待ち合わせの30分前に喫茶店に着いたのだが、その時にはすでに彼女が来ていた。
急いで彼女のテーブルまで行って声をかける。
「ごめん。遅れた」
「遅れたってまだ待ち合わせまでかなりあるんですけど・・・」
「彼女より先に来れなかったら遅れたのと一緒なの」
彼女は照れて俯いている。
「それより、格好。どうしたの?」
「ん?これ?どう初心に戻ってみたの。地味でしょ?」
「俺はこっちの方が好きなの。ギャルっぽいのは苦手で・・・。それにタバコも吸ってないの?」
「タバコは止めることにしたの。体に悪いしね。それに・・・」
彼女は一瞬躊躇して
「それにあなたと話す時間がなくなるから・・・」
俺は思わず赤くなってしまう。
「う、うん。その方がいいよ。絶対に。うん」
自分でもあせってなにを言っているのかさえ分からなかった。
二人とも赤くなって下を向いてしまった。
「「あ、あの!」」
張り切って声を出したが、彼女と重なってしまう。
それが一層二人を赤くした。
「その、あなたからどうぞ」
彼女は小さな声でそう言った。
俺の言う言葉は決まっていた。
だが、声が出ない。
心臓がばくばくする。
今まで生きてきてこれほど緊張したのは初めてだ。
なんとかしゃべりだそうとするが今度はろれつが回らない。
「あの・・・い、いい天気れすね・・・」
「は、はい」
外の様子も見ないで彼女は答えた。
外はいい天気どころか雨が降りそうな空なのに。
「あ、あの・・・もう一度、やり直しませんか?」
「はい」
彼女は顔を上げて笑ってくれた。
今までで一番の笑顔をくれた。
この瞬間を待っていたのかも知れない。
この笑顔が見たくて、色々遠回りしてしまった。
だが、二人の恋はもう一度ここから出発するのだ。
いつかくる未来へ向けて。
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