魔法使いが望むもの(上) |
作:新人 |
第一章 ほうきで空飛ぶ原始人
この男、いや原始人は、本当に馬鹿だとナツメグこと夏恵は思った。
この男は本当にそんなことができると思っているのだろうか?
「うーん、うーん」
あの必至な顔を見ていると本気にしか思えないのだが。
「見てろ、ナツメグ! いま、まさに人類は新しい第一歩を踏み出すのだ!」
普段なら肉に良くあう香辛料と同じあだ名をいわれてむかつくのだが、不思議と今日は腹が立たなかった。
「ねえ、斎藤……あんた、ほんとうにそれができると思っているの?」
彼女、ナツメグが聞くと彼はその動作を止めて少し考えてから言った。
「確かに……俺の筋肉はまだあまい」
斎藤の表所は暗くなり下を向く。
「しかし! ひょっとしたらアームレスリングの世界チャンプとか、柔道の世界チャンプとかがやってくれるかもしれない!」
その答えにナツメグは、頭をかいて何かを言おうとするのだが、その前に斎藤が新たなる言葉を紡ぎだす。
「俺は今日。ちょっと浮けばいいのだ!」
そう言って彼はその作業を再びやり始める。
「あんた馬鹿でしょ」
思わずナツメグは言ってしまった。もっとも彼はぜんぜんわからんといった感じ、いや、しかたがないやつだなあといった感じで。
「ふっ、いつの世でも天才というものは理解されないものだ」
そう言い、再びほうきに力をこめる。
「だいたい、何でほうきなわけ? 昨日までは座禅をして足をもって飛ぼうとしてたじゃない」
秋の中旬、と言ってもこの寒さは冬と言ってもいいのではないだろうか? 寒さとこの馬鹿にいらいらしながらナツメグが聞く。
「俺は悟ったのだ」
「なにを?」
「あれは力が入れにくいし、それに」
「それに?」
オウム返し聞くナツメグに自信満々に斎藤は答えた。
「前例があるのだ。ヨーロッパの魔女と呼ばれる女はほうきで空を飛んだということを昨日図書館で発見した」
つまり、昨日図書館で見つけるまで知らんかったのか? かなりきわどい疑問を浮かべてナツメグは絶句した。
その様子を見て彼女は納得したんだとかってに決め付けて彼は作業を再開した。
彼の作業とはいうまでもないことかもしれないが、ほうきにまたがりほうきを握り上にひく。
彼はそれで飛べると思っているらしい。さらに困ったことに彼は、なぜ今、自分が飛べないという理由をただたんに自分に力がないだけだと勘違いしているようだ。
「ふっ、ふっ、ふう。これで空を飛べるということが証明で切れば日本の渋滞はなくなるぞ」
息を切らせながら彼は、いい汗をぬぐいそう言った。
「わたし……帰るわ」
ここは、近所の公園だった。今の時間は四時。
普段なら小さなお子様でにぎわっている時間帯だ。
しかし、今は誰もいない。ナツメグはその理由がわかった。
ついさっきのことだ。五歳ぐらいの女の子が、母親と思われる女性とこっちにスキップしながらやってくるのだが。
あのほうきにまたがりあまつさえいい汗かきながらがんばっている男を見てすぐに引き返していく。
遠くでよくわからなかったのだが。
小さな女の子が、あいつを指差して口を動かし、お母様らしき人が口を動かし。
そして女の子はわたしを指差し……そして母親が…………
その会話は、簡単に思い浮かべれる。
女の子
「ママ、あのおにいちゃん何?」
母親
「しっ、指差すんじゃありません」
女の子
「あれお母さん、何で帰るの公園行くんじゃなかったの?」
母親
「今日は帰るわよ」
女の子
「あっ、綺麗なおねえちゃん」
母親
(……大丈夫かしらあのこ? あんなにかわいいのに)
「いいから帰りますよ」
うっわあ、とりあえず思いついた会話にナツメグはひきまくり帰る事を決意したのだ。
変なのはあの男だけです。わたしは、かわいい普通の女の子。
「んっ、帰るのか? じゃあまた明日な。期待してろよ、絶対明日飛んで見せるから」
「ああ、はいはい」
どこかなげやりに言ってナツメグは帰っていった。
ひとり公園に残った斎藤は、作業を再開した。
足りないのは、力だけのはずなんだ。
斎藤は近くの石をもつ。
それを見て彼は思う。ほらこの石は浮いているじゃあないか。
この石は、浮いている。地面についていない。
なぜか? 理由は簡単だ。俺がこの石をもっているからだ。
石は動くことができない。だが、俺は動ける。
つまりだ。俺とこの石が代わればいいのだ。
俺の力→石が浮くを俺の力→俺が浮くに変えればいいのだ。
なんでみんなこんなことに気づかないんだ? そう思いながら彼の作業は夜まで続いた。
「……嘘だろ」
五時間と続けた結果、今はもう夜だ。八時だ。腹減った。
「俺の力が足りないのかよ」
彼は絶望して呟いた。
「だが、俺はあきらめんぞ、絶対にこのほうきで空を飛んで見せる!」
どうやら今日は飛べなかったようだ。彼はまん丸お月様に誓い。
(腹減ったな)
帰路へと向かっていった。
公園を出て道路を踏む。
そんな彼の姿を見ていた者がいた。
「やっぱり、彼だ」
声の高さからそれが女性だとわかる。
満月が彼女の姿を浮かび上がらす。
おかしい。彼女の姿は満月にすっぽりと入っている。
彼女は空を飛んでいるのだろうか? まさかそんなことはありえない。
「やっと見つけた」
声の調子からそれが喜びのものだと分かる。
「ルイ=ブラック先生」
誰かの名前なんだろう彼女はそう呟いた。
第二章 あわてんぼうのサンタクロース
「はっ、はっ、はっ、」
斎藤は家に帰っても努力を怠らなかった。
その成果で最初は十回もできなかった腕立てふせを今では百回はできるようになっていた。
今日も腕立てふせをしていた。
なぜ空を飛べなかったかはわかっている力が足りなかったせいだ。
「絶対に明日こそは飛んで見せる」
彼はそう呟くとベッドにもぐった。疲れのせいか、あっさりと彼は寝息を立て始めた。
ガラッ
彼が眠りについて一時間は経っただろう。窓があいた。
彼の部屋は二階だった。
ベランダなんかないから泥棒など入って来れないと思いカギは閉めていない。
入ってきたのは女だった。いや、少女だった。
年は、十代の中ごろ。髪は長くて月の光に反射されてさらに輝く金色の美しい髪だ。
「……先生」
だらしなくいびきをかいてよだれを流す彼の顔を見ながら少女はうっとりと呟いた。
その声から先程月の中から呟いていた女性だとわかる。
ルイ=ブラック。五年前の非公式最神魔決戦で大大大活躍した大魔法使いである。歴史上最高の魔法使いと言っても過言ではない。
彼を師として憧れる魔法使いの弟子はたくさんいる。彼女もそのひとりだった。
彼の活躍は、詩人が歌い小説家は本として語った。
彼女は師匠には、絶対に彼だと決めていた。今は、自称弟子だが、いつの日か彼に認めてもらい弟子になるのが彼女の夢だった。
彼女の世界のピンチを救うべく再び彼に魔法使いとして彼女の世界にきてもらう。
大変名誉なことでそれに自分が選ばれたことを彼女は誇りにしていた。
先程は、この世界の女だろうがいて先生に会えなかった。先生の帰りでもそうだ、この世界の住民にあってはならない。
先生がひとり暮らしだということは、彼女は知っていた。神界の記録にそうあるからだ。
だが、あの憧れの先生に会える。そう思うとなかなか行けなかった。
彼が寝静まり、何分か経ち(本当は一時間だが彼女はほんの数分だと思っている)ようやく今距離にして五メートルをきる所まできていた。
彼女は、ポケットからハンカチを取り出すと彼の口から出ていたよだれをぬぐった。
大魔法使いには少し似合わないと思ったからだ。
「うっ、うーん」
彼が動いた。
やばい起きる? 彼女は少しどきっとした。
なにから話そう。神界の情報だと先生は記憶を失っているらしい。
わかってもらえなかったらどうしよう。
彼は顔を振るとこっちを見た。
きゃっ、きゃっ、きゃっ。
どっが!
「うっぐ」
…………頭にたんこぶを作り再びベッドに彼は倒れた。
鉄製のほうきを持って彼女は呟いた。
「……どうしよう」
うっ、うう、大きなたんこぶだな。これはまずいかも…………
「とりあえず、神界に連れて行けばいいよね……? うんうん、きっとそうだ」
かなりむりやり彼女は自分を納得させると彼を乗せてほうきにまたがり窓から飛び出した。
今の時間は、十時三十分。
彼、斎藤は夜の九時に毎日寝ていた。これは普通のものと比べてかなり早いものだ。
だからこの時間ナツメグは、まだ本を見ていて起きていた。
そして彼女はふと外を見た。
何かが動いている気がしたからだ。
一瞬、サンタかと思った。でもまだ十月だ。
だが、月に浮かぶ影はそりに乗るサンタにしか見えなかった。
「あわてんぼうの……サンタクロース?」
彼女は呟いたあと、それが子供じみたものだと思い苦笑いして目をぬぐった。
ぬぐってから見るとその影はもうすでになかった。
「疲れたのかなわたし」
ナツメグは、読んでいた本にしおりをはさんだ。つかれで幻覚まで見たらさすがにやばいと思ったからだ。
ベッドに入ってからふとあれが斎藤じゃなかったかと思いまた苦笑いした。
あれが斎藤だとしたらえらくいびつだ。ほうきとさいとうと何かがないとあの形にはどうがんばってもならない。
明日、なんで人間が背中をつまんで浮かぼうとしても浮かべないか教えてやろう。
そう思いながら彼女は眠りについた。
もう一方で斎藤は、脳天への一撃と夜中いきなり外に出て寒さの二連撃であの世へといきかけていた。
彼は、少女、メェミュウとともにあの世に近い神界に行くことになる予定だが。
顔にちくちくとささるほうきのはく部分。もちろん鋼鉄製。
彼があの世に行かないことを祈るだけである。
あとがき? ちゅうがき? はじめがき?
そんなこんなで新人です。
いかがだったでしょう? 一応処女作らしいです『魔法使いが望むもの(上)』
次の『魔法使いが望むもの(下)』で終わるつもりですが、『魔法使いの望むもの(中)』になるかもしれません。
できたら感想くれたらうれしいな。批評はどうかお手柔らかに。
とりあえず、続きは、次の次の日曜日辺りに書けたらいいなと思う今日この頃です。
できたら見捨てないでくれたらとてもうれしいです。
十一月十二日 新人