炎が、闇が見えた。降りしきる雪、輸送機の残骸も。
「生きているのは」
女が、低い声でつぶやいた。俺の顔を、無表情にのぞき込んでいた。
「……私と、この子」
赤ん坊が、その腕に抱かれていた。
「そして、あなた」
動くこともできず、俺はただ、見上げているしかなかった。
両足に、激しい痛みが疼いた。
「……お願い」
女は言った。
「この子を暖めて。私の代りに」
黒髪が、雪にまみれていた。
「麓まで、行ってみるわ。その間、この子を暖めて」
彼女は首を傾け、赤ん坊の顔を見つめた。
「……私には、できないから」
そして、俺の手を取った。氷そのもののような冷たさが、伝わってきた。
「この子に、もしものことがあったら」
女が、顔を近付けた。
「殺すわ」
雪と闇の彼方に、その後姿が消えた後……俺は、手渡された赤ん坊を見た。
人形だった。笑顔が、ひび割れていた。
輸送機の乗員は、たった一人。操縦士の、俺だけ。
しかし……彼女は、戻って来るのかもしれない。
翌日。
天候が回復し、俺はあっさり救助された。
衛星の撮影した画像が、墜落地点の火災を捉えていたらしい。
「誰か、女を見なかったか……」
俺のつぶやきに、答えた奴がいた。
「女? ああ“彼女”か。向こうの崖下に、散らばってた」
そいつは俺の表情に気付いて、呆れたように言った。
「何だよ。積荷だったんだろ? あのロボットは……」
赤ん坊が笑っている。半分、雪に埋もれて。
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