メイス 作:えむえむ



 ゴイィンッ・・・
 鈍い音と共に騎士がくりだした槍は男が左手に持った盾に弾かれる。
 騎士が次の動作に入る前に間合いを詰め、右手に持ったメイスを振り下ろす。

 ゴグシャッ。
 耳障りな音と共に騎士の頭部が兜ごと粉砕される。
 返り血がメイスを染める。

 崩れ落ちる騎士に目もくれず、こちらに向かってくる騎士に先手を取ってメイスを叩き込む。
 両手剣を持った騎士は剣で己の身を守ろうとするが、無骨な鉄塊は一撃目で剣を叩き折り、二撃目で頭部を粉砕する。
 
 次の騎士も、その次の騎士も。
 男が持つ鉄塊に打ち倒されていく。
 男が持つメイスはおろか、それを持つ右手までもが血の池に浸したように真紅に染まっている。

 男は修道騎士だった。
 男が信じる宗教では信徒は血を流す武器、即ち剣を使うことは許されない。
 だから修道騎士はメイスを使う。
 これならば血を流さぬと。
 剣を振るうことは許されずとも、メイスを振るうなら許されようと。

 だが、男を見るがいい。
 全身を血に染めている。
 剣は血を流し、メイスならば血を流さぬと。
 何という詭弁か。

 男は血に染まる己の身を見る。
 真紅に染まった総身。
 
 男も、詭弁だということには気付いていた。
 だが、これは神の土地を守る為の戦い。
 ならば、神はこの詭弁の上に立つ行為を許したまうか。
 
 新手の騎士が現われ、手に持った長槍を突き出す。
 男は先ほどまでと同じ様に、メイスを振るい鮮血を撒き散らす。
 
 だが流石に鍛えられたとは言えども疲労は極限に達していたか、騎士が放った投槍が男の腹を貫く。
 貫かれながらも男はメイスを振るう。
 だが、次々に飛来する投槍は男の命を削り取っていく。

 男は遂に倒れた。
 最後までメイスを振るいながら。
 
 ・・・・・・・・・彼の魂を神が許したのかは、誰も知らない。



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