夜更け過ぎ。酔いつぶれて、くたばっていた。
明日の予報が、もう当たった。雨粒が、ばらばらと屋根に響きはじめた。
「ふわあぁ……」
あくびの間に、土砂降りになった。
TVの声が聞こえない。ぼろアパートを、叩き潰すような雨だった。
薄暗い天井に、画面の光がちらついていた。リモコンを取り、音量を上げかけてやめた。隣りに迷惑だろうし、眠かった。
……溺れる夢を見た。夢と知りつつ、息が吸えない。変だともがくうちに目が覚めた。妙な音が、途切れ途切れに聞こえていた。
相変わらずの土砂降りだった。妙な音がまた聞こえ、悲鳴だとわかった。
「……」
ぼんやり見つめるTVのシネマで、女が首を締められていた。チャンネルを変えた。
「……」
チャンネルを、別のに変えた。何度も変えたが、悲鳴は止まなかった。
それは、隣室から聞こえていた。
立ち上がると、頭がふらついた。ここで吐くより、何かしたほうがいいような気がした。
何も考えつかない。だが汚れた壁紙を見ているうち、具合のいいことを思い出した……前から一度、やってみたいことがあった。
それをやった。壁に向かって、全体重を込めた飛び蹴りを浴びせた。
翌日。二日越しの雨は、夜になっても止まなかった。
追い立ても食わず、アパートで寝ていた。ぽっかり穴の開いた壁に、背を向けて寝ていた。
折れた足がうずいた。バイトどころか、当分動けそうも無かった。
隣りは、借り手のいない部屋だった。
大家は口を濁していた。……自殺か、殺し。
紙コップを傾け、ウィスキーをなめた。飲み干したくても、起き上がれなかった。
それは、雨の夜のことだったのか。なら、まだ続くのか?
今、じかに聞こえるのだ。壁の穴。途切れ途切れの、女の悲鳴。
……TVをつけようか? それとも、迷惑か?
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