図書部19
作:尾瀬駆





「ねぇ、岩崎君がそんなに推すわけだからかなりかわいいんでしょ?」
 今、部室には知加子と敬太の二人。
「もちろん!俺も一度しか見たことないけど、女優みたいな感じでしたよ」
 二人で香奈が着替えて戻ってくるのを待っていた。
「女優かぁ。それは期待できそうね。上野さんにはかわいそうだけど、他にいい案ないから最悪の場合やってもらわないとだめかもね」
「そうですよね。他に何かいい案があればいいんですけど」
 ガラッと音がなって部室の戸が開いた。
「おまたせ」
 香奈は少し赤くなりながら、中に入ってきた。
「前に見たときもいいって思ったけど、やっぱかわいいよ」
「うんうん。これならいけるんじゃない?利用者倍増間違いなしかもしれないわね」
「ふ、二人とも誉めすぎだよ」
 そういいつつも香奈はうれしそうだった。
「あれ?もしかして・・・」
「どうかしましたか?先輩?」
「きっちり思い出せないんだけど、どっかで見たことがあるような気がして」
「え?」
 香奈は驚いた。
 や、やばい。
「私、髪とか戻してくるから」
 そう言って部室の外に出て、勢いよく戸をしめた。
「どうしたんだろ?いきなり・・・」
「さぁ」
 わけが分からない二人はぽかんとした顔で顔を見合わせた。
「あっ、そういえば!」
 敬太はいきなり自分のかばんをあさりだした。
「あった。あった」
「何?」
「こないだ来た時言ってたじゃないですか見せたいものがあるって」
 知加子は言われて、記憶の断片を遡っていった。
 なんとなくそんなことがあったような・・・。
「で、これなんですよ」
 敬太はそれを知加子の目の前に出した。
「『人魚姫』?それがどうかしたの?お話なら知ってるけど・・・」
「実はですね。あの天野晴彦のサイン入りなんです」
「あの天野晴彦の?!」
 知加子は少々素っ頓狂な声をあげた。
 それほどに天野晴彦と言えば有名だった。
 CM出演は1日テレビを見ていたなら毎日出てるし、ドラマに出ても毎回ある程度以上の視聴率を保っている。その演技はとてもうまくどんな役でも自分のものにしてしまっていた。どちらかといえばテレビに疎い知加子でも天野晴彦は知っていたのだ。
「へぇ、どういう経緯で手に入れたの?」
「それはですね・・・・・・」
ガラッと戸が開いて香奈が戻ってきた。
そして、敬太が手に持っている本を見るなり驚きの声をあげたのだった。
「そ、それっ!」
 びしっと指を指し、続けた。
「私が小さい頃なくした本だ!」
「え?」
 香奈は本をひったくって、手にとって確かめた。
「わぁ、なつかしい。これ、どこで手に入れたの?」
「いや、これはそのもらったんだ。俳優の天野晴彦さんから」
「え?」
 香奈は凍りついた。天野晴彦から?うそ?
「じゃあ、あんたが私の本をもらったやつなのね」
「はぁ、何言ってんだよ。これは天野晴彦さんからもらったの」
 敬太は香奈から本を取り返した。
「だから、言ってるじゃない。その本は元々私ので、お父さんにそれを貸してあげた時に知らない子にあげちゃったのよ。その頃、私小さかったけど覚えてるもん。それに私のだって証拠もちゃんとあるわよ。最後のページに『かな』って書いてあるんだから」
 そこまでまくしあげて香奈は少し落ち着いた。昔、なくした本に出会って少々気分が高ぶっているのかもしれなかった。
敬太は最後のページを開け、それを確かめてみた。
「!ほんとだ。ちゃんと『かな』って書いてある」
 それを後から覗き込んだ知加子が言った。
 そして、考えた。敬太君が天野晴彦さんから本をもらって、その本の持ち主は香奈ちゃんってことは・・・
「もしかして、香奈ちゃんって天野晴彦の娘!?」
 ちょっと素っ頓狂な声になったかもしれない。それほどに驚きが大きかった。
 しまった!と香奈は思ったが時既に遅し、もうばればれであった。
「内緒ですよ。知加子先輩。絶対に」
「分かってるよ。約束は守るって」
「ほんとにまじなのか?」
 敬太はまだ信じられないといった様子だった。
「ほんとだって言ってるでしょ。絶対に内緒だからね!ばれたら転校するかもしれないし」
「分かった。分かった。別にばらしたっておもしろくないしな。今は部活の成功の方が大切だ。で?やってくれるのか?貸し出し係」
 ぱっと香奈に視線が集まる。
「しょうがないわね。このことを内緒にしてくれるって約束してくれたし、やってみましょうか」
「よっしゃー!これで、倍増間違いなしだぜ!」
 敬太は飛び上がって喜んだ。
「ほんとにいいの?」
 喜んでいる敬太を横目に知加子が尋ねてきた。
「いいんです。確かにちょっと恥ずかしいけど、成功のためだったらがんばります」
「そっか。でも、あんまり一人で気負いすぎないでね。私たちもいるんだから」
「分かってますよ。大丈夫です」
 香奈は腕を上げて伸びをした。窓から入ってくる日差しがいつの間にか赤みがかってきていた。
「さて、今日はこれくらいにしましょうか。次はまた集まった時ね」
 香奈は二人を見回してから、
「お疲れ様でした。クラブ終わり〜!」
 少し子供っぽく言ったのだった。















あとがき

 後編です。
 やっと夏休みのクラブが終わりました。
 にしても、長い前置きだ・・・。
 やっぱ、各個人の話入れましたからねぇ。
 これからやっと、物語が動き始める予定。
 ほんと下手すると50話に行きかねない勢いだ・・・。
 完結するまで気長に読んでくださいね。