図書部14 |
作:尾瀬駆 |
「暑ぃ〜」
俺はベランダの外に広がる四角い空を見上げる。
太陽がすでに見えないほどに高く上がっていた。
夏真っ只中。
死ぬほど蒸し暑くて、窓を開けても暑い風しか入ってこない。
こんな日は仰向けに寝転がって外を眺めとくのが一番だ。
何もする気など起きない。
宿題なんてもってのほかだ。
はぁ、今日一日はずっとこうしてようかな。
「兄貴!もうお昼だよ。ご飯要らないの?」
足元からちょっと高めの声が聞こえてくる。
妹だ。
少し、顔をそっちに向ける。
エプロン姿でお玉を持っている妹がいた。
妹は俺と違い、世話好きで、まめで、真面目でクラブも真剣にやってるし(剣道部で部長をしていて、府大会に出るほどの腕前)、頭もいい。
将来、いい嫁さんになること間違いなしの優等生だった。
もちろんのこと、料理もうまい。
親父がフリーのカメラマンで、母も看護婦をしていて、ほとんど家にいないので、昔から、二人きりの時は妹に料理を作らせた。
俺はというとカップラーメンを作ることくらいしかできない。
「ほんとにご飯要らないの?今日は兄貴の好物のカレーライスなのになぁ」
俺はその言葉を聞いて、自分が空腹だったことに気づく。
さっきから、お腹がぐ〜ぐ〜鳴っている。
立ち上がり、台所の方へ向かう。
カレーのいい匂いがすぐに漂ってきた。
「ほら、自分でご飯よそってよね。カレーはコンロのとこだから」
妹はカレーをスプーンで口に運びながら言った。
皿はすでにテーブルの上に置いてあり、スプーンも添えてある。
俺はさっそく、ご飯をよそい、お玉でカレールーをかける。
空腹はすでに限界っぽかった。
胃酸で胃が痛いような気がする。
席に着くと、スプーンを手にとり、湯気の出るカレーライスにがっついた。
「兄貴。ひま持て余して、宿題はしなくていいの?去年みたいに丸つけ手伝わされるの嫌だからね。それに私は受験生なんだから、今度から兄貴が昼ご飯作ってよ」
「宿題かぁ。はぁ。憂鬱になるようなこと思い出させんなよ。うちは一応進学校なんだから宿題多いんだぞ。受験生のお前の3倍はあるぜ。内容も難しいし」
去年の夏休みを思い出す。
最後の日はもちろん徹夜。
しかも、妹に数学の丸つけまでやらせて。
とはいっても、ちゃっかり手伝い料として2000円取られてたりする……。
「それにな、俺が昼ご飯作ると、毎日食材当てクイズみたいなもんだぞ?まともに作れるのはカップラーメンしかないしな」
「わかったわよ。私が作ればいいんでしょ。でも、それで、志望校落ちちゃったら兄貴のせいだからね」
「ばーか。俺の頭で通ったとこにお前が落ちるわけないだろう。にしても、もったいないよな。お前の頭で俺といっしょのとこなんて」
「仕方がないじゃない。この学区の公立で一番いいとこがそこなんだから。私立に行く気はないしね。ごちそう様」
妹は席を立ち、食器を流しのところに置いた。
そして、自分の部屋へ行き何やらがさごそしている。
その間も俺は食べ続け、一皿平らげ、おかわりしようとしたところで妹が戻ってきた。
妹は夏らしい白のワンピに麦わら帽子。
「じゃあ、兄貴。食器洗っといてね。5時には帰ってくるからさ」
そこまで、言ってドアの方に走っていった。
短い黒髪が麦わら帽子の影で揺れた。
我が妹ながら、不覚にもかわいいと思ってしまう。
まぁ、完全装備の上野には敵わないが。
それにしても口の悪い妹だ。
誰に似たんだか。
親父とそれと俺だな。
ほんと母親に似ればいいものを……。
そんなことを考えながら、2杯目のカレーにがっついた。
食べ終わると一つの問題に気づく。
皿洗いだ。
妹はいない。
両親はこんな時間に帰ってくるわけがない。
俺がするしかなかった。
ぶつくさ言いながら、さっさと洗い終わった。
また、ひまになる。
夏休みはまだ2日目。
宿題をやる気なんてさらさら起きない。
読んでいる途中の本はないし、新しい本を買うお金もない。
もちろん、借りにいこうにも、図書館が近くにはない。
本当にひまになった。
そこで、俺は出かけることにした。
よくひまになると行く場所があるのだ。
今日もそこに向かうことにした。
あとがき
1話で終わるつもりが2話に。
ほんとは続けて書けばいいんですが、他のとこで週1で連載してる関係、そんなに長いのも書けないのですよ。
敬太編どうでしょうか?
妹が出てきましたね。
名前はまだ出てないですが、一応「岩崎 茜」っていいます。
ひなぎくさん。なんか同時期に学園ものってかぶっちゃってますが、まぁ、がんばりましょう(笑)
そっちの方が早く終わりそうですけど。
目標は高3になるまでに終わらす!