図書部18
作:尾瀬駆





 ミ〜ン、ミン、ミン、ミ〜〜〜ン
「遅い〜っ!!」
 真夏の部室に蝉の声と香奈の声が響き渡る。
 今日はこの夏一番の暑さですでに気温は38度。
 窓を開けていても風はほとんどなく、唯一扇風機があるのが救いだった。
 香奈と知加子はそんな中で敬太を待っていた。
「いつになったら、岩崎は来るんだぁー!」
 開校時間の9時から4時間待ち続けてもう1時になっていた。
 さすがの香奈も不機嫌になり、知加子は呆れ顔でその叫ぶ様を見ていた。
「まぁ、まぁ、今日来るって言ってただけで何時に来るとは言ってなかったから仕方がないよ。さて、と―」
 知加子は立ち上がって、
「何か買いに行かない?お腹空いたでしょ?」
「あ、行きましょう。行きましょう。実のところ、さっきからお腹が減ってたんですよ」
 照れ笑いしながら香奈も立ち、部室を後にした。
 そのすぐ後、部室に忍び寄る一つの影が・・・。
「あれ?知加子先輩来てないのかな。鍵が閉まってるなぁ・・・」
 その影は引き戸のくぼみに手をかけ、何度か開けようとした。
「仕方ないな。図書室で涼んで来ようっと」
 そうして、影は去っていった。



「あはは、それはないですよ。知加子先輩」
「でも、けっこういい線いってると思うんだけどね〜・・・」
 階段を上ってくる二つの高い声。
 もちろん香奈と知加子だ。
 手にはコンビニのビニール袋を提げている。
 その中にはパンと飲み物が入っていた。
「それはそうと、岩崎のやつ。そろそろ来ないと話し合いができないじゃないの!」
「まぁまぁ、集まるのは自由にしちゃったんだしさ、しょうがないじゃない」
 知加子は部室の鍵を開けた。
「うわっ、暑い」
 戸を開け、中に入ろうとした香奈はそれを一瞬躊躇した。
 いくら窓を開けていたとはいえ中の暑さはあまり変わっていなかった。
「ほんとに暑いわね。この戸開けておいたら少しは風の通りがよくなるんじゃない?」
「そうですね。開けときましょう」
 香奈と知加子は向かい合って座り、袋の中身を取り出す。
「あぁ、冷たい。おいしい!」
 一口買ってきたジュースを飲んで、香奈は至福の顔をする。
 知加子はそれにつられてか、笑った。
 そんな幸せのひと時も終わり、また敬太を待ち始める。
「知加子先輩。私、図書室の方見てきますね。そろそろ来てるかもしれないし」
 知加子は了承の代わりに手だけ振った。
 香奈が行った後には、蝉の鳴き声とシャープペンシルの音だけが残っていた。
 数分かそこらで香奈は帰ってきた。
 犬か猫のように敬太を連れて・・・。



「それじゃあ、これから夏休み初のクラブを始めます」
 香奈は座ったまま礼をした。
 つられて敬太と知加子も礼をする。
「まず、宿題だった図書室活性化についてね。で、どんな感じ?」
「俺は夏休み前に出した案で」
 敬太がすぐさま答えた。
「あんたねぇ。まだ懲りてないの?また、鉄拳くらいたいのかな?」
 香奈は笑いながら言った。
「や、やっぱなしで・・」
 敬太は少しひきながら答えた。
 香奈が怒ってることを悟っているのだ。当たり前と言えば当たり前のことなんだが。
「知加子先輩は何かありますか?」
「そうねぇ。やっぱり、ありきたりな所で新聞みたいなのを作るとか、掲示板でおすすめの本を知らせるとか・・・」
「実は私も同じようなこと考えてたんですよ。でも、それって図書委員が一応やってるでしょ?」
「あっ、そう言われてみればそうだわね。図書委員がいるってことを完全に忘れてたみたい」
図書委員とは各クラス1名ずつで、主に図書室の本の整理や年2回の図書だよりの発行などをしていた。考えてみれば、図書部の元祖のようなことをしている。
 香奈は困り果てていた。
 いい案が浮かばないのだ。
 それは知加子も一緒だった。
 勉強の手を止めてまで、このことについて考えているようだった。
 が、敬太は違っていた。
 なぜなら、あの「水着で図書の貸し出し係」とか「裸エプロンで図書の貸し出し係」とかの案の改訂版を考えついたからだ。
「なぁ、いい案思いついたんだけど」
 敬太の声に二人は思考を一旦止め、敬太の方に集中した。
「また、貸し出し係のシリーズなんだけどさ・・・。香奈が素顔で貸し出し係するってのはどうかなって思って」
「素顔?」
 知加子は不思議そうに訊いた。
「そうです。実は上野は宇宙人なんです!」
 パッコーン!!
 敬太の頭に香奈のスリッパ攻撃が炸裂した。
「冗談。冗談。実はですね知加子先輩、上野のやつ眼鏡外して髪を解いたらめちゃめちゃかわいくなるんです!」
 知加子が香奈の方を見ると、香奈は真っ赤になってそっぽを向いていた。
「へぇ、一回見てみたいな。それで、もし上野さんがよければそれでいったらいいんじゃない?」
「ち、知加子先輩!」
 香奈はまさかの知加子の同意に驚いた。
「まぁまぁ、嫌だったら止めていいからさ。それより一回見せてくれない?見てみたいの」
「見せるくらいならいいですけど。貸し出し係の方はもうちょっと考えさせて下さいね」
 そう言って、香奈は席を立ち、部屋の外へ出ていった。















あとがき

 1週間も投稿がないって言うんで急いでまとめました。
 今回も前後編。
 最近前後編ばっかですね。
 気をつけなくては・・・。