが止まった。ゆっくりと眞吾が目を開けると再び機械制御されたロボットのようにクソ難しい数学の問題を一定のペースで解いていく。問5あたりに眞吾が由美に教えた問題が出てきた。しかし眞吾の問題を解くペースがこれしきで衰えることはない。むしろうざったい位ほどだ。S・B(眞吾のブレイン)がコンピューター並みの計算力を発揮し始めた。眞吾の脳の神経系に流れている電気が異常な量で流れる。そんなこんなで眞吾が異常なペースで問題を解き終わったときにはほかの生徒達はまだ半分くらいのところで再び立ち往生。そして眞吾は余った時間で再び寝る。今度はゆっくりと余った時間を有効活用できると確信していた。しかし、後ろで感じる人の気配が気になって眠ろうとしても努力しようとするが人の気配が気になってまぶたが落ちてこない。しかもちゃんと見えてはいないのだがだんだんとその人の気配が近づいている気がする。そして眞吾は肩をたたかれてハッとした。その肩をたたいてきた謎の人物が話しかけてきた。
「もう試験は終わったの?見直しはしなくていいの?」
 どうやらあまりに試験問題を解くのが速すぎて少し様子がおかしいと感じて試験の監督官が眞吾の様子を伺いに来た。
「ん〜〜〜〜・・・・まぁ〜〜〜・・・一応終わったかな?」
「もしかしてカンニングとかしてないでしょうね?」
「そんなもんしたって、俺の得になんないからしてないよぉ〜〜〜〜」
 眞吾がそういうと監督官の先生はその場を立ち去って再び見回りを再開した。
 そしてまた終了のチャイムが学校中に響き渡る。チャイムがなったとたんにあの難しいといわれた理科よりも混沌としたうめき声が響き渡った。前半の三教科が終了してここで昼食の時間だ。昼食の時間になって眞吾の席の近所の人が弁当を一緒に食べようといってきた。眞吾はあっさりと承諾。すると前後左右5つの席が眞吾の席にくっつけてきた。もちろん由美も同様である。みんながぼちぼち自分が持ってきた弁当をかばんから取り出す。眞吾も自分のかばんから弁当を取り出した。眞吾の弁当を見てほかの生徒達は少し驚いた。なぜ驚いたかというと男子の弁当にしては量が少ないからである。弁当箱の大きさ的には大体、女子の弁当箱より一回り大きい程度の弁当箱だ。気になった女子生徒が眞吾に問いかける。
「眞吾君のお弁当ってほかの男子より小さいけど、ダイエットしてるの?」
 眞吾がこの問いかけを丁寧に答えた。
「俺は胃腸が弱いからあんまり食べられないんだよ。それに腹八分目まで食べると眠気がどっと襲ってきて眠くなるし、なんたって判断力と思考処理速度が普通の状態より鈍くなるからあんまり食べないんだよ。量的には大体腹六文目くらいかな。」
 そういって眞吾が弁当箱のふたを開けると、意外と綺麗におかずが並べてある。色とりどりで意外と栄養バランスが取られているお弁当となっている。それは女子の目から見ても感嘆とさせられるほどだった。
「このお弁当の盛り付けって綺麗ね。誰がお弁当作ってるの?」
 眞吾は卵焼きをつつきつつ卵焼きの出来具合を見ながらこういった。
「毎朝俺が作ってるんだ。」
 毎朝、眞吾がお弁当を作っているという事実は驚きである。多分興味本位だと思うのだが由美が尋ねてきた。
「それじゃ、眞吾君ってかなり料理できるのかな?」
「ん〜〜・・・そこそこ出来ると思うけどプロの料理人程までは行かないだろうな」
 眞吾のこの答えにも驚きである。さらに眞吾は深部まで掘り下げられた。だが、昼食の時間の後半は近所のおばさんが集まって井戸端会議状態になっていた。もともと眞吾はほとんど参加していなかったが。眞吾がほかの連中よりも少し早く昼食が終了して暇な時間が出来てしまった。まだ眠いからもう一回寝ようかと思ったが休み時間ぐらいは有意義にすごそうと思った。そこで有意義に過ごすために図書館で本を借りてみようとした。しかし、眞吾はこの学校に来てまだ2日しかたっておらず、どこに何があるのかをまだ完全に把握していない。そこでまだ井戸端会議状態で昼食をしているたずねた。
「由美・・・一つ聞いていいか?」
「なに?どうしたの?」
「この学校の図書館の場所を知りたい。まだこの学校の構造が把握できてないから分からんのだ。」
「あぁ〜。図書館なら管理棟の3階よ。階段の近くだから行けばすぐに分かるわよ。」
「そうか。ありがとう。非常に助かる。」
 眞吾はそういって何か感じ取ろうとしながら教室をゆっくりと出て行った。この学校は少ない敷地面積の中に効率的に立てられた現代ではかなりハイテクの学校である。しかも校舎内は意外と広く、教室棟の廊下が1番端から端まで大体40メートルもある。それに伴って一つの教室の面積が通常よりも広く、かなり快適で教室特有の息苦しさを感じさせないつくりとなっている。その上教室や廊下の天井は環境性に非常に優れいていて、一枚あたりの単価が非常に安い、しかも安いに関らず、ホームシックなどの原因になる有害物質が全く発生しない板を使用している。そういう点でこの学校は非常に優しいつくりとなっている。廊下をきょろきょろと見回しながら歩いていると、眞吾はあることに気が付いた。それは廊下の端の辺りに手すりが延々と続いていることだ。これは授業参観に来た身体障害者の人や、ご老人のために作られたものだ。再びしばらく進むと、T字路に差し掛かった。ここでも眞吾が感心することがあった。T字路の壁に点字ブロックが設置してある。
『身体障害者用の簡易地図といったところか。それにしてもこの学校はいろいろな整備が施してあるな。点字ブロックの簡易地図なんか前の学校になんかなかったしな。』
 眞吾がきょろきょろしているとどうやらいつの間にか管理棟に入っていた。
『ここが4階だから、一つ下の階か。ほう。ここの階段も素晴らしい。』
 それもそのはず。階段の段差がさほどない、そして階段の横幅がかなり広く、その階段の横幅の半分がスロープになっている。そのスロープも滑り止めが全面に加工されている。そんなこんなでいろいろ感心させられながら、管理棟3階、図書館に到着。眞吾が図書館に入ると図書館に保存されている蔵書の独特のにおいがふわりと鼻をくすぐる。その図書館もかなり広い。広さ的には大体教室を二つつなげた位の大きさだ。
『この学校の図書館はすごく広い。ここならいろんな文庫がそろっていそうだ。こういう図書館は何時間いても飽きが来ないから楽しい。』
 眞吾が図書館の真ん中あたりに立ってあまりの広さに制服のポッケに手を入れて何をしようか迷ってしまった。頭を抱えて悩んだ末にとりあえず図書館の中を一周して何をしようか考えることにした。
『それにしてもホント良くそろってるな。なになに、まずは文庫から歴史的書物、東洋、西洋書物。それに、現代産業資料。うはっ!漫画まであるよ!』
 眞吾はとりあえず文庫本のエリアに足を運んだ。しかし、この学校の所蔵している文庫本の数もかなり多く、文庫本だけでも大体5000冊を所蔵している。
『すげーな。俺の大好きな文庫本が目移りするほどおいてあるよ。何を借りようかな?何を借りようかといってもこんだけ文庫本があるとどこから借りていいかわからんな・・・』
 こうして眞吾が文庫本のエリアで時間を忘れて立ちながら悩んでいるとどこからともなく女の子の声が聞こえてきた。
「あ・・・あぁ、あの・・ど、・・・・どのようなぁ・・本をお探しですか」
 フッと後ろを振り返るとそこには眼鏡をかけたお下げの女の子が立ってい。しかも意外と可愛く、めがねっこにはたまらないほど可愛かった。眞吾が少し状況を飲み込めずにその眼鏡の少女をジーッと見ているとその女の子も慌てて手を振りながら応答する。
「あ!・・・いや・・・その・・た・・ただ・・・迷っていたので・・それで・・・・きになっただけで・・・」
 眞吾はこの言葉を聞いてようやく状況がりかいできた。どうやらこの女の子は自分が何を借りようか迷っているのを見て何かお勧めの本を教えようとしたらしい。多分。
「あぁ〜。そういうことか。この図書館は何かと広くて何を借りればいいのか分からなくてさ。ここの図書館の文庫本で何かお勧めのものとかってあるの?」
 眞吾の問いかけに対して、先ほどのおろおろ感を全く見せずに答えた。
「はい。当図書館のお勧めの文庫本はこちらの蒼い空のかなたです。作者は前田雄一さんです。こちらの本を借りた方の半数以上の感想が物凄く壮大で面白かった。だそうです。」
 さっきとはぜんぜん違うほどはきはきとしていて、お勧めの本を紹介する。
「おっ!その本は一度読んでみたいと思ってたんだよ。まさかこんな掘り出し物がこんな図書館が持っているとは・・・」
「こんな図書館とは、失礼ですね。これでもこの海藤中学校図書館は新神奈川県内でも一番の所有数を誇るんですよ!我ら海藤中学校図書委員の誇りでもあるのですから!」
「へぇ〜。それじゃ、どこに何の本があるとかって詳しく分かるの?」
「もちろんです!なんてったって私は海藤中学校図書委員会の委員長でもあり図書館の管理長でもあるんですから!それくらいのことは知ってて当然です。」
 初対面の図書委員会の委員長といきなり和やかなムードで話していると本棚の陰からこの会話を覗き&盗み聞き&盗撮をする怪しい人影があった。しかし、眞吾はそんな事を知ってかしらずか同じ共通点を持った図書委員長と文庫エリアで話していた。まさかこの謎の人物によって翌日眞吾に史上最大のピンチを招こうとは露知らずに休み時間いっぱいまで眞吾と図書委員長は話していた。すると時間を忘れて話していた二人にチャイムが一際甲高く聞こえた。二人は水を差されたような思いに浸った。
「もうチャイムかよ。そうだ!初対面で悪いんだけどさ、名前教えてくれないか?俺あんたとなら友達になれそうな気がするんだ。」
「私?私の名前?私の名前は池田綾乃(いけだあやの)。あなたの名前は・・・穐山眞吾君?」
「そう。この図書館って放課後もやってるのか?」
「うん。基本的にはこの昼休みと放課後の完全下校時間までの間やってるよ。」
「そうか。その蒼い空のかなたの本。誰にも貸さないでくれよ。」
「ここの図書館の本は皆平等に貸し出されますから、早めに借りて言ってくださいね。」
「やっぱり駄目か。じゃぁな。」
「さようなら。」
 二人はそういって別れた。眞吾は何か充実したそうな表情を浮かべながら歩いていると、突然眞吾の背後がピカッと2、3回光った。不思議に思って後ろを振り返ってみるとそこにはプロ用のカメラを構えた男子が立っていた。
「ふふふ。どうやら僕は君の決定的瞬間を捕らえてしまったようだ。」
 眞吾は何のことかさっぱり分からずぽかんとしている。そんな眞吾を見てさらにその謎の男子の話は続く。
「君はさっき図書館で図書委員長とかなり熱々の現場をこの僕に撮られてしまったのを気付いていないな。」
「あぁ。あのときか。それならそれなら知ってたよ。」
 眞吾の言葉に驚かされて突然おろおろし始める。
「なっ!なぜ俺の完璧な壁からの撮影が既に見破られていたとは・・・いつ気付いた。俺が君を撮影しているところを?」
「一番初めから気付いてた。お前は自分の身を隠すのがヘタクソだ。素人でも分かるくらいの下手さだな。」
「じゃ、じゃぁなぜあの場から立ち去ろうとしなかった?!」
「そんなの決まってるじゃないか。あの場面でむやみに動けば余計に君以外からも怪しまれるだけじゃないか。ただでさえ俺は学校中から監視されてるのに。」
「まぁそんな事はどうでもいい。もし僕がさっき撮った写真が明日、学校の掲示板で掲載されたくなかったら我ら新聞部に入部するのだ!それがいやなら明日君の命はないと思え。」
 その謎の男子は眞吾に豪語した後に小声で何かつぶやいている。
「これで僕も人気者だ。あの、学校中で超有名人の穐山眞吾を撮ったと学校中に広まればそれだけでかなりのアピールになる。これで・・・これで・・・くぅーーー!!」
「あのーーー?大丈夫っすか?」
 突然自分の世界に入っていた謎のパパラッチは眞吾の一言で現実の世界に引き戻された。
「と、とにかくだ!僕がさっき図書館で撮った写真を明日校内掲示板で公開されたくなければ至急僕達の写真部に入ることだな!」
 かなり強引な口調で眞吾に迫る。どうやら彼は眞吾の新聞部への勧誘が目的らしい。だが眞吾はそんな事かという感じでこういった。
「拒否する!」
 眞吾が新聞部への加入を断ったことを待っていましたと言わんばかりに切り出した。
「そうか。それなら明日穐山眞吾君は悪夢を見ることになるだろう。新聞部への加入を拒否したことを明日後悔することになるだろう。それではさようなら。」
 そういって新聞部の男はするりと180度振り返ってそのままどこかに消え去ってしまった。眞吾は変な男もいるもんだなと思って階段を昇って自分の教室に帰っていった。すると、自分の席の周りに人だかりが出来ていた。いや、違う。良く見ると自分の席の周りではなく、隣の席の由美の席に人だかりが出来ていた。やれやれといった感じで由美の席の周りにたかっている人たちをどけて自分の席に着くと由美が突然物凄い勢いで迫ってきた。
「眞吾君!今までどこに行ってたの?!」
 眞吾は突然のことだったのでまったくわけが分からず素になって由美の問いかける。
「あっ・・あの〜〜・・・どういうこと??」
 さらに物凄い勢いで由美はこういう。
「忘れたの?私たちに次の科目のテストの分からないところを教えてくれるって約束したでしょ?!早くここを教えてよ!」
「おい!そんな約束して覚えないぞ!それに次はもんすごく簡単な社会じゃネーかよ。社会ぐらい自分でやれるべよ?」
「そんなこといわれてもわからないから言ってるんでしょ。とにかく社会のこことこことここを教えてよ。」
 眞吾は頭をぽりぽりとかいて、少し考えた後に自分の筆箱からシャープペンを取り出して準備万端といった感じだ。
「仕方ないから教えてやるよ。どこを教えて欲しいんだ?」
「ここと、ここと、ここのところが分からないのよ。第二次大戦のときに日本軍の進軍ルートなんか覚えられるわけないのよ。」
「こんな見やすくて特徴的な図なんかないべよ?」
 眞吾と由美のやり取りを聞いていたほかの野次馬達が眞吾にいろいろ質問が殺到してきた。すると眞吾は一瞬にしててんてこ舞いになってしまった。そしててんてこ舞いになっているうちにあっという間に休み時間が終了。結局由美は眞吾から少ししか教えてもらえなかった。次の時間は社会である。この社会はレベル的にはほとんど問題はなくすらすらと解ける問題である。だが、社会は分野が歴史、地理、時事と3分野に至る。それに平行して問題数が通常の問題よりもおよそ1,5倍の量になっている。そんな事を知ってかしらずか、皆は社会に挑む。そして、多少問題量は多くても少し悩む程度で問題を全部解けるはずだった。だが、歴史の問題を見てみると“室町幕府は誰が確立したか?”ここまでは良くありがちな問題である。だがその後が問題である。続きを見ると“また、その確立した人の息子と孫は誰か?漢字で書き、読みも書きなさい。”とある。・・・普通に考えても分かるはずがない。というより、分かるほうが奇跡である。多少記憶力の良い人は解けない問題ではないがそう簡単に解けるはずがない。そして最初のほうは誰でも分かるような問題なのだが、その続きはかなり薀蓄を必要とするような問題が歴史、地理、時事と結局全部の問題がそんな感じであった。しかし、眞吾はちゃっかりと全部の解答欄に正当を一言一句間違えずに埋めていた。さすがに今回は問題の量が通常よりも多かったために寝る暇はなかったようだが、それでも彼の目はやりきったという感じで目がきらきらと輝いていた。そんな充実感に浸っている眞吾を見て由美は不思議に思った。
「眞吾君さ。もしかして社会って超得意分野だったりする?」
 由美の問いかけに眞吾は今までと違うしゃきっとした声で答える。
「もちろん。社会は授業を聞いてるだけでも楽しいから好きだ。特に時事問題とか現代経済が得意分野かな。あと歴史も得意だな。年号とか出来事は古い順に丸暗記で覚えられてテストで高得点が取れるから。」
「やっぱりさぁ。眞吾君って変わってるよね。」
「変わってる・・・?」
 眞吾は由美の言った言葉が理解できずにいた。なんせ自分が普通だと思っている行動のほとんどが他人から見れば少しずれているからである。そういう他人と自分の違いというものは知っているようで実は案外人に聞かないと知らないものである。そして由美は眞吾に変わってると一言言って再び最後の追い込みをかける。次の時間は国語だ。文法や漢字の読み、書きそして1番強敵なのが古典である。さすがの眞吾もテストに古典が出るという情報を仕入れてから古典の勉強だけをやるようになった。眞吾は自己紹介のときに苦手なものはないと断言したが、その中でもギリギリなのが古典だからである。といっても、古典の教科書をパラパラと見てそれで終わってしまった。しかもきっかり休み時間のたった10分で終わってしまった。そしてそのまま国語のテストに突入。問1は漢字の読みと書きだ。だが眞吾の実力の前にはこの程度のレベルは朝飯前に等しい。問1を難なく消化して問2の四文字熟語とコトワザの問題に突入する。しかし、コトワザや四文字熟語は国語科目で眞吾が唯一得意としている分野である。たとえば、悪いことのうえにさらに悪いことが起こること。同じ意味を持つコトワザを全部書け。だそうだ。眞吾は迷わず四つのカッコに泣きっ面に蜂、弱り目に祟り目、こけた上を踏まれる、痛い上の針を迷わずに書いた。続いて四文字熟語の問題も難なく攻略した。問題の雰囲気としてはこの状況に適する四文字熟語を書きなさいというような感じだ。さぁ、今度は文章問題と古典の複合問題だ。眞吾は少し戸惑いながらも何とか問題を全部解く。まぁここの部分の問題が全部あっているかどうかは眞吾もはっきり言って不安である。だが何とか文章題も乗り切ってテスト終了。さすがの眞吾も頭から湯気が出そうなほど疲れた。そのまま担任の新川恭子が教室に入ってきて帰りの学活を済ませると眞吾はそのままわき目も触れずに何故か早足で図書室に直行した。そのまま新神奈川県一の蔵書数を誇る図書室に滑り込む。するとそこには図書委員長がいた。
「あっ!眞吾君放課後に来てくれたんだ。あの本借りていく?」
「あぁ。出来ればあとお勧めの文庫を2,3冊持ってきて欲しいな。」
「分かりました。それではしばらくそこでお待ちください。」
 そういって綾乃は文庫のエリアに去っていった。そして眞吾がしばらく受付カウンターの前で待っていると、後ろから誰か自分の肩をトントンとたたかれた。後ろに振り向こうとした瞬間肩に乗っていた指の一部が自分の頬に突き刺さる。
「ゴパァ!」
 頬に突き刺さっていた指がなくなってさらに後ろを向くとそこにはマリアの姿があった。
「マリア!お前今度は何するんだよ!いきなり俺のほっぺに指を突き刺すんじゃねぇよ!」
「今度はまともそうなことを言ってきたわね。それより、あんたこんなところで何してるのよ?」
「何って?ここにいたら普通は図書館の本を借りるか返すかのどっちかだと思うけどな?」
「そう。それより、今日あんたの家に遊びに行っちゃってもいいかしら?私とあんたが幼なじみだっていうのがクラスにばれてそのうちの何人かの男子と女子が案内しろっていうのよ。それで私もあんたの家の場所知らないから一緒についていこうと思ったんだけど?」
 眞吾はマリアが自分の家に来てもいいかと聞いてきたのでチョッと強めに答えた。
「拒否する!それだけは断固拒否する!!」
 それを聞いたマリアはもう一度許可を求めるが、やはり断固拒否の姿勢をかたくなに崩そうとしない。そこでマリアはさらに許可をもとめる。
「別にいいじゃない!減るわけじゃないんだから。ねっ!いいでしょ!」
 さらにしつこく許可を求めるマリアに対して断固拒否の姿勢を崩そうとしない。すると、マリアの後ろから何者かがやってきた。
「ねぇ〜マリア〜。眞吾君のアポ取れた?もしアポ取れてなかったらただじゃおかないからね?」
「本当よ!私の研究心をくすぐる眞吾君の秘密を知りたいんだから。」
「どうでもいいけどよ。眞吾、お前の家に行ってもいいのか?」
 突然現れた3人組はどうやらマリアの友達らしいということが分かった。この3人のいきなりの行動に眞吾の頭にある言葉がよぎった。
『図々しいな!こいつらは!』
 そう思いつつも眞吾は綾乃が持ってくる本をカウンターの前で待っている。しかし、なかなか来ないので、遂にその場から立ち去るように綾乃を探し始めた。手始めに文庫本のエリアを探し始めるが、そこには既に綾乃の姿はなかった。
『あれぇ〜?どこいったんだ?確か、文庫本ってお願いしてあったはずなんだけどな?』
 そのままフラーッと文庫本のエリアを探した後に隣の歴史的古典のエリアに足を延ばす。だがそこにも綾乃の姿はない。さらにその隣の歴史的資料のエリアに行くと本を探している綾乃の姿がそこにはあった。しかもその手には見た限り数十冊の本が手に抱えられていた。
「おーい、あやのー。そんなところで何してるんだ?っツーカ文庫本だけって依頼してあったのに何でお前こんなところで本を探してるんだよ?」
「あっ!眞吾君!何してるんだって、眞吾君がお勧めの本を借りたいって言うからいろいろピックアップしてたんだけど?・・・こんなには多すぎるかな?」
「いや、別に多すぎるわけじゃないけど・・・俺は一応文庫本と小説と純文学しか読まないからそんな歴史の資料とかピックアップされても借りないからな・・・」
「あらっ?そうだったの?私としたことが・・・とりあえず私がピックアップした本をカウンターのほうで厳選してください。」
 そうして二人はカウンターの前に向かった。するとそこにはもうマリアと、図々しい3人組の姿はなかった。綾乃がカウンターの中に入って手に持っていた数十冊の本をカウンターの上にドサーッと眞吾が見やすいように広げた。眞吾は迷わずに1番見たかった文庫本を手に取った。それは眞吾が前々から見たがっていた蒼い空のかなたである。その蒼い空のかなたを手に取って眞吾は綾乃に尋ねた。
「ここの図書館って何冊まで借りることが出来るの?」
 すると綾乃はテキパキと答えた。
「ここの図書館は基本的には3冊までですが夏休みや冬休みなどの長期休暇の前には10冊まで借りることができます。」
「そうか・・・それじゃぁ〜〜〜・・・」
 眞吾が迷った様子で手を滑らすように本の選んでいる。何往復かした後に眞吾の手が止まって残りの2冊を取った。
「それじゃぁ〜、この3冊を借りようかな?期限はいつまでかな?」
 眞吾がそういうと綾乃がカウンターの中にある引き出しから図書カードを引き抜いた。
「それでは本の中にある貸し出しカードに自分の名前とクラスと今日の日付を書いてください。」
 綾乃はそういいながら眞吾の図書カードにいろいろと書き込んでいく。
「ここの図書館の貸し出し期限は2週間です。貸し出し期限は厳守してください。ほかの人に迷惑が掛かりますから。」
「了解した。今日から2週間後が貸し出し期限の期限日だな。それまでにこの3冊を読破しよう。」
 そういって眞吾は借りた3冊の本を自分のカバンに丁寧にしまいこんで図書館から出てそのまま家路に着いた。



第四話・ウダウダの後、ドンちゃん騒ぎ・完