プロミス 作:tsukikasa



「約束ってとても怖いことじゃない? だってそれは自分の存在を確約する事ですもの。明日、何かをする約束をするというのは、明日の自分を定義される事。自分がいなくてはいけない場所を他人が知っているということ。ふと私が自分の存在を放り出したくなったとしても、約束はそれを許さない。それってとても怖いことだと思うわ」
 少女が言った。
「それは思い込みじゃないかな。強迫観念じみてる。守られない約束のなんと多い事か。……ところで、ここがどこなのか、君は知らないかな」
 少年が答え、尋ね返す。
「余計な事は言わないで。あなたは私とこの話を続けなさい。そういう約束なんだから」
 少女は鋭く言い放つ。
「お互いに守るつもりで交わした約束を破る事は矛盾を生むの。嘘。言い訳。代償行為。そういったものを否応なく必要とさせてしまう。……一つの約束の上には多くのものが積み重なるわ。人と会う約束をすれば、会う前からそれは『会う』事だけでは終わらない約束になる。約束をして会わなければ『初めから何もなかった』では終わらない結果を生む」
「君の言ってる事には理解できない所があるよ。僕は君とこんな話をする約束を交わした覚えはない」
「誰かの約束に自分の存在が定義されてる事実は、我慢ならないかしら? 自分の姿形・出生は神様が誰かと交わした約束かもしれないでしょ。親の婚約の結果、なんて身近な約束のせいにしても構わないけど」
「言いたい事はよく分からないけど……僕がこうして会話をする約束を、誰かが僕に無断でしたと思っていいのかい?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言えるわね。……あなたにはもっと大きな約束が見えてない」
「さっきから腑に落ちない事ばかりだよ……。どうしたら君の言ってる事が理解できるかな」
「もういいの、口をつぐんで」
 少女が嘆息する。
「もういい?」
「だって私とあなたの存在が許されるのはこの800字の中だけという最初からの約束ですもの」



(800字)