金持ちとペテン師 作:tsukikasa



 ある屋敷に偏屈な金持ちの男が一人、手伝いも雇わず住んでいた。
 屋敷には財産を狙う有象無象の客が絶えず、それらを追い払うのが男の日課だった。
 朝に商人が一人。
「これなるは東方に古来より伝わる不老不死の妙薬にございます。一度煎じ飲めば最早老いに怯える事はありません」
「どうしてそれを証明する?」
 訊かれると男は待ってましたとばかりに答える。
「何を隠そう私自身がこの薬によって長らえる身の上。既に見かけより百ほどの年を経ております」
 それを聞くと金持ちは退屈そうに返した。
「分かった、薬を貰おう。代金は百年したら取りに来い」
 昼に商人が一人。
「これなるは西の都の高名な職人が手掛けたこの世に並ぶもののない指輪。中央の見事な三石は、永遠の絆を意味するダイヤが過去を、誠実を意味するサファイアが現在を、繁栄を意味するトパーズが未来を象徴しているのです」
 金持ちは聞き終わると言った。
「なるほどよく分かった。それでは現在も未来も全てダイヤに変わった頃持ってきてくれ」
 夕に商人が一人。
「これなるは北方の高名なジプシーの占い師から譲り受けた厄除けの壺。所有者に降り掛かるあらゆる災厄を防ぐ事間違いありません」
「なるほど」
 金持ちの男は壺を手に取ると地面に投げつけ叩き割った。
「何をなさるんですか! まだお代も頂いてないのに」
「そうとも、まだこの壺の持ち主はキミだ。当然この災厄も防がれるものだと思ったんだがね」
 夜に商人が一人。
「これなるは南方の希少な植物より抽出したどんな疲れも立ち所に癒す魔法の薬です。是非一口だけでもお試しください。効果がないと仰られるならお代は頂きません」
「折角だがお断りしよう。飲んだとて今までの商人と同じくお引取り願う事になるのは明白。タダで薬だけ頂くのは気が引けるというものだ」
 取り付く島もない様子に男は焦って口を滑らす。
「いえいえ、ご安心ください。お代の方はあなたがお眠りになってからしっかり頂きます」



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