雨音がすると外に出たくなる。
傘も差さずに飛び出して、今すぐにでも。
私は白のワンピースを着て、白いミュールを履くとドアを閉めるのもそこそこに雨の中を歩いた。
鉛色で、どんよりと落ちる空。いつもより空の場所が近くなったような気がする。
こうして、あなたに会いに行く時はいつも雨。
いつしか私は、わざと傘を忘れて雨の中を立っていた。
すると、馬鹿だなぁって笑って傘を差し掛けてくれる。その時の雫の冷たさを、まだ覚えている。風邪引いたらどうするんだって、抱きしめてくれる両腕の暖かさを、まだ私は忘れていない。
雨の中を歩く。
すれ違う人は私を哀れな目で見ていく。或いは馬鹿にしたような。
どんなに嘲笑されても、私は構わない。ただあなたが認めてくれる。それだけで、良い。
人見知りだった私。
強がりだった私。
そのくせ、誰よりも寂しがりだった私。
私という人間を受け止めてくれた、あなたがいるだけで、私の世界は鮮やかに色付いていた。
だけどあなたは雨の日に逝った。
雨音がすると外に出たくなる。
傘も差さず、まるでそうすればあなたに会えると願っているみたいに。
私は白のワンピースを着て、白いミュールを履いて歩く。
雨の滴は、涙を隠すに適当で、熱を持った瞼に優しい。
……あぁ、雨って、冷たいばかりじゃないのね。
ねぇ。もうそろそろ前の角から姿を見せて。
そしていつもみたいに馬鹿だなぁって笑って、風邪を引かないように抱きしめて。じゃないと、私の覚えているあなたの声と熱が流されて消えてしまう。
こうして、あなたに会いに行く時はいつも雨。
私はいつもわざと傘を忘れている。
あなたがもういないということを、忘れたままで。
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