空も見えない。僕は暗闇の中。寒さや暑さは判らないけれど、こたつ布団が外に出されたから、たぶん今は冬なんだと思う。
ミーちゃんは今年も、僕のことを忘れているんだろうか。
いま出してもらえなかったら、またずっと押入れの中。そうしてすっかり忘れられて、僕は、終わりだ。
僕はだんだん自分でなんにも考えられなくなってきている。ミーちゃんに付けてもらった名前も思い出せないし、前に一緒にいた仲間も思い出せない。
怖い、怖い。
今日は珍しく、押入れの中に光が射している。戸が、少しだけ開いているみたいだ。
僕はぼんやりと隙間からもれる灯りを見つめた。
もしもクリスマスが過ぎていたら、もう、僕にチャンスはない。どうか、まだ過ぎていませんように。
灯りが消えて、再び暗闇になった。
僕は戸の方を見ながら、まだ祈っていた。
とつぜん、まぶしい光が輝いて、僕を照らした。
朝?
大きな白い手がぬっと僕のほうへ差し伸べられた。
低い温かみのある声が言った。
「おおぅ。立派なツノと鼻じゃのぅ。どれどれ、いいものをやろう」
いいもの?
僕はまばゆい光に包まれる瞬間に、白いひげを生やしたお爺さんの顔を見た。
夢?
ミーちゃんの腕の中にいる僕。
一緒に車ででかけて、布団に入って、ベッドの棚に飾ってもらって……。
誰だかわからない人に「ボロボロ」「季節外れ」って言われて、ミーちゃんは僕をここへ押しこめた。
ああ、これが最後なのかな。ヒトは最後にいろんなことを思い出すんだって……いつかミーちゃんが言っていたっけ。
「あったぁ!」
ミーちゃんの声だ。
柔らかい手が僕を包みこんで、眩しい明かりの元へ連れ出した。
「せっかくトナカイの縫いぐるみなんだから、もっと早く飾れば良かったのに」
ママの声。
ミーちゃんは僕の背負っている白いプレゼント袋をなでた。
「いいよ、ずっと飾っておくもん。ね」
ミーちゃんは、僕をぎゅっと抱きしめた。僕は首の鐘をリンリンと鳴らせて、ミーちゃんに答えた。
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