WILL 7
作:アザゼル





 ☆ エピローグ『ウィル』


 カフェテラスには、さっきからずっと待ちぼうけをくらっている少年が一人、運ばれてきたオレンジジュースにも手を付けずにぼんやりと空を仰いでいる。褐色の肌と、憂いを帯びたような漆黒の眼差しが、どことなく神秘的な雰囲気を醸し出している少年だ。周りのテーブルに座っている女子高生の内の何人かが、異国情緒たっぷりのそんな少年の風貌を見てひそひそと何事か囁き合ったりしているが、彼は慣れているのか全く気にした様子を見せない。
 ――その時、店内に騒々しい様子で駆け込んできた者がいた。
 上で二つに括った金髪を揺らしながら、店員が何かを言うのを振り切って、現れたその少女は少年の座るテラスへと一目散に近付いていく。店の中の他の客たちは店内をけたたましく駆け回る来訪者に、皆一様に視線を釘付けにされていたが、その中で先ほど何か言葉をかけていたおかっぱ頭のやけに胸の大きなウエイトレスだけは、諦めにも似た顔つきで小さくため息を洩らしている。どうやらこの珍客の騒動は、彼女にとっては日常の一コマらしい。
 金髪少女が、少年の座る席の前に辿り着いた。
 顔を上げた少年が少し憮然とした面持ちで少女に向けて何かを言うと、それに対して少女の方は激しく身振り手振りでジェスチャー――おそらくは待ち合わせに遅れた理由か何か――をとった挙句、大して悪びれた様子もなく自分も少年の隣に腰を降ろす。
 少年は少しの間だけ憮然とした表情を続けていたが、やがて一方的に喋り続ける少女に根負けしたように、苦笑いを浮かべる談笑を始めた――


 そのカフェテラスを、遠く離れた所から見据えている二つの人影がある。
「まさか、たかが一人の人間を蘇生するためだけに、『カドウケウスの杖』の力を使役するとは……」
「少年にとっては、それだけかけがいのない存在だったのさ」
「彼の力が断裁だけでなく、再生の力も有しているとは、僕は聞いてなかったぞ?」
「相反するものを同居させない力など、それ自体で星の運命を決するに足り得ないからな。ただ一方的に断裁を行うほど、俺らは傲慢であってはならない」
「全てを原始物質『プリマ・マテリア』へと還し、生命の海に世界を変貌させ、星に住まう全ての人間から少しずつ集めた魂を少女に収束した上で、世界を元の状態へと戻す。所業だけを見ればまさに神の如き力だが、成したことはえらく小さいじゃないか」
「結果など大した問題じゃない。それを成した少年の心と、スイッチとなった少女の決意こそが大事なのさ。それはお前も分かっているんだろ?」
「さて……ね」
「……まだ、お前の願いは終わっていないのか?」
「当然。だけど、今しばらくは監視を続けようと思うよ。今回の審判の結果が歴史に顕れるまでには、まだ多くの時間が必要だ。その時の人の行く末を視てからでも、願いの成就には遅くないだろうしね」
「確かに。永劫を生きる俺たちにとっては、大した時間でもないしな。なぁ、ニグレド」
「その通りさ、アルベド」
「では、今回の物語は――」
「ここらで一旦幕引きさ。じゃあな」
 そこで会話は終わり、二つの人影はお互い背を向けて歩き始めた。雑踏の中に二人の姿が完全に溶け込むまで、数刻もかからない。
 少しひんやりとした風が、街に吹き荒ぶ。
 夏が終わり、秋の足音はすぐ側まで近付いてきているようだった――















あとがき

 ふ〜、やっと完結いたしました。
 「WILL」最終話です♪
 あまりにも連載が長くなり過ぎて、書いてる本人も途中でどういうストーリーだか忘れてしまっているような状態でしたが、とにもかくにも完結できたのでよしとしますか(笑)
 まあ、相変わらずアザゼルは何が言いたいねん、て感じのお話ですが、ここまで付き合っていただいた方――ありがとうございました☆
 次回はまた新しい連載でも始めようかな、とか。
 ではでは、次は早い完結を目指すように前向きに検討したい次第ですので、よろしくっ!