少年は自分の身長ほどもあるライフルを立て掛け、それに寄りかかるようにしてそこにいた。
少年はこういう時によく思い出すことがある。それは彼らを育て上げた教官がよく言っていた『優秀なスナイパーの条件』。
教官はいつもそれらの条件を口に出していた。
例えばそれはどんな困難なミッションにも怯まない勇気。
例えばそれは雑踏や人ごみの中でもターゲットを一瞬で判別する眼力。
例えばそれはターゲットが現れるまで待ち続けることが出来る根気。
例えばそれは見つかる事の無いスニーキングポイントを割り出す綿密さ。
例えばそれは誤作動の無いように完璧に銃を整備する緻密さ。
例えばそれは狙撃の基本姿勢を保ち続けられる持久力と集中力。
例えばそれはターゲットのどこに当てれば相手を一瞬にして死に至らしめるかを知る知識。
例えばそれはターゲットを一瞬にしてスコープの中に収めることが出来る技術。
いつも思うのだが、自分にはこれらの中のどれも備わってないように思う。
じゃあ何故自分はここまでミッションを失敗せずにここまで来れているのだろう。
「あ、星がきれい……」
高僧ビルの屋上にいる少年の上には、満天の星空が広がっていた。
ピィッ
無機質な音が鳴り響く。
それは、少年が身に着けている無線機の交信音。
「あ、はい、イェルです」
『ターゲットは交差点にいる赤い服を着た男だ。長身で赤い長髪、サングラスだ。特徴的な男だからすぐに分かるだろう』
「了解しました」
『期待しているぞ、イェル』
少年は交信を切るとすぐにライフルを構えた。
特徴的な男をスコープの中に収める。
何故少年が優秀なスナイパーとして生き残っていられたか。
それは彼が教官の言う優秀なスナイパーの条件の一つを『完璧に』身につけていたからだ。
それは、どんな相手でも躊躇無く引き金を引ける躊躇いの無さ。
“無邪気な死神”イェルラーマは引き金を引いた。
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