僕が眠る街 作:来夢



少し肌寒い風が、真っ白なカーテンをそっと揺らす。
白い世界から望む景色は、ゆっくりと、ただゆっくりと流れ移りゆく。
慌しく翼を羽ばたかせるあの鳥はなんだろう?
やがて来る厳しい季節に、慌てて気がついて準備に追われているのだろうか?

子供の声が聞こえてきた。なにやら賑やかで楽しそうだ。
友達同士で学校に行くのかな。
体の半分くらいのおっきなランドセルが、小さな背中の上でヒョコヒョコ
右に左に揺れている。
そういえばこの近くに小学校があったっけ。

昔はこの街が大好きだった。
他の場所はよく知らないけれど、それほど大きくはない街だと思う。
TVで見かけるおっきなビルが竹の子のように
ニョキニョキと生えてるわけでもなく、以前住んでいた団地より高い建物は
ちょっと遠くに見えるビルが二つほど。
どこにでもある普通の街。
ここも昔は海だったのかな?なんて思ったこともある。
じっと眺めていると、時間が止まったように思えるこの景色も
長い時間をかけてここまで姿を変えたと思うと、ちょっと感動してしまう。

今はどうなんだろう。
……わからない。
過ぎ去った時間の流れを知ることはできない。
だから、変わりゆくこの景色を、街を知ることはできない。
でも今も変わらず大好きだと言えると思う。
だって……
僕はここにいるのだから。この街は僕の街なんだから。



ガチャ!
扉の開く音と共に看護婦が入ってくる。
手には記録用紙のようなものを持ち、ベッドに横たわる
男性の様子を確かめる。
いつもの作業なのか、手際よく様子を窺うと、
記録用紙に手馴れた感じで書きとめていく。
「あら?」
何かに気づいたように、ふと声をあげる。
しばらく男性の顔を見ていた看護婦は、
「笑ってるの……かしら? ふふっ。きっと楽しい夢でも
見ているのでしょうね」
誰ともなくそう呟くと、看護婦は部屋を後にした。



真っ白なカーテンがそっと揺れる。

ゆっくりと、ただゆっくりと流れ移りゆく。

『僕』が目を覚ますその時まで……



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