連作1:憂鬱 作:オンセンカメ



 俺は今喫茶店に向かっている。
 彼女と待ち合わせした喫茶店に。
 そして、今日別れるつもりなのだ。
 理由は最初の頃のようなトキメキを感じなくなったから。
 最近は会うことすらめんどくさくなっている自分に気づいたから。
 毎週日曜日にその喫茶店で待ち合わせして遊びに行く。
 それが俺と彼女の約束事だった。
 が、それも何ヶ月か経つといつの間にか習慣になっていた。
 最初の頃は次の日曜日が待ちどうしかった。
 よくデートコースを考えることに夢中になって、上司に怒られたものだった。
 ぼーっとするなっ!って。
 が、今ではデートコースを考えるどころか早く帰る口実を考えていたりする。
 いつからこうなってしまったのだろうか?
 何が俺をこうまで変えたのだろうか?
 そんなことを考えることすら俺にはできなかった。
 こうなってしまったからしょうがない。
 そう自分に言い聞かせているからだ。
 俺と彼女の出会いは古典的だったと思う。
 俺の友達が女を紹介してやるって言うのでついていったら彼女がいたのだ。
 単純に一目惚れだった。
 彼女は俺と同じ歳で、芸大生だった。
 が、それに似合わず純で素朴な感じのする子だった。
 今まで芸大生と言ったらド派手なお姉さんやストリートなお兄さんばっかりだと思っていたのだ。
 すぐにその場で告白して、次に会う約束までこぎつけた。
 そうして、俺達の恋は始まったのに。
 今では、彼女は素朴の素も感じさせないほど変わってしまった。
 ほんと、店まで行くのすら憂鬱だった。
 が、行かないわけにはいかない。
 一応、こういうことはきちっとしておきたい性格だからだ。
 だから、喫茶店の方に足を向ける。
 近づくにつれ足が重くなり、心臓が重くなるように感じた。
 彼女と別れなければ・・・。
 そう自分に言い聞かせながら憂鬱な方向へと歩いていく。



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