予定運命の輪 〜questions of the witch〜 終章
作:沖田演義





   終章 〜ending〜


 これほど気分の悪い白色に出会ったのは始めてだった。
 右も左も正面も背後も天井も床も。つまるところ全てが白色で、少し前まで覆っていた闇が残らず消えてしまっていた。
(なるほど……あいつと病室じゃ性質が正反対か。じゃあ、仕方ねぇな……)
 ベッドで体を起こし、ルクセインはたった一人のその部屋を見まわした。
 個室のようで、他に患者はいない。しかしそれほど広く取られているわけではない病室は、窓から入ってくる朝日だけで充分に明るかった。
 ベッドの下には雑誌や食べ物が置いてある。花も添えられていて、誰かが見舞いに来たのは間違いなさそうだった。
(……さて、俺はなんでこんなところにいるんだ?)
 思いきりゆったりと、思考する部分を働かせる。もう急ぐことなど何もない。


 先ほどまではキリの空間にいた。
 そこから出た記憶はない。
 つまり、キリがここへ運んだ。
 キリのゲームでは勝ったらしい。
 と、いうことは、
 ここは本来のルート。
 キリのいない。
 キリのいない……。


(……違うだろ)
 ルクセインは軽く頭を振って、思考を停止させる。もう一眠りしてから考えればいい。
 再び体を寝かせて、意識が遠のいていく感覚を楽しむ。しかし、ドアの音がした。
「おや、起きたかい? ルクセイン」
 一瞬で目が覚めた。
 ベッドから跳ね起き、距離を取る。そして腰にある大型リボルバーを、
「……何やってんの? ルク」
 あるはずの鉄の感触は、さらりとした衣服のものに変わっていた。そうだ、病室で軍服を着ているはずがない。
「……頭を打ったのかな?」
「でも元々こんなでしょ」
 観念して、二つの声の主を見やる。
 そこには予想通り、ミゾレとトキが立っていた。
(……ミゾレと……トキ?)
 ルクセインの頭に、ミゾレに対する情はもうないと言い切ったトキが浮ぶ。
 ミゾレはいつもの軍服で。トキは珍しく髪を下ろしてロングスカートをはいていた。
 まさかまだ何か起こるのかと警戒し、そして気付く。ここは最初の世界とは違う。
(そうだ……最初に俺が死んだルートが何の手も加えられていない元の世界なら、そこにクーモイがこれるはずがねぇ。あの時点ですでに俺はレプリカの世界にいた! 世界は全部で四つあった!?)
 記憶が徐々に繋がってゆく。そう、この真のルートとでも言うべき世界で、自分はなんでもない交通事故にあったのだ。それでここに入院……したはずだが、意識はあの世界へ飛ばされていた。おそらく、この真ルートでの記憶はキリによって消されていたのだろう。
(なんてこった……だったらキリが俺をゲームに使ったのは、ミゾレの相棒だったからじゃない。それどころか、ミゾレがキリの弟って話すら……。本当に全部が全部、あいつのストーリー!?)
「ルク。どうしたの? お腹すいた?」
 トキが首を傾げる。彼女は何も知らない。
「今日で退院できるそうだよ、ルクセイン。ついでに言うと、仕事も溜まってるよ」
 ミゾレも……きっと、何も知らない。
(つまりあれか? ノーヒントで捕まえて見せろってことか……)
 そして、これはキリも知らない。
(だが……俺は諦めが悪いんだ。運命だろうがなんだろうが、そんな押し付けがましい予定は変えてやる。お前が捕まりたくないってんなら、是が非でも捕まえてやる。それが……俺の決める、自分の運命だ)
「トキ、ミゾレ」
 ルクセインは窓の外に目をやって、話しかけた。
「これからよ……クール廃墟街行くか。ミゾレには砦がおもしれぇだろうし、トキには気の合う奴が多分、いる。俺はちょっと探しモンだ。あ、ミゾレ。USのクーモイ=アルテを呼び付けてくれ、あいつ今ごろ……」
 こうして話しているうちに、今まで体験した出来事が次々と目の前に浮んでくる。
 夢などではない。
 それどころか、物語の続きであった。
 それはまるで、一つのゲームを終えたプレイヤーに対する、エンディング・スクロールのようだった。











    〜Thanks for players of all〜