君をオモウ 作:尾瀬 駆



 外は激しい雨だった。
 こんな日は学校に行く気もせず、部屋でぼ〜っとしていた。
 そんな感じで、今はもう4時。
 雨の方は飽きもせずにまだ降っている。梅雨だから仕方が無いか。
 窓枠に座って外を眺めていると、近くの高校が終わったらしく、下校する生徒がちらほら見えてきた。
 色とりどりの傘が単調な色彩の道を彩っていた。
 もっとうじゃうじゃいたら、でっかいアジサイみたいできれいかも。
 そんな馬鹿なことすら浮かんできて、自分がとことん暇であることを再確認する。
 そういえば、あの子はどうなったろうか?
 あの日は春も近いのに珍しくどしゃぶりだった。確かその近くの高校の入試の日だと思う。あの子がこのアパートの下で雨宿りしていた。その日の俺はというともちろん今日のようにさぼっていた。そして、突然、彼女の方から話しかけてきたのだ。
「傘貸してくれません?」
 俺はもちろんびっくりした。たまたま下を見ていて、あっちは見上げてて、目が合ったと思うといきなりそう言ったのだ。その子がかわいいのもあったが、俺は鬼じゃないので貸してあげることにした。自分の傘を持って、下まで降りると逆にあっちがびっくりしていた。
「冗談だったのに」
 そう言って笑うと、怒って中に入ったと思ってました、と付け加えた。それから、何の用で来たの訊くと、入試です、とすぐに答えた。そして、数学はできたんだけど、英語は…とか社会は得意なんで自信あるんですよとか一方的にしゃべり立てて、落ち着いてから、一言すいませんと謝った。俺は少し笑ってから、傘を差し出し、合格発表の時でいいから、と言い、彼女は傘を受けとって少し照れ笑いして行ってしまった。
 結局、傘は俺の居ない間に返されていて、その後どうなったか分からない。
 かわいかったなぁ。名前くらい訊いとくんだった。
 そんなくだらない後悔をしていると、一つの傘がこっちに向かっていた。
「受かりましたよ」
 俺は、急いで階段を駆け下りた。



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