最後の切り札 作:F-MON



 城を包囲されて、そろそろふた月になる。連中は攻めあぐねているようだ。
 こちらは暇が増え、食い物が減った。今夜も空きっ腹をなだめつつ、カードにふける。

「へへ」
 ターゴが、上機嫌で手札を広げた。
「どうだい。また頂きだぜ」
「ちっ」
 俺は札を投げ出したが、腹では笑っている。
「うう、ちくしょう」
 もう一人が、顎をだぶつかせて泣き声をあげた。城一番に肥えた奴で、いざとなったら真っ先に食われるとの評判だ。
「あと、あと一勝負だぁ!」
 そいつが喚いた。ターゴが、ちらりと俺を見る。
 俺は肩をすくめた。せっかくのカモだ。ハムになるまで待つ必要もない。
「どうすんだ?」
 ターゴは、奴に声をかけた。
「もう、スープの豆まで賭けちまったじゃねえか」
「食い物以外は、お断りだぜ」
 カードを配りながら、俺も口を挟む。
「さっき“とっておきがある”って言ってたよな。なあ?」
「おう。とっときだ、とっときだぜぇ」
 奴が、額の汗をごしごしと拭った。
「特大の、バタ付きパンの、干しブドウ入りだぁ」
 俺は手札から目を上げた。
「出してみな」
「あそこにあらあ」
 指差す窓の外を見ると、それは夜空に照る満月だった。
 ……がっくり肩を落としたまま、俺はテーブルの足を蹴った。
「失せろ。バカくせえ」
「そりゃねえぜ」
 奴がまた泣き声になった。ターゴが言った。
「まあ、いいじゃねえか。一勝負、つきあってやれや」
「勝手にやってな」
 俺は部屋の隅へ行って、ごろりと横になった。

 うとうとしかけた頃だった。
「召集だぜ!」
 ターゴに蹴られて、俺は跳ね起きた。
「敵襲か!?」
「いや、こっちから仕掛けるとさ!」
「何? こんな月夜に……」
 外を見た。口が、ぽかんと開けっぱなしになった。
 光は失せ、月は赤黒い影を残して、消え入るほどに細く欠けていた。
「何だか知らねえが、ゲッショクだとよ! 早く来い!」
 言い捨てて、ターゴは走り去った。
「……あの、ハム野郎」
 ようやく、俺は呟いた。
「とうとうオケラだな。えぇ?」



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