SPELL OF MAGIC 第一話
作:木下 香介





ハルモニア編

第一話『旅』

シンフォニア暦5260年4月7日。
ミネル村。ハルモニア地方小さくのどかな村。
こじんまりとした木造の家が村の広場を中心に40軒ほど点在している。
東に見える山際から朝日が顔を出し、村全体に光が差し込んでいく。
家の煙突からは朝食を作っているのであろう、ゆったりと煙があがっている。
小鳥のさえずり声。
いつもと同じ朝、いつもと同じ一日のはじまり。だが、ここにいつもと違う気持ちを持った一人の少女がいた。
静かな村の中を一人の少女が駆けて行く。走るたびに彼女の長い鳶色の髪が左右に揺れ、朝日が彼女の透き通ったスカイブルーの目を照らしている。彼女の足取りは軽く、スキップをしているようだった。
「やあ、リエラちゃん、いよいよだね。大変だと思うけど頑張れよ」
「はい」
「立派な召喚師になってよ。期待してるからね」
「はーい」
村の中からねぎらいの声が上がる。それを受けながらリエラが目指すのは村の出口にある門だ。
彼女はすぐに門まで着く、門といっても木で組み上げただけの簡単なものだ。
「ふぅ〜、とーちゃく」
あたりを見回すが彼の姿はそこにはない。
「やっぱり、来てない」
はぁ〜、溜息が出た。やっぱり彼には待ち合わせは向かないらしい。
彼の家は、ここから走って20秒もかからないところにある。しょうがないな、と思いながら彼の家に向け再度走り出す。


彼の家に着き、ドアを開け家の中に入った。
家の中はこじんまりとしていて、木の香りがうっすらと漂っていた。廊下を通って一つ目の部屋が彼の部屋だ。コンコンと軽くノックし部屋に入った。部屋の中はわりと整理されていて清潔な印象を与える。と思ったけど、それ昨日私がやったんだっけ、と独り言を言った。
部屋の中の窓のそばにはベッドが置かれ、そこに彼はいた。と言うか寝ていた。
窓に近づき白いカーテンをおもいっきり開き、窓を開ける。外からの風が部屋を駆け抜けて、心地よさを運んできた。
そして、その窓から差し込む朝日がまだほんの少し幼さを残している彼の顔を照らし、うぅ〜とうめき声を上げさせた。
「ク〜ラ〜ウ〜ド〜、今日から旅に出るんでしょ。昨日あれほど早起きするって言ったのはだれよ」
「ん〜・・・お〜れ〜」
「正解、じゃあ問題です。君は昨日、門で待ってるって言ったけどここはどこでしょう?」
「・・・・・・おれのへや」
「またまた、せいかーい」
「正解者に拍手〜」
カチーン
「さっさと起きなさーーーーーい」
村中に響き渡る大声だった。
「おー、今日はまた盛大だなー、リエラちゃん」
「この声で村の一日が始まるようなもんだものねー」


リエラに起こされて、寝癖がかった黒い髪を直し、まだあまり開かない目をこすりながら、部屋の隅に置いてあった魔術用の杖と荷物が入った革製のカバンを持ち、クラウドは家を後にした。
「リエラ、ちょっと寄り道するぞ」
「え、いいけど。どこ行くの?」
リエラは小首をかしげる。
「あいさつしにだよ」
そう言ってさっさと歩いていく。
クラウドが寄り道といったのは村外れの丘だった。そこには村で死んだ人たちの墓があった。クラウドはその中の一つ墓前に立つ。それはクラウドが幼いときに死んだ父と母のものだった。
「父さん、母さん、オレちょっとばかり旅に出てくるわ。何年かかるか解らねーけど、それが終わって戻ってくるときには、「S級」の魔術師になってるからよ。期待しててくれ」
「おじさんとおばさんへのあいさつだったんだ」
気付くと横にリエラが並んでいた。
ああ、と軽く返事をした。


クラウド・ログ・バークライトとリエラ・エステットは魔術師と召喚師を目指す共に16歳の幼馴染である。
この国シンフォニアは5つの大陸の中にハルモニア地方、カルバレイス地方、アイグレッテ地方、セインガルド地方、レアルタ地方、ミッドガルド地方、エグザイア地方、そして、ファンタジア地方の8つで成り立っている。そして、その地方ごとにある試験会場で試験をし、8つの地方すべての試験を突破すれば「S級」の認定書が与えられる。魔術師、召喚師はそれぞれ下から「G級」から「S級」までがあり、二人はまだ試験を受けていないのでそのどれにも属さない「見習い」ということになっている。この試験は難しく、挫折する者も多い。それに二人は挑戦しようとしている。
クラウドは産まれ付き強い魔力を持っていて、かなり上級の魔法を使うことができる。しかし、学問の成績は下の下、簡単に言うと「魔法は上級」、「成績は下級」のなんともいえない奴。おまけに、めんどくさがりやで寝ることが趣味。
それに比べてリエラは呪文を唱え、召喚獣を呼び出す召喚師を目指している。
クラウドには劣るものの、強い魔力を持ち、召喚獣を操る腕もなかなかのものである、成績優秀、運動神経抜群、おまけに美少女。


「よっしゃ。いくか」
「うん」
二人は歩き始めた。この先いろいろな困難が待っているかもしれない、途中で諦めてしまうかもしれない、多くの不安がある。だが、そんなことはどうでもよかった。二人にあるのは大きな目標なのだから。


三十分後
「リ〜エ〜ラ〜、疲れた〜、休も〜ぜ」
「え〜、あれからちょっとしかたってないんだよ。クラウド、このごろ全然運動してなかったでしょ」
「・・・まあ、そんなことは置いといてちょうどあそこに木があるし、休もーぜ」
クラウドが目指すものが「S級」の魔術師から道外れにある一本の大きな木に移った。そうと決まれば行動は早い。疲れたとか言っても木まで走っていく。夢の実現まであと少しだ!
「ちょ、ちょっと待ってよ、クラウドー」
リエラはクラウドの後を追う。道外れの木がだんだんと大きくなっていく、すると突然、リエラの前方を走っていたクラウドが立ち止まった。それにつられて足を止める。
「どうしたの、クラウド」
クラウドは顎で木の下を指す。そこには十匹近くのゴブリンたちがすでに昼寝をしていた。
ゴブリンは時々旅人見つけては、持っている棍棒を振り回し襲い掛かってくるモンスターだ。
「あいつらー、せっかく人が昼寝しようと思ってたのにー。これでもくらえーー」
「あーー、そんなの投げちゃだめー」
止めようとしたが、クラウドは転がっていた石をゴブリンの群れに投げ込んでしまった。嫌な予感が頭を過ぎる。
ひゅるるるるる、がーん、グオーーーー
「やべ・・・」
見事命中。クラウドの頭に汗が浮かぶ。リエラは本日最大であろう、大きな溜息を付いた。
ゴブリンたちはクラウドたちを見つけ、次々に立ち上がり棍棒を振り回す。
「どうするの・・・クラウド」
リエラが後ずさりを始める。
「逃げる、あるいはあいつらを倒す」
「私は前者のほうがいいんだけど・・・」
「オレは走るのめんどくさいから後者のほうがいい」
「じゃあ一人でやってよね。私は知らないから」
はいはい、と軽く返事をして背中に掛けてあった愛用の杖を構える。簡単な模様が彫られた木の杖だ。長さは自分の身長より少し大きい180cm位の長さがある。
杖を握る手に力を込める。軽く深呼吸をし、詠唱した。
「焔の御志よ、災いを灰塵と成せ」
杖の先が輝きを放ちだした。ゴブリンたちは足を止める。
「エクスプロード」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
光が収まり、クラウドとゴブリンの間にヒューと風が通る。
近くにあった岩がゴトッと揺れる。
「あれ?失敗したかな?」
クラウドの頭に再度汗が浮かぶ。リエラはガクッと頭を下げる。
「詠唱、間違ってるよ。「成せ」じゃなくて「化せ」。運動もしてなくて、魔術の練習もしてなかったでしょ」
「あははははは、当たりー」
も〜クラウドったら〜、やっぱり自分がやらなきゃいけないか〜、と小言を呟く。
「もういいよ、私がなんとかするから」
そして今度はリエラが詠唱する。
「清漣より出でし水煙の乙女よ 契約者の名において命ず、出でよ! ウンディーネ」
リエラが右手を高々と上げる。すると、空気中から水が集り、召喚獣ウンディーネが現れる。
「いくよ、ウンディーネ」
召喚術は魔力を代価として、契約した召喚獣に与え、異世界から呼び出すものである。これは魔術とは少し違い、精神力を使い召喚獣にする。なので、精神力が少ないと使うことができない術だ。
「ウォータースラッシュ」
リエラがウンディーネに命令する。ウンディーネはそれに従い、空気中から水分を集め剣を作り出し、ゴブリンたちを横薙ぎにした。たちどころに水の刃がゴブリンたちを襲い、一瞬にして「核石」に変える。
ゴトトト、岩が小刻みに揺れる。
「核石」とは、モンスターが死んだときに変わる石である。それ一つ一つにモンスターの能力が宿っていて、武器や防具に混ぜて鍛えれば、その能力を使うことができる。例えばゴブリンの「核石」ならば、武器の硬度を高め、壊れにくくより頑丈になると言われている。
「さっすがー」
「それほどでもないよ」
「ほんとー、それほどでもないな」
「なんでよー」
「ほら、あそこ」
クラウドが指差した所には、一匹だけ「核石」に姿を変えていないモンスターがいた。
「あれは・・・オーガ」
オーガはゴブリンとは同じような格好だが、一回り体が大きく、額には曲がりくねった角が生えている。性格は非常に凶暴で、ゴブリンたちのボスと行動しているモンスターである。
オーガはウンディーネの放った水の刃を棍棒を使って防いでいた。ゴブリンとは頭の使い方が違うようだ。オーガは二人と召喚獣を一瞥すると大きく咆哮し、火炎を吐き出した。
吐き出された火炎はクラウドに迫る。
「ウォール」
ウンディーネの作り出した水の壁で、オーガの火炎を防ぐ。
「おー危ねー、サンキュー、リエラ」
「どう致しましてって、クラウド前!!」
リエラに言われ前に向き直ると、オーガが棍棒を振り回し迫ってきていた。
ドーン
間一髪のところで棍棒を避け、近くの岩の上に着地しオーガと距離をとる。
「おっと、いい根性してるじゃねーか。今度は失敗しねーから覚悟しやがれ」
杖をオーガに向け詠唱した。
「焔の御志よ、災いを灰塵と化せ」
杖の先に光が集まる。
「エクスプロード」
杖の先の光が一気に飛び散る。それと共に空の一部が赤く染まり、炎の塊が落ちてきた。オーガはそれを避けきれず、炎の固まりに押し潰され、焼かれる。ゴーという炎の音と共にオーガの断末魔が聞こえた。


炎がおさまり、オーガは赤い光を放つ「核石」となっていた。
「ありがとウンディーネ」
リエラはウンディーネとの契約を終了し、召喚獣を戻した。そのときだ。
ゴトッゴトゴトゴトガァーー、クラウドの立っている岩が唸り、動き出す。
「なっ、なっ、なんだー」
クラウドは岩から飛び降りて、距離を取り、杖を構える。
岩はその揺れを増し、ついに岩そのものが中に浮かんだ。岩は周りについていた、他の岩を払いのけ本来の姿を現した。それは、一辺3mほどのきれいな立方体だった。
「なに、あれ・・・」
「次から次へと出てきやがって、リエラお前、今日絶対厄日だろう」
「それは多分クラウドだと思うんですけど」
「ははははは、・・・やっぱり」
ガァァァァーーーー
そうこう言っているうちに岩が自ら回転を始める。そして、クラウドたちに襲い掛かってきた。
「リエラ、右」
二人はそれぞれ逆の方向に避け、同時に呪文を唱える。岩はリエラを狙い、後を追いかけ始めた。リエラは詠唱を止めそれから逃げる。
「いくぜ、スパイラルフレア」
詠唱を終え、クラウドの杖から炎がほとばしり、地面を抉りながら岩を追った。岩は自分を追ってくる炎に気付き、それを避ける。
「そうわいくかよ」
クラウドは杖に魔力を集め、炎をコントロールし、岩を狙う。
ゴーーーガーーン
リエラを追っていた岩にクラウドの放ったスパイラルフレアが直撃した。辺りに炎のが散る。
「よっしゃ、命中」
「ナイスコントロール」
リエラは足を止め、岩のほうを見る。岩は火炎に包まれて燃え上がっている。
「終わりだな」
クラウドがそう言ったときだった。
ガーーーー
炎に包まれていた岩が、その炎を回転でかき消した。
「なに、効いてない!!」
ガガガガガガァーーーー
岩は回転を増し立ち止まっていたリエラに迫る。
「逃げろ」
間に合わない。逃げようとするリエラを砂塵が襲いその姿を消した。
「リエラーーーーー」
リーン
クラウドの中で何かが鳴った
そしてその時、彼の額に同心円状の光の紋章が浮かび上がりかけていたことに彼は気付いていなかった。







あとがき
香 介  『スペマジ』第一話どうでしたか?第一話ということで、この小説の主人公であるクラウドとリエラの登場です。これからこの二人が創っていく物語をどうか楽しみにしてください
クラウド 楽しみにしとくったって、連載月1だろー。もっとがんばるってのは?
香   これが限界なんだよねー。ごめんって、君だれ、人の部屋に勝手に入ってきて!!?
 ク   だれだって?それは次回のお楽しみ〜
 香   いや、ちょっと待って、おもいっきり「クラウド」って書いてあるし
 ク   バレたらしょうがないか
 ク   じゃあまた
 香   え、えー、勝手に終わらすなー
 ク   えーと、送信っと
 香   あー、え、えーと、では、また