すでに喫茶店に入って15分が経った。
別に俺が早く来たわけではない。
むしろ俺は少し遅れてここに着いた。
それから、コーヒーを頼み、ずっと待っているのである。
もうコーヒーも冷めきっていた。
それと同時に俺の体も大分冷えていた。
店のクーラーが効き過ぎているためだ。
外では、暑いくらいの格好だったが、ここだととても寒い。
道理で心臓の弱い人だったら死んでしまうわけだ。
別れるための言葉を考えながら、時間だけが過ぎていった。
そうして、30分くらい経った頃。
カランカラン。
喫茶店のドアが開く鐘の音が鳴る。
ドアの方を振り返ると彼女だった。
カッカッカッと彼女の厚底靴の足音が聞こえる。
彼女は何も言わず、俺の前の席に座った。
すぐに店員がお冷をおいてメニューを渡す。
「コーヒー」
彼女はそれだけ無愛想に答えてメニューを返す。
店員はそれに微笑んで応対した。
内心ではかなりむかついているのだろうが。
店員が去ると、彼女はポケットからタバコを取り出し、吸い始めた。
吸い終わるまで二人とも一言もしゃべらない。
俺の方は別れを言おうとしてなかなかタイミングをつかめないのだが、
彼女はなにかいつもと違った。
大体入ってくる時から変だった。
普段は元気よく店に入ってきて、席に着く前にまずあいさつをしてくる。
そして、もっとおかしいのがさっきの店員との応対だった。
普段は絶対にコーヒーなんて飲まない。
根っからの紅茶派なのだ。
それにさっきからずっと下を俯いている。
彼女が2本目を取り出そうとした時、店員がコーヒーを持ってきた。
彼女はタバコを直し、コーヒーにミルクと砂糖を入れ混ぜ始める。
よし、今だ!
「なぁ、・・・」
「ねぇ」
俺の言葉は彼女にかき消された。
「別れよっか?」
彼女は下を向いたままだった。
「別れたいんでしょ?」
図星を言われて思わず頷く。
「じゃあ、ばいばい」
そう言って、コーヒーに口もつけず彼女は店を出ていった。
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