警告音が、ヘルメットにビリビリと響いた。
「う!?」
『ユニット稼動停止:右脚部E……』
メッセージを読む間もなく、コックピットが、ぐらりと傾いた。
「お、あっ!」
機体が、横倒しに地面に叩きつけられた。衝撃と共に、全ての灯りが落ちた。
俺は、モニターの薄れゆく残像を、茫然と見つめていた。機体が、痙攣を起こしたように振動している。
……エンジンが停まらない。自爆する!
夢中で緊急脱出用のレバーを探り、引いた。ブシュっという音と共に、コックピットを密閉していた装甲板が開いた。
シートベルトを外し、転げ出ると、そこは水たまりだった。冷却液の匂いが鼻をついた。機体から、漏れ出ているのだ。
何かが、陽光を遮っていた。俺は這いつくばったまま、顔を上げた。
奴と目が合った。
竜……コードネームが、全てを表している。地球の爬虫類に似た、巨大な二足歩行生物。俺達が狩らねばならない相手。
だが今、狩られるのは俺のほうだった。
近付いてくる牙から視線を反らせられぬまま、俺はじりじりと後退した。震える機体に、背中がぶつかった。
奴が停まった。その目がもう一度、じっと俺を見たように思ったとき……高速貫通弾の、腹に響く発射音がした。
奴の血が、霧になって俺に降りかかった。
「処分するわよ」
パトリシアが、モニターに映る俺の愛機に、照準を合わせている。俺はシートの後ろの隙間で、それを見守っていた。
機体は、冷却液のぬかるみに横たわっていた。腹部の装甲が、口を開けていた。
「まるで流産だな」
俺がつぶやくと、パトリシアは冷ややかに答えた。
「見たこと、あるわけ?」
「……ない」
「詩人ね……クズの」
彼女はトリガーを引いた。爆発の閃光が、画面に白く焼きついた。
「あいつ、バカみたいにあんたを見てたわ」
彼女が言った。
「案外、同じこと考えてたんじゃない?」
「……かもな」俺は、膝を抱えた。
「君だって、詩人じゃないか」
返事は無かった。俺達はただ、基地を目指した。
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