銀狼少女 エピローグ
作:槇原想紙





エピローグ

 私は旅ができる身支度をすますと家の鍵を閉めた。もう自分の家には帰らないと決意して。出張中の父親には置手紙を残したから問題はないだろう。
 自宅のポストに鍵を入れると私は旅行バッグを背負い、その足で小波君が入院している病院へと向かう。
 結局のところ私は理性を失う事は無かった。それは三日前の夜、永久と一緒に永久の父親である化け物に喰らいついた後、目を覚ましたら私は魔方陣の中央で永久に抱きしめられていた。その傍らには首を私達に喰いちぎられ、地面にゴロリと横たわっていた永久の父親の生首があったのだ。その光景を見て私は永久の父親が死んだ事を知った。そして永久は私の唇に己の血を首から注いでいた。だが既に意識などなく、永久も父親と同様に死んでいた。なぜ私は永久の父親の血を飲みながら、理性を失わずにすんだのか。それはきっと、永久のおかげなのだろう。永久は銀狼と人間の間に生まれた子供だ。私の推測だが永久の体には生まれながらにして、銀狼の力に抗体みたいのができていて、それによって永久は今まで理性を失わないですんでいた。だから私に永久は自身の血を私に大量に注ぎ、抗体を体内につくらせたのではないかと私は思う。だから私は理性をそのまま失わずにすみ、今こうして自我が存在していられるのだろう。
 私は病院につくと、近くの花屋で買った花を看護婦さんに渡し、小波君宛に渡してくれるようお願いした。もう彼と二度と会う事はないだろうからだ。
 私は旅行バックから赤いコートを取り出して羽織った。それは今は亡き恵葉センパイの物だ。私が形見として頂く事にしたのだ。恵葉センパイのコートは黒色だったが、恵葉センパイの鮮血によって赤く染まりあがっていた。洗い落とそうとしたがコートは二度と黒色には戻らず、更に赤味を増していった。そして私は恭二の形見のロザリオをそのまま首に巻いた。準備は終わった。これから私は旅立たねばならない。これ以上、他人を巻き込まない為に。
 私が病院を出て歩いていると、前方にすみれが立ち尽くしていた。その身には旅行バッグを抱えている。私についていこうというのだろうか。私が旅立つ事を知っていた理由は明白だ。人の心を読めるのだから。
 私がすみれを見ずにすれ違うと、私の手をすみれは捕まえた。
「一人でどこかにいなくなっちゃうんですか?」
「すみれ、ダメよ。私はあなたを連れて行く事はできない」
「どうしてですかっ。わたしは詩織せんぱいの側にいたい。これからもずっと。お願いです私も連れてって下さい。私には詩織せんぱいしかいないんですっ!」
 すみれの掴む手がいっそう強くなる。
「私は銀狼なのよ。ハンターにこれからも命を狙われ続けるの。すみれを危険な目にあわす事なんてできないの」
「わたしだって人の心を読む力を持っています。私だって命をこれから狙われる可能性があります」
 すみれが屁理屈みたいな事を言うので私は無理やり、すみれの手をほどこうとしたが次の瞬間、私の頬をすみれの平手打ちがくらった。
「詩織せんぱいはわたしにこうやってぶって、殺さずわたしを生かしたじゃないですか。なら、わたしをこれからも守ってくださいよ。それにわたしはお荷物になんてなりません」
 詩織の鋭く強い目が私の瞳を見据えた。私は決断したのだ。今、どうせ引き離したところで、すみれはどうせ力づくでも私についてくるだろう。私はそっとため息をついた。そして、すみれの手を握った。
「わかったわ。だけどもう、ここへは戻ってこないわよ。それでもいいのね?」
「はいっ。わたしは詩織せんぱいと一緒にいられれば、それだけで十分です」
 すみれの決意を聞くと、私達は歩き出した。ふと、すみれが私の腕に自分の手を絡めてきた。いつも通りの行動だ。だけど、そのいつも通りの行動に私は懐かしく思い。すみれが握っている自分の手を握り返した。それに答えるように、すみれは私を見上げ微笑んだ。
 さて、これからどこへ行こうか。私がふと考えていると、
「海を見に行きましょう。きっと綺麗ですよ」
 すみれが言った。私の心を読んでいるのだろうか。
「詩織せんぱいが何も行き先を考えてないから提案しただけです」
 すみれが再び無邪気そうに言うと、私は頷く事にした。
 これから自分が何をすればいいかなんて分からない。だけど今の私達は前へと進んでいるのだ。進み続けなければいけないのだ。

                       おわり















あとがき

 連載小説『銀狼少女』が遂に完結しました!!自分が書いたはじめての連載小説です!!連載小説がどれだけ難しいのか身に感じてわかりました。書き続けるうちにキャラクターの性格が変化したりなどしてしまいましたが、はじめての連載小説で諦めずちゃんと完結できた事に僕は達成感を感じられます。これからも、いろんなジャンルを書きたいしチャレンジしていきたいと思います!!これからも皆さんよろしくお願いします。