連作6:再出発 作:オンセンカメ



 待ち合わせの30分前に喫茶店に着いたのだが、その時にはすでに彼女が来ていた。
 急いで彼女のテーブルまで行って声をかける。
「ごめん。遅れた」
「遅れたってまだ待ち合わせまでかなりあるんですけど・・・」
「彼女より先に来れなかったら遅れたのと一緒なの」
 彼女は照れて俯いている。
「それより、格好。どうしたの?」
「ん?これ?どう初心に戻ってみたの。地味でしょ?」
「俺はこっちの方が好きなの。ギャルっぽいのは苦手で・・・。それにタバコも吸ってないの?」
「タバコは止めることにしたの。体に悪いしね。それに・・・」
 彼女は一瞬躊躇して
「それにあなたと話す時間がなくなるから・・・」
 俺は思わず赤くなってしまう。
「う、うん。その方がいいよ。絶対に。うん」
 自分でもあせってなにを言っているのかさえ分からなかった。
 二人とも赤くなって下を向いてしまった。
「「あ、あの!」」
 張り切って声を出したが、彼女と重なってしまう。
 それが一層二人を赤くした。
「その、あなたからどうぞ」
 彼女は小さな声でそう言った。
 俺の言う言葉は決まっていた。
 だが、声が出ない。
 心臓がばくばくする。
 今まで生きてきてこれほど緊張したのは初めてだ。
 なんとかしゃべりだそうとするが今度はろれつが回らない。
「あの・・・い、いい天気れすね・・・」
「は、はい」
 外の様子も見ないで彼女は答えた。
 外はいい天気どころか雨が降りそうな空なのに。
「あ、あの・・・もう一度、やり直しませんか?」
「はい」
 彼女は顔を上げて笑ってくれた。
 今までで一番の笑顔をくれた。
 この瞬間を待っていたのかも知れない。
 この笑顔が見たくて、色々遠回りしてしまった。
 だが、二人の恋はもう一度ここから出発するのだ。
 いつかくる未来へ向けて。



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