連作5:電話 作:オンセンカメ



 ピーピーピー。
 いきなりの携帯の着信音に跳ね起きた。
 ボーとしてたらそのまま寝ていたみたいだ。
 針が知らぬ間に15度ほど進んでいた。
 ちなみに着信音はブザーにしてある。
 実際こっちの方が他人と区別できるからだ。
 手を伸ばし、携帯の着信ボタンをを押す。
「はい、もしもし?」
「こ、こんにちは」
 彼女?
「どうしたの?」
「え、あ、あの。一昨日別れてって言ったばかりなんだけど、今から会えませんか?」
「今から?かまわないけど、どういう風の吹き回し?」
「え?えっと・・・。」
 声が受話器から離れ後ろで話をしているようだ。
 友達とでも一緒にいるのだろうか。
 ぼそぼそと声が聞こえてくる。
「その、何の話もしないで別れたので・・・」
『この続きなんだっけ』と受話器の奥から聞こえてくる。
 友達のため息でも聞こえてきそうだ。
「もう一度話し合いませんか?」
 微妙な棒読みだった。
 が、俺の答えなど最初から決まっている。
 それこそ、こっちからかけようとしていたくらいなのに。
 だが、もう少しからかってやりたかった。
「う〜ん。どうしようかなぁ。今日これから仕事もあるし、いい女の子も見つけたんだけどなぁ」
「え!?・・・・・」
 またまた後ろの友達と話しているらしく声が遠くなった。
 かなりのあせりようで『どうしよう』を連発しているように聞こえる。
 さすがの友達もかなり悩んでいるらしく、なかなか声は返ってこなかった。
 少しして・・・。
「分かった。それでもいいから会いましょう。待ち合わせはいつもの喫茶店で。今から1時間後に」
 今度は完全に棒読みだった。
 たぶん、紙か何かに書いてもらったのだろう。
 口下手にも程があるだろう・・・。
「はい、分かりました。1時間後にいつもの場所で。言っとくけど、さっき言ったのは嘘だから。ばいばい」
 ピッ。
 電話を切った。
 それにしても、彼女との会話が楽しいって感じたの久しぶりだな。



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