神話外伝! 1
作:多田野 しめじ





「この神社、いつ来ても賽銭入ってるよな?」
 田中惇(タナカ アツシ)は、後ろで10円玉を数えている越谷勇輝(コエタニ ユウキ)に声をかけた。しかし。
「…な!」
 返事が返ってこなかった。
「ちょっと勇輝!?」
 振り返って呼びなおす。しかし、彼は小銭数えに集中しているようで、惇には目もくれずに。ただ呟くのは
「にひゃくろくじゅういち…にひゃくろくじゅうに…にひゃく…」
 という事のみ。少しの間その彼を見つめて。
「ゆ――き――!!??」
 耳元で怒鳴ってやった。さすがの彼もそれには反応する。
「うわっ!あ〜、何枚だったか忘れてしまった…」
「262!なあ、何でこんなにいつも賽銭が入ってるんだろうな?こんな廃れた神社に」
 うんざりしながら言ってやり、そして疑問を口にする。
「し、知らないよ…怖くなるじゃないかぁっ……」
 勇輝がそうぼやいて身震いする。小心者の彼は惇の背中に隠れて悪事――といっても小学生の悪戯だが――を働くような奴。そう、“虎の威を借る”とはこういう事なのだろう。
 それに比べて惇は賽銭盗みはもちろん、万引きでも何でも平気な人種で、今この時やっている賽銭盗みも惇が言い出したこと。
「とことん弱虫だな、お前。そんなら賽銭盗みなんかしなきゃいいだろ。今に祟られるかもしんねーぞ?」
「うわあああん、やめてくれよぉっ!」
「あはは、んな訳ねーだろバカヤロー」
 頭をべしべしたたきながら言ってやる。目に涙をためた勇輝が、
「ひどいよぉ」
 とか言うのも無視して。
 そんな会話をしていると、つんつんっ、と突付かれた気がした。惇は後ろを振り向きもせずに背中を向け合っている勇輝に言う。
「おい、突付くなよ勇輝」
「ちょっと、突付かないでよ惇」
 なぜか、2人が言った言葉は重なり合う。
『……え?』
 2人の顔がだんだん青くなってゆく。勇輝なんかもうとっくに白目むいて顔面蒼白だった。時が止まったんじゃないかと思うくらい、時間がゆっくりとすぎてゆく。
 そして。
「ちょっと…」
 うしろから突然声を掛けられて、2人の時間は早送りされる。
「ひぎゃああああああああっ!!」
「うわああああああああんっ!!」
 タイミングをぴったりと合わせて、2人は駆け出した。しかし、賽銭をしっかりと握り締めている惇の精神は素晴らしいものがあるといえよう。
 ――とにかく、全てはここから始まったのだった。