図書部16(香奈スペシャル)
作:尾瀬駆





「寒い」
 私はまだベッドの中にいた。
 近くに置いてある時計を見るとすでに正午だということが分かった。
「それにしても、なんで夏なのにこんなに寒いのよ」
 ベッドから降り、普段着に着替える。
 リビングに行くとお昼ご飯ができてるはずだ。
 と、その前に、クーラーを切らなきゃ。
 ぴっ
 スイッチを押して、電源を切ると部屋を出る。
 リビングまで1分ちょい。
 家がだだっ広いっていうのあんまりいいものでもない。
 絨毯敷きの廊下を進んで、階段を降り、1階のリビングへ向かう。
 リビングは30畳ほどの大きさで、真ん中に8人がけのアンティークなテーブルがある。
 壁のところには絵が飾ってあったり、調度品を置いていたり。
 もしかしたら、この部屋だけで1億はするかもしれない。
 家全体だと10億はするだろう。
 いや、それ以上かもしれない。
 ということをいつも考えたりするけど、おじい様は絶対に教えてくれない。
 ちなみに言っておくと、この家を建てたのはおじい様であって、お父様じゃない。
 おじい様は資産家で金融関係を中心とする上野グループの会長だったりする。
 資産総額は数兆円だそうだ。
 と言っても私には関係ないけど、グループを継ぐ気にもならないし、どっかの資産家の息子と政略結婚なんて死んでも嫌だし。
 私はお父様のように自由に生きるもんね。
 というお父様は俳優をやっていてけっこう有名だったりする。
 お母様は歌手でけっこう売れていたそうだ。
 今は、主婦をやってるが、まだ歌に未練があるらしく、トレーニングルームとカラオケルームを使って、時々練習してたりする。
 まぁ、その時は私も一緒にするのだが。
 さて、食べますか。
 テーブルの上にはアップルパイとサラダが置いてあった。
 昼間からアップルパイは嫌だなーと思い、やはりこれが朝食であったことを痛感する。
 サラダはいい具合(?)にしなびてるし。
 しょうがない別のもの何か食〜べよっと。
 私はテーブルの上にある呼び鈴を鳴らした。
「何でしょうか?お嬢様」
 奥からメイドさんが出てくる。
「今ある食材で何か作ってきてくれない?さすがに昼間なのにパイはきついから」
「分かりました。今なら、オムレツかサンドイッチが作れると思いますが、どちらにいたしましょうか?」
「そうね。オムレツがいいわ。卵3個のプレーンオムレツが食べたいな」
「分かりました。では、作ってまいります」
「あ、それとドレッシング持ってきて、サラダ食べるの」
「分かりました」
 メイドさんは奥に戻り、ドレッシングを持ってすぐに帰ってきた。
「今から、作りますので10分ほどかかりますが」
「全然構わないわ。パイはまたおやつにでも食べるからしまっといて」
「分かりました」
 メイドさんはパイを持って奥に引っ込んでいった。
 次に来た時には、オムレツの乗った皿を持ってきた。
「どうぞ、刈衣風プレーンオムレツです。召し上がれ」
 刈衣というのはこのメイドさんの名前だ。
「いただきま〜す」
 私はナイフとフォークでさっそく端っこを切り、味見してみる。
「ん。おいしい。これって、チーズ入ってるの?」
「いえ、チーズは入れておりません」
「え?でも、チーズの味が…」
「それは、だしの素です」
「だしの素!?」
「だしの素はバターと合うとチーズのような味わいになるのですよ」
「へぇ、刈衣さんて物知りなのね」
「まぁ、一応お母様に料理を教えたのは私ですから」
「そうだったの。今度、私にも教えてね」
「それはできません」
「どうして?」
「お嬢様はお母様からちゃんと教わって下さい。そうやって、その家の味というものが受け継がれていくんですから。私も母に教わりましたもの」
「はぁい。じゃあ、ごちそう様」
 話している間に食べ終わってしまった。
 ほんとはもっとゆっくり食べなきゃいけないんだろうけど。
「私、これから学校に行くの。お母様に言っておいてね」
 私はせわしなく席を立った。
「分かりました。お嬢様」
「じゃあ、あとお願いね」
 私は玄関の方へ走っていった。















あとがき

 今回は香奈編です。
 なんだかんだ言ってこっちも2回に分けちゃいました。
 けっこう書くこと多いなぁ。
 どうでした?香奈が金持ちのお嬢様だってこと。
 驚かなかったですか?
 そして、メイドの刈衣さん。
 実はモデルがあったり…。
 後、オムレツ一度試してみて下さい。
 しょう油も入れるとなおいいです。