図書部15
作:尾瀬駆





 玄関のドアを開けるともわっとした空気が入り込んできた。
 やはり、中と外では空気が違う。
 中もかなり暑かったが、外はもっと暑い。
 そして、蒸し暑いし、日向に出るともっと暑いのだろう。
 少し嫌になったが、そのまま行くことにした。
 その場所は家から5分ほどのところにある小さな公園にある。
 住宅街を抜けていくと、ほんの少しの遊具がある公園に辿り着く。
 一応、「夢ヶ丘公園」という名前がついてある。
 ここらの地名そのまんまなのだが。
 公園の中には、元気に遊ぶ子供が4・5人。
 俺は迷わず、お気に入りの場所まで行く。
 そこは大きな桜の木の下のベンチ。
 夏はちょうど日陰になり、少し涼しい。
 蝉がうるさいのが難点だが。
 そこに腰を下ろし、子供たちを眺める。
 小学校の低学年くらいだろうか。
 こんな暑いのにかけっこをしていて、汗だくになっている。
 ごくろうなこった。
 俺は視線を外し、今度は上を見上げた。
 葉の間から見える太陽がまぶしい。
 陽に透けて葉の緑が輝いている。
 そして、枝にとまっている蝉達。
 蝉は自己を主張するように鳴き続けている。
 一夏しか生きられない命。
 それを精一杯に生きている。
 ふと、自分のことを考えてみる。
 今までに精一杯がんばったことがあるだろうか。
 結局、答えは決まっている。
 もちろん、NOだ。
 いつでも、みんなから一歩引き、どうしても一生懸命になれない。
 また、そこまでしようとも思わない。
 妹には無気力人間とか言われたが、けっこう外れてないと思う。
 確かに一時期バンドをやってたりもしたが、友達とのなりゆきでそうなっただけだし、将来それで食っていこうとも思わなかった。
 今では、将来の夢なんてものを持ってるけど、それでも、なんだか漠然過ぎてそっちにひたむきにはなれない。
 しかし、最近は少し楽しい。
 ちょっとだけ図書部というのに夢中になってるかもしれない。
 本を読むのは嫌いじゃないし、先輩も上野も一緒にいて楽しい。
 もしかしたら、精一杯になれるかもしれない。
 いや、精一杯にならなきゃならない。
 上野の夢を叶えてやるためにも。
 そして……………願わくば………………。
 思考を現実に呼び戻す。
 あいかわらず、蝉がうるさい。
 それにこの暑さ。
 木陰に入っているものの耐えがたいものがある。
 だが、行くところもないし、家に帰っても何もない。
 少し考えて眠ることにした。



「ぼうや。どうしたんだい?みんなといっしょに遊ばないのかい?」
「うん。別に遊びたいと思わないし。でも、ひまなんだよ」
「そうか。それじゃあ、いいものをあげるよ」
「いいもの?」
「そう。ひまがなくなるし、友達もできるもの」
「でも、お母さんが知らない人に物もらっちゃいけないって……」
「ん?なぁに、お母さんは私を知ってるさ。その印にちゃんとサインしておこう」
 そう言っておじさんは懐から何かとペンを取り出し、何かをし始めた。
「よし。これで大丈夫だ。さぁ、どうぞ」
 おじさんは僕にその何かを手渡す。
 何かには文字と絵が書いてあった。
 中を見るともっとたくさんの文字があった。
「うわっ。こんなにたくさんの文字読めないよ」
「はっはっ。ゆっくり読んでいったらいいさ。文字くらい読めるだろ?」
「うん。でも、こんなに長いの読んだこと無いや」
「一度読んでみたら、絶対に好きになるよ。おじさんが保証する」
「分かった。おじさんありがとね」
「なぁに。気にすることはないよ。たまたま持ってただけだから。でも、それは大事にするんだぞ?」
「うん!大事にする」
「すいません。時間なんですけど―」
 遠くから声がした。
「おっと、戻らなきゃいけないなぁ。また、ここに来るかい?」
「うん。また来るよ」
「そうか、ここ1週間くらいおじさんはここらへんにいるから、また会ったら、新しい本をあげるよ」
「わぁい!また絶対会おうね。約束だよ」
「あぁ、約束だ。じゃあ、おじさん行くからね」
 そうして、おじさんは向こうの方に行ってしまった。



 ん?
 ふぁわぁ〜。
 起きると共に大きなあくびをする。
 ねぼけた頭で辺りを確認する。
 周りが全て、オレンジに染まっていた。
 たぶん、5時半頃だろう。
 って、5時半!?
 ベンチから飛びおき、家に急ぐ。
『じゃあ、兄貴。食器洗っといてね。5時には帰ってくるからさ』
 妹が帰ってきてるはずである。
 今ごろ、ぶつくさ言いながら、ドアの前で待っているだろう。
 やばい、夕飯なしにされる!!
 そのことが、スピードをより加速させる。
 にしても、なつかしい夢を見たな。
 あれって、確か小学校1年くらいの時じゃなかったっけ?
 あの本を持って帰ったときの母の顔が思い出される。
 サインを見るなり、かなりびっくりし、そして興奮していた。
 今なら、分かるがあれは「天野 信二」っていう俳優で、なんかの撮影でここらに来てたらしかった。
 天野信二って言えば母が高校生くらいの時のアイドルで、とても人気があったそうだ。
 まぁ、最近はテレビでもほとんど見なくなったけど。
 結局、あれ以来あの人とは会えなかったよな。
 そうだ。
 あの本まだあったかな?
 今夜辺り、探してみるか。
 さて、と、着いた。
「げっ!」
 ドアの前には予想通り、妹がいたが、予想以上のオーラをまとっている。
「あ・に・き」
 にこりと笑った。
 その笑顔が余計怖い。
「わ・た・し。5時に帰るって言ったよね?どうして、いないの?」
「い、いや。あの……………」
「いったいどこほつき歩いてたのかな?こんなかわいい妹をほったらかしで」
「そ、その、ベンチで寝ちゃってて…………」
 俺はぽっけとからカギを出し、差し出す。
 妹はさっとカギを奪い取るとドアを開けた。
「兄貴は晩飯抜き。そして、1時間外で頭冷やしてなさい!」
 ばたんと音を立てて、ドアを閉めた。
 その後にはご丁寧にカギを閉める音が聞こえてくる。
 とほほ。
 自業自得か。
 また、俺はひまをつぶすべく、歩き始めた。



 1時間後、家に入れてもらったものの、もちろん晩飯抜き。
 その上、洗い物をしてなかったからということで、晩飯の洗い物までさせられた。
 妹の恐怖を味わった一日だった。
 明日からは気をつけなければ。
 そう胸に思い、眠りについた。















あとがき

 さて、敬太編終了です。
 次は香奈編に行きたいと思います。
 そろそろここらで、私生活など紹介してキャラを立てときたかったし。
 今回のは普段のより長いです。
 書きたいことがけっこうあったんで。
 香奈編はすぐ終わりそうですけど。
 けっこう今まででもネタばらししてますもんね。
 まぁ、びっくりさせることがあると思うんで楽しみにしといてください(笑)