Catch Me 作:来夢



 ウゥゥー。
 低い唸るような音と共に鋭い爪が振り下ろされる。無機質なその爪が首筋に、ガッ!と食い込み、肩口にかけてしっかりと固定されてしまっている。
 ――奴は助からないな。
 経験からそう確信する。
 ウゥゥー。
 再び低い唸るような音がしたかと思うと、爪に捕らえられた体がふわっと持ち上がる。
 プラプラと惰性に任せて揺れ動く体は、少し先に見える暗く、大きく開いた口元へと運ばれてゆく。そして――カパッと開いた爪から放り出された体は、闇の中へと消えていった……

 ここは閉ざされた世界。周りにはきらびやかな色とりどりのネオン。ざわめきとも騒音ともとれる音、音、音。手を伸ばせば、その華やかな世界へと届きそうではあるのにそれは叶うことはない。目には見えない壁が、その望みを拒絶する……
 ウゥゥー。
 すでに聞き慣れてしまった音。そして爪が振り下ろされる。どうやら狙われているのは、隣にいる奴のようだ。
 ガッ!
 爪が頭部に突き刺さる。顔がひしゃげるほどの一撃ではあったが、奴は助かるだろう。狙いが少々甘い。案の定、爪は何も掴むことなく元の位置に戻ってゆく。
 大丈夫か、と声をかける者は誰もいない。他人の心配などしてはいられない。次こそは自分かもしれない!その恐怖が、誰の胸にもあるのだ……
 ウゥゥー。
 ガガッ!
 爪がしっかりと胴を掴み取る。完璧だ!これ以上はない程の一撃!体が持ち上がる瞬間、さらに鋭く爪が食い込む。もはや……逃れる術はない。まるで重さを感じさせないかのように、軽々と持ち上げられる。仲間たちの頭上を、ゆっくりと、しかし確実に暗黒の口へと運ばれてゆく。
 カパッ!
 爪から解放された体は、一直線に闇へと吸い込まれていった……

「キャー!! やったぁ♪ 一回で取れたぁ!」
「いいなぁ、ゆっこー! アタシなんて二千円も使ったのにぃー」

 閉ざされた世界から抜け出し、外の世界で初めて目に映ったものは――

『トラッキーUFOキャッチャー 一回二百円』



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