イマジネーション 作:ASD&らる



 ぬめぬめと黒光りする異形の怪物が、悲鳴を上げる金髪の美女に踊りかかる。
 ――モニタに映っているのは、何百年も昔の安っぽいSF映画。
「マスター、こういうのが好きなのかい?」
「まさか」
 磁気嵐に囲まれた、寂れた航路上のステーション。私はここで燃料やパーツを売って暮らしている。十数年前までは中央で研究職に携わっていたが、地球人社会に馴染めぬままに、私は身を退いた。
「しかし、こんな所までよく電波が届くね?」
「これはな、今放送されているものじゃない」
「え?」
 不思議そうな顔をする男に、私は説明してやった。
「単純な物理法則の話だ。……電波というものは光の速度で伝播し、遮るものが無い限りどこまでも進む」
 男は黙って説明を聞いていた。
「当然テレビの電波だって例外じゃない。こんな下らない番組が、光の速さで宇宙を突き進んでいるのさ。……もしその電波を追い越して、受信する事が出来れば、過去の番組を見る事が出来る」
「……でも、百年以上昔の電波だぜ?」
 その言葉に対して、私はゆっくりと窓の外を指差した。そこに見えるのは渦巻く磁気嵐帯。
「距離の問題は、あれが解決してくれる。あれのおかげで、ここじゃ散逸した旧世紀の映像が拾い放題さ。買ってくれる所はいくらでもある」
「へえ……」
 男は、感心にうなずいてみせた。
「な、今度息子を連れてきていいか? あいつ、こういう下らない映画が大好きなんだ」
「ああ、いいとも」
「でも、まずあんたを見てびっくりするだろうなあ……」
 その言葉にむっとする私を横目に、男は陽気に笑いながら店を後にした。
 彼は息子にどう説明するのだろう。私はガラスに映る自分の姿にしばし見入っていた。長い触覚、複眼の目。そこにあるのは、モニタに映る間抜けな侵略者と全く同じ姿。
 旧世紀の地球人のイマジネーションは、確かに貧困なのだろうが……私は思わず、ため息をついた。



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