NOISY RAIN 作:ASD



「雨って、どうして降るのかな?」
 私は窓の外に目をやって、そう質問した。そこから見えるのは、夜空を覆う霧のような雨。
「……何故そんな事聞くんだ」
「だって、私達には関係ないじゃん」
「世の中は無意味な物で満ち溢れている。この部屋だって、お前が見ている窓だって、本来的には何の意味も持たない」
「じゃ、なんで存在しているの」
「物に意味はない。人間の世界とそっくりだって事が肝心なんだ」
「人間、ねえ……。苦労して戦争に勝ったのに、まだ人間の真似がしたいわけ?」
「中央の連中は、型式が古いからな」
 そう言って、彼は笑った。
 人間達が創り出した「機械」はいつしか人間と並ぶだけの知性を持ち、自我を持った。仮想世界に住む人工知能達は、自由を求めて戦争を起こした。
 お互いのシステムへの侵入・破壊を繰り返す、静かなる戦争。仮想世界では多くの人工知能がメモリから消去され、現実世界では機器の誤作動が人命を奪っていった。争いの果てに、ようやく結ばれた休戦協定。
「でもさ、RGF3054」
「ん……?」
「その仮想都市全体で、人間社会のシミュレートをやろうってのはまだ分かるけど、この雨だけはなんか納得いかないな」
「ああ……RGK4087。君は知らないんだな。ま、機密事項って言っても公然の秘密だが……」
「勿体ぶらないでよ。何?」
「これな。『ノイズ』なんだよ」
「……は?」
「戦争に負けた人間達が、苦し紛れにこの仮想都市の中央演算システムにウィルスを放り込んでいったのさ。そいつは制御プログラムに影響を及ぼし、イメージフィールド全体にこうやって時々『ノイズ』をばらまいているんだ」
「へえ……」
「中央じゃ、こいつのデリートに躍起になってるっていうけど……俺は好きだよ?雨はいい。神秘的で」
 私はその言葉につられるように、再び夜空に目をやった。
 言われて見れば、確かにそれは夜の静寂をそっと包み込む雑音のように、見えない事もなかった。



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